愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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14話 君との2日目

 あの後、B小町の動画をサイトにアップされているのを全部視聴し終えるまで僕はずっとアイを抱きしめていた。

 

 もう完全に手放したくないとばかりに抱きしめていたのだ。

 

 その事実に気がつくとアレだ……個人的な寂しさを紛らわせるためにアイを利用しているのではないかという罪悪感を覚えてしまう。

 

 ……こんな風に考えてしまう時点で大部……我がことながら面倒くさい事になってるなと感じる。

 

 きっと端からみたら、なにくだらないことを考えているのだと言われそうだ。

 

「どうしたの?」 

 

 キョトンとした様子でアイが僕を見ていた。

 

「ああ、うん。僕自身の寂しさを紛らわせるのにアイのことを都合よく利用してるんじゃないのかなって罪悪感を感じてた」

 

「うわぁ……変に考えるね。それを言ったら私もカナタを利用してるし。それって悪いことなのかな?」

 

「……内容によりけりかな?」

 

「でしょ? 元より偽りから始まった私たちなんだよ? 今更だよ。私たちは私たちの思う本物を手に入れられるようにお互いを利用する。それで良いと思うんだ。だから、私はカナタを堕とそうとしてるよ」

 

 そんなもんで良いのかな?

 

「…………」

 

「そんなに悩むことかな? 私もカナタのこと好きだよ。へんぽーせー? っていうだったかな? 私を好きな人を私も好きになるみたいな感じで」

 

「そういうもんかな?」

 

「そうだよ。私の汚いところとか、やなところも全部ひっくるめて、それでも良いって言って欲しいと思ってる。それって変かな?」

 

「ううん。全然変じゃないよ。それを含めてアイだからね」

 

 良い面だけでなくて悪い面もある。それを知っても好きだと思えるからこそ、人は友達や恋人、家族を作れるんじゃないかなと思う。

 

「カナタは……私のことを好きだって言ってくれるけどさ、それは私の良いところ、汚いところ、やなところ全部ひっくるめてでしょ?」

 

「うん、当たり前だよ。誰だって悪い面はあるんだから、その面も含めて友達や恋人、家族を作ってるんだし、綺麗な面だけしか受け入れないのはおかしいでしょ?」

 

「そっか……うん……」

 

 アイはそう言うと僕の手を両手で握る。そして、ジッと僕の目を覗き込んできた。

 

「……何かな?」

 

「カナタ……ううん。やっぱり今、言うのは止めとく」

 

 アイは微笑みながらそう言うと僕の手を離した。

 

「……そう? 苦情とかなら受け付けるよ。」

 

「そういうのじゃないよ……ただ、今はその時じゃないって思っただけだよ。だから、言うのは止めたの」

 

 一体何を言おうとしたのだろうか? 気になるけど、今はその時じゃないって言ってたし、アイがその時だと思ったら言うつもりなのだろう。

 

 その時が来たらその時にはこのことを僕はあんまり覚えてなさそうだけど……。

 

 

●●

 

 

 それからお昼時になるまで、お互いにのんびりとしているとアイが唐突に言った。

 

「カナタは……子どもって好き?」

 

 ちょうどテレビでは子育ての話題に触れていたので、これが原因かなと何となく思った。

 

「子どもねぇ……う~ん……嫌いではないよ。だけどそれは僕自身が子どもを育てる上で大変な所を体験したわけじゃないからこその感想でしかないんだよね」

 

「そっか……劇やってると小さい子も観に来るし、キャストにも小さい子いるでしょ? だから、どうなのかなって思ってさ」

 

「そうだね。でも、余所行きの顔だからそんなに手間ではないよ」

 

 そもそも問題があるような子は連れて来られないし。

 

「へー……」

 

「何か気になることでもあったの?」

 

「まあね……私が子どもを産んだらどんな子が産まれると思う?」

 

「ん〜……そうだねぇ」

 

 アイを見ながらそう呟き、考えてみる。

 

 父親の要素については考えず、アイに似たらと仮定しておく。となると……可愛い子にはなりそうだね。後、小柄。

 

「とりあえず、産まれたのが女の子だったら……アイに似たら小柄で可愛くなりそうだね。親娘2代でアイドルとかもあり得るかもね。男の子だったら……どうなるかな? モデルとかかな? ミュージシャンの可能性もありそう……母親が歌って踊るアイドルだし」

 

「……父親の要素は?」

 

「父親? 父親については考えてないよ」

 

「恋人なのに自分を要素に組み込まないの?」

 

 明らかに不満ですと言いたげな目でアイが僕を見ている。

 

「……僕の要素いる?」

 

「いるよ。子どもは父親、母親がいないと産まれないから。それとも、私との子どもは想像だけでも嫌?」

 

「ん〜、嫌というか……この歳で自分が親とか想像しないからね。自分の要素があるのを考えにくいんだよね」

 

 そもそもこの歳で明確に子どもが産まれてくるビジョンなんてほぼほぼ考えないだろうし。

 

「とりあえず、考えてみてよ。子どもがいる生活って賑やかになるよね」

 

「まあ、賑やかにはなるだろうね。その分、大変だろうけど……」

 

 子育ての密着取材番組とか観た時は必ず思う……大変だなぁ……って。

 

 かつての自分が通ってきた道なんだろうけどね。相当な苦労をさせていたんだなってなる。

 

「まあ、いいや。ええっと……僕の要素か入ったら……金髪になるのはほぼ確定として演技に興味を持つかな? もしくはそれに関係したことに興味を持つんじゃない? 服飾系やメイク、セット作りや脚本家とかね」

 

 考えたら身体の特徴よりもやってることの影響について考えてしまうね。

 

「まあ、あり得る話ではあるね。芸能2世、3世とかあるし」

 

「でしょ? アイは将来的に子ども欲しいの?」

 

「……欲しいかな」

 

「そっか」

 

「それだけ?」

 

 それだけ? と言われてもね。あくまでも将来的に子どもが欲しいのか確認しただけだし。

 

「……ふむ。だって将来的にって話だし深く話すようなことじゃないって思ったんだけど」

 

「そう……」

 

 何か僕とアイの間に温度差があるね。

 

「そもそもな話、僕たちの年齢で子ども作ったら大変だよ。お金はない。助けてくれる人はいない。身体はまだまだ未熟だから、出来たら出来たで子どもに何かしらの悪影響が出てるかもだし」

 

「……だよね」

 

「そうそう。将来の楽しみにしときなよ。いつまでアイドルを続けるのか分からないけど、アイドルやりながらは、流石に無理だろうし」

 

 子持ちの現役アイドルとか……人によるけど結構ファン離れとかありそうだからね。

 

「……無理かなぁ」

 

「バレなきゃ続けられるだろうけど……普通に子どもを育てるよりもずっと大変だと思うよ」

 

 バレないように隠さないといけないし、バレたらバレたで炎上間違いなし。

 

「ん〜……そっかぁ」

 

 アイは残念そうに呟く。もしかして子育てしながらアイドルをやるつもりだったのだろうか?

 

 いくら将来的にでもきついものはきついと思うのだが……。事務所が助けてくれるとは限らないし。

 

「そうだよ。世の中のお父さんお母さんたちは本当に大変な思いをしながら子育てを頑張ってるんだよ」

 

 まあ、僕の両親やアイの親のような人もいるけどね。少数派だろうけど……。

 

 寧ろ、それが多数派だったら嫌だね。

 

「話は変わるけどカナタの両親って結構アレだったでしょ? 性にだらしがないっていうか、節操なし?」

 

「……そうだね」

 

 男癖、女癖が悪かったよ……。

 

「だから、カナタってその手のことに興味はないのかなぁ? って思ってさ」

 

「興味はあるよ……でも、それだけだよ。両親みたくなってもアレだし」

 

 特に現状の僕って寂しさを誤魔化せる手段としてそれにのめり込む可能性もありそうだからね……。

 

 興味はあるけど手は出さないように戒めておく必要があると思うんだ。

 

「ふ~ん……ちなみにどんな人がタイプ?」

 

 ……下手に答えたら駄目なタイプの質問来たね。しかも、アイは逃す気がないようで、椅子に座る僕の膝の上に座った。

 

「……それ、答えないと駄目?」

 

「駄目♪ 因みに私は(星野アイ)を好きになった人がタイプだよ!」

 

「僕もアイと同じ答えじゃ駄目?」

 

「うん、駄目だよ。ちゃんと答えてね」

 

 駄目かぁ……。

 

「……となると、単純に小柄で抱きしめやすい子かな」

 

 寂しさを誤魔化すためとはいえ、他の人の温もりを感じられるハグ行為がお気に入りになってしまったし……。

 

「ふ~ん……ここに小柄で抱きしめやすくて、とびっきり可愛い子がいるけど……どうなのかな〜?」

 

 アイはそう言うと僕に寄りかかってくる。

 

 そうすると条件反射のように僕の腕がアイの身体が落ちないように抱きしめるように動いてしまう。

 

「……色々と狙ってるよね?」

 

「勿論♪ だってさ、ここなら人目なんて気にしないで良いんだもん。なら、ダラダラとしながら普通の恋人同士の人がやってそうなことをしても良いかなって」

 

「……外だとどうしても人目があるし、何処に行くにしても少なからず身バレのリスクはあったから、ある意味ではリラックスして行けるようなとこは無かったね」

 

「でしょ? だからさ、今度はカナタが私の家に泊まりに来てよ。ちゃんと社長たちが帰ってこない日を伝えるからさ」

 

 アイって社長たちと一緒に暮らしてるのね。まあ、アイドルだし、施設から通わせるのも変だからしょうがないのかな? ただ1人暮らしになってないだけマシなのか? と疑問に思う。

 

「……それは大丈夫なの?」

 

「勿論、内緒にするから大丈夫だよ。カナタは祖父母に友達の家に泊まって来るって言えばOKでしょ?」

 

「まあ、多少は疑われそうだけどね……お前にそんな友達がいたのか!? って」

 

「……カナタは友達少ないんだね」

 

「付き合いが悪いからね。役者してるのもあって」

 

 元々そんなにコミュニケーション能力が高い部類の人ではないからね。

 

「……まあでも、1回ぐらいなら行けるよね? もしかして1回も行けないぐらいいない?」

 

「1回ぐらいなら何とかなるよ……多分」

 

「うわぁ……自信無さげ」

 

「……てか、僕が泊まりに行くのは確定なのね?」

 

「そうだよ? だってカナタの祖父母が家を空けるようなことってほぼ無いだろうし。それなら、私の家の方が社長たちが帰ってこない日もそれなりにあるからね」

 

 まあ、実際現役アイドルの部屋ってどうなってるのか気になるところではある。ファンの人からのプレゼントとかもあるだろうし、混沌地味た部屋になってるのか……それともちゃんとバランスを考えて配置されてるのか……どうなのだろうか?

 

「……まあ、行ってみるかな?」

 

「あんまり乗り気じゃないね? 他の人の家に行くのは嫌?」

 

「嫌ってわけじゃないんだけどね……なんて言えばいいのかな? 自分でも上手く言い表せない気持ちって言えばいいのかな。そんな感じなんだよね。興味はあるけど……中々決断出来ないというか」

 

「なら来たくなるようなことを言ってあげる。2人っきりだから今みたいに私のことハグ出来るよ」

 

 それは確かに魅力的だ。

 

「……それは確かに行きたくなるね」

 

 ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。

 

「一気に堕ちてきた。流石、私だね」

 

 満足気にうんうんと頷くアイ。

 

 僅かな関係の変化なのにここまで一気に変わってしまうことに我ながらびっくりするけど……うん、悪くないと思う。

 

 悪くないと思えるから良い変化なのだろう。そうじゃなきゃ何なのだろうか?

 

「ということで……いつでも来れるように準備をしておいてね」

 

「突発的なのね」

 

「まあね……急に言われることもあるから」

 

 社長だし、急に予定が入ることもあるか。

 

 そんなことを思いながら、ふと時計を観ると1時を過ぎていた。

 

「そっか……じゃあ、とりあえずお昼にしない?」

 

「ん? もうそんな時間かぁ……因みにお昼は何にするの?」

 

「ん〜……焼きそば」

 

 

●●

 

 

 お昼を食べ終わったのでアイに何時に帰るのか聞くことにする。

 

「それで……何時帰るの?」

 

「ん? 今日も泊まってくよ」

 

「…………」

 

 予期せぬ返事が返ってきた。

 

「社長たち今日も帰ってこないんだよね。さっき連絡があったんだ」

 

「…………マジかぁ」

 

「マジだよ……嬉しいでしょ?」

 

 そう言って可愛らしくポーズを決めるアイ。  

 

「…………ふぅ」

 

 とりあえず、色々と考えることがあるけど……一旦、置いておく。

 

「とりあえず、今日も泊まってくのは良いけど……服は?」

 

「予備で持ってきたのあるから大丈夫だよ! 流石、私! 準備が良いね」

 

 アイはそう言うとグッと親指を立てて自信満々にグッドサインをした。

 

 いや、ほんとにね。予備をちゃんと用意しておくのは大切なことだもんね。

 

「そうだね」

 

 無難にそう返事をしておく。

 

「それで……カナタは今日も私のことを抱きしめながら寝るのかな〜?」

 

「……コメントに困るんだけど」

 

「ふふ♪ どうなのかな〜?」

 

 そう言いながらアイが近づいてくる。

 

 そして、手を伸ばせば届く距離まで来ると立ち止まった。

 

「……とりあえず」

 

「とりあえず?」

 

「ノーコメントで」

 

 そう答えるとアイはニッコリと笑みを浮かべて言った。

 

「駄目でーす!」

 

 言うと同時に距離をつめてくる。 

 

「……遊んでるでしょ」

 

「うん!」

 

「開き直ったらどうするの?」

 

「そう口に出してる時点で無理だと思うよ。まあ、そうなったらそうなったらで……ねぇ?」

 

 アイはそう言うと意味深げな怪しいさ満点の笑みを浮かべるのであった。

 

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