愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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15話 責任

 あの後、アイにイジられつつも夜を迎えた。

 

 色んな意味で疲れたが……まあ、何だかんだ楽しんでいたのだと思う。

 

 そして、今は夕食の鶏鍋を食べていた。

 

「ところでさ、ちゃんとした感想を聞いてなかったから聞きたいんだけどアイドルの私はどうだった?」

 

「良かったと思うよ。全体的に高レベルでまとまってたし。ただ、僕がいうのも何だけどさ……もうちょっと自然な表情って言うのかな? それが引き出せればもっと良くなるんじゃないかな」

 

「……言うね」

 

「まあ、あくまでも僕個人の感想だしね。別にそれが悪いってわけじゃないよ。今のアイで十分って人もいれば、さっき僕が言ったみたいに自然な表情のアイが見たいって人はいるだろうしね」

 

「ん〜……そっか。考えとく」

 

「まあ、無理に変える必要なんてないしね。その辺りはアイがやりやすい方でいいと思うよ」

 

 無理にやろうとして変な感じになってしまうのもアレだしね。

 

「……そうだね」

 

「うん。ところで話は変わるけどさ……」

 

「何かな?」

 

「鍋のシメはラーメンとうどん……どっちが良い?」

 

 僕1人だったらラーメンにしようと思ってたんだけど、アイもいるので聞いておく。

 

「ん〜……最近うどん食べてないからうどんがいいな」

 

「OK。じゃあ、うどんにするね」

 

 鍋のシメは、うどんに決まった。

 

 それからテレビの音をBGMに黙々と鍋を食べていく。

 

 個人的には会話がなくても特に気まずくないこの時間は中々にいいものだなぁと、漫然と思った。

 

 前世での家族との食事の時も特に会話とか無くても気まずくない時間だったし。

 

 

●●

 

 

 夕食後、片付けや入浴を済ませてから部屋に戻る。そして、布団の近くまで行くと……。

 

「……えっ!?」

 

 途端に消される電気。

 

「ちょっ!!?」

 

 視界を閉ざされた中で突然、布団の上に押し倒される。

 

 布団だとわかった理由は単に柔らかな感触であったのと近くにあるのを見ていたからだ。

 

 そして……唐突に両頬に手が添えられたかと思うと唇が塞がれた。

 

「んぅ!?」

 

 口の中に何が侵入してくる。

 

 それを噛まないようにするために口を動かさないようにしているからか、深く侵入された。

 

「ん……んんぅっ……っ!?」

 

 舌が侵入してきたものに触れた。その瞬間──初めて感じる刺激に思考が麻痺する。

 

 少しして、侵入してきたものが舌であると何となく理解する

と同時に……僕は自分から侵入してきた舌に舌を絡ませていた。

 

「……んっ……ちゅ……んんぅ!??」

 

 僕を押した倒した張本人の身体がビクッと震えるのを感じると同時にクチュクチュと音が耳に聞こえてくる。

 

 それから何度もお互いの舌が触れ合い、絡み合うと唇が離れる。

 

 これまでに無いほど心臓が早鐘を打っている。

 

「あはっ……最後は乗り気だったね」

 

 目が暗さに慣れ始めて来て、アイが妖艶に微笑んでいるのが見えた。

 

「………」

 

「ふふ……カナタが悪いんだよ? 隙だらけだし、全然手を出そうとしないんだもん」

 

「………そっか」

 

 この状況はどうやら僕が原因らしい。

 

「……反応が鈍い」

 

「考えが纏まらないからね」

 

 そして、また唇を奪われた。

 

 チュッチュッと何度も唇同士が触れては離れる。 

 

「……ねぇ」

 

「何かな?」

 

「……火遊びしたくならない?」

 

「……火遊びね」

 

 僕は身体を起こして、アイの身体を抱きしめる。そして、今度は僕の方からキスをする。

 

 頬に、髪に、首に、鎖骨に、胸にと。

 

 内から込み上げるような熱に浮かされながら。

 

 普段だったら考えられないような行為を身体が自然と動いて行っていく。

 

「擽ったいよ……でも、積極的だね」

 

「うん。自分でも驚いてる。でも、普段あるような心理的な抵抗感が感じられないんだよね。今はその逆でやればやるほど幸福感っていうのかな満ち足りたような感覚を得られるんだよね」

 

 心臓は変わらずに早鐘を打っているのにね。

 

「私もさ……私が求められてるって感じがあって、ちょっと満たされるような気分。だって、カナタは全然、私のことを求めるような素振りをしてくれないんだもん。中々自発的に触れてこないし」

 

「……否定出来ないね」

 

 僕はそう返事をしながら、アイの身体を強く抱きしめる。そうすることで、彼女のことをより強く感じられた。

 

「ちょっと力を入れ過ぎだよ」

 

「ごめん」

 

 謝罪しつつ抱きしめる力を弱くする。

 

「ん……そのくらいならよろしい」

 

 そして、アイの両腕が僕の背中へと回されると、そのまま耳を僕の胸元に当ててくる。

 

「すっごくドキドキしてるね」

 

「……誰のせいでこうなったのかな?」

 

「んふふ……私のせいだね!」

 

 アイは声を弾ませながら返事をすると、僕の背中に回していた両腕を離し、耳を胸元から退ける。

 

 そして、今度は僕の頭の後ろに両腕を回すと自身の胸元に引き寄せようとする。それに逆らわずになされるがまま僕はアイの胸元に頭を当てた。

 

 柔らかな感触と同時に早鐘を打つ心臓の鼓動を感じる。

 

「……アイも結構ドキドキしてるね」

 

「そうだよ。どっかの誰かさんの分も私が勇気を出して頑張ってるんだもん……それでさ、さっきの答えはどっちなのかな?」

 

 その問いに僕は──。

 

 

●●

 

 

 あぁ……ヤッちまったなぁ……と思いながら窓から射し込む朝日を見てそう思った。

 

 お互いに寝間着は脱ぎ散らかしており、身を寄せ合って同じ掛け布団に包まっている。

 

「やーい、ケダモノ〜♪」

 

 疲れた様子ながらも楽しげにアイはそう言いながら僕の足に自分の足を絡めてくる。

 

「…………」

 

「返事がないよ〜」

 

 そう言いながら僕の頬を指で軽く押してくる。

 

「ぁ、うん……ごめん。ちょっと黄昏れてた」

 

「あはは、今更だね〜。ヤッてる時はノリノリだったのに」

 

「自分の愚かさにある意味で泣きそうだよ」

 

「おー、よしよし。私が慰めてあげるよ」

 

 ……頭を撫でられたら、余計に泣きたくなってきたのは何でだろうね? 実際には涙は出てこないんだけどさ。

 

「……はぁ」

 

「溜息なんてついてどうしたの? もうヤッちゃんたんだしさ」

 

「いや、あのね……分かっててやったよね」

 

「うん。そうだよ……デキたと思う?」

 

 そうなんだよね。避妊具なんて使ってなかったというか……家に無いし。

 

 いざ出そうになったから引き抜こうとしたらそのタイミングでホールドされて抜けなかったしね。

 

「わかんないよ。でも、僕的にはデキてない方が良いんだけどね……」

 

 少なくとも今現在の僕たちにちゃんと命を育てるような土台は無いのだから。

 

「まあまあ、その時はその時で考えようよ! 一緒に考えてくれるでしょ?」

 

「……他人事には出来ないからね」

 

 コツンとお互いの額をくっつける。

 

「……ありがと」

 

「礼を言われるようなことじゃないよ。もし、デキたとしても色んな意味で駄目なのは僕たちって話だしね」

 

 子は親を選べないのだから。

 

 どうしたって責任は作るようなことをしてしまった僕たちにある。

 

「……デキてるかなぁ

 

 小さく呟くように言われたその言葉を僕の耳はしっかりと捉えていた。

 

 僕はそれに対して聞こえないふりをして、誤魔化すように頬にキスをする。

 

「ん〜、どうしたの?」

 

「分かってるくせに」

 

「えへへ……」

 

 アイは笑いながら僕の胸元に頭をくっつけてくるとグリグリと頭を動かしてくる。……地味に痛いのだが。

 

「はぁ……」

 

 僕も僕で溜息を吐きながらも、止めてくれという意味を込めて、アイの背中に片腕を回し、その背中を軽くポンポンと叩く。 

 

 それよりもだ。本当にデキてたら、あぁ……もう、どうにでもなーれっ! て投げ出せるんだったら楽なのにね。

 

 考えることも、これからやらないといけないことも増えたなぁ……。

 

 何でヤッちゃったんだろうね……自分の駄目さ加減が嫌になるよ。何であの時にもっとしっかりと考えなかったんだろうか、本当に。

 

「何の溜息かなぁ?」

 

「……もしものこととか、自分の迂闊さとかに対してだね」

 

「私にじゃないんだ」

 

「……まあね。アイはあくまでもその選択も選べるよって選択肢を出して僕を誘っただけだし、その誘いに乗ってしまったのは僕だからね」

 

 将来、詐欺とかに気をつけないとね。何かの拍子に騙される可能性とかありそうだ。

 

 

●●

 

 

 あの後、お互いにスキンシップを取りながらダラダラとしてから、シャワーを浴びて汚れたシーツとカバーとかを洗濯しつつ遅い朝食を食べた。

 

「何かさ……距離近くない?」

 

「そうかな?」

 

 首を傾げるアイであるが、すでに僕の隣に座っている。それも少しでも動かせばお互いの腕がぶつかるぐらいに近くにだ。

 

 ほら、とばかりに腕を動かしてみるとすぐにアイの腕にぶつかってしまう。

 

「……そうだね。カナタはこの距離は嫌?」

 

「嫌では無いけど……この距離感って何なのかな? って思いがある」

 

「確かに……でも、この距離感が当たり前のような感じがするのは私だけかな? カナタはどうなの?」

 

「僕もあんまり違和感は感じないんだけどさ……ふと気がついたんだよね。昨日とかこんなに距離近かったっけ? って」

 

 原因はアレか……ヤッちゃったからか?

 

「なるほど。う~ん……別によくない?」

 

「……それもそうだね」

 

 変にぶつからないように気をつけないといけないぐらいだし。大して気にするようなことでもないか。

 

……それでも、自覚出来てないだけで、精神的に何かしら変化が起こってるのは確かなんだよね。

 

「……今更何だけどけどさ、いつからヤることを考えてたの?」

 

「本当だったら私の家に来た時に一服盛っちゃうのもありかなって考えたんだけど……昨日も泊まれるようになったから1回は私自身の手で誘惑して見ようかなってね! 薬だと後々後悔しそうだし」

 

「……そ、そうなのね」

 

 一服盛るって犯罪なんじゃないかな? ある意味ではギリギリセーフだったのか昨日は……。

 

 内心的には冷や汗びっしょりなんだけど。とりあえず、思い止まってくれて良かった。

 

「そうだよ。だから、カナタが手を出してこなかったら……私の家に泊まりに来た日に自分でも知らない間に童貞卒業してたね」

 

 アイはそんなことを軽い口調で言ってくるとそのまま寄りかかってきた。

 

 どっち道、僕は自分の意志でヤるか……知らぬ間にヤられるかの2択しかなかったのか……。

 

 そして、その2択のどれでも詰んでと……。笑うしかないわぁ。笑えないけど……。

 

 

●●

 

 

 あの日から1月あまり経過した。

 

 この間、僕は鏑木さんから振られる仕事は全部受けながらも他にも受けられそうなのがないかを聞いては役者とは関係ないものも受けた。それはもう、金田一さんに心配されるぐらいには……鬼気迫るような様子を感じられたらしい。

 

 ちなみにカミキ君には……失恋でもしたんですか? と言われた。

 

 どうやら、カミキ君には僕が失恋とかした場合は仕事に逃げるタイプに見えているらしい。

 

 そんな訳あるかという意味も込めてヘッドロックを仕掛けた僕は悪くないと思う。

 

 カミキ君がちゃんとタップとギブ発言したらその時点で開放した。

 

 でも、ヘッドロックをされてる時の声が若干楽しげだったので、実はМっ気があるのではないかと邪推した僕は悪くないと思う。

 

 人の趣味はというか……趣向は多種多様なのでもしカミキ君がМであっても僕はそう言う趣向なんだなと受け入れようと思っている。本人には言わないけど……。

 

 まあ、そんな感じで忙しくしつつ過ごしているため、アイとは電話でのやりとりしかしていないのが現状である。

 

 決して会うのが気まずいというわけではない……ただ、ある意味で勇気が必要な気がするけど……。

 

 それとは関係なく、お互いに今が売り時的な感じで使ってもらい始めてきているのもあって会う時間が取れないっていうのが1番大きいと思う。

 

 僕は祖父母に少し働き過ぎでは? と言われる程度には仕事を振ってもらっているので……稼ぎは増えた。多少はであるが……。

 

 一応、祖父母には今のうちに経験を積んで引き出しを増やしたいのだと説明している。 

 

 出来ることを多くして、切れる手札を増やしていかないとね。……現在進行系で演じる役のためにピアノや簡単な手品の練習を行っているのだし。

 

 自分で選んだこととは言え……大変だわ。

 

 そんなある日のことだ。 

 

 アイから僅かな時間だけでも会えないかと連絡があった。直接あって伝えたいことがあるそうで……。

 

 この時点で色々と察した。

 

 アイの予定を聞いてから、僕がそれに合わせる形で会う時間と場所を決める。

 

 そして、待ち合わせの場所に行くとすでにアイは来ていた。  

 

 期待と不安が入り混じったような表情をしているのが目に映る。

 

「…………もしかしてなのかな?」

 

「……うん。そうだよ……そのもしかしてだよ」

 

 やっぱりか……そりゃそうだよね……命の責任は重いなぁ。

 

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