愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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17話 病院にて

 アイに会いに行くため、予定を開けた日の始発の便で宮崎県高千穂へと向かった。

 

 場所を聞いてから少しばかり時間が経ってしまったが、それはしょうがないことだろう。

 

 アイの所属する事務所の佐藤……じゃない斉藤社長に会わないようにするためには来ない日を確認しておかないといけなかったし。

 

 後、僕も調べてから知ったんだけど……アイって社長の名前ちゃんと覚えてなかったんだね。ちゃんと調べるまで佐藤って思ってたし……ちゃんと調べて良かった。

 

「……それにしても遠かった」

 

 始発の飛行機使ったのにアイの入院する病院の近くに行くだけでお昼近くになってるし……。

 

 とりあえず……着いたよ、とアイにメッセージを送る。

 

 するとすぐに……場所は? と返ってきた。

 

 なので今いる場所を送る。

 

 それから日当たりのいいベンチに座ってぼーっとしてアイが来るのを待つ。

 

 数分ほどすると……。

 

「あっ! いたいた。おーい、お待たせー!」

 

 声が聞こえてきた方を見ると、白衣を着た若い男の姿……多分、病院の先生なのだろう人とお腹の大きくなったアイの姿があった。

 

 ベンチから立ち上がり、アイの方へと向かって歩いていく。

 

「……久しぶり」

 

 近くまで歩いていくと、その言葉と同時に僕はアイの身体を抱きしめた。

 

「……うん。久しぶり……背伸びたね」

 

 アイの両手が僕の背中の方へと回ってきて、抱きしめ返してくる。

 

「成長期だからね。もう少しは伸びるんじゃないかな? アイはお腹が大きくなったぐらいしか変わってないかな?」

 

「そうかな? しっかりと食べて、無理のない程度に運動もしてるからね♪ あ、でも、子どもがいる分体重は増えたよ!」

 

「そっか……子どもがいる分は増えないといけないから、ある意味安心したよ」

 

「後ね……」

 

 アイは嬉しそうな笑みを浮かべながら、僕のことを見上げてくる。

 

「……子どもはね、双子だったんだよ!」

 

 ……………………双子? 

 

「……………」

 

「びっくりしたでしょ?」

 

「……それはもっと早く聞きたかったなぁ」

 

「えへへ……驚かせようと思って黙ってたんだぁ」

 

 そう言うと、そのまま僕に頭をグリグリと擦りつけてくるアイ。

 

 ふと、そう言えばここの病院の先生も近くにいたなと思って視線を向けてみると……明らかに葛藤してる様子の先生とその先生のことを冷めた目で見ている看護師らしき女の人の姿があった。

 

 この2人は2人でどういう関係なのだろうか? 少なくとも結構気安い仲であることは確かだと思う。

 

 それはそれとしてだ。

 

「とりあえず、立ったままなのもなんだし……座ろうか」

 

 そう言いながらアイの背中を軽くタップする。

 

「はーい!」

 

 アイは元気よくそう返事をすると僕の手を握ると指同士を絡ませてくる。俗に言う恋人繋ぎというやつだ。

 

 そして、僕たちの恋人繋ぎを見た先生は……フリーズしていた。そんな先生を駄目なやつを見つめるような視線で見ている看護師。

 

 僕たちとは温度差激しいな。

 

 

●●

 

 

 ベンチに座り、取り留めないことを話している間に先生は看護師の人に辛辣な言葉をかけられつつ、病院の中へと戻って行った。

 

「……さっきの人が担当の先生?」

 

「そうだよ」

 

「色々と愉快そうな人だね」

 

「私のファンらしいよ。それも入院してる患者さんに布教するぐらいのレベルだってさ。いやぁー、まいっちゃうよね」

 

 困った困ったと言いながら全く困った様子を見せず、寧ろ笑っていた。

 

 それはともかくとして、想像以上というか……想定を超える愉快さだね。

 

「なんともまあ……一言で言えばヤバイね。色んな意味でさ」

 

「だよね~」

 

 お互いにクスクスと笑いながら、その後も話を続けていく。

 

「双子とか驚かされたけど……元気そうで良かったよ。電話だけだとわからないこともあるからさ」

 

「ちゃんと元気にしてるよ。暇だなぁ〜ってなる時もあるけどね」

 

「まあ、それはしょうがないよ。今はアイ1人の身体じゃなくなっちゃったからね。……それにしても双子かぁ」

 

「そうだよ。……生まれたら賑やかになるね」

 

 賑やかにはなるけど、大変だよ? 1人でも大変なのに2人なんだもの。

 

「……そうだね。きっと賑やかになるだろうね」

 

 夜泣きから始まる夜泣きの連鎖とか。……絶対に大変だろうなぁ。

 

「それでだけど……アイドル活動はどうするの? 今は休止ってなってるけど」

 

「続けるよ。母としての幸せとアイドルとしての幸せ。どっちもほしいからね。……それに、カナタにも一緒にこの子たちを育ててほしいなって思う。私って家族居ないから家族に憧れがあるんだ……お母さんがいてお父さんがいるそんな家族って良くない? カナタは両親的にそうじゃなかったかもだけどさ」

 

「…………それは」

 

「うん。分かってるよ……でもさ、私の思いは知っておいてほしかったんだ」

 

 ……アイの思いを聞いて、僅かに僕は迷ってしまった。一緒に子育てをするという選択も選べることに……でもそれは、今じゃない。少なくとも今それを選んではいけない。

 

 苺プロの社長たちに僕のことを知られるのは……まあ、いいとしてもだ。アイドルを続けるつもりのアイに僕と言う存在を匂わせてはいけない。匂わせてしまえばそれがアイのアイドルとしての活動幅を狭めてしまう可能性が非常に高いし、隠し子の存在がバレる可能性も同時に高めてしまう。

 

「……いつか子どもが大きくなってきて望まれたら考えようかな」

 

 だから、これしか言えない。

 

「……それって遠回しに私とは暮らせないって言ってるようなものじゃないのかな〜?」

 

 アイの手が伸びてきて僕の頬を人差し指でつんつんしてくる。

 

「……リスクを考えるとね」

 

「むぅ~……社長なら私が説得するよ?」

 

「それでもだよ……僕は僕なりに君のことを大事に思ってるからね。僕という存在でアイの活動の幅を狭めたくはないんだよ。子育ては別にしてさ」

 

「えぇ~……私のことが大事ならさ、一緒に子育てしようよ。きっと賑やかな家庭になると思うんだよね」

 

「出来たら賑やかにはなるだろうね。色々と大変だけど……でもさ……子どもたちに結構負担を押しつけちゃうだろうから。僕としては僕たちが負担を背負う分には構わないんだけど、子どもたちにはあんまり負担を押しつけたくないんだ」

 

 例え、子どもたちからの心象が悪くても……子どもたちに押しつけるような負担は少ない方がいい。

 

「……カナタは私を見習ってもう少し欲張りになるべきじゃないかなって思うんだけど」

 

「あれも欲しいこれも欲しいって手を伸ばし続けて、抱えきれなくなって色々と落とすよりも、自分からどれを残すかをきちっと決めて、取捨選択をしてた方が良くない?」

 

「んー……それは落とさないように頑張ればいいんだよ。やる前から諦めるのはどうなの?」

 

 それを言われるとね……。

 

「そうだね……だけど、発覚した場合のことを考えるとね」

 

「……その時はその時じゃ駄目なの?」

 

「僕的には駄目かな」

 

「そっか……なら、この話は終わりだね。君たちはこんなお父さんに似ちゃ駄目だからね〜」

 

 アイはそう言いながら双子のいるお腹を優しく擦る。

 

「……まあ、いいけどね。変に僕に似るよりはアイに似たほうがいいでしょ」

 

「あはは、拗ねてる?」

 

「拗ねてない」

 

「ほんとかなぁ〜」

 

 口元を隠してもニヤニヤとしてるのが分かる。

 

「……見たこともないお父さんに似てるって言われたくはないでしょ? きっとさ……」

 

 絶対に自分の父親が誰なのか気にするだろうしね。

 

「そうかな? でも、気にはなるよね」

 

「そうだよ。ただでさえ、お金だけ送ってくるような謎の人物の予定だからね」

 

「自分で言っちゃうか……まあ、子どもたちからしたら気になる人でしかないよね。お父さんは僕たち、私たちのこと嫌いなの? って聞かれたらどうしようっか」

 

「それは……アイの好きなように答えていいよ」

 

「うわぁ……責任重大。酷いお父さんだ」

 

「……否定出来ないね」

 

 不満気に見つめてくるアイの言葉を僕は否定出来ない。

 

 嘘でも愛してるとか大好きとか言うべきなんだろうけど……それが嘘であるといずれ分かってしまう日がくるのならば、最初からそのような言葉は吐かない方がいい。

 

 そのほうがショックは少ないと思う。

 

「……しょうがないなぁ」

 

「ありがと」

 

「いいよ」

 

 そう言うとアイは僕の手を掴んでお腹に触れさせる。

 

「いつか……この子たちにちゃんとカナタが自分の口で伝えてくれるのならね」

 

「……そうだね。いつか、その日が来たらね」

 

 

●●

 

 

 夕方になり帰ることにした僕はアイを病室まで送り、最後に両頬と唇にキスしてから、病室を後にした。

 

 そして、病室の入口から出てタクシー乗り場へと向かおうとすると……。

 

「……待ってくれ!」

 

「ん?」

 

 背後から呼び止められたので振り向くと、アイの担当医の人が息を切らせていた。

 

「えっと……何か?」

 

「はぁ……はぁ……悪いけど少しだけ話をしたいんだ」

 

「飛行機の事もあるのであんまり時間はないですけど……」

 

「だ、大丈夫。そんなに時間はとらせない」

 

 果たして何の話なのだろうか?

 

「えっと……タクシー乗り場の近くでいいですか?」

 

「あ、ああ……大丈夫だ」

 

 先生とタクシー乗り場の近くへと移動する。その間、僕たちの間に会話はなかった。

 

 周囲に僕たち以外の人影はなく、他の誰かに話を聞かれるような心配は無い。

 

「それで……話とはなんですか?」

 

「君は彼女が子どもを生むことについてどう思っている?」

 

「少なくとも彼女の命に関わらないのであれば反対はしません。彼女もそれを望んでますし……僕自身、出来た命を僕の都合で捨てろなんて言いたくないですしね」

 

「……君は……彼女がアイドルを続けようとしてるのは知ってるのか?」

 

「今日知りました。子育てと両立出来るかは分からないですけど……」

 

「そうか……それで君は彼女と一緒に子どもを育てるつもりなのか? 少なくとも僕は……彼女1人では難しいと思っている。君の両親はどうなんだい?」

 

「でしょうね。でも、僕の両親はすでに故人ですし……それに僕は子育て手伝うことは無いですよ」

 

「そうだったのか……では何故、君は子育ての手伝いが出来ないんだ?」

 

「僕と彼女は未成年ですし、子どもの存在がバレたらお互いに子育てのためのお金を稼ぐことが出来なくなっちゃいますから……」

 

 せめて、生まれてくる子どもたちが自分の好きな進路を選べるようにお金だけでも稼いでおかないと駄目だと思うのだ。

 

「……バレないようにするために一緒に育てられないと」

 

「ええ。そうです」

 

「なるほど……本当ならもっと色々と聞きたいことがあるけど、最後に聞かせてくれないか」

 

「何をですか?」

 

「君は……彼女が双子を育てられなくなったらどうするつもりだい?」

 

 ジッと先生が僕を見てくる。来ないこと祈るその時がもしも来てしまったのなら僕の答えは決まってる。

 

「ちゃんと養いますよ。その時が来ないことを願いますけどね。いざとなれば隠し子暴露でも何でもしてね、彼女ごと引き取ります」

 

 だからこそ、今のうちに少しでもお金は貯めておかないとならない。  

 

 芸能界にいられなくても、働き口は選り好みしなければ案外あるものだと思うのだ。

 

「……そうか。彼女が安全に元気な子どもを産めるように僕は全力を尽くす。だから君もしっかりとやるべきことをやることを願うよ」

 

「ええ、もちろん。では、先生……彼女のことをよろしくお願いします」

 

 僕は先生に一礼してから、タクシーへと乗り込んだ。

 

 

 ●●

 

 

 アイに会いに行ってからしばらくして、僕は慌ただしく日常を送っていた。 

 

 時たまあるアイからの連絡で双子は順調に育っていっているのが分かり、そこは安心している。ただ、最近……病院の近くに不審者が出るらしいので心配だ。早く捕まるなり、いなくなることを願う。  

 

 アイの方も出産予定日が近づいており、散歩も人が多い時間にしか行かないようにしているそうだ。後、社長との話し合いで、子どもの面倒を見るのを社長とその奥さんが手伝ってくれることに決まったらしい。

 

 どの辺りまで手伝ってもらえるのかはまだ決まってないらしく、詳細は後程決めるそうだ。 

 

 まあ、何と言うか……ポイッと捨てられてもおかしくは無いことなのに、そうならずに済んだのは運が良いとしか言いようがない。

 

 社長が所属アイドルに隠し子がいるというリスクを負ってまでも、手放したくないほどの存在なのだろう。

 

 アイドルのアイという存在は……。

 

 となれば余っ程のことが無い限り……大丈夫であると思いたい。

 

 人のことを心配する以前に僕は僕のことをしっかりとやらなければならないけど……。

 

 頑張らなければならない理由があるのだから……きっと大丈夫。

 

 ……それだけで、十分だ。

 

 

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