愛せるようになりたくて 作:あなたの推しは誰?
あの日からしばらくして、アイからの無事に産まれたと画像付きのメッセージが送られてきていた。
「……おめでとう」
僕以外誰もいない、部屋の中でそうポツリと呟く。
双子の赤ちゃんを両手に抱きしめて、微笑むアイの画像をみる。
「………………」
僕は目を閉じて、今……自分は何を思うのか自分に問いかける。
自分の中にはよく分からない感情に喜びと安堵、それに戸惑い、罪悪感があった。
喜びは双子が無事に産まれたこと。安堵はアイが無事に双子を出産したこと。戸惑いは僕自身が双子が無事に産まれたことで父親となったこと。
そして、罪悪感は僕が父親であるということ……。
普通の親のように接して上げることが出来ない。普通とは違う家庭。
「……はぁ」
考えようによっては家族よりもお金を取った父親か……。
僕は今生の両親とは別の方向で駄目な親になっているのか……だけども、これは僕が選んだことだし、ぐちぐちと考えるのは止めるべきだ。
そんなことで足を止めてはいけない。やらなければならないことがあるのだから、立ち止まっている暇など存在しない。
アイと双子の赤ちゃんの画像にロックをかけて保存しておく。他の誰にも見られることが無いように。
ただ、アイと双子の赤ちゃんの映るこの画像を見てると……不思議とよく分からない感情が沸々と湧いてくる。
……悪い気はしない。代わりに罪悪感とか頑張らなくてはならないといった使命感のようなものが強く感じられるのだ。
「……ふふ」
直接見たわけじゃないのに、自分の子だと思うと……こうなんというか人の子どもを見た時のとは違う可愛さを感じる。……これが庇護欲というものなのだろうか?
ん? というか……僕は笑ったのか?
自分で自分の頬を触ってみると少しだけ緩んでるように感じた。
他の誰かを愛せるようになりたくて……アイと偽りの関係を構築して、それを本物関係にしたらすぐに双子の子を授かるって……運が良いのか悪いのか。多分、両方なんだろうね。
アイから送られて来たメッセージには先生のことは記入されてなかったけど……彼女が安全に元気な子どもを産めるように僕は全力を尽くす……って言ってた通りのことをしてくれたのだと思う。
しっかりと双子が産まれ、アイもこうして画像を添付したメッセージを送ってくれるぐらいに元気なのだから。
僕も学業と俳優業の両立ぐらいはしっかりと出来ないと駄目だろう。
……別に俳優活動に拘る必要も無いのだし、俳優業以外の活動もするように幅を広げるのもありだと思う。アイドルタレントとかいるし。
お金を稼ぐには使おうと思ってもらえるようにならないとだしね。
●●
双子が産まれてから数ヶ月が経過した。僕はアイに双子の名前を知りたかったら、子どもたちに会いに来るように言われているが、未だに会いに行ってないので双子の名前を知らない。
それとは話は別だがアイの復帰が決まり、歌番組の生放送からなったそうだ。
一応、というか……僕も僕で推理モノのドラマの脇役、学園モノの主人公の友人ポジションの役、そして……バラエティ番組のレギュラーを1つ手に入れた。他にはドラマの番宣のためのゲスト出演などを行っている。
なので現状は毎月、アイたちに30万ほどはお金を送れている。それ以外にも貯められているので何かあった時の蓄えも行えているのは良いことだと思う。
それはともかくとしてだ。
僕は双子の名前を知るためにはアイの住む家に行かなければならない。
きっと、知っていたら会いに来るようなことはないだろうなと思われたのだろう。
僕自身……恥ずかしいというか駄目だと思うがきっとこういうようなことが無ければ、会いに行かないだろうと思う。……うん、我ながら駄目な奴だ。
そのことを考えれば、1度でも会いに行こうと思うきっかけをくれたアイには感謝しかない。
僕が自覚している以上に僕の駄目な部分を知られているように思うが……まあ、そういうものだろう。
存外、自分の駄目なところは、自分以外の人からのほうが分かりやすかったりするものだろうし。
自分自身のことは見えなくても、他人のことなら見えるしね。
とりあえず、双子の子に会いに行こうと思うが……身バレの危険性を考えて変装しないといけないが、どうしようか迷う。
単純にアイが入院していた病院に行くときと同じように髪を染めるだけにするか、サングラスや服装などを駆使して変装していくか……。
「どうしたんだ? 最近、活発に活動し過ぎて疲れでもしたのか?」
そう声をかけてきたのは、みたさんであった。
「そういうわけではなくて……単純に身バレしないで外出するにはどうしたらいいのかなと考えてて」
「ほう……」
キラーン! と、みたさんの眼鏡が輝いたように見えた。きっと目の錯覚だろう。
少し休むべきだろうか?
「まあ、話してみるといい。そこから何か良い案が浮かぶかもしれないぞ」
確かに、みたさんの言うことも一理ある。
でも、何か絶対に誤解されてるように感じるんだよね。雰囲気が何か出歯亀してる人たちにそっくりなんだもん。
とりあえず、話せる内容を吟味しておかないと……下手なことは言えない。
「まあ、何と言うか……メディアでの露出が増えたので外出時に視線を感じることが多くなりましてね」
「ふむ。確かにそうだな。だがまあ、そのうち慣れるさ」
みたさんは明るくそう言うと……肩を組んで小声で聞いてくる。
「……で、ホントは何があったんだ? 彼女でも出来たか?」
絶対に口には出来ないけど……出来たのは双子の子どもなんだよね。
「そういうのじゃなくて……単純に誰かに会いに行くだけでも気をつけないといけなくなったのがね」
「……そうか。まあ、そこは慣れるしかないな。有名税ってやつだ」
「ですよね」
とりあえず、誤魔化しには成功したか?
「まあ、あんまり気になるようだったら変装していくのが良いと思うぞ。役者だからな。赤の他人になりきればいい」
……なるほど。確かにその手があった。
変装しても素の僕だと身バレの危険はあるが、変装したらそれ用の役を作ってなりきってしまえば他人の空似で誤魔化せる可能性がある。
「そうですね……ちょっと試してみます!」
先ずは色々な動画を見て、サンプルを得る所から始めよう。
「お、おう……何か火を着けたようだけど、解決したなら何よりだ」
みたさんは若干、困惑していたが……まあいい。同時進行で必要な物をピックアップしていかなくては。
久し振りにモチベーションが上がってきたぞ。
●●
それからドラマやCM、バラエティ番組の収録。演劇の練習などの合間に動画を見ながら、その動作を確認していく。
普段の自分の動きの癖と照らし合わせて、使える部分と使えない部分を探す。
少ない時間を使って道具を調達しながら、来たるべき日に向けて準備を進める。
「……ふぅ」
ある程度、形になってくると変な欲が出てくるのだが……これはこれで何かに使えそうなので良いとする。
アイには、いつ頃に会いに行くのがいいのか確認のメッセージを送っておく。
返事が来るまでの間に……お祝いの品は何がいいのか調べる。
出産祝いと復帰祝い。その両方……となるとやっぱり消え物が良いと思うのだが。
食べるのは基本的にアイ1人だし、量があっても食べるのが大変だろうし……うーん、迷うね。
とりあえず、無難にクッキーとかそこら辺かな?
双子たちはまだまだ食べられないし、社長たちは食べるかもだし……。
うん。そうしよう。何か渋られたらその時はその時だ。
……寧ろ、帰る時間とかで渋られる気がしてきたんだけど。そう言えば……結構前に私の家に泊まりに来てよ的なことを言っていたような。
お泊りコースもあり得るかもしれない。最近、祖父母は僕が精力的に活動してることもあってか外泊になってもやることをちゃんとやっているなら問題ないってスタンスになってきているし。
いや、まあ……正直に言うと活動がしやすくなるからありがたいんだけどね。
基本的に外泊になった時は早めに連絡すれば軽い口調で明日はいつ頃に帰って来る? って言われるから……。
ううん……お泊りコースになると双子の様子を見る時間が増えるってことでもあるから……それはそれで魅力的なのだが。
最近は送られてくる双子の画像が可愛くて、可愛くてしかたがないのだ。
これは我が子だからそう思うのか……それとも、子育てに関わって無いゆえに大変な思いをしてないからこそ、そう思っているのか……それは分からない。
だけども、可愛くてしかたがないのは本当のことだしね。
男の子の方はアイから、すっげー飲み方してるって動画が送られてきたから観たけど、確かにすっげー飲み方してた。
それはそれで色々とおかしいとは思ったんだけど、それすらも愛嬌として捉えてしまえた。この時点で結構、僕は子どものことを気に入っているのだと思う。
まだ、直接会ったことは無いけどね……でも、きっと、自分の子が可愛いと感じることは変わらないと思うのだ。
今だって本当はスマホの待受にしたいけど、バレたらいけないからデフォルト設定のままだし……。
「あ、返事だ」
ヴーっとスマホが震えてメッセージが着たこと報せてきた。
『やっと来る気になったんだね。もっと早く会いに来なよー。子どもの成長は早いんだよ!』
これだけで終わりではなく、少しするとすぐさま新たにメッセージを受信した。
『それで、いつなら大丈夫かだね。今週中の夜ならいつでも大丈夫だよ。まだ病み上がりだからって早めに帰してくれるからね。私的には全然大丈夫なんだけどね』
『そうなのね。じゃあ、2日後の夜に会いに行くよ。出発前に変装した格好の写真を撮って送るからちゃんと確認してね』
メッセージを送る。その返事を待つ間に出かける準備をして行く。
そうしている間に再び受信を報せるヴァイブレーション音が聞こえてきた。
『分かった。2日後ね。ちゃんと来てね? 待ってるから』
その後に画像が1つ送られてきた。
「…………ん〜、偶然だよね?」
カメラを意識したような決め顔? のような可愛さを押し出すような笑顔の双子の画像である。
しかも、可愛いでしょ! って画像に書いてあるし。
確かに可愛のは分かる。すっごく分かる!
だからこそ、そのまま画像で欲しかった……。
これは……アレか、僕に一緒に育てるって言わせようっていう企みか?
……いや、それは……どうだろうか? あり得ると言えばあり得るし、ありえないと言えばありえない。
聞いてたところで絶対にはぐらかされるだろうし。
うん。まあ、それはいいとしてだ……。
……アイには伝えておかなきゃいけないことがある。
正直に言うと……あんまり言いたくないけど、言わないと不誠実だし。うん、仕事だと割り切るしか無いんだけどさ。
まあ、これについては会った時に直接話すとしてだ。
ふと、考えると……今の僕とアイの関係って何なのだろうか?
恋人でいいのだろうか? 双子の父と母ではあるけど……結婚とかしてないから夫婦とは言わない。
恋人以上夫婦未満? 現状、お互いにその手の話題は出ないしなぁ。僕は僕で子育てについては考えたけど結婚とか考えてないし……。
2日後に合う時に聞いてみるかな。その時に話題に出せればだけど。
とりあえず、持って行くお祝いのお菓子でも買いに行くとしよう。
詰め合わせにするか、それともクッキーだけのやつにするか、見ながら決めようと思う。良さげなのがあればいいけど。
●●
2日後。
変装し出かける準備を終えると鏡の前に立って自撮りを行いそれをアイに送信する。
着替えを入れたバックとお菓子の詰め合わせを持って玄関へと向かう。
「……じゃあ、行ってくるね」
玄関へと向かう途中、リビングでテレビを観ていた祖父にそう声をかける。
「……お、おう……き、気をつけるんだぞ」
振り向いた祖父が一瞬固まると、動揺を押し殺ろそうして出来なかった感じに声を震わせながらそう言う。
「うん。何かあれば電話するからね」
「あ、ああ……」
祖父の返事を聞きながら玄関で靴を履いていると祖母がやって来て、僕の姿を見るなり……ギョッとした表情を浮かべた。
「じゃあ、前に伝えた通り出かけてくるよ」
「え、ええ……気をつけてね」
無理矢理取り繕うような笑顔を浮かべながら祖母がそう言う。
そこまで変だろうか? 個人的には結構上手い具合に変装は出来ているのだけれど……。
玄関を出て、スマホを開くと返事が来ていた。
『……マジ?』
短くそれだけであった。
『マジだよ。これで行くから、よろしく』
僕はそうメッセージを送るとアイの住む家に向かうのであった。