愛せるようになりたくて 作:あなたの推しは誰?
私たちの前で行われていたイチャつきとか、その他諸々が一段落したのか、先までの雰囲気を全部ぶっ飛ばして、ママと……しかたがないから、一応……というか渋々ではあるがカナタと内心だけで言おう。パパと呼ばん! そのカナタが寝たふりをする私とお兄ちゃんを愛でに愛でてくる。
愛してないとか口にしながら愛でてくるとか、どういう神経してんだ? と思うが……まともだったら、そもそも仕送りとか出来ないし、女装してまで会いに来ないしなと思うと色々と釈然とした思いがあるも納得した。
まあ、これで姿も見せず、仕送りとかせずにママだけに私たちのことを育てさせようとかしてたら、絶許だったのだが……。
そんなことを考えている間に2人がスマホで私たちの写真を撮ったかと思うとベビー服のカタログを観だしたんだけど……。
距離近っ! もうちょっと離れて! でも、ママが楽しそうに見えるし……邪魔はしたくないけど……うぅ~っ!!
……私とお兄ちゃんが転生者であったことを感謝しろよ!
「おい……赤ちゃんがするような表情じゃないぞ?」
「はっ!? いけない……せっかくのプリティーフェイスに皺が刻まれちゃう!」
お兄ちゃんに言われて、私はすぐに顔に手を当てる。良かった……皺は出来てない。
せっかく可愛く生まれたのに自分でその可愛さを損なってしまっては元も子もない。だって、ママの子だもん! 将来は絶対に美少女って決まってる!
あ、ヤバ……本格的に眠くなってきた。
くそぅ……赤ちゃんだからすぐに活動限界を迎えてしまう。
お兄ちゃんはまだ平気そうだ……羨ましい。
「……はぁ……とりあえず、見れるだけ見とくから無理せず寝とけ」
「う、ん……お願い」
私はお兄ちゃんに後を任せてそのまま眠りに落ちる。
そして、目を覚ますと……すでにカナタの姿は無かった。
私は薄暗い中、何とか時計を見る。今、何時ぐらいなのだろうかと。
え……まだ、朝の4時半ぐらいなんだけど……流石に早すぎない?
●●
朝、7時頃。
「んぅ〜……カナタ? ……ああ、そっか……帰ったんだったね。はぁ、もっとゆっくりしていけばいいのに」
ママは伸びをしながらそう言うと洗面所の方へと向かっていった。
ちなみに、お兄ちゃんは未だに寝ている様子だ。
しばらくしてママが戻って来る。
そして、私とお兄ちゃんの側に来ると顎に指を当てて呟いた。
「……会いに来ないとは言ってたけど、自分が父親だってことを伝えちゃ駄目なんて一言も言ってなかったし、ルビーとアクアには内緒で教えておこうかな〜。知ったらきっと驚くよね!」
うわぁ……。
少しだけ、カナタが可哀想に思えてきた。ママ的には善意なんだろうけど……カナタ的にはそれは止めてほしいことなんじゃないだろうか。
まあ、でも私もそうだけどお兄ちゃんも基本的にはママの味方なのでカナタには諦めてもらおう。どうせ、しばらく会う気がないある意味、父親失格なことやってるし、しょうがないよね。
「何かいい写真とかあったかなぁ?」
そう言ってママはスマホを操作し始めた。
「ん……何かあったのか?」
寝ぼけ眼を擦りながらお兄ちゃんが声をかけてきた。
「ママが私たちにカナタが父親だって教え込もうとしてるの」
「あぁ……そういうことか。口止めされてなかったいいんじゃないか? 口止めを忘れてたなら自業自得だろ? 俺たちに一切の落ち度はない」
「だよね~」
まあ、私たちが口をすべらせなければいいだけの話だしね。そもそも、向こうが会いに来ない限り会うことなんて早々無いだろうし。
結論、カナタが口止めをしてないのが悪い
●●
その日の昼過ぎのことだ。
私とお兄ちゃんが2人でテレビを観ていると生放送の番組にカナタが映った。
『どうも、みなさんこんにちは! 今日は──』
「え……誰? え、え!? キャラ違くない? 」
何かテレビに映るカナタは家に来たカナタよりも……何ていうか年相応に見えるのだ。
「落ち着けルビー。俺たちに会うためだけに女装して仕草や歩き方とか変えてきた奴だぞ? これぐらい朝飯前なんじゃないか?」
「あ〜……うん、確かにそうかも」
「アイと同じ年齢で月に30万ぐらいを仕送りしてくるんだぞ……普通なわけない」
その言葉には確かな説得力を感じた。
カナタの仕事ぶりを観てると日本一怖いと言われるバンジージャンプの紹介がされた。しかも、カナタが紹介をしてるのだ。
しかも、200メートルを超える高さなのに全く怖がる様子が無い。
『いや〜……高いですね。そのおかげでこの絶景が見れてるわけですが──ぁ』
「「……ぇっ!?」」
突如として吹いたであろう突風でバランスを崩したカナタが落ちてった。
現場の人たちもみんなびっくりして、固まってる。
そして、当のカナタであるが……。
『あぁ……びっくりした』
めっちゃ余裕そうであった。
実際に落ちて行っている時の映像には……落下2、3秒ほどで何が起きてるのか察したのか、頷いていた。しかも、表情に一切の恐怖を感じられない。
それだけでなく、周りを見渡していた。
「……え、何この人……怖っ!!」
家に来たのと同一人物に思えないんだけど……。
「普通ならビビるだろ! 何で余裕があるんだよ!」
これが後に……カナタを怖がらせようとするのと同時に他の芸能人を怖がらせて誰が1番怖がりなのかを決定する企画の始まりになるのを私たちはまだ知らなかった。
ちなみにママもこの番組は観ていたらしく……怖がる様子を全く見せないカナタに対して……えぇ……と少しだけ引いたそうだ。
これを観たB小町のメンバー全員が同じようなことを思っていたらしく、ある意味で心が1つになった瞬間でもあったとのこと……。
こんなことで心が1つになっても嬉しくないだろうなぁ、と私は思った。
「……これの血が私たちに流れてるんだよね」
「そうだな」
そのままテレビを観てると、謎に多芸なカナタの姿が映る。簡単な手品からちょっとした楽器の演奏、変装を使っての1人2役とか。
「……多芸だ。何でこんなに多芸なの?」
「だよな。テレビでも言ってたけど本人は演じる為だけに覚えたから付け焼き刃もいいところだって……でもさ、限度ってあるよな」
「うん。女装+仕草、歩き方の変更の時点でおかしいもんね。やってることは凄いとは思うよ。でもさ、日常的に活かせないようなのが多いよね」
「それな……まあ、テレビとかで娯楽目的で観る分には面白いけどな」
「だね〜。これが自分の父親でなかったら心の底から楽しめたと思うよ」
ある意味ではママの相手を選ぶ目は確かだったんだけどね……仕送りしてくるという意味では。
それ以外は……どうなんだろうね? 赤ちゃんだからって事もあるし、カナタ自身が私たちに会おうとしてないから関わることがほぼほぼ無いだろうから判断に困る。
ママは私たちに父親であると認知させたいような感じだけど……。結婚とか考えてるんだろうか?
いずれ聞いてみようと思う。
●●
「たっだいま~!」
夜になるとママが帰ってきた。
「お帰りなさい。この子たちは今日もアイさんの出る番組は確りと観てたわよ」
ミヤコさんが帰りの支度をしながらママへとそう言うとママは嬉しそうに笑う。
「アクアもルビーもまだまだ赤ちゃんなのに記憶力がいいね! 流石、私の子!」
「そ、そうね……」
ミヤコさんが目を逸らしながら肯定する。
しばらく前のことを思い出してるのだろう。私とお兄ちゃんが神の化身のふりをした時のことを。
その結果もあって私もお兄ちゃんもミヤコさんだけがいる場所でなら普通に会話したりしてるんだけどね。
「それじゃ、私はこれで……」
「うん。今日もありがと、ミヤコさん」
ママが玄関までミヤコさんを見送りに行った。
少ししてからママが戻ってくるとバックの中から雑誌を取り出す。
そして、雑誌のページをペラペラと捲りだすと目的のページがあったのか、ある程度捲るとそこで止める。
「アクア、ルビー……これが君たちのパパだよー」
そう言いながら、ママは雑誌の一面に写る私服姿のカナタを指差しながら見せてきた。
でも、今のカナタよりも幼い顔つきといえばいいのだろうかそんな感じがする。
お兄ちゃんの方を見ると同意見なのか若干首をかしげていた。
「これに写ってるパパ少し幼いでしょ? 実はね事務所にあった雑誌なんだ。少し前のだから社長に言って貰ってきちゃった。それで少し幼い写真の理由は……何だっけ? まあいいや」
……ええ。ママ、私もお兄ちゃんもそこが気になるところなんだけど。
「この写真を撮った頃のパパはね……大体、私と付き合い始めて少し経った頃かな。2人で初めて外食に行った後ぐらいかな。いや~、その外食が思ったよりもずっといい値段してて伝票見たらびっくりしたんだよね。えっ……こんなに高いのっ!? で感じで。パパは気にしてなかったのか、ふーんって感じだったね」
ママの話からすると、その頃からカナタはお金をそれなりに持ってたんだね。
「私も少しは出そうと思ったんだけど、何も言わずに全部払ってくれたんだよね。本人は当たり前のようにしてたし、だから私も何も言わなかったんだけどさ……今になって思うと、私って貧乏に見えてたのかな? って思うんだよね」
ママはその当時のことを思い出してるのか少し頬が緩んでる。テレビに映るママよりもずっと自然な表情に見えるのは気のせいじゃないと思う。
「確かに施設の出だし、アイドルとしても今より売れてなかったし、オシャレした分、服とかにお金を使った後だったけどさ……まあ、パパはそんなに深く考えてないかもしれないけどね。単純にその方がお会計が早く済むからとか、僕の方が食べたからとかありそうなんだよね~」
そんなこともあったんだね。意外だ……お金を稼ぐためだけに頑張ってるらしいことを知ってると。もっと守銭奴なのかと思ってた……。
「他にもね──」
それからママのカナタとの思い出話を長々と聞かされることになった私たち。少なくとも赤ちゃんに聞かせるようなことじゃない赤裸々な話とかされた時はどんな顔をすれば良いのか分からなかったから、とりあえずお兄ちゃんのように首をかしげたり、適当に手足を動かすなりしてた。
後、おむつの交換やおっぱいの催促のために泣いたりして、赤裸々な話はなるべく聞かないようにした。お兄ちゃんも私たちが生まれる前の裏話はあんまり聞きたくなさそうだったし……。
薄々というか、なんとなく察してたけど……カナタよりもママの方が積極的だったんだね。長々と聞かされたから分かっちゃったよ。
「色々と話しちゃったけど……まだまだ赤ちゃんだし分かるわけないよね。君たちが大きくなったらまた話さないとだね」
また、聞かされることになるのか……その時は赤裸々なことは話さないでほしいな。というか、話されないように話を誘導しようと私は心に誓った。
●●
深夜。
ママが眠っているのを見計らい、私とお兄ちゃんはいつものように内緒話をしていた。
「……お兄ちゃんはママがアイドルやりながらカナタと暮らせると思う?」
「無理だろ。少なくともカナタは渋る。社長たちに父親バレしたとしてもな、それに社長たちも拒否するだろうよ」
「だよね〜」
「まあ、アイがアイドルを続ける限りはって話だろうけど」
お兄ちゃんの言う通りママがアイドルを続ける限りはカナタが一緒に暮らすことを渋るのは簡単に想像出来る。
「でもさ……ママがアイドルを辞めたとしても一緒に暮らすと思う?」
「少なくとも、俺たちが拒否したら暮らさないと思うぞ。だからこそ、アイは俺たちにカナタのことを父親だと教え込もうとしてるんだろうし」
「お兄ちゃん的にはどうなの? 私は現状じゃ決められないけど」
「俺もだ……少なくとも現状じゃ判断材料が少ない。アイの意思は決まってるし、後は俺たちとカナタ次第だろうな」
だよねー。まあ、今すぐ決めるようなことじゃないし……でも、いずれは決めないといけないことなんだよね。
「でもさ、私たちが嫌がったらママは悲しむよね」
「だろうな。そして、俺たちが無理して一緒に暮らしても同様だと思うぞ」
「……はぁ〜。何か難しいね」
「そもそも、カナタがそれなりの頻度で俺たちに会いに来るなりすれば、俺もルビーもカナタのことを知ることが出来るチャンスが増えるから判断しやすくなるのにな」
ほんとにね〜。カナタにもカナタなりの考えがあるのは分かるんだけどさぁ……。
ざっくり言うと……ママは家族として一緒に生活したい。カナタは私とお兄ちゃんの将来のためにお金を稼いでおきたいって感じで向いてる方向が違うんだよね。
まあ、私もお兄ちゃんもママの味方なので、なるべくママの望む方向性で行きたいとは思うんだけど……。
「う~ん……何かいい手はない?」
「今現在の俺たちに出来ることはない。もう少しというか……喋っても怪しまれないくらいに大きくなれば出来ることが増えるんだけどな」
「そっか……今は雌伏の時ってやつ?」
「……何か違う気がするが、まあいい。どっちみち時間をかけて取り組まないとどうにもならない。俺もルビーも確りと自分の意思でカナタとどう向き合うのか考えないとな」
そうだね。私たちの生活に密接に関わってくることだもんね。……それでもきっと私はママの味方であることを選ぶんだろうなと思った。