愛せるようになりたくて 作:あなたの推しは誰?
双子の名前が愛久愛海と書いてアクアマリンと読む息子と瑠美衣と書いてルビーと読む。予想を斜上どころか直上にぶっ飛んだキラッキラの名前にしてたのには度肝を抜かれた。
聞いた時も思ったけど、アクアは将来、名前で虐められたりしないだろうか? 心配である。どうか名前弄りに負けないような心の強い子に育ってほしい……。
あの日から少しばかり時が経っており、僕も僕で……最近は名ばかり役者になってない? と思い始めていた。
お金を稼ぐためにあちらこちらに手を伸ばしてるので……まあ、しょうがないよね。そう思って自分を納得させている。
もう、マルチタレントでいいのでは? と思うも、一応劇団ララライの所属なので役者で通してるが……。
アクアとルビーのために稼ぐ必要があるし、それが無くなることは無いだろうからマルチタレントにでもなったほうがいいのだろうか?
まあ、それについては後々考えよう。
特に拘っているわけでは無いのだし……。
でも、色々と手を伸ばしてるのでその分、演じる際の仕草や歩き方とかのサンプルは幅広く集まってるんだから使わないのも勿体ないんだよね。
人の数だけ仕草や歩き方とかに微妙な違いがあるし。
そうやってサンプルを集めて、自分の仕草や歩き方とかを意図的に変えていくうちにふと思ったのだ……無意識下の自分の仕草や歩き方とか、これは本当に本来の自分の動きだっただろうかと。
まあ、全く変化がないってのはありえないからいいのだが、1度でも気になると意外と気になるものなのだ。
背が伸びたりした関係もあると思う。歩幅とか変わるしね。そこまで気にするようなことでもないのだろうけど……。
ただ、僕が僕を失くしても僕であることは変わらない。何かを得て、何かを失くす。そんな当たり前のことだ。
そんなことよりもだ。
「……う~ん……どうしようか」
いやぁ……うん、ほんとにどうしよう。
見てはいけないものを見てしまったというか目撃してしまった。それを相手に感づかれてしまった時は本当にどうすればいいのだろうか?
女優の姫川さんがカミキ君に対してやってはいけないことをしているのを目撃してしまったのだ。
しかも、それをカミキ君には感づかれた……というか、思いっきり目があったんだよね。
「ヤバイよね……これって下手したらと言うか消されたりしない?」
てか、人目につくような可能性のある場所でセクハラ行為を行うとか、どんだけ常習的にやっているのだろうか。
…………てことはカミキ君ってもっと前からセクハラ被害にあってたりしたの?
僕は嫌われているみたいだから、挨拶しても全く返事がないけどね。母とは犬猿の中だったらしいからね。その関係で母のことを思い出すような僕のことは視界にも入れたくないような感じなのだ。
なので嫌がらせとかにはあったことないが……カミキ君の口から伝えられてたらと考えると……本当にヤバイよね。
アイ、アクアとルビーのこともあるし……万が一のことを考えとかないと駄目だよね。
今のうちに遺書とか用意していた方がいいのだろうか? でも、そうすると僕との関係がバレちゃうし……どうしよう……。
何か用意してそこに仕込んでおくか? それが1番バレなそうな気がする。
「……どうも」
そんなことを考えているといつもと変わらない様子のカミキ君がやってきた。
逆にこのいつもと変わらない様子ってのが気にかかる。
「……なんか普段通りだね」
「そうですか? まあ、今更ってのもありますけどね」
「……そっか。それで、今回見てしまったことについてなんだけど」
「ええ……僕も哉汰さんがアイさんと付き合ってるのを黙ってるので、僕のことも何も言わないでくださいね」
…………いきなり致命打を打ち込んできたんだけど。
てか、バレてた……いつから? どこまでバレてる?
「誤魔化そうとしても無駄ですよ? すでに確信してますから。あ、いつから分かってたのかも秘密です」
「……はぁ……お互いにバレたくないこと……弱味を握って言わないようにしようってことでいいのね?」
「そうです。話が早くて助かります」
「訴えれば勝てると思うけどいいの?」
「まだいいんです。これは……僕が解決することですから」
カミキ君は表情だけ笑みを浮かべながらそう言い切った。
何を企んでるのかは分からないけど……あんまり良いことではないのは確かなんだろうな。なんとなくたけどそんな風に思えたのだ。
「そうか……まあ……いざ訴えるとなっても僕じゃ対して力になれないけどね」
「ただ目撃しただけですもんね。写真とか音声を録音してたわけじゃないですし」
突発的に目撃してしまったのを録画なんて中々出来ない。
「僕は……姫川さんに僕に目撃されたことを伝えたのかなと思ってたんだけど……そうじゃなさそうだよね」
「言わないですよ……だって、
「……………マジ?」
「ええ、マジですよ」
カミキ君はそう言いながらDNA血縁鑑定の結果が記載された紙を渡してきた。
「…………うわぁ」
「ちなみにどっちの親が本当の父親であるか……知りたいですか?」
「……それは別に知らなくていいよ。それにしても、本当に……異母兄弟がいるとか……まあ、うん……いるかもな〜ってな感じで思ってたけど、こう実際にDNA鑑定証明書を見せられるとは思ってなかったよ」
カミキ君が弟ね……。
見ず知らずのぽっと出の弟よりは……受け入れやすいけど、何か複雑。
「それにしてもさ……何で僕のDNAを調べたの?」
「僕の母が亡くなる前に言ってたんですよ……腹違いの兄がいる可能性があることを」
僕の母よりもカミキ君の母の方が色々とヤバそうな気がする。でも亡くなってるらしいし……。気にしないようにしよう。
「つまり、カミキ君の母は僕の両親と関わりがあったのね」
「みたいですよ」
それにしても見ちゃいけないものを見てしまった結果……異母兄弟であることが発覚するとか……。
正直に言って……両親の人間関係がドロドロで嫌なんだけど。すでに亡くなってるとは言え、何でこんな地雷みたいなの残すのかな?
生きてたら生きてたで盛大に爆発してるだろうけどさ。
「そっか……とりあえず、カミキ君はどうしたいとかあるの?」
「どうしたいですか?」
「そうそう。僕たちは異母兄弟らしいけど……それで僕たちの関係をどうしたいのか希望はあるのかな? って思ってね」
まあ、僕としては急に今までの関係を変えるようなことになるのは難しいと思うんだけどね。劇団での先輩後輩の関係から変えるのって……。
「哉汰さんは……どう思ってます?」
「僕は……今までと対して変わらないんじゃないかな? って思うよ。異母兄弟と言われても実感湧かないし、後輩って見てる期間の方が長いからね」
「ですね。……僕も似たようなものです。ただ、僕としては少し前の哉汰さんの方が好きでしたよ。今の哉汰さんは大分変わりました……それはアイさんの影響ですね」
「……人は変わるものだよ。誰もが望む望まずともにね。常に何かしらの影響を受けてるんだからさ……」
そのきっかけは人によって大なり小なり違う。僕にとって……1番大きかったのがアイと言うだけであってね。
アクアとルビーの存在も大きいけど……アイには勝てない。
「……確かにそうですね。僕も変わりましたし」
カミキ君は自嘲したように笑いながらそう言った。
●●
あの後、僕とカミキ君の関係が変わったということは特になかった。
色々と話したが、結局は異母兄弟と言う繋がりが増えただけであるので、今まで通りで問題ないんじゃないかということになったのだ。
まあ、それに今更感ってものある。
今更、普通の兄弟のように意識するのはお互いに無理だろうと思う。というか僕が無理だ。後輩兼友人みたいなものだし。
それに……カミキ君の方も似たようなものだろうし、少し前の僕の方が好きと言ってたからね。
カミキ君にとって好ましくない方へと僕は変わっているのだろう。
まあ、それは置いといてだ。とりあえず……めでたいこと、進学とか就職とかそういうのが決まったらちゃんと祝ってあげようとは思う。異母兄弟らしいので……。
あの衝撃的な日から数日後の今日。
空いた時間にスマホでSNSを観ていると……アイからリンク先の添付されたメールが届いたのだ。
そのメールには[これ観て! 絶対に可愛いから!!]と記入されていた。
「……まあ、観てみるかな?」
観てって記載されてるから画像か動画なのだろう。
リンク先のをタップすると、サイトに移り変わり、動画が再生され始める。
「………………………………………はい?」
再生された動画に映るのは僕の目が可笑しくなってなければ、ルビーとアクアで間違い無いだろう。
ただし、目を疑うような事をしている。ベビーカーに座り、両手にサイリウムを持ってオタゲーを披露しているのだから……。
ちょっと待とうか……。
「……すぅ~、はぁ〜」
僕は……一旦動画の再生を止めて、目を閉じて深呼吸をする。
「……よし」
再び、動画を再生する。
……ルビーとアクアが見事としか言いようのないオタゲーを披露していた。
いや、うん……これがね……偶然にそう見えるような動きてあれば、まあそんなこともあるんだなぁ〜って流せたんだけど。
動きがね……何と言うか洗練されてるんだよね。
いや、うん……これ絶対にアレだ。
これも僕の遺伝子が入ったからなのかな?
ルビーもアクアも転生者でしょ……。だからこそ、アイが社長たちの手伝いがありつつも子育て出来てるのね。ああ、うん……納得だわ。
まあ、でも……言わぬが花ってやつだね。
余計なことを言って、変に気にされるよりも、ある程度のことなら……そんなこともあるか〜、程度に受け入れてあげるべきだろう。
その方がルビーとアクアも楽だろうし、それに……どれぐらいの年齢で転生してきたのか分からないけど……きっとそんなに長生きではなかったんじゃないかなと思うのだ。
ある程度、年老いていたらオタゲーなんてしないだろうし。
「……でも、楽しそうだから良いか」
ノリノリで楽しげにオタゲーをしているルビーとアクアの姿に僕は自然とそう口にしていた。
出来ればもう少し大きくなってからの方が違和感は少なかったと思うけどね。
もう起こってしまった事だからどうしようもないけどさ。
とりあえず、ルビーとアクア……君たちへの最初のプレゼントはサイリウムにしようと思う。
それで、自宅で存分にオタゲーをするといいよ。……外でまた同じようなことがあったら色々と不味いだろうからね。
うーん……でも、子どもたちへの最初のプレゼントがサイリウムってのも中々にアレだよね。ちょっと複雑な気持ちだ。
きっとルビーもアクアも変に思うだろうけど……家でテレビを観ながらサイリウムを振ると考えるなら全く問題ないように思うのは僕だけだろうか?
少なくとも外でまた同じような自体になることは避けられるのではないかと思う。
あ……とりあえず、アイに返事を返してなかった。
[観たよ。ウチの子たちは凄いね……可愛いけど、やってることの違和感が強すぎる]
とりあえず、これで送信しておく。
……変態染みたことやってるねとか普通の赤ちゃんの動きではないよねとか記入しそうになったけど……まあ、それは記入しなくて正解だろうと思う。
少なくともこの動画を観る時に飲み食いしてなくてよかった。飲み食いしてたら噎せてたと思うからね。
楽しく生きられるのならばそれに越したことはない。人生山あり谷ありが当たり前だからこそ、楽しいと思える時が多い方がいいだろう。
ああ、後……ルビー、アクアを現場に連れて行った人は大丈夫なのだろうか?
ふと、そんなことを思ってしまった。
多分これ販促ライブの時のだろうし……ライブよりも圧倒的に目立つ話題だしね。
売り上げ的なことを考えると……ちょっとどころじゃなくで不味いんじゃないかなぁと思うわけで。
ん〜……まあ、僕の考えることではないか。
●●
後日。ルビーとアクアが自宅でテレビを観ながらサイリウムを振っている動画が送られてくるのであった。