愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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3話 シンパシー

 その後、3人で休憩時間の終わり近くまでお昼ご飯を食べながら談笑して過ごした。

 

 主に話題はアイさんのアイドル活動の話だったり、僕やカミキ君の舞台での話、僕が両親が生きていた頃にやらされた子役の話だったりだ。

 

 少なくとも自分と関わりのない分野での話は中々に面白かったと言える。

 

 ちょっとした裏話とかドロドロしてないものであれば、普通に楽しいと思える。ドロドロしたのは勘弁してほしいけど……変な目で見そうだし。

 

 そして……お昼休憩が終わると、舞台の上で金田一さんやみたさんなど団員の人たちがワークショップの参加者へと見本となる演技を見せる。

 

 多くの人がその演技を見つめる。当然、僕もその1人。

 

 盗める所や参考になる所は多々あるので確りと見ておく。手取り足取り教えてもらえるわけではないのだ。それに……言葉で説明しにくいものはやはり、演じている姿を見て覚えるしか無い。

 

 後は自分に合うように、変えていくだけだ。

 

 

●●

 

 

 その後、各グループごとに舞台上での台本の読み合わせを演技を混じえて行っていく。

 

 となると当然、これまでと違った感じになるので戸惑うような人も出て来る。その人たちのフォローをしながら勧めていく。

 

「そうですね。ここの部分は声を出す時に頭を少し俯かせてみるとより良くなりますよ」

 

 カミキ君が舞台袖で演技指導をしている。教えられているのは大学生の人だったかな。確か、人当たりのいい人だったはずだ。金田一さん情報では……。

 

「ねぇねぇ、カナタ君。私には何かアドバイス的なのないの?」

 

「いや、ぶっちゃけるとね」

 

「うん」

 

「アイさんってアイドルで舞台というかステージの上に立つのって慣れてるでしょ?」

 

「そうだね」

 

 前回同様アイさんは表情を作ることにかけては、ワークショップに参加してる人たちの中で不動の1位と言っても過言ではないと僕は思ってる。

 

「表情を作ることはもう、何も言う事のないレベルだから後は、演じる役への理解と動き、声の抑揚だけなんだよね」

 

「そうなんだ」

 

「うん。演じる役への理解って個人の感性によって左右されるし、声の抑揚に関しては歌って踊るアイドルのアイさんにとっては簡単な事だと思うんだよね」

 

 普段からボイストレーニングしてるはずだし、声の抑揚に関しては大抵の団員の人よりも上じゃないのかな?

 

「まあ、確かに声の抑揚については簡単だと思うよ。踊らない分集中出来る筈だし。でも、演じる役への理解ってのは微妙かな……今一理解出来ないっていうか、ふーんって感じになるし」

 

「それはさっきも言った通り……個人の感性によるからね。単純に理解度を増やしたいなら本を読んで、色々な考え方について知ることだと僕は思うけどね」

 

「ええ~、何か面倒だね。もっと簡単に分かる方法って無いの?」

 

「台本を作った人に聞くとか、他の人にこの役について感じたことを聞くとかかな? 自分が演じる役以外のキャラクターについても知っておくことは結構大切だよ。他の視点から見るとどんな感じに見えてるのかって」

 

 こう話していてふと気になったのだが、アイさんを劇団ララライのワークショップに参加させた人って金田一さんの知り合いらしいけど……何でアイさんを参加させたのだろうか?

 

 何か目的があるとは思うんだけど……アイドル活動だけでなく、ドラマや映画出演を見据えて、その下地作りのためなのだろうか……まあ、僕が気にした所で興味本位みたいなものなのであれなんだけども。

 

「……なるほど。確かに他の人からどう見えるかってのも重要だよね。イメージを崩さないようにって考えると……」 

 

「そうだね。その辺りはアイさんのほうが分かるんじゃない? だってアイドルだし、ファンのイメージを崩さないように気をつけてそうだから」

 

「まあ、そうだね……気をつけてはいるよ。同じメンバーの子なんて特にそうだね」

 

「やっぱり……アイドルってイメージが大事なんだね」

 

 アイドルはファンに夢という名の偶像(アイドル)を見せるのが仕事でもあるのかな?

 

 イメージを損ねないように言動にも注意を払ってないといけないのは大変だなと思う。まあ、芸能界問わず多くの場所でもそうだとは思うんだけど……イメージを損ねないように注意をしないといけないのは芸能界が1番っぽいよね。

 

「まあ、とりあえず……やっていこうか。究極的にはまったくない理解できてなくても、他の人から見た時にそう思わせられれば、それで良いんだしね」

 

「それもそうだね。私嘘つきだから、それなら得意だよ!」

 

 得意気な表情でそう言うとアイさんは台本を片手に演技を始めるのであった。

 

 

●●

 

 

 そして……各グループごとに舞台上での台本の読み合わせを演技を混じえてやっていく。

 

 僕のいるグループの番になったらある問題が発生した。 

 

 アイさんに与えられた役は主役ではないのだが、主役以上に目を引いてしまうのだ。

 

 しかも、他のワークショップに参加してる人のことを考えるとこれは不味いと思えるレベルでだ。多少のではない。

 

 誰もが舞台上に立つアイさんに目を奪われてしまっていた。

 

「……凄いな」

 

 これでまだまだ発展途上なのだから、末恐ろしいものを感じる。

 

 これも本人の努力と一種の才能なのだろう。良くも悪くもアイさんは色々と経験をしてきているんだなと感じさせられた。

 

 ここで負けず嫌いの多い役者なら張り合おうとするのだけれども、いるのは素人さんばかりである。なので、アイさんが一際目立つのは仕方がないとこでもあった。僕は張り合おうとするかと言われると……何ともいえない。役柄的に必要であればやるし、必要でなかったらやらないってのが答えとも言える。

 

 とりあえず、金田一さんがアイさんについて大きく頭を悩ませるのは確実なんじゃないかな? 予期せぬダークホースだもんね。

 

 いや、ほんとにさ……舞台女優目指しても良いんじゃないのかな。少なくとも僕はそう思った。

 

 少なくとも僕のいるグループはアイさんが強すぎるので……テコ入れ必要じゃないかなと思うのだが……本来目立つべき役の人が目立ってないから。

 

 少なくとも役の交換だと悪手だと思う。目立つ存在がより目立って他の人が見向きもされないようなことになりかねないし……。

 

 まあ、その辺りは金田一さんが考えるだろう。

 

 

●●

 

 

 僕のいるグループの演技を混じえての舞台上での台本の読み合わせが終わるとアイさんに声をかけられた。

 

「1言で言うと凄かったよ。ほとんどの人がアイさんに目を奪われてたんじゃないかな」

 

「そっか~。どうすればより上手く私を見せられるか考えながらやってたから心配だったんだよね」

 

「そうなんだ……」

 

 アイドルだからこそ、注目を集める見せ方を熟知しているってことなのかな? 僕と同じ年齢なのにね。

 

 それともアイさんが特別なのだろうか? それとも、そう言う才覚に恵まれてるのだろうか? 謎である。

 

 ただ、まあ……使えるものは使っておくべきだろう。アイさんのそれは十分に強い武器であるし。

 

 今は他のグループが舞台上で演技を混じえての台本の読み合わせを行っている。

 

 ワークショップの参加者の多くがそれを見ている最中、こうして会話をしている人は僕たちを含めても数人いるかいないかだ。

 

「ねぇ……しばらくさ私たちのグループってやることないよね?」

 

「ん~……まあ、無いっちゃ無いね。あるとすれば他のグループのを見て参考にするか自主練みたいな感じかな」

 

 そう言ってみたさんが所属するグループの方を指差す。

 

 みたさんが所属しているグループは最初の方に演技を混じえた舞台上での台本の読み合わせを行っており、今はその反省を踏まえた上での自主練をグループ内で行っている。

 

「なら、さ……ちょっとだけ抜け出しても良いよね?」

 

「良いんじゃないのかな」

 

「うん! なら、カナタ君も行くよ!」

 

「え? アイさんだけじゃないの?」

 

「うん、そうだよ? だってキミがいないと意味がないし」

 

「内緒話的な感じ?」

 

「そうそう! そんな感じ♪」

 

 う~ん……まあ、少しなら良いか。気になるしね。

 

 僕たちはこっそりとこの場から抜け出した。

 

 そうして、向かった場所は裏口である。

 

「……誰もいないよね?」

 

 裏口の周囲をキョロキョロと見渡す、アイさん。

 

 内緒話目的だからか、辺りを気にしている。

 

「まあ、あんまり時間も無いから、このへんにして本題に入らない?」

 

「それもそうだね。ちょっとさ……カナタ君に聞きたいことがあったんだ」

 

「うん。何かな」

 

 本当に何なのだろうか? 内心、首を傾げているとアイさんが言った。

 

「カナタ君はどうして両親を愛してないって分かったの? だって生まれてから一緒に暮らしてたんだよね?」

 

「ん? まあ、暮らしてたよ。愛してないって分かったのは……というか、確信したのは両親が死んだって聞いた後、亡骸を見た時にだね……だって全く悲しく無かったんだから(・・・・・・・・・・・・・)。それこそさ、ふーんって感じの他人事に近かったよ」

 

「どうして?」

 

「どうしてだろうね?」

 

 煙に巻くつもりは無いけど……前世の両親の存在があったのが1番なのかなって思う。今生の両親が唯一無二だったら愛してたかもしれなけど、僕には今生の両親よりも前世の両親の存在の方が圧倒的に大きかった。

 

「……実はさ、カナタ君が愛されたことも愛したこともないって言ってたのを聞いてさ……ちょっとシンパシーっての感じてたんだよね。私以外にもそんな人がいたんだなって。だからさ、気になるんだよね……キミが愛についてどう思うのかさ」

 

 アイさんはアイさんで家庭とかに問題がある感じなんだね。僕と両親の間のことでシンパシーを感じるなんてさ。

 

 愛ね……言葉の意味を調べれば色々と出てくるのだけれど、アイさんが求めてる答えはそう言うのではないのだろうな。

 

「そうだね……う~ん……難しいね。色々な言葉に愛って入ってるし、友愛、自己愛、家族愛、愛憎、愛着、純愛、熱愛とかさ僕が知らないだけでもっと沢山の愛のつく言葉があるし。愛ってさ……見返りを求めずに与えるもので、時間をかけて育んで行くものでもあるらしいからね。きっとすぐに答えの出るものじゃないんだろうね」

 

「……………そっか、そうだよね。すぐに答えが出るものじゃないか。答えてくれて、ありがとね。少し参考になったよ」

 

「良いよ、別に。逆に聞くけど、アイさんにとって愛って何?」

 

「分からない。私は愛された記憶が無いし、愛した記憶も無いから。だからさ、知りたいんだ。社長にスカウトされてアイドルを始めたのは言ったよね」

 

「うん。どんな風に口説き落とされたのかは聞いてないけど」

 

「アイドルってさ、ファンの人に愛してるー! とか言わないといけないでしょ? それをさ、愛を知らない私が言って嘘を吐くのは駄目だと思って最初は断ったんだ。だけどね、社長は嘘でも良いって言ってくれたんだ。嘘でも愛してるって言っているうちに本当になるかもしれんって。だから、私はアイドルを始めたんだ」

 

「そうなんだね。思った以上に話してくれたけど、どうして?」 

 

 何となくというか、そんなに親密ではないので気になった。

 

「それはシンパシーってのを感じたのと、ちゃんと答えてくれたからかな。ちゃんと答えてくれたんだから、私も答えないとなって思って」

 

「なるほど」

 

「うん。それに……私と似たような人がいるって安心感っていうのかな、独りじゃないっていう」

 

「ああ、それは何となく分かるよ」

 

 きっと僕も他にも前世の記憶がある人を見つけられたら、僕だけじゃなかったって安心感を覚えるだろうしね。

 

 前世がある故の共通の悩みとかもあるだろうし、それについて話せるだろうしさ。

 

「……でしょ。後、私だけシンパシーってのを感じるのはズルいって思ったのもあるけど」

 

「そうなんだ」

 

 別にズルいとは思わないんだけどね。

 

「ファンレターとかに愛してるって書いて送ってくれる人もいるけどさ。それって(アイ)じゃなくてアイドルのアイ()に向けてのものなんだよね」

 

「そうだろうね。だってファンの人たちにとってアイさんはアイドルのアイさんのことしか知らないしね。それはしょうがないよ」

 

「分かってはいるんだけどね……見るとさ本当の私を見て、それでも好きって愛してるって思って欲しいなって思うの」

 

偶像(アイドル)である1面しか見てないのにそう言われても、その1面のことだけだもんね」

 

 愛って何なんだろうね。僕は前世の家族は愛してるけど、結局それ以外は愛することも無かったし、好きになることも無かったからね。

 

 だからこそ、知りたいって思いはあるんだよね。

 

「あんまり、話し込んでると誰か僕たちを探しに来そうだしそろそろ戻ろうか」

 

「そうだね。今回は時間が無かった聞けなかったけどさ。次はカナタ君が役者を続けてる理由を教えてよ。私がアイドルをやってる理由は言ったんだからさ」

 

「いいよ。今日は無理だろうけど、次回のワークショップ終わった後で良いなら」

 

 多分、打ち上げ的なのやるだろうしね。

 

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