愛せるようになりたくて 作:あなたの推しは誰?
あの後、2回目のワークショップが終ると僕は金田一さんに途中でいなくなっていたことに対してお小言をもらったが、初犯と言うことと短時間であったこともあり、多少大目に見てもらえた。
まあ、色々とやることが増えたけど……劇団の公演の紹介をバラエティ番組に出演した際にすることだったり、小道具の破損が無いかの確認。あれば担当の人に確認してもらうとかである。
後、金田一さんの知り合いの人……アイさんがワークショップに参加する原因を作った人といえば良いのだろうか、鏑木さんがプロデュースする番組に出ることが決まったり等だ。
金田一さん曰く……鏑木さんは面食いだそうで。面のいい人を売りたい人らしい。
でも、面のいい人だけ集めても変化が一辺倒で多様性にかけるんじゃないかなと思うけど……。まあ、僕には関係のないことなので気にしないことにする。
少なくとも僕には分からない何かがあるのだろう。売り方とか見せ方とかその他諸々が。
「おや? ワークショップ中に抜け出してサボってた哉汰さんじゃないですか」
「ぐっ……事実だから否定しないけど、会って早々ぶっ込んで来たね」
「ええ、たまにはこうやって弄るのもありかなと思いまして」
カミキ君はにこやかにそう言ってきた。
「何か良いことでもあったの?」
「あったと言えばあったと言えますね」
「そうなのね」
「気になります?」
「そこそこね。ただ、プライベートなことなら深くは聞かないよ」
だって、普段やらないようなことをする時って何か良いことでもあった時かストレスを発散する時ぐらいしか思い浮ばなかったし。
「簡単に言うと
「そうだったのね。灯台下暗しって言うし自分が気がついてないだけで身近にあったりするもんね」
「ええ、そうなんですよ。だから、案外身近に自分が知らないだけで
「え……それ洒落にならないんだけど。特に僕の両親の場合」
両方とも男癖、女癖が悪かったから異母兄弟とかいてもおかしくないんだから……いや、ほんとマジで。
「おや? そうなんですか」
「分かってて言ってない? そんな感じがするんだけど」
「それは気の所為ですよ」
先程と同様のにこやかな笑みで答えるカミキ君。
仮に遊ばれているのだとしてもだ……本当にあり得る話なので怖い。
祖父母も知らないだろうなと思う。だって両親共に祖父母とは仲が悪かったし……。
いないよね? ある日唐突に見知らぬ人がやって来て「貴方の兄/弟/姉/妹です」って来るのとか……嫌なんだけど。
●●
ワークショップ最後の日がやって来た。
3回目のは1回目、2回目のでやったことの総集編みたいなものである。
今回はグループ事に分かれることはせずに行う事となった。やることは1つの演劇を作り上げることだ。
午前中一杯を使って舞台で演劇をする側と裏方側に分かれて、やることを決めていく。
僕は裏方側になり、アイさんは金田一さん、みたさん、カミキ君などがいる演劇をする側となった。
思えば、1回目2回目はアイさんと一緒であったためだろうか? こうして誰かにつかないでいることが、精神的に楽であることに気がついた。こう、何と言うか……変に失敗してはいけないってプレッシャーが無いのだ。
まあ、多分……同じ年齢ってのも原因の1つにありそうだけどね。
「ええと、その曲は舞台の幕を開ける時に流してもらって。その後はこっちの曲を。それで、照明の強弱のタイミングは──」
裏方側に来たワークショップ参加者へと曲を流すタイミングや照明などの操作のタイミングを教えていく。
そんなこんなしてる間にあっという間にお昼休憩となった。
お昼は裏方側の人と一緒にである。
そして、お昼が終わった後は舞台の進行に合わせた照明の操作、効果音、曲の選択を通しで行っていく。
これらをメインで行うのはワークショップ参加者であり、団員ではない。団員はあくまでもサポート役である。
そんなこともあって僕がちゃんと舞台を見ることは無かった。時折、チラリと見るくらいだ。
向こうは向こうで白熱しているのか、生き生きと動いている。
楽しそうで何よりだ。
そして、本番が始まるが……僕がそれをまともに見ることは無かった。単純に裏の方が忙しかった。
裏は裏で多少覚束ない部分も見受けられたが、そこはしょうがない。大きな失敗が無かっただけで十分である。
一安心だ。
そして……舞台が終わると金田一さんが今回まで行ったワークショップについての総評を述べて終わりを迎えた。
最後に無事に終われた打ち上げを行うので参加する人は10分後にまたこの場に集まってくれとのことだ。
●●
10分後、打ち上げに参加する人を連れて会場となる店に行った僕たち。
お酒を飲める大人勢は即座にビールやワイン等、好みのアルコール飲料を頼んでいた。
僕のような数少ない未成年者は勿論ノンアルコール飲料である。
そして、注文していた飲み物が全員に行き渡ると金田一さんが乾杯の音頭を取り、打ち上げが始まった。
ちなみにカミキ君は大学生の女性数人に即座に捕獲されていた。視線で助けを求められたが僕は頑張れ、とだけ口パクで伝えて、そそくさと離れ、色んな人にお酌をしたり、おつまみの注文をしたりしながら抜け出せる隙を探す。
ある程度、大人勢の酔が回ってきたタイミングで僕とアイさんは打ち上げ会場となってるお店のベランダに出た。
「いや~、疲れたね」
「それはカナタ君の自己責任じゃない?」
「だって、ある程度大人勢には酔っていてもらわないとさ、こうやって2人で話してると変に弄って来そうじゃない?」
「そうかな? 考えすぎじゃない? 自分で言うのもあれだけど私ってまだまだ無名な方だと思うし」
でも、知ってる人は知ってるはずだし。今は夜でお店のベランダだから、ぱっと見じゃ判別出来ないと思うんだ。だから、ベランダに来てもらったんだよね。
「……じゃあ先週に聞かれたこと話すよ」
先週言った通り僕が役者を続けてる理由を話すことにする。
「まあ……先週言った通り、僕が役者を続けてる理由を話そうか。先ずは経緯から。僕は産まれてから両親が赤ちゃんモデルで僕をデビューさせてたからね。それから子役をやらされて、両親が死んでからここに籍を置いたんだよ」
「産まれてからずっと芸能界に関わってたんだ。辞めようとは思わなかったの? だってカナタ君の意思で選んだわけじゃないんだし」
まあ、確かに僕の意思で選んだわけじゃなく、両親が選んだことなんだけどね……。
まあ、別に誰かに隠してる訳でもないので言う。
「そうだね。僕が自分でやりたいと思って始めたわけじゃないからね。でも、そんな僕が役者を続けてる理由はね……誰かを愛せるようになりたくてだね。純粋にさ……普通の人と同じように誰かを好きになって、誰かに恋をして、誰かを愛してって。……演技をしていれば……いつか本当に誰かを好きになる、恋をして、その人を愛してるってことを理解して自覚出来るようになるきっかけを得られるんじゃないかなって思ってね」
今は恋に恋をしているようなものだろうけど、いつか……きっと……前世の家族以外の人を愛せるようになるんじゃないかなって。
出会いだけならきっとこの業界にいれば普通に生活をするよりもあるだろうしさ。仲を深めるのは大変そうだけど……それでもね。
店内から持ってきたコーヒーを一口飲んで空を見上げる。
今日は晴れてて星が見える。でも、都会だからあんまり綺麗には見えないけどね。
「そんな……些細なものだよ。お金持ちになりたいとか、憧れの人がいるとかそんなんじゃなくてさ。単純に他の人を愛せるようなりたいってね」
妹は僕とは違って結婚して、子供を授かってた。僕とは違ってちゃんと他の人を愛せていたのだ。結婚式に出た際はそのプロポーズがどんなのだったか紹介されてたし。
まあ、後……僕はその甥っ子の誕生を見る前に死んじゃったんだけどね。
妹とからは産まれたらベビーグッズのプレゼントを求められてたんだけどさ……。
それは、置いといて……。
「うん。極稀には自分のことを語るのも必要かもね。自分がどうしたいのか、何を目指しているのか、それらを自分の中ではっきりとさせられる感じがするよ。今はまだ理解出来てなくても……演じている偽りでしか無くてもさ、もしかしたらそれが本物になるかもしれないしね。ただ、理解してしまった時に……その輝きを失ってしまうかもしれないけどさ」
手に入って無いからこそ、余計に輝いて見えるのかもしれないけどさ……それでも僕にはそれが凄く輝いて見えるんだ。それこそ、一番星のようにね。
「そうなんだ……良し! 決めた! カナタ君!!」
「うん、何かな」
何を決めたのだろうか? と思ってるとアイさんは僕のことをビシッと指差して、自信有りげに言った。
「私と付き合おうよ♪」
何か爆弾発言されたんだけど……え? アイドルなのにそれは大丈夫なの? って疑問が真っ先に出てくるんだけど。後、アイさんは僕のこと恋愛的な意味で好きじゃないよね。何故に、そんなことを?
「とりあえず、理由を聞いて良い? だって、アイさん僕のこと好きじゃないでしょ?」
「うん。それはカナタ君もでしょ」
「そうだね。恋愛的な意味で好きじゃないよ」
即答する。でも、友達として考えるのであれば好きなんじゃないかな? とは思うけど。
「即答だね!」
僕の答えにアイさんは楽しげに笑う。
「だからだよ。恋人ごっこ。偽りの関係。だってほら、私たちってお互いにさ、誰かを好きになったこと無いし、愛したこともないでしょ?」
「うん。確かにそうだね」
「だからさ、2人で探してみないって思ってさ。誰かを好きなることも愛することも、自分以外の相手が必要でしょ?」
ああ、なるほどね。アイさんの言う通り確かに自分以外の相手が必要だ。
「予行演習みたいなものね」
「そうそう。お互いにさ、フリだけでもしてみれば少しは理解できるかもしれないと思ってね。役で演じるのと自分自身でやるのは絶対に違うだろうし……どうかな? 勿論、お互いに好きな人が出来たり、無理だなって思ったら後腐れなく解消すればいいだけだし」
まあ、正直に言えば……今までになかった刺激といえばいいのだろうか? それがあれば何かしらの変化があるのではないのかという思った。劇的な変化でなくても、ほんの僅かな変化だとしてもだ。
「……う~ん……そう、だね。役を演じてやるよりも、自分自身でそれをやったほうが少なくとも理解はしやすそうだね。そうなるとお互いにこれはやっても良い、駄目だって思うことの摺り合わせも必要かな」
フリだけど、何処まで許容するか……それは都度確認しながらかな。偽りの関係なんだし。
「細かくは別の日に決めようか。僕の連絡先は……これね」
携帯の電話番号を書いた紙をアイさんへと渡す。
「うん。あ、私のも教えるからペンと紙を貸して」
「はい、どうぞ」
「ありがと」
そして、アイさんは迷うこと無く携帯の電話番号を紙に書くと僕にその紙とペンを返してくれた。
「連絡はどっちからする? 僕もアイさんもお互いに連絡を取り合える時間って夜ぐらいだけど。日によっては遅くなるよね」
「そうだね〜。とりあえず、20時以降にする? 私の方は大抵その時間には終わってるし……カナタ君はどう?」
「僕もその頃には大体終わってるかな」
家について、夕食なり、入浴したりしてるだろうと思う。
「とりあえず、僕は明日は特に何もなかったはず。アイさんはどう?」
「私は20時頃なら電話は大丈夫だと思うよ。いつもそんなに遅くまではやらないし」
「じゃあ、20時頃に電話をかけるよ。それでアイさんの方が落ち着いて話せそうな状況でないなら、アイさんの方からかけ直してくれれば大丈夫かな」
「OK! あ、そうだ」
「ん? どうしたの」
何か忘れていることでもあっただろうか?
「一応と言うか偽りの関係だけどさ、名前をさん付けで呼ぶのは無しで。私もカナタって呼ぶからさ」
まあ、それぐらいなら特に迷う必要は無いね。
「ん、了解。アイ」
「うんうん。この方がらしい感じがしない?」
「距離感は近いんじゃないかな。よく分からないけど」
恋愛多く絡む小説や漫画、映画を参考資料に見てみたほうがいいかな? 後、服装とかもおしゃれやつを買った方がいいのだろうか?
家に帰ったら調べておこう。
「ということで、どれぐらい続くか分からないけどさ……暫くの間よろしくね、カナタ♪」
「こちらこそよろしく、アイ」
こうして僕らの偽りの関係が始まった。