愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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6話 密会2

 程なくして、注文していた摘めるものと飲み物がやって来た。

 

 仕切り直すように飲み物を一口飲んでから口を開く。

 

「じゃあさ、僕のことも話そうか……アイも知ってる通りだけど両親は他界してます。そんで、僕は現在母方の祖父母ど一緒に暮らしてるけど、一緒に暮らしてるだけって感じだね」

 

「どうして?」

 

「母と母の両親の仲は悪かったし。祖父母共に僕の存在は知ってたけど、そこまで興味は無い感じなんだよね。とりあえず、18になったら1人暮らしは確定してるね。祖父母共、それ以上は面倒を見るつもりは無いってさ」

 

「ふーん。じゃあ、数年したら遊び放題だね♪」

 

「え~、そんなに女癖悪そうに見える?」

 

 見えていたらそれは完全に両親の血だなと思う。寧ろそうであって欲しい。切実にそう思う。

 

「どうだろう? 少なくともうちの佐藤社長よりは絶対に大丈夫だよ。だって社長、出禁の店があるし」

 

「うん、それと比べられたら大体の人がマシだよね!?」

 

 本当にその社長は大丈夫なの? 

 

「あはは、そうだね~」

 

「寧ろ、それが比較対象って……ある意味ショックなんだけど」

 

「そう?」

 

「まあ、いいや」

 

 この業界で仕事をしていたら何れ会うこともあるかもしれ無いし、確りと覚えておこう。

 

 佐藤社長(・・・・)ね。アイも流石に自分のところの社長の名前は間違えないはずだ。

 

「あ、これ美味しい!」

 

 そう言いながらアイが食べたのは一口サイズのプチケーキである。

 

 適当に摘めるものを頼んだのでアイが何が好みかを確認してなかったのはミスだと思った。

 

 反省し次はそうならないように気をつけなければ。

 

「なら、色々と頼んでみる?」

 

「え、いいの? ほんとに色々と頼んじゃうよ?」

 

「とりあえず、食べ切れる量にしてね? 僕はそんなに大食いじゃないから」

 

「はーい♪ 何にしよっかなぁ」

 

 アイは楽しげにメニュー表を見ながら返事をしてきた。

 

「ところでだけどアイは嫌いとか苦手な食べ物はあるの? 僕は現状無いけど」

 

「うーん……特にないけど、白米はちょっと苦手かな」

 

「そうなの? ワークショップの時に弁当の中に白米入ってたけど無理して食べてたの?」

 

「うーんとね、味が嫌いとかじゃなくて、なんていうんだろ、柔らかいでしょ白米って。たまにさ、砂とか入ってる時ない?ガリッてなるの。あれが怖くてさ」

 

 ……ちょっと待とうか。僕は苦手な食べ物を聞いたはずなのに……何でこうリアルに怖い話が出てくるのかな? 嘘だと言って欲しいんだけど……。

 

 普通は白米の中に砂なんて入らないし、アサリとかの砂抜きが不十分なやつを入れた炊き込みご飯なら、そういうのはあるかもしれないけど……白米で砂は無いよね。

 

 もう下手なこと聞けないし、言えないんだけど。並大抵の人よりもずっと不幸じゃないのこの子!?

 

 カウンセリングとか絶対に必要だと思うのは僕だけじゃないはず……だよね? アイの周りの環境が信じられないんだけど、というか信じたくないような酷さというか。

 

「……それは確かに怖いね」

 

「でしょ。白米の中にさ、ガラスとか入ってたらどうしようって思う。きっと痛いよね」

 

「うん。痛いじゃ済まないよね。口の中が傷だらけになっちゃうよ」

 

 想像するだけで身体がぶるって来るんだけど……。

 

「だから白米は怖いから余り好きじゃない。まぁ出されたら食べるんだけどちょっと覚悟はする」

 

 笑顔で答えくれてるけどさ……それ笑顔で言う話じゃないんだけど。笑えないんですけど……。うん、とりあえず、アイには絶対に白米は出さないように気をつけよう。

 

 こうして会うたびに毎回白米で痛い思いをするかもって覚悟をさせるのは忍びない。

 

 先ずは何とか話を変えよう。

 

「……とりあえず、今後はと言うかこれから2人で会うときは白米を頼まないで済むようなお店にしよう」

 

「嘘だと思わないの?」

 

「いや、ぶっちゃけると嘘の方が嬉しいんだけどさ……お互いのことを知るための話でこんな嘘は流石に言わないでしょ? それに、妙にリアリティのある話だし」

 

「私、嘘つきなんだよ。私が嘘を吐こうと思うよりも先に勝手に嘘を吐いちゃうくらいに」

 

 いや、アイの場合は自分の心を守るための鎧の役割も担ってると思うんだよね。

 

 傷だらけの心を守るために嘘という鎧で傷つかないように守ってる。

 

「いや、人間誰もが嘘を吐いてるんだし。嘘を吐いたことのない人間なんていないでしょ」

 

 いたら凄いね。どうやったらそうなるのか逆に気になるよ。

 

「…………」

 

「それにさ、僕らの関係だって偽りの恋人関係っていう嘘じゃん。でも、特に困ってないでしょ?」

 

「うん」

 

「ならそれで良いんだよ。嘘ついたってそれで誰かに迷惑をかけてるわけじゃないしさ。偶像(アイドル)のアイのファンの人はその嘘を求めてるんでしょ? それに同じグループの子だって嘘吐いてるはすだよ。それでアイが自分の嘘のことを変に気にする必要はないと思うよ」

 

「そうかな? 気にしすぎなのかな」

 

「詐欺とかそういう質の悪い嘘じゃないんだからさ」

 

 犯罪とか犯してるわけじないしね。

 

「何か釈然としないなぁ」

 

「まあ、人それぞれだよ。自分で納得出来る理由を見つけないとね」

 

「……カナタってほんとに私と同い年?」

 

「そうだよ」

 

 前世を含めなければね。中々に鋭い所を突いて来たね。

 

「実はサバを読んでない?」

 

「読んでない読んでない」

 

「ほんとにー?」

 

「ほんとにーだよ」

 

 案外、感は良いのかな? その内に突拍子もないことを言い出しそう。

 

「だって……草臥た時の社長と似た仕草をしてるから、実はそうなんじゃないかなって思ったんだけどなー」

 

「それが理由なのね。アイは佐藤社長のことよく見てるんだね」

 

「んー……まあね。一応、私をこの道に引っ張ってきた張本人だし、それに……何だかんだ言いながら私のことで骨を折ってくれてるからね」

 

「社長には社長なりの苦労があるだろうしね」

 

 それでも、もう少し……グループ内の揉め事を解決するように尽力したほうが良いと思うんだけどね。空中分解は簡単に出来そうなんだけど。

 

 それからアイはメニュー表に視線を移すと、内線で適当に何種類か食べ物を注文した。

 

「……少しはお互いのことを知ったし、何処まで許容する?」

 

「何処までって? う~ん……とりあえず、はい」

 

 すっとアイが手を伸ばしてくる。これは……握手で良いのか?

 

 疑問に思いながらも、僕はアイの手を握る。

 

 性別の差もあるけど……小さな手であると感じた。

 

「……これで良かった?」

 

「あ、うん。大丈夫だよ。これくらいは平気だね……次はこれはどうかな?」

 

 アイはそう言うと今度は僕の背中側へと周り込むと、背中から僕の背中へと寄りかかり、お互いに背中合わせとなる。

 

「……これは何の意味が?」

 

「ほら、お互いに手を触れるのはOKだったから、背中にしてみた。丁度この間見たドラマの主人公とヒロインの人が背中合わせで語り合ってたからさ」

 

「なるほど、真似てみたのね」

 

「そうそう! で、どうかな?」

 

 ……感想といえば1つだけかな。

 

「言うとすれば……小さいね」

 

「んんん? いや、カナタと比べたら私はちっちゃいよ? 元々小柄だし」

 

「それを加味してもさ……思った以上に軽いし、こんな小さな背中にさ、色々と背負って大変だよね」

 

 弱いところなんて見せられないし、見せたらきっとそこを嫌味ったらしく責めてくるだろう。そして、周りは本当の自分を見ようとしてくれないし、求めてない。求められるのは本物ではなく偶像(アイドル)の自分だけ。

 

 色々と鬱陶しくなるよね。

 

 少なくとも僕だったらとっくに爆発してるだろうなと思う。

 

「……そうだね。大変だよ……ほんとに。多くの人が求めるのは偶像(アイドル)のアイであって、本当の私(星野アイ)じゃない。あ、星野ってのは私の名字だよ」

 

 本名がさらっと出てきたね。

 

「本名をさらっと言うね。僕は本名で活動してるからあった時に言った名前のままだね」

 

「あ、そうなんだね。まあ、学校でもB小町でも浮いてる私の居場所って何処なんだろうね」

 

「居場所って結局の所……自分でここだ! って思うような場所を見つけるしか無いからね」

 

「カナタはさ……自分の居場所はここだって自信を持って言える?」

 

 そうだね……改めて考えると、自信を持ってここだ! って言えるような居場所は無いね。

 

 本来、僕たちの年齢であれば家族のいる所って答えるのが大多数を占めると思うんだけど……僕たちって両親共にいないから、ある意味では根無し草だ。

 

「言えないね。とりあえず、寝泊まりする所はあるけど心の底からここが自分の居場所だと思える所は無いよ」

 

「じゃあさ、カナタが自分の居場所だと思える場所を見つけたら教えてよ。私も見つけたら教えるからさ」

 

「OK。まあ、僕たちが誰かを愛せるようになるよりも先に見つかると思えないけどね」

 

 居場所って何かしらの愛着がないと出来ないと思うんだよね。誰かを愛することが出来ればその愛している対象のいるところが自分の居場所になり得ると思うんだ。

 

「むぅ……もうちょっと希望を持っても良いと思うんだけどなぁ」

 

「そう言われてもね……」

 

 何か見つけられるビジョンが見えないんだよね。

 

 

●●

 

 

 それから、普段の生活と暇な時に何してるのかを話しつつ、アイが注文していたものを食べる。

 

「ねぇ、やっぱり思うんだけどさ」

 

「何を?」

 

「恋人どうしってさデートに行くものでしょ」

 

「まあ、そうだね」

 

 ドラマとか漫画だと必ずと言っていいほど行ってるよね。

 

「なら、私たちも行かない?」

 

「バレたらヤバいんじゃないの?」

 

 僕は問題ないけど、アイドルやってるアイは問題でしょ。

 

「大丈夫じゃないかな? 他の子は恋人いるみたいなこと言ってたし。それに私が言うのもアレだけど、まだB小町って弱小グループだからね」

 

「それ自分で言っちゃうのね」

 

 思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「うん。だってこの間、良いライブ会場取れないのって聞いたら社長が……うちのような実績の少ない弱小プロは良い場所は中々取れねぇんだよ! って言ってたから」

 

 社長さんも結構内部事情バラしてるね。

 

「まあ、それは置いといてだけどさ……アイは時間あるの? 高校受験のことも考えるとそろそろ時間的に大変だと思うんだけど」

 

「え? 私、受験しないよ?」

 

「…………何だって?」

 

「だから、受験しないよ」

 

 ………………マジかぁ。中卒で芸能一本って……。

 

 いや、まあ、アイの人生だし、そこはアイの自由だけどさ。

 

「カナタは受験するんだ」

 

「まあね。流石に芸能科のある場所にするけどさ……そっか、アイは最終学歴中卒で行くのか」

 

「うん。だから、その頃にはもっと忙しくなってると思うんだ」

 

「そこまで僕らの関係が続くと思ってるのね」

 

「ん〜……まあ、続いてるんじゃないかな。だって、カナタは私のこと嫌いじゃないでしょ? 好きか嫌いかの2択だと好きでしょ」

 

「その2択だったらそうだね」

 

 現状、何かしらの酷い目にあったり、物凄く迷惑をかけられた訳でもないしね。

 

「でしょー。なら、いいじゃん! 恋人らしく行こうよ♪」

 

 アイはウィンクしながらそう言う。

 

「……アイが困らないのなら別にいいけどさ。何か焦ってる?」

 

 こう距離の詰め方というか? やる事というか? 何だろうか結果を早くだしたいみたいな感じ。

 

「うーんとね、焦ってるわけじゃないよ。単純にさ……受験するキミとしない私だとどうしても、ズレが出来ちゃうでしょ? だからかな」

 

「そういうことね。確かに同じ様なレールを歩かないのであれば、ズレは出来るね。それは、しょうがない事だし」

 

「うん。それにさ……こう【普通】のってどんどん出来なくなって行くと思うから、だからこそやりたいんだ。駄目かな?」

 

 アイはそう言うと僕の手を両手で掴んで目を覗き込んでくる。

 

 【普通】か……【普通】じゃないからこそ【普通】を求める。そして、【普通】な人は【特別】を求める。大半の人は無い物ねだりだ。

 

「次……次はデートに行こうか。場所はどうする?」

 

 あ~あ、言ってしまった。後悔は無いけど、身バレしないように気をつけないとだ。特にアイはアイドルだからね。

 

 バレたらいけないからからって断ってもよかったんだけど……僕の気分転換にもなるし、一緒に出かけるだけの些細な願い事なんだから断るに断れなかった。

 

 ただ当たり前のように【普通】のことをしたいってだけなのだから。

 

「ほんとに良いの?」

 

「良いよ。ただ、行く場所はアイが決めて。アイが行きたいと思う所にしようか。でも、変に遠い所とかは無理だからね。大雑把にでも決まれば後は調べて探せば良いだけだから」

 

「うん。分かった。ちゃんと無理じゃない場所にするよ。だから……約束だよ?」

 

 

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