愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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8話 進路

 あのデートの日から約2ヶ月が経過した。その日を境にしてか演技で浮かべる喜楽の感情表現が徐々に上手くなって行った。

 

 進級し中学3年となり、学校では各々が進路について奔走し始めていく。

 

 それでも元から進路についてはある程度決まっていた僕と進学することのないアイは変わらず? 偽りの恋人関係を維持し続けている。

 

 ただ、そうなると気になることも増えてくるもので……。

 

 アイは何故、同じグループのメンバーを嫌いにならないのか? 怒らないのか? 憎まないのか? マイナス方面でのことが結構、僕の中で気になっていたりするのだ。

 

 だってそうだろう。そんな虐めとしか受け取れない事を平然と行ってくるのだ。気にならないはずがない。

 

 相手にしてなくても、心を苛むようなものだし。

 

 少なくとも僕は耐えようとは思わない。完全にやり返すとは言わないが、少なくとも程度によっては訴えるもしくは辞めることを選ぶだろう。

 

 そんな場所にいても自分のためにはならないだろうし。

 

 この2ヶ月はお互いの予定が噛み合わず、会うことは無く電話だけであった。まあ、その原因はお互いに仕事が増えてきているのもあるのだが。

 

 仕事が増えるのは良いことなのだろう。この業界で仕事がない人は本当に仕事が無いので。

 

 それはともかくとして、僕にとって星野アイという人物はかなり興味深い存在である。

 

 プライベート的な意味で興味を持ったのは初だろうか? 役者としてだったら色々な人がいるのだが……。

 

 そんな事を頭の片隅で考えつつ、次の舞台の台本読みを行っていく。

 

 出番としては少ないがきちっと役を作っていく。作品全体でみた時の完成度を上げるのは重要な事だし、それが次へと繋がっていくからだ。例え、ちょっとしか出番がなくてもそれを理由に手抜きするのはいけない。

 

「……ほう、以前と比べたら大分マシになったな。何か良いことでもあったのか?」

 

 僕の様子を見ていた金田一さんにそう声をかけられた。

 

「ええ、まあ……良いことといえば良いこと何でしょうね。少しばかり良いこと思い出せたので」

 

「……そうか」

 

 金田一さんは深くは聞いてこず、頷く。

 

「この調子で頑張れよ」

 

「はい」

 

 金田一さんが去っていくと今度はカミキ君がやって来た。

 

「哉汰さん」

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと内々のご相談がありまして」

 

「珍しいね」

 

 本当に珍しいことがあったものだ。

 

「こう言ってはなんですが……哉汰さんの交友関係が狭いのでうっかり口を滑らせても大丈夫だろうなと言う思いもありまして」

 

「うん。否定出来ないけど、そうやって相談を持ちかける相手をディスるのはどうなの?」

 

「でも、そのくらいで可愛い後輩の相談を無下にするような先輩じゃないですよね?」

 

 自分で可愛い後輩とか口にしたよこの後輩。

 

「まあ、良いけどさ……それで何処で話す?」

 

「他の人に聞かれたくないので先輩の家でもいいですか?」

 

「良いよ。今日は祖父母揃って夜遅くまで飲みに行ってるし」

 

 でなきゃ家に誰かを連れてくるなんてOKしない。

 

 

●●

 

 

 夕方。カミキ君を家に連れてくる。

 

 時間もそんなに無いのですぐさま本題に入る事にした。

 

「よし、時間もあんまり無いし。カミキ君の相談事って何かな?」

 

「実は将来的に独立しようかと思ってるんですよ」

 

 ……それは予想外な相談事であった。

 

「それってフリーの役者になるって事?」

 

「いえ、そこはまだ決めてませんよ。今はただ漠然とですね」

 

「そうなの?」

 

「金田一さんの知人の人の事を知って自分の手で価値ある人(・・・・・)を生み出す事に魅力を感じまして」

 

 金田一さんの知人って言うと僕が知ってるのってアイをワークショップに参加させてくれた鏑木さんぐらいしか思いつかない。

 

 確かにあの人は価値ある人というか価値ある人(・・・・・)を生み出す側だろうと思う。

 

「となるとプロデューサーとかになりたいの?」

 

「先ほども言った通り、その当たりはまだ決まってません。ただ、価値ある人を生み出す側になりたいと思いまして。僕も哉汰さんも価値をつけてもらう側じゃないですか」

 

「確かにそうだね。その価値が僕たちの仕事に結びつくわけなんだけど」

 

 そもそも僕たちの年齢でそんなことをしてる人はまずいないだろう。

 

 とりあえず、大企業の社長とか、老舗の跡を継ぎたいとかは多々ありそうだけど。

 

「ええ、なのでまだ当分は先になりますけど、僕は大雑把にはですが将来の目標が決まりました」

 

「ところでなんだけとさ」

 

「何でしょう?」

 

「きっかけってあるの?」

 

 思ってみれば何で価値のある人を作る側に興味を持ったのか、その理由は聞いてなかったなと。

 

「きっかけですか」

 

「そうそう何事もやるのであれば、些細なことから大きな事まで何かしらのきっかけがあるでしょ」

 

 そう聞くとカミキ君は少し考え込む素振りを見せる。

 

 それは……どこまで話そうかを考えているようであり、カミキ君にとっては根が深いものなのであろうことを思わせた。

 

 数十秒ほどしてから、カミキ君は話し出す。

 

「……そうですね。簡単に言えば僕は……自分の価値に実感を得たいんですよ」

 

「実感を?」

 

「ええ、そうです。僕は僕につけられた価値を実感できないんです」

 

「まあ、それは大体の人がそうじゃないかな?」

 

「ですね。でも、その大体の人は無意識下で実感してるはずです。祖父母に親兄弟と」

 

 カミキ君も家庭に問題のある子だもんね。

 

 ……普通に見えてもどこかしらに歪みはあるか。

 

 承認欲求が満たされてないのかな? 自分の価値を実感出来ないから実感出来るようになりたいと思うのは間違いではないと思う。

 

「確かに自覚こそないだけで無意識下で実感してるのはありそうだね」

 

「なので僕は価値のある人を作る側になれば、自分の価値を実感出来るのではないかなと思ったんですよ」

 

「なるほどね。作る側と作られた側じゃ見えるものが違うし、視点を変えて見るのは確かにありだね」

 

 それにしても、自分の価値か……考えたことは無かったな。

 

「ええ。……話は変わりますが哉汰さんはずっと役者を続けていくつもりですか?」

 

「ん〜、辞めるに足る理由があればスパッと辞めるかな。そうじゃない限りはとりあえず、続けてくと思うよ」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ」

 

 僕が役者を続けてる理由って誰かを愛せるようなりたいから、それの一助になるかもしれないからだしね。

 

「続ける理由は辞める理由がないからってことですか」

 

「まあ、そうだね」

 

 とりあえず、そう答えておく。事実そういう面もあるのだから。

 

「役者は好きですか?」

 

「ん〜……どうだろうね。でも、自分ではない何者(・・・・・・・・)かであれるのは好きかな」

 

 前世の思い出と今を比べないで済むし、そうしてる間は今を生きてるって感じがあるからね。

 

 前世を無くしたいわけじゃない。ただ、比べてしまうのは止めたいと思う。

 

 もう2度と手に入ることのない無くしたものをいつまでも引き摺り続けてしまっているのを。

 

 そう思うも、ずっと引き摺り続けてるのが僕である。

 

 きっと無理なんだろうなぁと思う。そこは人それぞれだろうけど……僕は無理だと感じていた。

 

 だって、それは前世と同じくらいに大切なものを手に入れないとならないということだ。

 

「哉汰さんは自分のことが嫌いですか?」

 

「そういうわけでないよ」

 

 自分のことが嫌いというわけでない。ただ、疲れる時があるだけだ。

 

 それから、しばらく他愛のないことを話してからカミキ君は帰って行った。

 

 

●●

 

 

 それから約1ヶ月後。 

 

「直接会うのは久しぶりだね! 元気してた?」

 

 初のデートから3ヶ月が経過して、ようやく僕たちは予定が噛み合い、隠れて人と合うのに丁度いいお店で一緒に食事をすることにしたのだ。

 

「そこそこね。アイの方はどう?」

 

「私は見てのとおりだよ!」

 

「そっか」

 

 深くは聞かない。聞いても良いけど……きっと楽しい話はあんまり出ないだろうから。

 

「ねぇねぇ! 私と会えなくて寂しかった?」

 

「……それにはどう答えた方が正解なんだろうね」

 

「もう、その返事の時点でアウト! だよー」

 

 胸の前で両腕をクロスさせてバツ印を作りながらアイが笑う。

 

「だよねー。僕個人としては電話もしてたから特に寂しくは無かったんだよね。恋人として考えるなら寂しかったて答えるのが正解なんだろうけどさ」

 

 そこまで言って思う。これって恋人役になりきれてないよね? いや、でも……うう~ん……後で考えよう。今考えると時間がかかりそうだし。

 

「そっかぁ……カナタは私がどう思ってたと思う?」

 

「……どうだろうか。電話で話してたし、寂しくは無かったんじゃないのかな? 忙しくなってきていたのもあってあんまり考える時間も無かったかもだし」

 

 忙しいと他のことを考える余裕とか無くなるし。

 

「正解は……内緒(な〜いしょ)!」

 

 そう言うアイはそれはそれは良い笑みであった。

 

「えええ~」

 

「ふっふっふ……予想以上の不正解を叩き出したカナタには教えませ〜ん!」

 

 ケラケラと口元を隠しながら笑うアイ。キミが楽しいのならば別に構わないんだけどさ。

 

 普段から結構ストレスを抱えてるだろうしね。それが少しでも発散されるのなら、それで良いんだろうと思うのだ。

 

 このぐらい歳の離れた弟や妹にちょっとした悪戯をされているような可愛いものだろう。

 

「そっか」

 

「……それだけ?」

 

「うん」

 

「ええ〜……カナタはもっとさ私に興味を持とうよ! 反応が淡白すぎるよ。仮にも恋人だよ?」

 

 いや、そう言われましても。うん、でもまあ、僕の反応も反応だしね。

 

「興味がないわけじゃないよ? 何で嫌がらせを受けても怒りを顕にしないのか、他のメンバーのことをどう思ってるのか、何で平気そうにしてるのかとか色々と気にはなってるよ」

 

「……本当にそれを知りたいの?」

 

「まあ、気にならないかと聞かれたら気になるよ。だって、アイってそういうの全然言わないから。基本的にやられっぱなしだよね」

 

 多分、やり返したりしてたらB小町は空中分解とかしてそうだけどね。

 

「……それは」

 

「まあ、言いたくないことなら全然言わなくても良いことだよ。単純に星野アイという人がどう思ってるのか、僕がそれを知りたいと思うだけだからね」

 

「……知ったらきっと幻滅すると思うよ」

 

「そう? でも、人って良いも悪いも含めてその人でしょ。良いだけの人なんて存在しないしさ」

 

 いたらそれこそ嘘であろう。

 

「……なら、話したいと思ったら教えてあげるよ」

 

「うん。無理強いはしないよ。誰だって人に話せること話せないことはあるからね。アイが話してもいいなって思った時でいいからさ」

 

「ならちゃんと恋人役やってね?」

 

「善処するよ。きっとさっきみたいなこともあるだろうけど」

 

「ええ〜。駄目じゃん」

 

「いや、そう言われてもね。僕自身に恋人であるという役を被せてるだけだからね」

 

 役に徹しているのかと言われると……正直な所分からない。

 

 楽しいか楽しくないかの2択なら楽しいと答えられる。ならばそれで良いのだろうと思う。

 

 お互いに軌道に乗って売れれば売れるほど会う時間や話す時間は限られてくる。

 

「アイはさ……僕に聞きたいことってあったりする?」

 

「あるにはあるけど……どうして?」

 

「ほら、さっき僕がアイに聞いたから、アイはどうなのかなって思っただけだよ」

 

 後、僕だけ聞くのも不公平かなと思ったのだ。

 

「ちゃんと答えてくれる?」

 

「内容によるかな」

 

「……怒らない?」

 

「…………人によっては怒りそうなことを聞くつもりなの?」

 

 かなり際どいやつなのかな? それとも短所的なことなのだろうか? 

 

「……気にしてたら悪いかなぁと思って」

 

「とりあえず、言ってみて……僕も何を言われるのかちょっと気になるから」

 

 本当に何を言われるのだろうか? 

 

「じゃあ言うよ……カナタってさ、熱意っていうのかな……何だろう、こう活力? でいいのかな。精神的な方でそういうのって殆どないよね」

 

 まあ、アイの言う通りだ。

 

 それは多分、2度目の人生であることが影響してるんだろうなと思う。未知を既知にしたり、未知を既知にするために色々と考えてみるのは楽しいと思う。

 

 でも既にネタバレしてるのを繰り返すのはつまらない。

 

 復習になると考えれば良いかもしれない。でも、それが長く続けばどうだろう。熱意等を持っていられるかと聞かれたら、今の僕が答えだと言える。

 

 その点、役者というのは未知であった。

 

「うん。そうだね」

 

「どうしてかなって思ってさ」

 

「楽しみを見いだせないからかな」

 

 完全に正解ではないが、間違いではない答えを返す。

 

「楽しみ?」

 

「そうだよ。単に僕が多くのことを純粋に楽しめてないだけなんだよ」

 

「こうして私と会うのはどうなの?」

 

「それは楽しんでるよ。だってそのおかげで……僕の世界は少し広がったからね」

 

 そのきっかけをくれたのはアイなのだ。そのことに関して感謝の言葉しかない。 

 

 後、良い意味で前世のことを思い出せるきっかけもだ。

 

 少なくともマイナスから0へと近づくことは出来たのだから、それだけでも十分に良かった思える。

 

 だから、いつか彼女が本気で何かを手に入れようとするのなら余っ程のことじゃない限り1度だけ無条件で受け入れようと決めている。それが、僕なりのお礼だ。

 

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