愛せるようになりたくて 作:あなたの推しは誰?
忙しくなってくると時が経つのがあっという間であり。瞬く間に季節すらも変わってしまう。
アイとの交流は変わらず続き、カミキ君がこの間見た女性とは違う女性と一緒にいるのを見かけたり、カミキ君誘われて見知らぬ女性や男性複数人と出かける事になったり、家に何度か遊び? に来たりとしていた。同じ歳の男友達はいないだろうか? カミキ君に誘われた時の男性人はみんな歳上であった。
また、受験で周りがすごくピリピリしだしたりと、僕の周りでも変化があったり無かったりしてる。
それと、アイと直接会う機会はどんどん少なくなっていた。
お互いにまとまった時間を取れないのもあってほんの僅かな時間……1、2時間程度だったりする時もあった。そんなある日のことだ。
久しぶりにお互いに休みの日が重なり、会うことが出来た。
「おお……背が伸びたね」
そう言いながらアイが手を伸ばしてどれぐらい差があるか確かめようとしている。
「ああ、うん。成長期ってやつだね。10センチ以上伸びたよ。アイは……うん」
「……小柄で可愛いでしょ?」
アイはテヘッと誤魔化すように笑う。確かに可愛いのは認めよう。
「……背はあんまり変わってないね」
僕だけが大きく背が伸びたせいか、アイが余計に小さく見える。
「これでも少しは伸びたんだよ……1センチ前後だけど」
「そ、そっか」
背丈はもう打ち止めに近いのか……。
「あ、そうそう! 私、少し前に15歳になったんだよ!」
「おめでとう」
「それだけ? お誕生日プレゼント的なのは無いの?」
「うん。唐突にお誕生日プレゼント催促されても用意なんて出来てないからね? そもそも、初耳何だけど」
「アレ? 電話で言わなかったけ?」
「言ってない言ってない。言ってたのは最近佐藤社長の腹周りが少し大きくなってきたとか、恋愛映画の感想とか、ライブ中に起きたハプニングだったり、歌番組に出演することが決まった話しとかだよ」
佐藤社長に関しては仕事関係の付き合いからの中年太りではないかなと思う。色々と付き合いがあるだろうから、健康には気をつけないとだね。
一応、結婚もしてるらしいし。
「そこは恋人らしく二つ返事で……任せとけ! って言わないと」
「とりあえず、恋人の部分に偽を付けようか。後、それは僕のキャラじゃなくない」
「そこ大事?」
「結構大事な部分だからね、そこ」
僕たちは偽だからこその関係だからね。
「あ、そうそうドラマ見たよ。思いっきりキスシーン流れてたね」
ああ、アレね。
「人工呼吸の下りね。結局駄目で逝っちゃったけどね」
ドラマのワンシーン。サスペンスものであり、川で起こった殺人事件から目の前で友人が川で溺れてしまい、心肺蘇生を行うも亡くなってしまったことを思い出すシーンことだろう。
因みにキスの相手は男の俳優である。
一応、心肺蘇生の為というものではあるが……同性とのキスシーンは中々にくるものがある。実際に自分がやるとだが……だからといって異性が良かったわけでも無い。
それはそれで内心気まずいものになっただろうと思う。
「キスの相手は女優さんの方が良かったんじゃないの?」
「……アイ、キミもいつかドラマに出れたらそんなシーンを撮るはめになるかもしれないから、いずれ分かる時が来ると思うよ。異性だろうが同性だろうが……精神的にくるものがあるからね」
普通にキスシーンのある映画やドラマでキスをする人って凄いと思う。僕が精神的に嫌に感じるのは感覚の違いだろうか?
「アイドルだからそんなシーンは撮影しないと思うよ。社長が許可しないだろうし」
……そうだね。アイはアイドルだから少なくとも現役アイドルである最中はそんなこと無いか。
でも、学園もの恋愛ドラマとかに出ることがあったら、そのシーンは誤魔化すのかな?
まあ、もしものことを考えてもしょうがないね。メインキャストとしての起用とは限らないし。
そんなことを思ってるとアイが背伸びして僕の耳元で顔を寄せると囁いてきた。
「……私のファーストキスで上書きしてあげようか?」
…………何を言ってるのこの子? アイの顔を見ると悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「…………は?」
そして、数秒ほど時間をかけてアイの発言を反芻した僕の口からはそんな声が真っ先に出てきた。
「うわっ!?……その反応傷つくなぁ」
しょぼーんとするアイ。
あ、うん……反応についてはごめん。
「え? 大丈夫? 何かとてつもなく嫌なことでもあった? 僕で良かったらいくらでも聞くよ?」
「嫌なことなら多々あるけど……」
あるよね。無いわけが無いよね。
「だよね。……弱音とか全然聞いたこと無いけどさ……本当に大丈夫? 頑張り過ぎて疲れてない? 身体の方じゃなくて心の方で」
「……………」
ジッと僕の方を見てくるアイ。
色々と考えているのだろうか無言でジーと僕のことを見ている。
「………………」
「………………」
しばらくお互いに無言で見つめ合う。
何か雰囲気的に僕から話しかけるのが難しいというか、どう話しかけるべきか、アイが話し出すのを待ったほうが良いのか、色々と考えがごっちゃになっていた。
「……ねぇ」
そう短く言ったアイは何処か迷子の様な雰囲気があった。
「何かな?」
「どうして、カナタは私に強くあることを求めないの? グループの子たちは私のこと色々と言ったりしてるけど、それはそれとして私が強い存在であることを求めてるんだよ」
「ん〜……それはそれじゃないかな。同じグループだからこそセンターであるアイには絶対的な存在でいて欲しい。だけど、アイばかりが人気だったりチヤホヤされてるのはムカつくっていう感じで」
「じゃあ、カナタは私に何を思うの?」
と言われて改めて考える。
「そうだね……偽の恋人。いつか終わるこの関係だけど、終わるならお互いにいい思い出として残せるような終わり方をしたいなって思うよ。だから、
「じゃあ、
「そしたら、友人でいいんじゃないかな。僕はそう思うよ。少なくとも一緒に出かけたし、食事もしてるし。友人同士ならおかしくはないでしょ?」
「そこで恋人って選択肢は出てこないんだ」
「まあ、僕もアイも恋愛的な意味でお互いを好きになってないからね」
そうなってたらアイと会った時にはもっと違う感情を抱いていたんじゃないかなと思うのだ。
「……そっか。そうだよね……。カナタは私のことが知りたいんだよね」
「そうだよ」
「それなら……カナタも私にカナタのことを教えてよ。私の汚いところとか、やなところとか全部教えて上げるからさ」
「うん。良いよ。だから、アイのことを教えてほしいな。何を思い何を考えているのか」
そうして、僕たちはお互いのことを深く知るために語り合った。
お互いに共感できる部分、できない部分、価値観、悩み、等等を……。
●●
それから、お互いに色々と話し合った後にカミキ君に誘われて見知らぬ女性、男性複数人と出かけたことを言うと……。
「浮気者〜♪」
アイがケラケラと笑いながら僕の頬を人差し指でつんつんしてくる。
「えぇ~……これは浮気になるの? 一応、他の人もいたんだけど」
「私がそう思ったからそうなんだよ」
「……理不尽だね」
「かもね。でも、私という恋人がいながら他の女の人と会うのはどうなのかなぁ?」
「いやいや! 僕はカミキ君に誘われて行っただけだからね! それと、僕たちは偽の恋人同士だよ」
1対1で出かけたわけじゃないから普通にセーフだと思うんだけど……ちゃんと他にも女性、男性がいたしさ。
「それでもだよ」
「……そうなのね」
「そうでーす。お互いのことを深く知ったわけだしさ……もっと仲を深めても良いと思うんだよ」
僕は別に今のままでも良いと思うんだけどね。
「ん〜……でもさ」
「何かな?」
「仲を深めるって具体的にはどうするの?」
実際、仲を深めるって言っても何をすれば仲が深まったことになるのだろうか? それが疑問であった。
僕の言葉を聞いたアイは自信有りげに人差し指を口元に持ってくると微笑みながら言う。
「それは勿論……恋人同士といえば……キスだよ」
「……ちょっと待とうか。僕たちは偽のだからそれは本物に出会った時で良いんじゃないかな?」
そこまでなり切る必要は無いと思うのだが、アイは違うのだろうか? 違うからこそ言ったのだろうか?
「ん〜……カナタは、私とキスするのは嫌? 偽だから? 偽だからだったら……アイドルのアイを含めて星野アイを好きになってよ。そしたら本物だよ」
「……何か捨て身というか、どうしたの?」
「少し考えたんだよね。お互いのことを深く知ったし、いっそのことこの関係を本物に出来たら、それは私が……ううん、私たちが愛を知ることが出来る証明になるんじゃないかなって」
「な、なるほど?」
「うん。だから……堕とすためにはやっぱり、キスかなって。絶対意識すると思うんだよね。現にさ……結構ドキドキしてるんだよね。触ってみる?」
「それは軽くセクハラもしくは痴漢になるから遠慮するよ」
変な意味でこっちもドキドキしてきたんだけど……どうしてくれるんだ。全く……。
そう思いながらも何がおかしいのか自然と笑いそうになるのを自覚する。
本当に何なのだろうか? ただ、悪い気はしない。
この状況を楽しんでいるのだろうか? 分からない。謎だ。自分で自分のことが理解出来ない。僕はどうしたいのだろうか?
そんな僕の葛藤というか戸惑う姿が面白いのか悪戯っ子の様な、してやったり感のある笑みを浮べるアイ。
「……期待してるの?」
そう言いながらジリジリと距離を詰めてくる。
「どうなんだろう? 僕自身も分からない。でも、何だろうね……この新鮮さは楽しいのかな?」
「それは分かるかも。私もこう普段やらないし、言わないようなことを言って、ちょっと楽しいって思ってる」
「だよね。何なんだろうね……お互いに色々と話してお互いのことを知れたからかな?」
「そうかも。こうやってふざけられる関係って本物っぽくない?」
確かにそう言われると……街中を歩いてる時にお互いに笑い合いながらふざけて戯れ合うカップルとかたまに見るし。
そう言う意味では僕たちはより本物に近い関係になったと言えるのだろう。
こうやって話して、考えている間にもアイはジリジリと距離を詰めてくる。
「ねぇ……」
アイの手が僕の方へと伸びてくる。
僕はその手を掴むと引っ張った。
不意打ちということもあってアイの身体は簡単に僕の方へと引っ張られる。
「えっ!? ちょっ!!」
突然の事に驚きの声を出すアイの身体を抱きしめる。
「驚いた?」
「……もう、何なの」
ちょっとむくれた様な声音のアイ。
「ん〜……色々とドキドキさせられた仕返しかな?」
現に今も結構ドキドキしてるんだよね。でも、この感じは嫌いじゃない。
「……あ、本当だ。すっごくドキドキしてるね」
アイはそう言いながら僕の心臓のある辺りに耳を当てていた。
抱きしめて思うのは、思ったよりも僕はこの手のハグと云うものに飢えていたのではないかということだ。
寂しかったんだなと改めて自覚する。
前世にしか無い、あの温かさ……それを失ってしまったから。
「……それでいつまで抱きしめてるのかな〜?」
まるで……私のこと好きなくせに素直じゃない奴め〜♪ ……と言いたげなニヤニヤとした笑みを向けられた。
「それもそうだね」
ちょっとした名残惜しさを感じつつも、ハグを止める。
それでも、ちょっとした意趣返しになったと思うとそれはそれで楽しかった。
「むぅ……照れなくていいのに」
「そう言われてもね……さっきの僕はノリと勢いで行動してるから……素に戻るとね」
でも、今迄で1番恋人っぽい感じになっていたんじゃないかなって思う。
「カナタはヘタレだね」
「バッサリ言うね」
「そういうのは嫌い?」
「嫌いじゃないよ。はっきりと言ってくれた方が分かりやすいからね……心にくるものがあったりするけど」
それはコラテラル・ダメージだからしょうがない。下手にオブラートに包まれて言われると全く分からないこともあるからね。
「難儀だねー」
「いやいや、アイ程じゃないよ」
私物を隠されたり、服を切り刻まれたり、メンバーから陰口叩かれたり、直接罵倒されたりとかそういうのは無いし。
「そう思うなら……もっと私に優しくしてくれても良いんだよ?」
「だね。アイはいつも頑張ってるよ」
ワシャワシャと頭を撫でる。
「うわー……超適当」
「まあ、おふざけはここまでにして……アイは本当に頑張ってるよ」
ワシャワシャと撫でる手を止めて、乱してしまったのを手櫛で整えていく。
「……せっかく時間をかけてセットしたのになぁ」
「あはは……ごめんごめん」
「誠意を感じられない謝罪だね。ちゃんと反省してる?」
「うん。後悔はないけど反省はしてるよ。次があるなら櫛は用意しておかないとだね」
そう言うとジト目で見られた。
「……かけらも反省してないね」
「……何か楽しくてね」
「まあ、分かるけどさ……私もこのやり取りを楽しんでるし」
「なら、今はそれで良くない? 冷静になってから考えれば良いんじゃないかなって」
自分にもこういう面があったんだなと思った。