渋谷事変・一秒改変   作:つるもちぷに

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1『渋谷事変』

 二○一八年十月三十一日、十九時渋谷。

 東急百貨店東急東横店を中心に半径およそ四百メートルの『(とばり)』が降ろされる。

 

 自分が第二の生を過ごすこの世界が呪術廻戦の世界だったと俺が気付いたのは正にこの瞬間だった。

 

 端的に言えば俺は前世の記憶を引き継いだ上で、過去に生まれ直したのだと思っていた一般人だ。俺の絶命は二○二三年末、しかしその後二○○○年に再誕生し別人として人生を過ごした。

 その間一切『呪術』には触れていない。

 そもそもこれが漫画転生だとも思っていなかったし、転生時の記憶については前世と今世の中間には何も無い。

 ただシンプルに輪廻転生的な事があったんだなあと思っていただけであり、チート特典も無く、強いて言えば東京都民として生まれる事が出来ているのは、前世が田舎めの育ちだった俺からすればありがたい強みになっただろう。あとは守りたいと思えるような人がいくらか居るくらいには恵まれた人間関係だったか。

 

 だがそれくらいだ。本当に何も無い。

 

 そうして普通に生きてきた俺には『これから渋谷事変に巻き込まれる準備』は何も出来ていない。

 帳が降りて、渋谷駅に吸い込まれる群衆ガチャにはなんとか勝ち残り、五条悟(ごじょうさとる)を連れて来いという指示が知らされた瞬間にやっと現状のヤバさをゾワッと理解した所だ。

 もうあと一時間もしない内に五条悟が到着し状況が動き出すかもしれない。渋谷事変もマズいし、そこを生き残ってもその後の死滅回遊が更にヤバい。最初に一度だけ出られるルールはあるが、正史で行けば死滅回遊は後にプレイヤーのコロニー出入り自由のルールが追加されるため恐らく結界はろくに頼れない。

 

 

 今から自分に何が出来るか。

 渋谷事変以降はどこもかしこも人外魔境大決戦、素人が関与出来るものではない。

 こうなってしまった以上、仮に俺が命を賭せば戦況が変わるような場面が存在するなら、今世で得た守りたい人のために決死の覚悟と洒落込むのも全然するつもりだが、非術師の俺が加勢した所で勝敗の変わる戦いはこの渋谷事変ではまず無い。

 

 となれば戦闘以外での関与。

 最も局面を左右するのは五条悟が封印される事になる『獄門疆(ごくもんきょう)』関連だろう。

 しかしここは基本的に隙は無い。

 

 現時点から開門までの間は羂索(けんじゃく)が持っている。しかも時が来るまでの羂索の待機場所は地下鉄の線路奥だ。人で完全に満たされた渋谷駅構内を進みそこに辿り着く事自体が難しく、そして不意打ちが効かない地形、そして相手は宿儺、五条に次ぐ実力者だ。流石に無理だろう。

 そして開門の瞬間を狙い五条の半径四メートル外まで動かすのも厳しい。何故ならあの場所は五条の改造人間鏖殺のための領域展開『無量(むりょう)空処(くうしょ)』の範囲内だから。戦闘の余波から生き残る運があって待機した所で俺は行動出来ない。

 

 加えてあの領域の広さが作中で描写されていないためギリギリの待機も望み薄だ。確かに領域直後から改造人間鏖殺中の約五分は五条と羂索以外は動かない時間があるが、そもそも人の行動が混乱の元だったわけだから、恐らく駅構内の人間を丸ごと飲み込むように展開していると考えるのが妥当だ。可能性はあるが、一発勝負のプランとしてはやはり待機は現実的ではない。

 そして当然、封印後の羂索相手は論外だ。

 

 

 他の術師に説明するのはどうか。これも厳しい。

 現在は非術師を閉じ込める帳によって俺は外に居る術師にコンタクトが取れないし、補助監督の顔も伊地知(いじち)さんと新田(にった)ちゃんしか知らないし、新田ちゃんは釘崎との行動なのでまだ外だ。そして伊地知さんを重面(しげも)が刺す場面でも裏梅(うらうめ)は「このまま帳の外でスーツの人間を狩り続けてください」と発言している。

 つまり彼は非術師を閉じ込める帳の外だ。俺は会えない。

 

 そして他の術師がこの非術師を閉じ込める帳に入ってくるのは時系列的に五条封印後。五条封印の情報はその後の流れで虎杖(いたどり)が最速で伝達している。俺の口で言える信憑性のある言葉程度は伝えようが変わらないだろう。

 そしてひとたび戦闘が始まると最早介入の余地は無い。

 連携も無い状況で俺が現れても、逆に一般人の命を気にする術師側に隙を生み出すのが関の山だ。

 

 

 戦闘後の救助はどうか。

 虎杖が脹相(ちょうそう)との戦いに敗北した後、ミミナナが来て指を食わせるまでの間は虎杖はフリーだ。ここで彼を背負い地上の狗巻(いぬまき)先輩まで持って行って家入(いえいり)硝子(しょうこ)まで運ばせるという流れ。

 これは恐らく実現性自体はそこまで低くは無い。

 ただし問題点が二つある。

 

 一つは改造人間。虎杖が地下へ入る時、地上には改造人間と襲われる一般人がわんさかおり、俺が虎杖戦までの間に改造人間に襲われず、また狗巻先輩の呪言(じゅごん)での制圧に巻き込まれない場所に居ながら、かつ敗北からミミナナ到着までの時間が不明な中で確実にそこへ辿り着かなければ行けないという事。言うは易しだが不確定要素はかなり多い。

 

 そしてもう一つは敵の目的が基本的に虎杖である事。

 仮に全てのハードルをクリアして虎杖が家入の元へ届いたとしても、その後に結局宿儺の指が虎杖に食わされたりする可能性は十分ある。タイミングのズレは見込めるが結末への期待値が薄い。

 虎杖には悪いが、命の賭け方としては安いと言わざるを得ない。

 

 

 となると、俺が運命を変える余地のある場面はあそこしかない。

 恐らく時間にすれば、相当甘く見積もっても干渉時間は一秒が良い所だろうか。

 だが恐らく描写的にその差は一秒程度。俺が命を使い潰せば一言だけ伝えた上で大きく戦局を変える可能性が唯一ある。その後どう転ぶかも考える時間は無いが、出来る事はこれしかない。

 井の頭線、渋谷駅アベニュー口。タイミングさえずらせば戦闘には巻き込まれず、多少遠くに離れても状況の前には領域展開の時間がある。その間の外はむしろ安全な筈。

 

 

 もしここで状況が一秒遅れ、禪院(ぜんいん)甚爾(とうじ)漏瑚(じょうご)にぶつける事が出来れば――――。

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