渋谷事変・一秒改変   作:つるもちぷに

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2『一秒改変』

 二十時三十一分。五条悟、現着。

 

 そして二十時四十分。東京メトロ渋谷駅、地下五階副都心線ホームにて五条悟と自然呪霊達の戦闘が開始された。

 その後五条悟の余裕を削るために三十分を超える戦闘が行われ、東京メトロ明治神宮前駅から真人が改造人間と共に出発するのは二十一時十五分となっている。

 

 俺が居る場所が本格的に戦場と化すのはまだかなり先の時間ではあるが、警戒を怠る事は出来ない。

 渋谷駅として構内で道が繋がっている以上、真人が渋谷駅に連れて来る改造人間が移動ルートによってはこの場に現れる可能性も存在する。また陀艮(だごん)が来るタイミングを見誤ると俺は食われる。しかも陀艮は呪霊だ。俺が接近を察知出来るかどうかも分からない。無事な内から隠れるのは必須である。

 

 ……だが渋谷事変、意外と序盤は暇が多かった。

 

 最初は状況に頭を付いて行かせるためと、十八年前に見ていた呪術廻戦の記憶を思い出すので思考を取られかなり焦り散らかしていたのだが、流石に落ち着いてきた。

 

 思えば帳が降りてから五条が来るまで一時間半あったわけだ。

 そしてその後の戦闘。特級呪霊と五条の駅戦は三十分以上ある。

 三十分戦ってんのマジで時間感覚どうなってんだ。アニメ一話を丸々戦闘に費やした虎杖と脹相の戦いくらいか。あれ?もしや意外と普通?

 

 とは言え俺は戦っていないし戦いを見ても無い。

 ただ隠れて待つ時間、流石にもう緊張が持たない。スマホとかすげー弄りたい。けど油断した奴は漏れなく死ぬフラグだ。いや計画通りでも俺は一旦死ぬ予定なのだが、この死に所をミスるわけにはいかない。となれば我慢だ。この一発をミスったらこの日本は完全に終わるし、俺の今世の守りたい人も死ぬ確率が極めて高いのだから。

 

 

 

 

 

 その後もしばらく虚無の時間と迫り来る死の覚悟と戦いながら孤独に時を待った。

 体感は只管に長かったが、しかし時間が近付くに連れ俺の残りの人生の時間だという意識が働けばあっという間の時間だった。

 

 思えば遺書の一筆くらいは残しておくべきかとも思ったが、それを知り合いの誰かが見つけて連絡でも取ってこようものなら、それでこの隠密作戦は失敗しかねない。

 そしてスマホにだけデータを遺しても、これからこの渋谷で起きる俺すらも想像し切れない出来事を経た後までスマホが生き残っている気もしない。結局遺書を書くのは止めた。

 

 

 

 

 

 二十二時二十分。井の頭線渋谷駅アベニュー口。

 事が始まる音がした。

 どうやら俺は無事このタイミングを手に入れたらしい。

 

 この後少しの間通常戦闘、後に陀艮の領域展開、そこへ伏黒(ふしぐろ)の領域展開が重なり、その次に領域に穴が空いた時そこからオガミ婆によって降霊された後、オガミ婆の死によって制御を失った禪院甚爾が入って陀艮を祓う。

 

 俺の役割はその直後だ。

 だが直後過ぎてはいけない。

 ギリギリのタイミングを見極めて禪院甚爾のこの場への滞在時間を稼ぐ必要がある。そして欲を言えばその一瞬に口も動かし、その場に居る術師達に何かアドバイスをしておきたい。

 この一言も長過ぎる待ち時間で決めておいた。

 あとは正確にやるだけ。

 

 俺は領域に穴が開きすぐ閉じるのを見ると、領域の傍、壁掛けの絵がある側の柱の影に身を隠した。帳が見えていたため領域の外郭も視認出来ているが、禪院甚爾の侵入は早過ぎて欠片も見えなかった。歴史改変無く入っていったと信じて待つしかない。

 

 この後の戦闘終了までの時間は決して長くは無い。

 そして領域崩壊後、強者へ向く牙が一般人の俺に無条件で剥く事は無い。俺が行動するまでは俺はギリギリ無事な筈だ。

 

 行ける。

 行くしかない。

 

 ここをトチれば全てが終わる。

 やるしかない……!

 

 

 そして領域が解けた。

 

 

 禪院甚爾は現れた。

 そして祓われた直後の陀艮、隻腕の禪院(ぜんいん)直毘人(なおびと)、負傷した七海(ななみ)建人(けんと)、疲労した伏黒(ふしぐろ)(めぐみ)禪院(ぜんいん)真希(まき)

 

 完璧だ。俺が知っている通りの布陣だ。

 

 後はこの後のタイミングだ。

 俺が現れれば間違いなく彼らの緊張は破壊され行動が始まる。

 だから早過ぎては先に戦闘になる。

 

 ギリギリまで待つ。

 禪院甚爾が地面に降りるまで待つ。

 

 彼らへ歩み寄る足を一歩……二歩……――、

 

 三歩目、俺は飛び出した。

 

 人生最後の一秒、人生最大の一秒、ここで全てが決まる。

 二周目だからこその、命懸けを軽く見る意識によって俺は踏み出す事が出来た。

 どうせまた転生するかもしれないと思い込む事で体を動かした。

 

 そして拳を振り被りながら、俺は彼らの方を見て、特に伏黒と目を合わせて叫んだ。

 

「指を食わすなッ!」

 

 一秒後、禪院甚爾の反撃によって俺は死んだ。

 しかし絶命する瞬間の弾ける意識が捉えた視界には、見えた。死の直前という呪術的な特殊状態の俺はきちんと奴の姿を捉えた。

 

 

 漏瑚は現れていた。

 一秒の改変は果たされた。

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