ホシノ「コマンドォ?」メイトリクス「元軍人だ」 作:ロッコス
今後は週一投稿(日曜日か月曜日)にしますので、お待ちいただけると幸いです
また、次話は「ドンパチにぎやか」になる予定です
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尾刃カンナ。十七歳。
学園都市キヴォトスの治安維持を担うヴァルキューレ警察学校在校にして、
対テロ業務に特化した組織、公安局を率いる凄腕局長。
見たものが睨まれていると誤解されるほどの鋭い眼光に、その徹底した捜査姿勢。
さらに頭に生えた獣耳も相まって、『狂犬』とまで評される彼女であるが、目の前のディスプレイ群に表示された映像には、思わず口をポカンと開けて惚けることしかできなかった。
「ゲリラだ!」
「特殊訓練を受けたゲリラに圧されてます!」
「この男、鹵獲した戦車同士で相打ちさせたのか...。」
部下たちの叫び声はいったんおいておき、カンナはそうつぶやいた。
公安局は連邦生徒会、特に防衛室との関係が強くそれ故、共同作戦を実施することも多い。
今回もシャーレ部室近辺を中心としたテロリスト活動の制圧のため、連邦生徒会より支援容貌を受けており、公安局は局長カンナの指揮の元、作戦行動を実施していた。
連邦生徒会や日々の生活への不満を抱える生徒を鎮圧する。
キヴォトスの外からやってくるという『先生』に配慮しながらという制約条件はあるのだが、言ってしまえば日々の業務でしかないはずだった。
しかし、蓋を開けてみると、今回のテロ活動は一味も二味も異なっていた。
さらに間の悪いことに、あの悪名高い狐坂ワカモ。
矯正局から脱獄した「七囚人」が現場付近で出現したという報告まで上がってきて、先程から被害報告が鳴りやまない。
そんなこともあって、日々の厳しい訓練で鍛えられている公安局の生徒であっても、指揮系統に乱れが出ており、正直のところ作戦計画に数時間の遅れが出るまで影響が出ていたのだ。
しかし、
「ついに、シャーレ部室範囲1kmの制圧まで完了させるとは。」
目の前のディスプレイで獅子奮迅の活躍を見せる、四人組と一人を見てカンナは思わず唸った。
早瀬ユウカ、守月スズミ、羽川ハスミ、火宮チナツ。
そして、背面から迫りくる不良生徒をショットガン・アサルトライフル・コンバットナイフとあらゆる武装でちぎり飛ばす大男。
特に、あの茶髪の筋骨隆々の大男は、前線を押し上げる四人へ指示を飛ばしながら、殿もしっかり果たしている。おまけに倒した不良生徒の装備を剥いで、継戦力を維持しているようで、弾幕の規模が先程から落ち込むことがない。
半ば一人軍隊ともいうべき活躍だ。
面白い。あれが、七神リンから話のあった『先生』なのだろう。
もし可能なら、不知火カヤの連れてきたあの教官と入れ替えてみたいものだ。
「もう駄目だぁ。おしまいだぁ!」
「冷静になれ。」とカンナは現場へ思考を切り替え、慌てた様子で通信をしてきた公安局の部下たちへ指示を飛ばす。
「一七〇〇より、東方へ配備していた部隊を南へ展開...私も出よう。彼ら...あの五人組の勢力範囲を利用し、ゲリラと化した残存勢力を挟み撃ちの形にするぞ。」
「はいっ!」
存外、元気なものだ。
慌てながらもどこか余裕そうな部下たちの声に笑みをこぼし、再びディスプレイに視線を戻すと、部隊配置図上を何やら赤い点が高速移動しているのが目に入った。
赤は敵性反応の印。
おまけにその直線上には、男が陣取るシャーレの部室。
十中八九彼女の目的地はあそこなのだろう。
救援を送るか?いやまずは報告からだ。
カンナは一つ息を吐くと、七神リンへの通信チャンネルに接続する。
無機質な通信音を聞きながら、彼女の脳裏にあることが浮かぶ。
『もし、あの男があの女とぶつかったら、どのような戦いになるのだろうか。』
彼はキヴォトスの外から来た人間だろう。
勿論、弾丸一発食らったら致命傷だが、彼にはそれを補って余りある技術がある。
ひょっとしたらいい勝負になるのかもしれない。
「カンナ、どうかしましたか?」
くだらない考えだと、頭を振っているうちに、七神リンとの通信がつながった。
「いいえ、大丈夫です。ただ、急を要する報告がございます」
と彼女に気づかれないように、カンナは気を取り直すとこう続けた。
「先刻存在を報告した『七囚人』狐坂ワカモ。彼女がシャーレ棟へ接近中の模様です。」
◆◆
何かがこちらへ向かって来る。
そう、メイトリクスが勘付いたのは、少女三人と共に前線を押し上げていたユウカから、防衛の要である高所防衛拠点確保完了の報告を受け取った時であった。
「――というわけで、これからシャーレ部室へ帰投しますね。先生。」
「......。」
「それとも、先程からいらっしゃる屋上へ向かった方がいいですか?」
「...なるほど、南方か。」
「先生?...って、また、主席行政官からだわ。」
メイトリクスは通信先から聞こえる声から意識を外し、万一に備え、手持ちの装備を改めて確認し始めた。
コンバットナイフ、閃光手榴弾、デザートイーグルに二発の銃弾。
ロケットランチャー...は先程階下に放り投げた。
IMI UZIやレミントンにも、もう一発の弾丸も残されていなかった。
こちらへ猛進してきている存在が敵か味方かは不明だが、年場のいかない少女ですら、重戦車並みの化け物じみた耐久力を持っている。
今いる屋上には遮蔽物がいくつかあり、防衛戦には支障がないが、航空支援も期待できないこの状況ではあまりに心もとない装備。
補給が必要、そうメイトリクスは判断した。
『いったん合流し、装備を――』とメイトリクスが言いかけた時だった。
「退避してください!」
とリンと名乗っていた少女の声がユウカの通信通じて辺りに響き渡ると同時に、
左手に持っていた通信デバイスが吹き飛んだ。
「これで、あなた様とのお時間を、五月蠅く邪魔する羽虫は消えました♡」
背後から声が聞こえるや否や、メイトリクスはすぐさま身をひるがえし、ホルスターから拳銃を抜き去ると、銃弾の飛んできた方向へ銃先を向け変えた。
その視線の先には、奇怪な格好の獣耳少女がいる。
「その鋭い眼光に、逞しい身体つき。近くで見ると、ますます...すばらしいですわっ。」
燃え盛る街並みをバックに、そう語る彼女は黒を基調とした振袖のような着物に身を包み、顔には狐の面、さらに右手には銃剣の付いた、黒地に朱色というド派手な九九式短小銃を携えており、他の少女と同様頭の上には天使のリングのようなものが浮いている。
「...あ、あぁ。そ、そんな見つめられては。いくら私と言えども、恥ずかしくなってしまいます...。」
と、身体をくねらせる彼女に敵意は見えないものの、メイトリクスは顔をこわばらせ警戒する。
二キロは離れていた場所から、この短時間で屋上まで襲撃を仕掛けられる瞬発力。
おまけに彼女には息切れ一つしている様子はなく、そして一方的にこちらの素性がばれている。
一体何者だ?
「どうして一言も一体...ああ、私としたことが、自らの紹介を忘れてしまうとは...!」
と目の前の少女は仮面を外し、とびきり可憐な笑顔を見せると、一礼してこう続けた。
「狐坂ワカモと申します、メイトリクス様。
今宵は、胸よりあふれんばかりのこの想い。あなた様に直接、お届けにまいりました♡」