ホシノ「コマンドォ?」メイトリクス「元軍人だ」   作:ロッコス

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難産でした。
思ったことは後書きに記しておきますので、皆さんも感想よろしくです!


プロローグ④ ワカモと既婚者メイトリクス

◆◆

 狐坂ワカモは愛に飢えていた。

 

 彼女は確かに、難攻不落の矯正局から脱出した「七囚人」の一人に組し、その無差別かつ大規模な破壊行為故、「災厄の狐」とまで恐れられている。

 おまけに、顔には表情を映さぬ『面』をつけており、彼女の思いはおろか、その感情すら、赤の他人には推察することも難しい。

 

 それでも。

 それであっても、彼女は愛に飢えていた。

 

 だからこそ、彼女は怨嗟の言葉を吐くこともなく気のままに生きる動物相手には慈愛の態度を見せ、その逆に人間とは下らぬ争いを避けるため、面をつけて距離をとり、そして今、運命の相手と信じてやまないメイトリクス相手にその素顔を見せたのである。

 

 しかし、悲しきかな。

 いくら百戦錬磨のメイトリクスと言えど、この治安破滅都市キヴォトスには来たばかり。

 まさか、自分に対して銃弾をぶっぱなしてきた彼女が、これほどまでに屈折した愛情を持っているとは、流石のメイトリクスも気づかなかった。

 

 もっと言うと、彼は既婚者である。

 彼の興味は、目の前で笑顔を見せる可憐な少女などにはなく、自らの心もとない装備への懸念と、分断され状況が分からなくなってしまった少女四人の動向に向けられていたのだ。

◆◆

 

「さぁ、どうぞこちらに...♡」

 

 とどこか妖艶な声色で、こちらへ語りかけてくる少女を前にして、メイトリクスは依然、警戒態勢を続けていた。

 

 それも当然。

 素性を知らないメイトリクスから見れば、相対する少女は、ボルトアクション式小銃でこちらの手元を正確に狙撃する技術を持ったプロ中のプロ。さらに相手は補給も十全で、豊富に弾丸も持ち合わせている。

 

 それに対して、こちらの装備はナイフに拳銃二発に閃光手榴弾のみ。

 どう考えても分が悪い。

 

 などと考え、打開策を求め視線を階下にずらすと、丁度折よく少女四人組がこちらへ向かっているのがメイトリクスの目に入った。

 

 「せんせーい。ご無事ですか。先生―!返事してくださーーい!」

 

 あわただしく足音を立てて、上空を警戒することなく走り寄る少女たち。

 その彼女たちの両手には鹵獲した様子の重火器が抱えられている。

 

 いい判断をしてくれる。

 敵意がないならば、目の前の得体のしれない少女は無視し彼女たちと合流するのが先決か。もっとも、会話で動向を探ってもよいのだが、こちらが不利極まるこの状態を長引かせるのは賢明ではない。

 

 と、彼は迅速に今後の動きへ的確に思考を巡らせていたのだが、目の前にいるのは恋焦がれ愛にあこがれる、狐坂ワカモ。彼女相手には、少々無言の時間が長すぎた。

 

 「あら?五月蠅い羽虫がそんなにお気になりますか?」

 と彼の前方から待ちきれない様子でどこか拗ねた様子の声が響く。

 

 彼の視線の先には、先程と同じく左手で外した面を持ちコロコロと楽しげに笑う少女がいた。

 距離は変わらず。五十メートル弱。九九式短銃は相変わらず肩にかけられており、頭上には天使のリングが浮かんでいる。

 しかし、一点。先程と違い、彼女の眼は表情と異なり笑ってはいなかった。

 

 何か仕掛けてくる気か?

 

 そう察し、僅かに重心を前方へ傾けるメイトリクスを横目に、ワカモは再び面を着けなおし、肩にかついでおいた九九式短小銃を素早く構える。

 

 あの銃の装填可能数は五発。ということはまだ四発分残っている。

 

 顔をこわばらせ、デザートイーグルの引き金に力を入れるメイトリクスに、ワカモは『ご心配なく』と笑いかけると、

 

 「あなた様を悩ます彼女たちに、少し黙っていてもらうだけですので♡」

 とその弾丸を階下の四人に向け撃ち込んだ。

 

◆◆

 「いそぐわよっ!先生が危ないわ!」

 

 何者かによって先生との通信が遮断された瞬間、ユウカはそう口にし、主席行政官との通信を一方的に打ち切ると、ワタワタと先陣きって走り始めた。

 

 危ないのは、先生の相手をするワカモの方なのでは?

 戦車相手に背後から飛び乗り、ハッチをこじ開け、手慣れた手つきで鹵獲していくメイトリクスの姿を思い返し、チナツはそう怪訝に思いながらも、頭を振って他の二人と一緒にユウカの後を追いかけた。

 

 それもそのはず。

 彼女たちの両手には、不良生徒より鹵獲した武器が抱えられている。

 

 そうそう誘爆することもないだろうが、狙われてしまったらいいマトである。

 敵に見つかる前にさっさと『先生』と合流する必要があったのだ。

 

 「せんせーい。ご無事ですか。先生―!返事してくださーーい!」

 

 とユウカは大声で一心不乱に呼びかけ始める。

 

 もちろん、敵性反応が完全に消えたわけではないこの戦闘地域において、不用心に大声を出すのはいただけない行為ではある。

 しかし、今は非常事態。連邦生徒会会長から指名された『先生』の生命の危機である。

 『冷静になれ』という方が無茶だった。

 

 それでも、オペレーターという第三者の立場で戦場を俯瞰し監督する役割を持つチナツは比較的冷静なほうで、焦ったような彼女の声を耳にしながら、辺りをキョロキョロと警戒していた。

 

 部室周りに敵影はない。

 林の奥にも怪しい影はなさそうだ。

 そうなると、ひょっとして屋上か?

 

 などと考え、頭上へ視線をずらしてみると、何かが部室の屋上でキラッと光った。直後、チナツの眼にその正体が露わになる。

 

 明確な殺意の宿った小銃の弾丸。それは先頭を歩くユウカの頭へと吸い込まれるように飛んで行くように見えた。

 

 『危ないですっ!』などという間もなく、両手の武器を放り投げて、ユウカを付き飛ばそうと駆け出すチナツ。

 

 しかしその弾丸はユウカへ到達する前に、何故か空中で軌道を大幅に変え、結果としてシャーレ目の前にある建物のガラス窓をぶち破った。

 

 トンッという着弾する音に、ガラスの砕ける甲高い音が周囲に響く。

 

 「散開!敵襲よ!」「シャーレ屋上からですっ!」

 

 ユウカの後にそう叫ぶチナツに続いて、鹵獲した武器を放り出し、自らの武器を構える少女たち。そのまま周囲の遮蔽物に身を隠し、警戒しながら屋上を見上げると、彼女らは思わず目を疑った。

 爆発音と共に、大量の水しぶきが階下の彼女らへ襲い掛かったのだ。

 

◆◆

 メイトリクスは『退避―!』と階下から聞こえる声を耳にしながら、銃弾を使い切った銀銃身の拳銃を片手に持ち替え、空いた方の手でコンバットナイフを取り出した。

 

 一発はワカモによって撃ち出された7.7m口径の弾丸の軌道を曲げるのに消費され、もう一発はワカモが二発目を発砲するその直前に、短銃側面にぶち当て、狙いをそらすために使われた。

 そう、メイトリクスの手元にはもう一発の弾丸も残っていないのだ。

 

 彼女の小銃にはまだ二発も弾丸が装填されているのにである。

 

 先程の彼の行動は、拳銃に弾丸がないことを相手に悟らせず、それでいて目の前の障害を排除するための武器を手にする。

 その両立を狙った判断だった。

 

 

 『それにしても...』とメイトリクスは少女の圧倒的なフィジカルを目にし、思わず心の中で唸ってしまう。

 

 発砲直前に横から弾丸を撃ち込んだのだが、彼女はのけぞることすらしなかった。おまけに、狙いを少女たちからそらすことには成功したが、相手の弾丸は運悪く給水タンクをぶち破り、跳弾で傷を負わせることもできていない。

 

 ここからは、近接戦闘主体になる。さあ、化け物相手に厄介な展開だ。

 

 「うまく逸らされてしまいましたね、流石あなた様♡」

 などと考えている彼に向け、狐面の少女ワカモが弾んだ声色で語りかけてくる。

 

 「あなた様と見つめあうのもよいのですが」

 と彼女はゆっくりとメイトリクスの方へ向き直り、続ける。

 「やはり愛をいただけるのは、それとは比較にならない...喜び...あぁ...心がこんなにも熱く...!」

 

 彼女の右後方にある破壊された給水タンクからはなおも水しぶきが飛んでおり、燃える街並みの明かりに照らされキラキラと幻想的な世界を作り出していた。そんな雰囲気の中、彼女はそう武器ごと自らを抱きしめ、身体を震わせると、その後欲を振り切るように頭を振って、こう言い放った。

 「続けましょう。あなた様。激しい出会いをお求めなら、不詳、このワカモ。どこまでもお付き合いしとうございますっ!」

 

 

 「ところで、悪い奴にいくら貰った?」

 

 と、一人でボルテージを上げていくワカモに対し、とうとうメイトリクスが口を開いた。

 

 ここまで不利な状況になってしまったのだ。

 引き出せる情報はここで引き出し切ってしまった方がよい。

 そうした判断の上での行動だった。

 

 「誰の指示で...どこから殺しに...そもそもアリアス、ベネットという名に聞き覚えはないか?」

 

 聞きたいことは山積みだったが、とにかくベネットとの関係性が気になった。

 もし、奴の一味ならば、少女と言えども手加減はできん。

 少女相手にやりたくはないが最悪の場合、尋問の必要もあるのかもしれない。

 

 そう問いかけられたワカモであったが、しばし沈黙した後、肩を震わせ、

 『いくら貰ったなんて...ワカモの愛をお疑いに!?』と仮面をとって絶叫した。

 

 「私は一途...あなた様一途ですっ!!」

 「......。」

 「殺しは好みませんし、したこともございません!」

 「......。」

 「ですが...そこまでお疑いになるのならば...あなた様に害なすものを...殺せとご命令ください!今すぐにでも仕留めてまいりますっ!」

 

 「いや、結構。遠慮させてもらう。」

 「そんな!...どうか、嫌わないでください...!」

 

 そう、冷静さを装いながらメイトリクスは、先程とは一変し、泣きじゃくり、半狂乱とも呼ぶべき様相で懇願し始めた少女を前にただただ困惑を深めていた。

 

 化け物じみたフィジカルに、弾丸を躊躇なく人へ撃ち込めるメンタリティ。

 しかし、質問一つで、ここまで取り乱す始末。

 戦闘のプロかと思っていたが、ここまで幼い少女が兵士としてやっていけるのか?

 というか、ここまで見かけたの全員ジェニーぐらいの少女だぞ。

 そんな彼女らが平然と銃を撃ち、争うなんて、大人は一体何をやってるんだ?

 

 とにかく、彼女はベネットの関係者ではないらしい。

 一見不利な立場の自分に、下卑た笑顔で襲ってくる残忍さが感じられない。

 奴の教えをうけているだろう、あのマスクを着けた少女たちとは違うようだ。

 

 「先生ー!」「よくぞご無事で!」「やっぱり人間じゃ...」「げ、ワカモじゃん。」

 などと、脳内で考えていると、背後にある階段を駆け上がってきた少女たち四人の声が聞こえてくる。

 

 「邪魔が入ったようですし...今宵のワカモは...これにてお邪魔しとうございます...」

 

 彼らの気配を察知していたのだろう。

 目の前の少女は狐面を再びつけていた。

 おまけに、先程までの積極的な印象は消え、彼女の姿はどこか弱弱しい。

 

 その、かつてのジェニーと重なる姿に、流石のメイトリクスにも罪悪感が襲ってくる。

 

 「言っておくが」とメイトリクスはナイフと拳銃を納め、ワカモに語りかける。

 「俺は先立たれた妻との子もいる既婚者で、君のような少女を愛好する趣味もない。」

 「..............はい。存じて...おります。」

 

 はたから見ると意味不明な会話である。

 

 ここまでの文脈を抑えておらず、『何を口走ってるんだ?』と不審そうな表情を浮かべているだろう少女たちは無視し、メイトリクスはワカモへこう言葉を紡いだ。

 

 「だが、年長者として君の思いを受け止めはしよう。」

 「...ということは、あなた様?」

 「いつでも来るがいい、ワカモ。必要な時は力になる。」

 『その実力、アリアスに狙われるかもしれないしな』という次の言葉は、喜びに打ち震えるワカモの嬌声によってかき消されたのだった。

 




難産でした(二度目)
もっとドンパチにぎやかにしたい書き手欲求と、「愛する殿方に刃を向けるなんて!」と訴えてくる心の中のワカモがせめぎあい、結果ちょっとドンパチになりました。
 ※ちなみにシナリオを読むとワカモはキヴォトス人を一発で気絶させる特殊銃弾を
  使ってるようなので、あのまま食らってたらユウカと言えども...という想定
  
あと書いてて思うのが、ユウカとメイトリクスの相性は結構いい気がします。
今後コマンド―×ブルアカでオリジナルストーリーをお書きになる方はそちらメインでやっても面白いかもです。(ドンパチと突っ込みまじめ系のバディ)

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