ホシノ「コマンドォ?」メイトリクス「元軍人だ」 作:ロッコス
襲撃から一時間前。
「暇を持て余しているだろうあなたに頼みがあります。やってくれますね?」
慇懃無礼な口調ながらも真面目な声色。
早見ユウカが七神リンにそう話しかけられたのは、シャーレの部室棟も不良生徒から奪還し、ミレニアム学園に帰還しようと準備を進めていたまさにそのタイミング。
周囲を見渡せば他の三人は既に帰宅していたようで、残されたのは彼女ら二人と先生のみ。
おまけに先生は、外で連邦生徒会から手配されただろう大型のジープの挙動を確認しているようだったので、部屋に残っているのは、結果的にリンとユウカの二人だけであった。
連邦生徒会の機能不全が解消されたとはいえ、諸々の手続きを再開できるのは明日以降になるだろう。おまけに、懸案事項だった不良生徒も先生と協力して一網打尽にされている。
つまるところ、このあとの彼女は暇である。
しかし、ユウカはそんなことおくびにも出さず、腕を組んでキュッと口元に力を入れると、
「頼まれる内容によるとしか。私も暇じゃないのよ。」
そうリンに舐められないように、言い放ったのだ。
まじめな彼女が一体どうしてこんな真似を?
理由は単純。流石の彼女もこれ以上のドンパチは懲り懲りだったというわけだ。
今日の彼女は、オーバーワーク。
治安の悪化していた学園内の対処。連邦生徒会への往訪。リンに依頼されたシャーレ奪還に向けた戦闘への参加などに加え、学園から通信で飛んでくる事務処理の確認事項など、休まる時間が全くなかった。
彼女にとっては、実に一週間分の業務が一日に濃縮されて押し寄せてきた体感であり、その余波は身体にも襲い掛かっているようで、眩暈こそしないが目は疲れ、足は痛みを発していた。
つまるところ、彼女には休みが必要だったのである。
「あぁ、それなら大丈夫。」
と、『もう今日は武器を使いたくない』と顔に書いてあるユウカをみて、リンはどこか晴れやかな顔で、彼女にこう説明し、それならとユウカも渋々受け入れたのだった。
「本当にただ、先生の買い物に付き合ってほしいのよ。そのあとは、経費で食事に行って貰っても構わないわ。」
さて、そんなやり取りがあったのも、もう一時間も前の話。
一時間もあれば基本何でもできる。
不良生徒の襲撃によりシャーレ棟近くの店舗はやられてしまってはいるが、二十分も車を走らせれば、無事な大型量販店などゴロゴロあるし、食事処もより取り見取りである。
先生の買い物を済ませたら、ご飯でも食べて、あわよくばお家に送ってもらえるかも。
ましてやこれ以上ドンパチに巻き込まれたり、『買い物』が何かしらの隠語であって、じつは武器の強盗にいこうとしているはずなんてないわよね。ハハハ。
などという彼女の計算は、常識で考えれば妥当なものであり、お花畑が咲いているわけでも、楽観的なモノでも全くなかったのである。
そう、結果から言えば。
『相手がメイトリクスでなければ』の話だったのだが。
◆◆◆
そんな恨み節を、相棒である早見ユウカから抱かれているとはつゆ知らず、ショッピングマーケットへの大胆な侵入を果たしたメイトリクス。
彼は巨大なトラクターになぎ倒された棚をかき分け、押し進み、衣料品の奥に陳列された一般兵装コーナーからグレネード、アサルトライフル、ロケットランチャーなどを確保し、シャーレより貸与された大型ジープの荷台に一つ一つ積み込んでいく。
『これは犯罪ではない、なにせ我々は超法規的機関『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』なのだから。』
などと言いながら、『これは強盗ではないか?』と訴えるユウカを退け続け、そして、とうとう彼はお目当ての武装が保管されているだろうセキュリティエリアを見つけたのだった。
そのまま、そばへにじり寄っていき、目に飛び込んできたその光景にメイトリクスは唸らずにいられないでいた。
そこは、店内入口からもっとも離れた店の外れ。
十五畳ほどの広さの白い小部屋には、核シェルターのような分厚い扉が一枚。
おまけにその付近をアサルトライフルを構えた無人偵察ロボが十五台。
額に『警戒』の黄色い文字を点灯させ、キョロキョロと動き回っていた。
「アロナでもハッキングは難しそうです..ふわぁ..。」
「そうか。では休んでてくれ。」
「わかりましたぁ。せんせぇい。おやすみなさい...。」
と保険もかねて持ってきていた白板から聞こえる声にメイトリクスは小声で答える。
セキュリティのことは彼には詳しくわからなかったが、情報戦では勝ち目がないらしい。
流石に厳重だ。
手荒な真似は極力避けたかったが。
やむを得ない、ぶっぱなそう。
メイトリクスはそう即座に判断すると、陳列棚に残っていたUS M202A1ロケットランチャーを肩に担ぐ。そして、そのまま蓋をこじ開けると、側面を向いてあらぬ方向を警戒していたロボ数機を巻き込むように爆破した。
劈くような轟音。
衝撃波に巻き込まれ、解けていくように粉々になるショーウィンドー。
そして、ロボットたちの金切り声にも似た断末魔。
火災報知器か作動したのか、頭上のスプリンクラーからは細かな消火剤が吹き荒れていた。
この異常事態に、流石に他のロボもメイトリクスの存在に気づいたようだった。
よくよく見ると、彼らの額の文字は『警戒』という赤に切り替わり、眼には紅の灯りがともる。
そして、一時的に延伸された索敵ソナーの範囲に引っかかったメイトリクスに向けて、十を超えるアサルトライフルの銃口がぐるりと一斉に向けられたのであった。
「警告...脅威対象を排除します。」
この間僅か一秒足らず。
ロボットは彼を取り囲むように位置を変えており、よどみない武装と共に、絶対に逃がさないという強い意志を感じさせる、そんな見事な警備であった。
仮に十人程度の強盗団で襲い掛かっても、これだけ四方八方に取り囲まれてしまっては、どこを狙えばいいのか躊躇してしまい、ハチの巣にされ、鎮圧されていることだろう。
しかし、メイトリクスの方が動きが早かった。
打ち切ったと同時にロケットランチャーを投げ捨ると、その手には次の兵装が握られていた。
サコー M60E3、軽機関銃である。
彼は、その弾丸含め十キロは超えるその銃を腰で構えると、ロボットたちの警告音など一切気にせず、息を吐くことなく、真顔で、辺りに向けて乱射を開始したのだ。
こぎみ良い射出音に、7.62mm薬莢が床に落ちる甲高い音。
毎分六百発という速度で打ち出される弾丸によって、撃ち抜かれた手榴弾が爆発するくぐもった轟音。
おまけに警戒状態のロボットたちが奏でる警告音がそれらと加わり、店内はまさにお祭り騒ぎであった。
警戒ロボも負けじとメイトリクスを迎撃しようとするが、その弾丸は何故だか一発も彼を捉えることができない。戦闘は一方的な惨殺となり果て、ついに―――
「やはりあったか。」
己以外廃塵となり果てた店内で、メイトリクスはお目当ての品を見つけ出していた。
ZU-32-2、それにM1 エイブラムス。
側面には見たことのないエンブレムが取り付けられてはいるが、これらはまごうことなき、取り回しの良い対空砲とアメリカ合衆国が誇る名戦車であった。
また、どこでこれらキヴォトス外の装備を仕入れてきたのかは知らないが、マニュアルもきちんと用意されているようで、見たところきちんと整備もされている。
おまけに、対空砲には牽引台が取り付けられており、戦車さえ動かせば、まとめて外まで引っ張っていくことは可能そうに見えた。
「これでよし。」
と息をつくまもなく、彼は慣れた手つきで戦車のロックをこじ開けた。
そしてそのまま、ハッチを慎重に開き、戦車内を確認するとすぐさま中に滑り込もうとして、その寸前でふと思いとどまる。
まてよ。
兵装以外に医薬キットも持っておく必要があるかもしれない。
この先手当てが必要な兵士がいる可能性がある。
などと考え、残弾の残った軽機関銃をそばに置き、戦車から這い出て、薬品棚に手を伸ばした時、強烈なデジャヴュが彼を襲う。
何かおかしい。
ここ最近、これに近いシチュエーションに陥らなかったか?
「動くなっ!」
と背後から聞こえる声に、ホールドアップせざるを得ないメイトリクス。
彼は本編と同様に、またしても銃を装備したガードマン五人に、不用意にも背後をとられてしまったのであった。
「こんなのただの本編よ!」というツッコミは受け付けません()
ちなみに、巨大トラクターも建築現場からの窃盗ですが、超法規的機関なので罪に問われません()