ホシノ「コマンドォ?」メイトリクス「元軍人だ」   作:ロッコス

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プロローグ終 ユウカ「義務教育で習ったのよ」

 学園都市キヴォトス。

 

 合衆国の力も及ばぬ、ヘイローという不思議なリングを頭上に浮かばせる少女たち自身で管理される独立領。連邦生徒会と名付けられた集団により行政が執り行われているのだが、その長である邦生徒会会長は現在もなお失踪状態にある。

 

 その存在は秘匿されているものの、キヴォトスは国家に準ずる存在であるが故に、時には諸外国・国際機関との対外的な交渉もしており、勿論、出入国の管理等も行政の長たる生徒会会長の名の元、独自に実施されている。

 許可なき者の立ち入りは禁じられており、不用意に立ち入ろうとすれば、その地を踏む前に存在ごと抹消されてしまうのだ。

 

 メイトリクスがキヴォトスへ侵入できたのは、偏に、今なお行政権限を保持している生徒会長より『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』付の先生に任命されたからであり、重火器を取り回し、更には戦車を鹵獲しても許されているのは、その任命に伴い、彼のキヴォトス内での行動は『先生』でいる限り、凡そ全て適法化される処理となっているのである。

 

 しかし、『適法』と『道理が通っている』かは別の問題。

 ましてや、PMC相手に非合法の取引をしているカイザーコーポレーションからしては、連邦生徒会なぞ目の仇。つまり、捉えられたメイトリクスが裁判なしに再教育施設へ輸送されるのは、ほとんど必然の結果であった。

 

 また、『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』の行動は適法化されると言ったとしても、この組織に所属していない『赤の他人の行動』の適法化は難しい。

 

 つまり、どういうことかというと。

 

 「どうにか救出を...ってあの人数は無理!ああ、どうしよう...。」

 

 満身創痍の中メイトリクスにブラックマーケットまで引きずり出され、そんな彼がドナドナされるのを目の当たりにした哀れな少女。

 早瀬ユウカ。

 

 『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』への入部を済ませておらず、メイトリクスと『他人』である彼女は、法を犯してまで『先生』を救出すべきかについて、大型のジープのハンドルを握りしめ、もだえ悩んでいたのであった。

 

◆◆◆

 シャーレ部室棟の奪還に成功してからの、この二時間。

 

 先生の『買い物』への同行に、二つ返事でOKしてしまったのが、彼女の悲劇の始まりだった。

 

 大型量販店のある繁華街から遠ざかっていくかと思えば、『近道だ』とオフロードを突如爆走し始めるし、おまけにこの車では馬力が足らないと、道中の建設現場に押し入ってトラクターを強奪する始末。

 

 先程の、先生がスーパーマーケットに強盗をしかけ、挙句駐車場の片隅で大型ジープ車内に取り残された彼女の目の前でドナドナされるというのはただ、その悲劇の結末なだけであり、彼女はもうおなかいっぱいだったのだ。

 

 したがって、

 

 「追跡するだけ追跡して、あとは連邦生徒会に...任せた方が安全よね...?」

 

 早瀬ユウカは単独でのメイトリクス救出に消極的な姿勢をとっていた。

 

 そもそも、メイトリクス単体でもあの場からの脱出はできるだろうという、彼に対する信頼もあるし、おまけに、コマンド―本編時と異なって、メイトリクスにもユウカにも急ぐ理由が存在しない。

 

 つまるところ、客観的に見てみれば、今単独で動くのはユウカの将来を悪戯に犠牲にするだけで、何の成果ももたらさない悪手にしかならないというのが共通見解だった。

 

 しかし、それはつまり。

 自分自身の都合で『先生』を見捨てるということほかならず、生真面目な性分の彼女にとっては何よりも苦痛な選択だった。

 

 そんなこともあり、彼女が苦汁を飲み下すような険しい顔をしていると、

 「そうときまったら、連絡だけでも...って何かしら?アドビス?」

 灯りを消した車内に突如、青白い光が輝いた。

 

 光の正体は車体中央。

 

 そこに鎮座するのはナビゲーションシステムの内蔵されたディスプレイ。

 

 無線通信がつながったのか、メイトリクスが捕まる直前に見ていた画面が映し出されていた。

 

 送り主はアドビス高等学校。

 その内容を確認した彼女は、とある覚悟を決めたのだった。

 

◆◆◆

 ところ変わって、護送車車内。

 

 ジョン・メイトリクスを連行するカイザーコーポレーションのロゴが印字された真っ黒の装甲車は、ブラックマーケットの大通りをゆっくり走り抜けていた。

 

 繁華街まではまだ距離があり、周囲はひっそり闇に沈んでいる。

 

 

 無機質な暗橙色の天井灯に薄ぼんやりと照らされた、車内に押し込められたメイトリクスは左手首の電子腕時計を確認し、『まずいな』と苦々しい表情を浮かべていた。

 

 現在時刻は二十一時半。

 あの通信を受け取ってから既に二時間が経とうとしていた。

 

 「連邦生徒会の七神リンという少女に連絡をとってくれ。」

 とメイトリクスは縛り付けられた身体をよじらせ、運転席と車体後方を分断する鉄格子のようなもののつけられた障壁までにじり寄ると、その壁越しに大声で話しかけた。

 

 その視線の先、金網越しに見える運転席には防弾チョッキにアサルトライフルを装備した、黒ずくめ男が二人組になって座っていた。

 また、人間の頭があるはずの場所には、無機質で異形な物体がついており、一層不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

 「メイトリクスと言えばわかる。」

 対するメイトリクスの服装はラフな半袖と茶色のチノパン。

 情人離れした筋肉と相まって、ひいき目に見ても、連邦生徒会どころか、『先生』にすら見えない風貌であった。

 

 「連邦生徒会だぁ?寝言言ってるんじゃねえよ。」

 「お前さんが連邦生徒会なら、おれは連邦生徒会会長だぜ。」

 車内に響くのは、ヘッヘッヘという下卑た笑み。

 その声は嘲るような口調であった。

 

 おそらく一種のフルフェイスであろう、異形の頭は怪しく揺れ、護送車へ誘導する際もどこか手荒で粗雑な印象を受けた。

 

 シャーレ部室棟近くで規律正しく戦闘を繰り広げていた公安部隊とは気質が違う。

 おそらく、私設兵なのだろう。

 

 メイトリクスはそう判断した。

 

 「あんたの行き先は再教育施設。」

 そんな見定めをされていることに気づかぬ二人組はなおも言葉を続けていく。

 「その筋肉ならいい戦士になるぜ。もっとも、訓練に耐えられたらだろうがな。」

 「武器は何がいい?大鉈か?」

 

 などと言いながら、ケタケタと笑い声を上げる二人組。

 

 しかし、そんなくだらない話に興じている時間は彼には持ちわせていなかった。

 

 「信じてくれ。」とメイトリクスはどうにか運転席と荷台の間に取り付けられた金網につかみかかり、口を開く。

 

 「俺は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの所属だ。」

 「『S.C.H.A.L.E』?キヴォトス外から来たって信じろとでも?」

 「食堂の婆ちゃんの冗談のがまだ笑えるぜ。」

 と一笑い。

 

 

 「悪いようにはしない。開放してくれ。」

 「...何やらうるさい、あんちゃんだな。」

 と助手席に座った男は、荷台の方へ一発銃弾を浴びせると、そのまま振り向き、金網越しにメイトリクスの顔を睨みつけ、口を開いた。

 

 「ちったぁ静かにしててくれや。おれたちゃこれから残業で、大尉殿の指示に従い、『大佐』とやらをみつけなあかんのだ。」

 

 偉ぶった声色に、強気の態度。

 短気すぎる性格に、メイトリクスを威圧するような言い回し。

 

 一見すると、荒っぽい兵士。

 が、メイトリクスは、違和感を覚えていた。

 

 彼の視線はどこか虚ろげで、なぜだか、『大尉』という言葉が震えていた。

 

 脅されてる、その大尉に?

 というか、少女だらけのこの世界に『大尉』という階級が存在するのか?

 もしかして、

 

 「その大尉というのは――」

 

 そう、壁越しに質問を試みるメイトリクス。

 しかし、その先を続けることはできなかった。

 

 突如、外部から爆発したかのような衝撃。

 それが四発も、護送車全体に襲い掛かったからなのだ。

 

◆◆◆

 一発二発、三発、四発と打ち出されたロケット弾が地面をえぐりながら、爆発する。

 

 電柱はなぎ倒され、道路脇にある消火栓からは水が吹き出す。

 その濡れた路面の上に、護送車は爆発の衝撃で四度も叩きつけられ、フレームはぐしゃぐしゃ、エンジンは爆発寸前。

 付近には三つの影が転がっていた。

 

 くぐもった声を上げる、運転手、護衛官。

 そして、片膝で立つメイトリクスの三人である。

 

 「ご無事ですか?先生。」

 警戒を続ける彼の元に、一台のジープが横づけする。

 その言葉に反応するより先に、彼は助手席側の扉をこじ開け、滑り込むように入車した。

 

 「...どこで使い方を習った?」

 「そんなことよりも、時間がありません。」

 そんな、飛び込むように入ってきたメイトリクスに驚く様子も見せず、ユウカは一枚の紙を差し出すと、そのまま正面を向いたまま口を開いた。

 

 「『先生』が気にかけてたアドビス生徒...彼女を誘拐したのは武装ゲリラだったようです。」

 

 メイトリクスはその言葉を聞きながら、彼女から手渡された、書類に目を通していく。

 

 それは連邦捜査部S.C.H.A.L.E入部届。

 七神リンがグローブボックスに入れていたのだろう申請書には、『早瀬ユウカ』の名前が丸っこい文字で記されていた。

 

 その横には、顧問教師署名欄。

 ここにサインをしろと言うことか?

 

 

 「私も、覚悟を決めました。」

 ドリンクホルダーに指してあったペンをとり、署名を進めるメイトリクス。

 助手席に座る彼へ宣言するように、ユウカはアクセルを踏みしめると、こう続けたのだった。

 

 「行きましょう、アドビス砂漠へ。ともに彼女を救いましょう。」

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