エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい   作:こびとのまち

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占いメイド喫茶へようこそ

 時が経つのはあっという間。非日常的なイベントごとがあるときは特に。そんなわけで、あれこれと準備を進めているうちに文化祭の日がやってきた。

 

 初日の今日、ボクは教室で接客を担うことになっている。つまり、クラスの出し物である『占いメイド喫茶』でメイドに扮するということ。改めてそれを認識すると、少し緊張でソワソワする。

 

「あ、やっぱり今日は普通のメイド服なのね……」

「ねぇ、なんで微妙に残念そうなの!? 大体、あんな露出度の高い服を着て接客なんてしたら、確実に生徒指導室送りになるでしょ!」

「それは、たしかにその通りね」

 

 わざわざツッコミを入れなくても気づいてほしい。ボクは問題児になるつもりはないのだ。

 

「……そういえば、なんでお姉ちゃんは最初から無難なメイド服を渡されていたのさ? ボクたち双子なんだから、それってなんかおかしくない?」

「わたしはほら、侑咲と違って露出度の高い服があんまり似合わないから」

「瓜二つな双子なのに!?」

 

 う〜ん、イマイチ納得いかないけど、今更気にしたって仕方がないか。

 

「オオカミ、その『似合わない』はあたしみたいな奴にだけ許されたセリフだ。そもそもあたしはおまえらと違って、メイド服なんて着るガラじゃないし」

「ボクだってそんなガラじゃないけどね?」

「いや、ウサギ以上にメイド服が似合う奴なんていないと思うぞ。だからもっと自信を持て」

「それは過言がすぎるでしょ!?」

 

 こんなことを言っているけれど、姉も蒼も見事なまでにメイド服を着こなしている。タイプがだいぶ異なるとはいえ、二人とも人並外れた美少女だもんなぁ。さすが百合ゲー主人公とヒロイン。

 

 ちなみに接客担当の他には、占い担当と調理担当が存在している。料理ならそこそこ自信があるからボクはそっちに立候補したのに、何故か接客担当になっていたのは今だに解けない謎である。

 

 『占いメイド喫茶』の主な占い要素は、飲食後にメニューの中から好きな占いを選んで体験できるというものだ。ここは分離しておかないと、接客担当の仕事が膨らみすぎちゃうからね。あとは、教室の飾り付けやメニューのデザインなんかも、占いの館というコンセプトを意識したものになっている。

 

「千野さんは占い担当なんだよね。イメージ通り」

 

 教室の反対側で水晶玉を抱えているヒロインの姿が目に入り、ボクはポツリとそう呟く。

 

「あれ? 侑咲ってあの子と仲良かったっけ?」

「ううん、そういうわけじゃないけど……」

 

 クラスの出し物が決まったあのときは、占いというワードに相当ビビってしまったものの……今はそこまで深刻には捉えていない。だって、よくよく考えてみたら、原作で千野さんがアプローチを仕掛けてきたのは二年生に進級した後だったからね。

 

 それに、この半年間ボクが見てきた限りでは、彼女はまだ姉のことを意識していない感じだし。

 

 あの長い前髪の所為で表情が半分隠れているから分かりづらいけど、主人公に惚れた状態の彼女の姿をボクは原作でたっぷりと目撃している。だから、大路先輩みたいな演技派が相手でもない限り、姉に惚れているか否かの判別くらいはできちゃうというわけ。えっへん、凄いでしょ!

 

 もちろん油断せず、姉と千野さんの接触には十分警戒するつもりだよ? ただ、あまり過剰に気にする必要はないのかもしれないなって。

 

 

 

 

「ウサギちゃん、会いに来たよ! さあ、ご主人様であるワタシを存分にもてなしておくれ!」

 

 占いメイド喫茶の開店から約一時間後、すっかり聞き慣れた先輩の声が教室に響く。彼女は空いている席へ座ると、ボクに向かって手招きを始めた。

 

「……うちは指名制じゃないっての! ふふっ、わたしが代わりにもてなしてあげようかしら」

「オオカミ、それはもてなそうとしている奴の顔じゃないぞ? メイドを装った殺し屋かよ」

 

 そうだそうだ、ボクが警戒しなくちゃいけない相手は千野さんひとりじゃないんだった。

 

 このところ毎日のように演劇部の部室で顔を合わせていたから、正直もう今更感が拭えないけど……姉と先輩の接触は本来なるべく避けるべきなのだ。

 

 そんなわけで、ボクは急いで姉を止める。

 

「待って待って、ちょうど手が空いたからボクが行くよ! 先輩には最近お世話になっているし」

 

 そうボクが口にした途端、蒼の顔が僅かに歪む。

 

「ウサギ、おまえまたそうやって……」

「ん? どうしたの蒼、何かマズかった?」

「……いや、なんでもない。たぶんあたしの考えすぎだ、気にしないでくれ」

 

 んんん? よく分からないや。ま、蒼がなんでもないと言うのならスルーしても良いのだろう。

 

「あの……先輩、おはようございますっ」

 

 普段関わりのない生徒や外部からのお客さんが相手であれば割り切って接客することもできるのだが、知り合い相手だとそうもいかない。ボクは羞恥を堪えながら、先輩の手招きに応える。

 

「ノンノン、先輩じゃなくて()()()()だろう? キミは今、ボクのメイドなのだから」

「うぐっ、間違えました……。って、べつに先輩のメイドではないですけどね?」

「そこはほら、ロールプレイということで」

 

 そう言われると反論ができない。たしかにメイド喫茶って、それを楽しむ空間だもんね。

 

「しかし、ワタシの想像以上にメイド服が似合っているね。キミのことを見つけたとき、見惚れて自然と固まってしまったよ。本当に素敵だ……」

「えっと、その、ありがとうございます?」

「あはは、なんで疑問系なのさ。面白い子だね」

 

 むむむ、王子様系ヒロインにまさかの『面白い女』認定をされてしまった。いや、文字通り面白かっただけなんだろうけど。

 

「ほらほら、いつまでもダベってないで早く注文を取りなよ。先輩も、うちのメイドを安易に口説かないでくれ。そろそろ混み始めそうなんだ」

 

 大路先輩にひたすら翻弄され続けている駄メイドのボクを見かねたのか、蒼が近寄ってきて卓上にあるメニューをポンポンと叩く。

 

「おっと、これは失礼。キミはたしか蒼ちゃんだったよね。こうやって話すのは先月ぶりかな?」

「だな。正直あんたには言いたいことがいろいろとあるんだが、とりあえず今はひとつだけ。──うちのウサギが笑顔で文化祭を終えられるよう、明日は()()()()()よろしく頼むぜ?」

「あはは、それなら心配ご無用だよ。きっと()()()()()()()()()()()になると思うから」

「ほうほう、一生忘れられない思い出、ねぇ?」

 

 満面の笑みを浮かべたまま言葉を交わす二人。惚れ惚れするほど見事なスマイルなのに、まったく楽しげに見えないのは何故なんだろう?

 

「それはそうと、キミもメイド服姿なんだね」

「まあな。へへっ、ちっとも似合ってないだろ?」

「いやいや、そんなことはないさ。敢えて言うなら、タキシードの方が映えるタイプな気はするけどね。衣装係に提案していれば、案外あっさりと執事の格好も採用されたかもしれないよ?」

「あたしもそれは一瞬考えたんだが、タキシードなんて選択肢を用意したらウサギまでそっちを選びそうだろ? こいつ、恥ずかしがり屋だから」

「なるほど、それはたしかに少し困るね」

 

 いいじゃん、タキシード! なんで困るの!?

 

「あぁそうだ、せっかくだからあそこにいるオオカミちゃんにも挨拶を──」

「ちょっ!? せ、先輩……ッ」

 

 ボクは慌てて大路先輩の視界を遮る。

 

 彼女がここへやって来た真の目的、それは恐らくボクの姉との親交を深めることだろう。俗に言う文化祭マジックとやらで、バッドエンドのフラグが立ったら最悪だ。ここはボクが頑張らねば。

 

「ボク、先輩にお願いしましたよね? 他の子の姿はなるべく見ないでって」

 

 そんな言葉が咄嗟に口から飛び出したものの、よくよく考えてみると微妙にセリフを間違えた気がしないでもない。う〜んと、正しくは「邪な目で見ちゃだめですよ」って言ったんだっけ? さっきの言い方だと、嫉妬深い恋人のセリフみたいになっちゃうもんな。

 

「……あは、あはは! そういえばそうだったね。ごめんよ、ウサギちゃん」

 

 ま、狙い通り先輩の気は逸らせたみたいだし、わざわざ訂正しなくてもいいよね?

 

 姉を守り抜くことに必死だったこのときのボクは、すぐ隣にいる幼馴染が浮かべていた表情に気づいてすらいなかった。

 





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