エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
午後になりシフトの時間を終えたボクは、姉と蒼の二人に手を引かれながら文化祭特有の熱気で満ちた校内を散策していた。
「ねぇねぇ、次はあれ食べようよ! あれ!」
「ちょっ、おまえどんだけ食うつもりだよ!?」
「侑咲……。貴女の胃袋はそんなに大きくないんだから、食べ過ぎると後々大変よ?」
「うっ、たしかに。そういえば、去年行ったバイキングでも一度地獄を経験したっけ……」
姉の言葉で、ボクの脳裏に苦い記憶が蘇る。うん、あれはなかなかにしんどかった。
「でしょ? ということで、そろそろ飲食系は切り上げて他の出し物もまわってない?」
「うぅうう、分かった。焼きそばとポップコーンとみたらし団子はとりあえず諦める……」
「馬鹿みたいな食い合わせだな!? 諦めろ諦めろ」
ほら、お祭りとかでズラリと並んでいる出店を見かけたら、片っ端から食べてみたくなっちゃうじゃん? そんなノリであれもこれもと手を出していたら、遂に二人から止められてしまった。しくしく。
「……それで、今度は何処に行くの?」
「そうね、C組のお化け屋敷なんてどうかしら?」
「あたしはいいと思うぜ、文化祭の定番だしな」
「おばっ、おばおばおばけやしきぃ!?」
お化け屋敷というワードを聞いた瞬間、ほんの僅かに身体が震え出す。そう、
「いや、
そ、そんなに震えてないもんっ!
「侑咲ってば、もしかしてお化けが──」
「怖くない! ボクはちっともビビってないから!」
まったく、変な言いがかりはやめてほしい。こう見えてもボクは前世の記憶を持つ転生者、謂わば最年長者なのだ。しかも、以前の性別は男だからね。学生の作ったお化け屋敷如きにビビるなんてことは、天地がひっくり返ってもあり得ないわけ。
「あああ安心して、ボクが必ず二人をお化けから守るから……! 何があっても大丈夫だよ!」
「いや、一番ビビっている奴に震えながらそんなことを言われてもなぁ……」
だからビビってないってばぁ!?
「ってか、あたしは割とこういうの平気だぜ?」
「わたしも。作り物だって分かっているから、特に怖さは感じないわね」
いやいやいや、だったらどうしてお化け屋敷なんかに入ろうとしているのさ!?
「どうしてって……そりゃあ、お化けに怯えるウサギの姿を見たいからさ」
「ふふふ、怖くなったらいつでも姉ちゃんにしがみついていいからね? 遠慮は要らないわ」
ねぇ、もしかしてなんだけど、この三人の中で一番の怖がりはボクってオチだったり……?
「おう、そうだぞ。今頃気づいたのかよ」
「昔から侑咲は怖いのが苦手だものね。そういうところ、ほんと可愛い」
ううぅうう、二人とも意地悪だ〜〜!!!!
──なんてやりとりが直前にありつつも、結局ボクたちはお化け屋敷へ足を踏み入れることとなった。
恐怖を必死に押し殺しながら、決められたルートに沿って暗闇の中を進むボク。その右手は百合ゲー主人公の姉が、左手は百合ゲーヒロインの蒼がギュッと掴んでいる。ボクたちの関係性を知らない人がこの状況を見たら、両手に花という印象を抱くのかな?
「……いや、どっちかというと両親に手を引かれる幼子の図なんだろうなぁ。ぐすん」
「へ? 何言ってんだ、急に。ビビりすぎて、いよいよおかしくなっちまったか?」
「ひっどい!? も〜、全然違うから!」
蒼にそう言い返した直後──ひんやりとした
「ふひゃあ!?」
……我ながら、恥ずかしい声を漏らしてしまった。いやでも、これは不可抗力でしょ。
「か、可愛すぎる〜〜! お願い、もう一度お姉ちゃんに今の悲鳴を聞かせほしいな?」
まさかのアンコール!? 意味わかんないよっ!
「なるほど、コンニャクか。ははっ、こんな古典的な仕掛けであそこまで最高のリアクションができる奴なんて、今どきウサギくらいだろ。あたしはおまえのそういうところも大好きだぜ」
ありがとうね、全然嬉しくない告白だけどっ!
というか、今のコンニャクだったんだ……。
二人がお化け屋敷泣かせの客なだけで、普通はびっくりすると思うけどなぁ。結局、こういうシンプルなのが一番インパクトあるんだから。
けどまあ、種が分かれば震えもある程度は収まるというもの。気を取り直して先へ進もうとしたボクの右耳に、今度はフッと生温い風が吹き付けられる。
「ふにゃあ! って、今のは絶対お姉ちゃんの仕業だよね!? また変な声出ちゃったじゃん……」
「うふふ。ごめんね、つい」
「むぅうう……ひゃん!? ちょっ、蒼もどさくさに紛れて横腹を突っつかないで!」
両隣からの攻撃にボクは堪らず悲鳴を上げる。
「おいウサギ、あまり変な声ばっか出すなよ。思わずムラっときちまっただろ」
「どう考えても二人の所為なんだけどね!? ……ん? 今ムラっとって言わなかった!?」
「いや? おまえの聞き間違いだろ。にししし」
そんなくだらない応酬をその場でいつまでも続けていると、後ろからポンポンと肩を叩かれる。も〜、今度は何さ!?
「あの〜、ここはお化け屋敷なので……。イチャつきたいなら他所でやってくれません?」
うぐっ、ご、ごめんなさい。いや、でもべつにイチャついていたわけでは……なんでもないです本当にごめんなさい!
頰をひくつかせたスタッフの生徒に叱られて、ボクたちはようやく落ち着きを取り戻した。お姉ちゃんと蒼は少し反省してね?
♢
なんだかんだでエンジョイした文化祭初日も幕引きの時間となり、各々が後片付けに取り掛かり始める。
姉は家庭科室に移動し食器類の洗浄、蒼は焼却炉へゴミ出しに、そしてボクは教室で床の掃き掃除。クラスメイド全員で仕事を分担して一気に片付いていくこの時間が、ボクはそれほど嫌いじゃない。なんだか気分がスッキリするからね。
箒片手にそんなことを思いながら、半歩後ろへ下がった直後──背中に軽い衝撃を受ける。驚いてボクが振り返ると、手のひらサイズの水晶玉が床にコロコロと転がっていた。
「あわわっ、ごめんね
「へ、平気、なの! うちも、よそ見してたし、お互いさま。それよりも、水晶玉……」
澄み切ったヒロインボイスでたどたどしくも返事する千野さん。彼女の言葉に釣られたボクは、足下まで転がってきたそれを慌てて拾い上げる。
「……ふぅ、良かったぁ。水晶玉もなんとか無事っぽい。これ、千野さんの私物なんだっけ?」
「うん、そうなの……」
割れ目や欠けている箇所などがないことを確認してホッと胸を撫で下ろしつつ、その水晶玉を改めてじっくり眺めてみる。
小ぶりながら、まったく濁りのない透明なガラスの球体。これがちゃんとした水晶玉なら、けして安くはなさそうだけど……どうして千野さんがこんなもの自前で持っているのだろうか。
ただ単に占いが趣味なだけ? それとも、まさかもう既に原作の彼女と同じ道を辿り始めている? もし後者なのであれば、相当なピンチである。
「千野さん、これって──」
「ねぇ、もっとよく見て。すごく、綺麗、でしょ?」
「えっと……あ、うん」
偶然にも重なった千野さんの細切れな言葉に質問を遮られる。若干気まずく感じたボクは、肯首するより他になかった。実際、これが綺麗だと感じたのは確かだからね。
よ〜く見ると、ただ単に透明なだけではなく、うっすらと紫がかっているのがこの水晶玉の特徴か。その紫がまたなんとも言えない絶妙な色合いをしていて本当に美しい。神秘的だ。
ボクは次第に見入っていく。
「それ、うちの瞳と同じ色、なの。……ほら、今度はこっち、見て?」
そんな囁きに導かれ、ボクは深く考える間もなく顔を上げる。視界に映り込んだのは、つい先ほどまで前髪で隠れていた彼女のつぶらな瞳だった。
「わぁ、本当だ、綺麗な色……」
それに、とっても可愛らしい美少女顔。さすがは百合ゲーのヒロインといったところか。普段隠してしまっているのが本当に勿体ない。まあ、ギャップという意味では強い武器になるのかもしれないが。
なんとなく彼女から目を逸らせずにいると、その瞳の奥へ吸い込まれてしまいそうな錯覚に襲われる。浮遊感にも似た妙な感覚。そう、まるで現実と夢の境目に彷徨っているような──
「侑咲ちゃん、あの、その、大丈夫……?」
彼女のそんな一声で、ボクは正気を取り戻す。どうやらほんの一瞬、意識が飛んでいたらしい。
う〜ん……文化祭初日だからってはしゃぎすぎて、体感以上に疲れが溜まっているのかも。明日は劇にも出演するんだし、しっかり休んで体力と気力を回復しておかなきゃなぁ。よし、今晩は早めに寝よっと。
「大丈夫、ちょっとぼんやりしちゃっただけ。心配してくれてありがとうね、
「……うん! それなら、良かった。本当に」
そう言ってニッコリと微笑むトリちゃん。