エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい   作:こびとのまち

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白雪姫の眠りを覚ますのは

 二日間に渡る籠ノ宮高校の文化祭。その終わりが次第に近づいてくる中、昼下がりの体育館へ大勢の生徒が詰め掛けていた。

 

 あたしはといえば、そんな大勢の内のひとりとして最前列に陣取り開演を待っている。

 

 そう、今日は文化祭二日目。ウサギが演劇部の公演にゲストとして出演する日だ。

 

 ちなみに、今のあたしの格好はタキシードを着た執事である。誤解しないでほしいのだが、こんなものべつに着たくて着ているわけではない。昨日あたしと先輩が交わしていたやりとりを聞いていたクラスメイトのひとりが、悪ノリして持ってきたのだ。

 

 しかも、このタキシードが思いのほかあたしに似合いすぎてしまった。おかげで脱ぐことすら許されず、クラスメイトの圧に負けたあたしはこの格好のまま半日過ごしているというわけ。

 

 くっ、周りから突き刺さる視線が痛いぜ。

 

 せめて隣に知り合いがいればマシだったんだが……オオカミは緊張でガチガチになった妹を支えるため、舞台裏へとついて行ってしまった。

 

 本心を言えば、あたしだってあいつらについて行きたかったさ。けど、練習にすら付き添えなかったあたしは演劇部からすれば完全に部外者だからな。さすがにそこへ混ざるのは気が引けた。

 

 その代わり、最前列のベストポジションで幼馴染の勇姿をしっかりと見届ける所存である。

 

 

 

 などと考えている内に、体育館の照明が落ちて暗くなる。そして、ナレーションによる導入の後、舞台上がスポットライトで照らされた。

 

「ああ、鏡よ鏡。この世で最も美しいのは誰かしら。どうかわたくしに教えておくれ」

 

 ……ほほう。正直なところ、たかが学生の芝居だからと舐めていた部分もあったのだが、想像以上に雰囲気がガチだ。

 

 ウサギの奴、この中に混ざって本当に大丈夫なんだろうか。あいつのメンタルがとっても心配だ。そうは言っても、信じて見守るしかないのだが。

 

「女王様、貴女はたしかにとてもお美しい。けれど、ウサギちゃ……コホン、白雪姫はその何千倍も美しく愛らしいのです」

 

 ……ん? 今さ、「ウサギちゃん」って言いかけなかったか? 聞き間違い、ではないよな?

 

「なんですって!? ……それ、同感だわ〜! ウサギちゃん本当に可愛いものね!」

 

 おい待て、女王!!!!

 

 早々にストーリーとキャラが崩壊し始めてんぞ!? それはちょっとマズいんじゃないか?

 

 あたしは我慢できず周囲を見渡してみるが、観客も皆うんうんと肯首するばかりである。

 

 えぇええええ……。

 

「女王様、お待ちください。ウサギちゃんではなく()()()ですよ、()()()!」

「おっと……そうね、そうだったわね。わたくしったら、ついうっかり。おほほほほ」

 

 観客から今度は笑いが巻き起こるが、魔法の鏡が真っ先にツッコむべきポイントは絶対そこじゃないと思うんだよなぁ。

 

 ま、要するに、二日目の公演はこういう緩〜い感じなんだろう。なるほど、これならゲストのひとりやふたり加えても大丈夫……か?

 

 

 

 その後、なんとか軌道修正し、とうとうウサギの出番がやって来る。ひゃ〜、舞台に上がっていないあたしまで緊張しちまうぜ。

 

「狩人さん、今日はとっても良いお天気ね」

 

 舞台は森の中。女王から白雪姫を殺すよう命じられた狩人に連れて行かれるシーンである。ウサギ扮する白雪姫が初めてセリフを口にした。

 

 懸念していた素人臭さはほとんど感じない。オオカミから聞いた話によると、放課後も帰宅後もかなり真面目に練習していたらしいからな。その成果がちゃんと発揮されているのだろう。

 

 そう考えると、あたしの心配は余計……というか、失礼なものでしかなかったのかもな。観客もウサギの演技に目をキラキラとさせているし。

 

 やっぱり凄い奴だよ、あたしの幼馴染は。

 

 ドレスだって、本物のお姫様みたいにばっちり着こなしている。その出来栄えから察するに、演劇部の衣装係がめちゃくちゃ気合を入れて作り込んだんだろうなぁ。これにはあたしも素直に感服するしかない。

 

「ところで、こんな森の奥に()()んの用事が……」

 

 ……あ、やっぱり緊張はしていたんだな。

 

 本人もセリフを噛んだ自覚があるのだろう。観客に悟られないようなんとか平静を装ってはいるが、僅かばかり頬が赤らんでいる。

 

 そんないつも通りのウサギを見て、あたしは逆に安心してしまった。……頑張れ、ウサギ!

 

 

 

 それからもちょくちょくウサギは噛んでいたし、演劇部員たちのアドリブも割と暴走しがちではあったものの、観客の反応はここまでずっと上々である。いろいろと複雑な思いがあったあたしでさえ、いつの間にか普通に楽しんでいたくらいだからな。

 

 そして、物語はクライマックスへと突入する。

 

「おぉ、なんと美しい……! 小人諸君、彼女は本当に死んでしまっているのかい?」

 

 呪われた毒リンゴを食べて深い眠りに落ちてしまった白雪姫と、そこに偶然通りがかった隣国の王子が対面する山場中の山場。つまり、ウサギをこの劇に招いた張本人である大路先輩が演じる王子の出番だ。

 

 先輩が一言セリフを発する度に、観客の一部から小さな歓声が上がる。恐らくは、彼女の熱烈なファン(ガチ恋勢)によるものだろう。立ったまま気絶している奴も何人かいるみたいだし。女誑しのサキュバスが本気を出すとこうなるのか。なかなかに恐ろしいな……。

 

「残念だけど、本当だよ。姫様はこの毒リンゴを口にして倒れてしまったんだ」

「くっ、そうか。可哀想な白雪姫、せめて安らかに眠っておくれ……」

 

 王子は哀愁たっぷりにそう呟くと、横たわる白雪姫の口元へゆっくりと顔を近づけていく。

 

 

 やめてくれ、やめてくれよ。

 

 

 ……大丈夫さ、分かっている。こんなのはただの芝居だ。たくさんの生徒が注目しているこの状況で、実際に唇を重ねるわけがない。

 

 それに、ウサギから聞いた話だと、先輩本人も口付けのシーンは振りで済ませると約束していたらしいからな。うん、何も心配することはない。

 

 

 ……本当に?

 

 

 なぁ、本当にあり得ないなんて言い切れるか? 言い切っていいのか? 万が一が起きてからでは手遅れなんだぞ? 物分かりがいい振りしたんじゃねぇ!

 

 俯いている暇があるんなら、その目をかっぽじってよく見ろよ、あたし!!!!

 

 

 白雪姫──ウサギの口元へと近づいていく先輩に目を向けた瞬間、あたしはそれを確信した。

 

 この女、あたしたち観客に()()()()()形で、ウサギの唇を奪うつもりだ。

 

「……ははっ、大嘘吐きじゃねぇかよ、先輩」

 

 何を根拠にそう思ったのか、断言するだけの証拠はちゃんとあるのかって?

 

 あるわけないだろ、そんなもん。所詮は女の勘に過ぎない。それでも尚、間違いないと断言するだけの自信がある。

 

 だってほら、舞台上の先輩がこんなにも……()()()をしているのだから。その顔は()()()()()が浮かべていい類のものじゃないはずだ。ましてや、あんたは演劇部の部長さんだろ?

 

 だから、あたしは()()ことにした。

 

 これがもし全てあたしの勘違いだったら……?

 ふんっ、そのときはあたしが全力で頭を下げるだけさ。あたしはかつてウサギに救われた女である。その程度のことで臆するものか。

 

 さあ叫べ、何もかもが手遅れになる前に。

 

 

「おい、待てよ! 白雪姫の唇はあんたには奪わせねぇ!!」

 

 

 声を張り上げ、躊躇なく舞台上へと駆け上がる。

 

「なっ!? キミは一体何を──」

 

 ほんの一瞬、先輩の顔に焦りらしき色が見えた。が、すぐに表情を引き締めて、王子役としての振る舞いに戻る。

 

 ふと舞台袖に目を向けると、オオカミが複数人の演劇部員によって取り押さえられていた。

 

 あたし以上に勘が鋭いオオカミのことだ。どうせあたしと同じことを考え、舞台上へ飛び出そうとしたに違いない。だが、舞台裏には演劇部員たちがいる。その突破は決して容易なことではない。実際、彼女はこうやって取り押さえられているわけで。

 

 オオカミがあたしに鋭い視線を送る。言葉を交わさずとも言いたいことは理解できた。

 

 あぁ、任せておけ。お前の大事な妹は、あたしがなんとしても守り抜く!

 

 あたしは小さく咳をして、先輩を睨みつける。

 

「なぁ、そこの王子様。あんた今、白雪姫に()()()手を出そうとしていただろ?」

「……あははは! それはキミには関係のないことさ。大体、王子であるワタシと白雪姫の間に割り込むなんて、無粋だとは思わないかい?」

「へっ、割り込んできた無粋者はあんただろうが」

 

 芝居と本音が入り混じったセリフの応戦を続けながら、あたしは先輩との距離を詰める。そして、先輩にしか届かない程度の声量でこう囁いた。

 

「今日の劇はたしか、演劇部員以外もゲストとして舞台に上がれるんだろ? だったら、あたしが飛び入り参加してもべつに問題ないよな?」

 

 先輩もすぐに小声で囁き返してくる。

 

「いやいや、問題大アリだよ。まったく、キミは困った子だね。演劇部の公演とワタシの作戦をめちゃくちゃにした責任、どう取るつもりなんだい?」

「安心しろよ、先輩。劇はあたしがちゃんと盛り上げてやる。それこそ、一生忘れられない思い出になるくらいにな」

 

 というか、すでにかなりの盛り上がりを見せ始めている。どうやら観客の大半が、この展開を仕込みのひとつだと解釈したらしい。

 

 きっと、演劇部員たちがアドリブやアレンジを繰り広げてきた影響だろう。ついでに、あたしが偶然タキシードを着ていることも後押しになっている可能性がある。

 

 何にせよ好都合だ。あたしはさりげなくウサギの側に移動しながら、再び声を張り上げる。

 

「あたしはウサ……白雪姫の幼馴染だ。そしてこいつは、あたしの命の恩人でもあるからよ。何処の馬の骨とも知らないぽっと出の王子様に渡すわけにはいかないねぇんだ。だから──」

「……っ!? ま、待つんだ! 白雪姫を眠りを覚ますのは王子であるワタシの役目で──」

 

 先輩があたしのやろうとしていることを察して悲鳴にも似た声を上げるが、もう遅い。

 

「心配するな、あんたの代わりにあたしが白雪姫の目を覚まさせてやるさ!」

 

 あたしは奪い取るように()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「な、ななななななななななななななななななななな!?!?」

 

 

 設定上の都合により身動きひとつ取れず、目を閉じて眠っている振りをしていた白雪姫──ウサギの目がこれでもかと見開かれる。

 

 きっと彼女の頭の中は、数分前から混乱しっぱなしだったのだろう。そりゃそうだ。視界が閉ざされている中で、あたしと先輩の言い争っている声だけが聞こえていたのだから。

 

 その挙げ句にいきなり唇まで奪われて、平静を保てるはずがない。

 

 だが、もう少しだけ辛抱してくれ。

 

「へへっ、やっと目を覚ましたか。それじゃ、さっさとこの場から逃げ出そうぜ!」

「はぇええええ!? ……ぬわぁあっ」

 

 あたしは両腕でひょいとウサギを抱きかかえ、舞台上から飛び降りる。そして、悲鳴と歓声が入り混じる観客の群れを潜り抜けて外へ出た。

 

「さて、あたしに聞きたいことや言いたいことはいろいろとあるだろうが……とりあえず、()()()()()()()()()()()にはなっただろ?」

「うぅうう、バカなこと言っている暇があったら早くボクを下ろしてよ〜〜!!」

 

 真っ赤な顔であたしの腕をぺしぺしと叩く幼馴染。非力すぎてちっとも痛くない。それがなんだか無性に可笑しくて、あたしは思いっきり吹き出した。

 





文化祭編、これにて終幕。
再開まで今しばらくお待ちください。


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