エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
文化祭翌日の昼休み、いつもの日常が戻ってきた教室で蒼が小さく溜め息をつく。
「なぁオオカミ、いつまで拗ねているつもりだ?」
「ふ〜んだ、この裏切り者!」
「いや、おまえ、そんなガキみたいな……」
──ボクは昨日、演劇部の公演にゲストとして出演した。案の定ガッチガチに緊張したものの、たくさん練習した甲斐あってそこそこ上手くやれていたんじゃないだろうかと思う。
そして迎えたクライマックス。何故か幼馴染に唇を奪われ、そのまま舞台から連れ攫われるという急展開が待っていたんだよね……。
姉の機嫌が妙に悪くなった、というか、拗ねている最中の子どもみたいな態度を取るようになってしまったのはそれからだ。
「昨日のあれは……ほら、あの場ではああするしかないと思ったんだよ。分かるだろ?」
「だからって、キスまでする必要はなかったでしょうに。そんな言い訳は聞きたくないわ」
……浮気の現場を目撃した妻と夫の会話かな?
姉がこうして拗ねている原因を、ボクはなんとなく理解している。要するに、
姉と蒼は口喧嘩ばかりしていて犬猿の仲にも見えるけど、実際はとても仲良しさんだからね。さすがに色恋の域ではないにせよ、一番の親友兼幼馴染として思うところがあったのだろう。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん。あれは事故みたいなものだから、気にしなくていいと思うよ?」
いつまでもこんな微妙な空気では困るので、思い切って助け舟を出してみる。
「なぁっ!? ウサギはそういう認識なのか……」
すると今度は、蒼ががっかりした表情で肩を落としてしまった。あ、ありゃ……?
「ふふふ、そうよね、あれは事故。それならギリギリ許せなくもないわ。だって、
「うぐぐぐぐ、急にイキイキしやがってぇ……」
蒼が意気消沈している理由についてはよく分からない。が、とりあえず姉の機嫌は直ったらしい。ボクはそっと胸を撫で下ろす。
「それに……昨晩
「ちょっ!?」
不意を突くようにして発せられた姉の一言に、今度はボクの肩がビクリと跳ね上がった。
「……ん? ウワガキ? それってどういう──」
「ななななんでもないよ! 蒼には関係ない話!」
「そうね、なんでもないわ。うふふふ」
さすがに
昨晩何があったのか、ここで詳しく語るつもりはないけれど……これだけは心の中で叫ばせてほしい。
ボクの唇、最近奪われすぎじゃない!?
──こほん、話題を切り替えよう。
「そんなことより、本当に先輩たちのところへ謝りに行かなくて大丈夫だったのかなぁ。大事な劇をぶち壊しちゃったと思うんだけど……」
「先輩にはわたしから
いや、でもなぁ……。
「あたしもウサギが謝る必要はないと思うぜ。そもそもの原因は向こうの部長さんにあるんだからな。他の部員に謝るとしても、あたしひとりで十分だ」
……ちょっと待って、
あ〜、もしかして、あの展開は演劇部の部長である先輩が仕組んだサプライズだったってこと?
たしかに、割となんでもありな劇だったし、ゲストをボクひとりに限定する理由もない。実際かなり盛り上がっていたので、サプライズであれば大成功だ。
うん、それならいろいろと納得がいく。唇が触れたのも、やっぱりただの
「なんにせよ、衣装の返却には行かなきゃだね。挨拶は……そのタイミングですればいっか」
「そうね、そのときはわたしもついて行くわ」
「あたしももちろんついて行くぜ」
ちなみに、ボクと蒼の唇が直に触れた瞬間は、観客には目撃されずに済んだ。どうやら偶然にも、蒼の背中が壁になっていたらしい。故に、目撃者は舞台側にいた姉と先輩、それと一部の演劇部員たちだけ。
これぞまさしく不幸中の幸い。きっとボクの日頃の行いが良いからに違いないね。
♢
「しっかし、文化祭の二週間後に今度は中間考査だもんな。なかなかのハードスケジュールだぜ」
「ほんとよね。昨日と一昨日の二日間ですっかり燃え尽きている子もいるでしょうに」
「ちゅ、中間考査……。ぬぅうう、まだもう暫くは思い出したくなかったなぁ」
文化祭の余韻を吹き飛ばすような嫌な話題に、ボクは思わず顔を顰める。
「あはは、すっごく嫌そうな顔。ウサギって真面目な生徒の割に、成績は微妙だもんな」
「そういう蒼はいつも赤点スレスレじゃんか!」
「うぐぅ!? しまった、この話題は完全に藪蛇なのを忘れていたぜ……」
ボクと蒼は揃って項垂れた。
そう、転生したからといって、都合良くテストで無双できたりはしないのだ。だって、前世の記憶が残っているだけで、学力が向上したわけではないからね。
そもそも過去に勉強した内容なんて、頭からすっかり抜け落ちちゃっているし。前世も今世も、ボクの頭脳は至って平凡だ。現実は厳しい……!
「侑咲は授業中にぼーっとする癖さえ直したら、間違いなく成績が上がると思うのよねぇ」
むむむ、なんとも耳が痛い話である。事実、同じ環境で育ってきた双子の姉がそこそこ上位の成績を維持しているもんなぁ。でもね、それが簡単に直せたら苦労はないんだよ、お姉ちゃん。
ボクは姉の視線に気づいていない振りをしながら、再び蒼へ話を振る。
「ねぇ、部活の休止期間って明日からだっけ?」
「えっと……そうだな、たしかそのはず」
「ふむふむ、りょーかいっと。それじゃ、明日の放課後うちに集合ね!」
ボクたち三人は、テスト前の時期になるとどちらかの家に集まって勉強会を開くのが恒例となっている。勉強会と言いながら、結局は集中が切れて遊んでしまうことも多いんだけどね。それでも、ひとりで勉強机に向き合うよりかは幾分か捗るのだ。
「あぁ、いつものやつな。いいぜ、やろうやろう」
「ふふふ、今回も
お姉ちゃん……その言い方だと、なんだか若干やらしい感じがしない? う〜ん、そんな風に感じてしまうボクの心が汚れているだけなのかなぁ。
──そんなくだらないことを考えていたボクの背後に、突然
「う、侑咲ちゃん! えっと、あの……うちも、その勉強会、参加していい?」
「ふにゃああ!?」
完全に無防備な状態の耳元で囁くように声をかけられ、ボクは反射的に悲鳴を上げる。
「うぅうう、心臓が飛び出すかと思ったよぉ」
「ご、ごめん、なさいっ」
「……うん、次回からはなるべく普通に声を掛けてくれると嬉しいな」
背後霊さながらの様相でボクの背後に立っていたのは、やっぱり千野さんトリちゃんだった。シャイな性格の彼女なら仕方がないかと思いつつも、一応軽く抗議しておく。
「おいおい、ビビりすぎて思わず涙目になってんじゃねぇか。大丈夫かよ……」
「ななな、何言ってんの!? 涙目になんてなってないし! そもそもそんなにビビってないし!」
「いや、あんな悲鳴を上げておいて、それはさすがに無理があるだろ。あたしは寧ろウサギの悲鳴にびっくりしたくらいだからな?」
「ぐぬぬぬぬ」
……さて、トリちゃんの用事はなんだっけ? ボクは記憶を遡り、彼女の言葉を思い出す。
そうだそうだ、たしかボクたち三人の勉強会に参加したいという話だった。
「ところで、おまえ千野と知り合いだったのか?」
「えっ……? うん、まあね」
知り合いというか、ボクにとって彼女は警戒すべきヒロインキャラ全幅の信頼を置いている友人である。
「ね、侑咲ちゃん、だめ、かな?」
そう訊ねてくるトリちゃんの顔は、いつも通り長い前髪で隠れている。だけど、僅かに震えるその声から不安がひしひしと伝わってきた。
きっと勇気を振り絞って訊ねてきたのだろう。それでも、姉との接近を許して余計なフラグを立てるわけにはいかない。ボクがトリちゃんを拒絶するなんてことはあり得ないのにね。
だからボクは、笑顔で彼女の手を握りしめた。