エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
その日、ボクたち姉妹と蒼、それからトリちゃんの計四人は我が家のリビングに集まっていた。目的はもちろん、共にテスト勉強をする為である。
それはそれとして──
「あのさ、やっぱりどうしても気になって集中できないからツッコんじゃうけど……お姉ちゃんも蒼も、なんか座る位置おかしくない!?」
ボクの左右、肩がぶつかるほどの近距離に陣取っている姉と蒼。問題集の冒頭三問ほどを解き終えたところで、ボクは二人へ疑問を投げかける。
「うふふ、べつにおかしくなんてないわよ」
「なんだなんだ、照れてんのか? 可愛い奴め」
ちょっ、二人とも勝手に頭を撫でないで!? って、そんなことでは誤魔化されないからね?
「ま、細かいことは気にすんなって。それに、距離が近い方が教え合いやすいだろ?」
むむむ……。そうは言っても、正方形のテーブルを四人で囲んでいるのに、
「さ、三人は、とっても仲良し、なんだねっ」
ほら〜、やっぱりおかしいんだって! ひとり離れて座っているトリちゃんが、めちゃくちゃ気まずそうにしているじゃんか……!
ボクはスッと立ち上がり、二人の狭間から一時的な避難を試みる。
「ん? どこ行くんだ? おしっこか?」
蒼さん蒼さん、デリカシーって言葉はご存じかな? たぶん知らないんだろうなぁ……。
「も〜、おやつ取りに行くだけだよっ! 勉強で頭を使ったら糖分が欲しくなるでしょ?」
そんなボクの返答に蒼が成程と膝を打ち、その横の姉も反応を見せる。
「侑咲。糖分補給なら、たしか上から二番目の引き出しにチョコレートが入っていたはずよ。ほら、先月お母さんたちが旅先で買ってきた詰め合わせのやつ」
あぁ、言われてみれば、まだ手をつけていなかった気がする。ちょうど良いし、持ってくるか。
「おばさんたち、ホント旅行大好きだよな。たしか今日も旅行で留守なんだろ?」
「うん、来週までフランスに滞在予定らしいよ」
うちの両親は大がつく旅行好き。昔はボクたち姉妹もついて行っていたけれど、さすがに最近は留守番をすることが増えた。今ボクが棚から取り出したこのチョコレートは、そんな両親からのお土産である。
ちなみに、身も蓋もない話をすると……原作のあんなシーンやこんなシーンで親の気配が一切しなかったのは、こういう裏設定があったからなのだと転生して初めて知った。まあ、恋愛系の漫画や小説、ゲームなどの世界ではよくあるご都合主義的な家庭環境だ。
そんなことを思いながら、箱の包み紙を剥がしてテーブルにポンと置く。
「ふふっ、ありがと。それじゃ、大好きなお姉ちゃんの隣に戻っておいで」
ぐぬぬぬ……。結局、元の位置に座る以外の選択肢はないみたい。手招きしている姉の声から、有無を言わさぬ圧のようなものを感じる。
「なんだったら膝の上に座っても良いのよ?」
いやいや、高校生にもなって友人たちの前でそれはさすがに恥ずかしいから!
「一応、あたしの膝も空いているぞ」
「う、うちの膝も……!」
「ふふふふふ」
三人とも、そんな期待に満ち溢れた視線をボクに向けないで!? 大体、膝の上なんかに座ったら勉強しずらいでしょ、お互いに。
「………………はむっ」
ボクは無言で腰を下ろし、半ばヤケ気味にチョコレートを口へと放り込む。あ、美味しい!
「あはは。ウサギって、美味いもん食うと分かりやすく頬が緩むよな」
「そうそう、そういうところも可愛いのよね」
「もぐもぐ侑咲ちゃん、可愛いの権化……」
相変わらず三人からの視線を感じるけど、気にしたら負けな気がする。無視だ、無視。
「──ところで、鳥子さん。貴女、うちの妹といつの間に仲良くなったのかしら?」
「ひぐっ!?」
ボク同様にチョコレートを口へと放り込んだ姉の視線が、突然トリちゃんに向けられる。
それにしても「いつの間に」って……。ボクとトリちゃんは昔から仲良しなんだけど。いつも一緒にいる姉がそれを知らないはずないのに、変な質問だなぁ。
「えっと……割と、前から、だよ?」
うんうん、そうだよね。その通り!
それはそうと、急に頭がぼーっとしてきたような。おまけになんだか熱っぽい。ありゃりゃ?
「へぇ〜、割と前からかぁ。でも、それはちょっとおかしいわね。だって先日……侑咲?」
二人の会話が唐突に途切れ、姉の視線が再びボクを捉える。心配そうにボクの名を呼ぶ彼女の口元には、溶けたチョコレートの残骸が付着していた。
「お姉ちゃん、口の周りが汚れているよ? 仕方がないにゃあ、ボクが綺麗にしてあげりゅ!」
「えっ? あぁ、ありが──」
ボクはふわふわした思考のまま姉の口元に顔を近づけ、そのままチョコレートを
「……んぇ? んんんんんん????」
途端に姉の全身が硬直する。ん? どうしたの?
「おいっ、ウサギ!?」
「侑咲、ちゃん……? な、何して……」
何って、口元の汚れを取ってあげただけだよ?
……ふわぁ、今度は眠気が襲ってきた。
「ハッ、まさか……!? あ〜、やっぱりアルコール入りのチョコが混ざってんじゃねぇか!」
「侑咲ちゃん、もしかして、酔っているの……?」
ふぇ? 酔ってない、酔ってないよぉ?
「か、完全に酔ってやがるっ! それにしても、チョコに入っているアルコール如きで普通こんなに酔うか? ……ウサギ、おまえは大人になっても外で酒とか飲まない方がいいと思うぞ」
呆れたように溜め息をつく蒼と、引き続きフリーズして動かない姉。トリちゃんは何故かチョコレートを唇に押し当てている。
「侑咲ちゃん、侑咲ちゃん! うちの唇にも、チョコ、ついているよ……?」
「おいこら、食べ物で遊ぶなって。ほら、あたしが拭いてやるからこっち来い!」
「うぅううう……」
ティッシュを素早く用意した蒼が、トリちゃんの口元を念入りに拭う。その一連の動作はいつになく俊敏だった。
「にゃはは、お母さんと子どもみたい」
ボクは感情の赴くままにけらけらと笑いながら、後ろへ倒れるように寝転がる。
「あ〜あ、こりゃもう勉強どころじゃないなぁ」
蒼のそんな独り言がうっすら聞こえたのを最後に、ボクの意識は深い闇へと沈んでいった。
♢
「…………あ、あれ? もしかして勉強中に寝落ちしちゃったパターン!?」
上半身にかけられているタオルケットを剥がし飛び起きたボクは、慌ててキョロキョロと周りを見渡す。が、一緒にテーブルを囲んでいたはずの三人の姿がどこにも見当たらない。そんでもって、窓の外はすっかり暗くなっていた。
しまった、やらかした! と頭を抱えていると、二階から姉が苦笑しながら降りてくる。
「侑咲、ようやく目が覚めたのね」
「う、うん、今起きたけど……皆は?」
「二人とも、つい数分前に帰ったところよ」
残念、起きるのがほんの少し遅かったらしい。ボクはがっくりと肩を落とす。
「それで、その……眠ってしまう直前のことはどのくらい覚えているのかしら?」
恐る恐るといった態度で姉がそんなことを尋ねてきたが、生憎と直前の記憶だけ綺麗さっぱり抜け落ちてしまっていた。だからボクは正直に首を横に振る。
う〜ん、チョコレートの箱を持ってきた辺りまでは記憶があるんだけどなぁ。
「そ、そう。ふぅん、何も覚えていないのね……」
「…………お姉ちゃん?」
姉の様子になんとも言えない違和感を覚え、ボクは訝しげに彼女を見つめる。と、そのときだった。玄関のチャイムがピンポンと音を響かせる。
「はいは〜い、どなたですか〜?」
背伸びしてインターホンのモニターを覗き込むと、そこにはトリちゃんが映っていた。