エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
「よ〜し、これで準備完了っと。来客用の布団も一応定期的に干していて正解だったよ」
半ば物置と化している客間に布団を敷き終えたボクは、仰け反るように背伸びして息を吐く。時計の針はまもなく二十三時を回ろうとしていた。
「さて、そろそろ良い子は寝る時間かな? それじゃ、おやすみトリちゃん」
「侑咲ちゃん、おやすみ。えっと……またねっ」
「あはは、別の部屋で寝るだけなのに『またね』は変じゃない? まあいっか。うん、また明日〜!」
せっかくだからこのまま夜遅くまで遊びたい気持ちもあるけれど、明日はまだ平日である。三人仲良く寝坊して遅刻なんてことになったら目も当てられないので、グッと我慢して客間を出る。
……テスト勉強? 知らない子ですね。
「わたしも寝るわ。鳥子さん、おやすみなさい」
「あ、うん……。逢華ちゃんも、いろいろと用意、ありがとう。おやすみ、なさい」
背後から聞こえる姉とトリちゃんの短いやり取り。今度は『またね』って言わないんだね。あぁ、ボクが今さっき指摘したからか。
そんなことを考えながら二階に上がり自分の部屋へと戻ると……さも当然のような顔で姉までドアを開けて入ってきた。いつの間に用意したのやら、彼女の左腕には枕が抱えられている。
「お姉ちゃん、何の用……?」
「ふふっ、答えなくても侑咲なら分かるでしょ?」
うぐぐぐ、返し方が小悪魔すぎる……!
一階の客間からは距離があるとはいえ、あまり大きな声で騒ぐとトリちゃんに怪しまれかねない。故に小声で問いかけてみたのだが、涼しい顔で躱されてしまった。ボクは姉との問答を早々に諦める。
「……ボク、もう寝るねっ」
ボクがごろんと寝転がると、間髪入れずに姉も隣へ潜り込んできた。あ〜、うん、やっぱりボクの部屋で寝るつもりなんだね。予想通りだけどさ。
「トリちゃんだけ別の部屋だと仲間外れみたいになっちゃうけど、いいの……?」
「いいのいいの、可愛い妹と一緒に寝るのはお姉ちゃんの特権ってことで」
そんな特権、聞いたことないんだけど!?
「……お姉ちゃんって、もしかしなくても相当なシスコンだよね」
「うふふ、当たり前でしょ。妹のことが嫌いな姉なんてこの世にひとりとして存在しないわ」
それはさすがに過言だと思う。寧ろ年頃の姉妹なんて、険悪なくらいが普通なんじゃないの? 双子姉妹となると、また少し話が変わってくるのだろうか?
まあ、仲が悪いよりかはずっといい。姉に嫌われてしまったら立ち直れる自信がないからね。そう考えると、ボクも大概なのかもしれないなぁ。
とりあえず、以前姉と寝たときのように悪戯されないよう注意しよう。ボクは自分の尻尾をお腹の前まで持ってきて、両手で抱えるように包む。これで安心。
「あら? も〜、侑咲ってば、そんなに警戒しなくても大丈夫なのに……」
そう言いながらも、少し
……いや、なんで残念そうなのさ!? もうその時点で絶対大丈夫じゃないやつじゃん!
「ふふっ、冗談よ。おやすみなさい」
「ひゃあっ!? ……って、あれ? お姉ちゃん?」
耳元で姉はそれだけ囁くと、ボクが悲鳴を上げている隙にあっさり眠ってしまったらしい。早くもスースーと可愛い寝息を立て始める。
「あはは、相変わらずの自由奔放っぷりだなぁ」
ボクは肩を竦めて笑い、彼女の隣で瞼を閉じた。
おやすみ、お姉ちゃん。また明日。
♢
「……ん、んん〜っ」
ふと、夜中に珍しく目が覚めた。
目を擦りながらベッドから這い出ると、秋の夜特有のうっすらとした肌寒さを実感する。
「さむ…………」
家の中はしんと
「ふわぁあ……トイレ行こ……」
ボクは半分夢の中にいるような靄がかった意識のまま、ふらふらと部屋の外へ出る。
「早く、行かなきゃ……
そのまま廊下を突き進み、一階まで降りてトイレとは
──そして、客間の前で自然と足が止まった。
「
ボクを呼ぶ声が聞こえる。この声の主をボクは知っているような……。えっと、誰だっけ?
「…………トリ、ちゃん?」
そうだそうだ、トリちゃんの声だ。だけど、どうして彼女はボクを待っていたんだろう?
「何も、考えなくていい。さあ、早くおいで」
もう一度彼女がボクを呼ぶ。途端に疑問が掻き消えて、頭の中が真っ白になった。
行かなきゃ、ボクは呼ばれたんだから。
「ふへ、いい子いい子。ちゃんと約束、守れたね」
気がつけばボクは、トリちゃんの柔らかい胸元に優しく抱き寄せられていた。頭の中は依然として真っ白なままだけど、不思議と不安や恐怖は一切なく多幸感のみで満たされている。
「やった、成功した……! ふへ、ふへへ。侑咲ちゃんの、ゆるゆるな表情、可愛すぎりゅ……」
トリちゃんが嬉しそうに笑っている。だからボクも嬉しい。それだけ。そう、ただそれだけ。
「頬っぺた、触っていい? いいよね? だって侑咲ちゃんは……うちのお人形さん、だもん」
ボクは、トリちゃんの人形……? そっか、彼女がそう言うなら、きっと真実なんだろう。
「……はわっ! 頬っぺた、すべすべで、ぷにぷに」
トリちゃんは恐る恐るといった様子でボクの頬を突いたり撫でたりしていたが、暫くしてその手が止まった。彼女は満足げにひとりで頷くと、数回深呼吸してからボクの耳元に顔を寄せる。
「頬っぺた以外の、侑咲ちゃんの
若干緊張した声色でトリちゃんが囁いた。
……頷いていいのかな? いいんだよね、ボクは彼女の人形なんだから。
「駄目に決まっているでしょうが」
瞬間、トリちゃんの表情が凍りついた。けれど、今返事をしたのは
「ねぇ、鳥子さん。こんな夜中にわたしの可愛い妹と二人で何をしているのかしら?」
どこまでも冷え切った、
一体何が起こっているのだろうか。ボクの真っ白な頭では、何も理解することができない。
「え、えっと……そう! 侑咲ちゃん、寝ぼけて、こっち来ちゃった、みたいなの」
トリちゃんが早口気味にそう答えると、姉はニコリと微笑みを浮かべ客間へ踏み込んできた。
「へぇ〜、自分の住んでいる家なのに? 侑咲ったら、おっちょこちょいで可愛いわねぇ」
「うんうんっ、可愛い、よね……!」
「そうね、それが本当の話だったら、だけど」
「ひぃいっ!? ほほほ本当、だよっ?」
「………………」
「……う、うぅう」
無言でトリちゃんを見つめる姉。二人の間になんとも重苦しい空気が漂う。
「……さて、この子はわたしが部屋まで連れて帰るから。侑咲、姉ちゃんの手を掴めるかしら?」
差し出された右手を素直に掴むと、ボクの身体は姉のもとへと引き寄せられた。
「あ、そうそう──」
姉が再びトリちゃんに視線を向ける。
「鳥子さん、貴女とはまた今度じっくりと
そんな台詞と共に微笑みかけられたトリちゃんは、またしても俯いて小刻みに震えていた。