エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい   作:こびとのまち

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ウサギと犬とピンクの首輪

「知らない天井だ……いや、ごめん嘘。普通に知っている天井だった」

 

 保健室のベッドで目を覚ましたボクは、開口早々にそんなくだらないジョークを口走る。すぐ隣に腰掛けてじっとこちらを見つめている金髪ギャルは、一切ツッコんでくれなかったけど。

 

「え、えっと、マリーちゃん……?」

「……………あはっ」

「ひぃいい!?」

 

 ねぇ、何この状況!? めちゃくちゃ怖い! ボクが百合ゲーだと思ってプレイしていた『スズランにくちづけて』って、実はホラゲーだったの????

 

「ねぇねぇ、ウサギっち〜、ウサギっち〜」

「な、なに? どうしたの……?」

「なんとなく呼んでみただけ〜! あはははは」

 

 明らかにおかしなテンションで笑う犬飼さん。ボクは堪らずぶるりと身体を震わせる。

 

 ……まさか、作中で主人公が遭っていたような酷い目にボクも遭わされてしまうのだろうか。侑咲としてこの世界に生まれてから今日に至るまでの十五年間、そんな心配は一度もしたことがなかったが、ボクは初めて自分の身に関する危機感を覚えていた。

 

「ウサギっちこそ、どうしたの? 急にキョロキョロしちゃって。なんだか挙動不審だよ? まあ、そんなところも可愛いんだけど。あはっ」

「えっ……な、なんでもないよ?」

「そっか〜、なんでもないのか〜。へぇ〜」

 

 さりげなく周囲を見渡してみるも、他に誰も見つからない。なんとも運が悪いことに、保健室の先生は席を外しているようだ。

 

「ところで、ウサギっちはワンちゃん好き?」

「わ、わんひゃん……?」

 

 なんの脈略もない質問に、ボクは困惑を隠せない。おまけにビビりすぎて噛んじゃったし。

 

「そう、ワンちゃん! 動物の()のことね」

「あ、うん。どちらかといえば好き、かな……」

「そうなんだ〜! あはっ、あはは」

 

 だからその笑い方、怖いってば!? ボクは質問の意図が分からず首を傾げる。

 

 ……いや、ちょっと待て。作中でこのヒロインは一体何をしでかしていた? そうだ、主人公である姉を無理やり躾けて、ペット同然の存在に堕としていたじゃないか。つまり、先ほどの質問の意図は──

 

 なんとなく先の展開が読めてしまった哀れな転生者のボクは、再び表情を強張らせる。

 

「ふんふふ〜んふふ〜ん」

「…………くっ」

 

 どうにかしてこの場から逃げ出せないものかと様子を伺うが、まったくと言っていいほど隙が見当たらない。相手はあんなにも浮かれていて、鼻歌まで口ずさんでいるというのに……この隙の無さは、さすがはエログロ上等な百合ゲーのヒロインといったところか。いやはや、なんとも恐ろしい。

 

「ちょっと待ってね、今()()するから」

 

 そう言い放った犬飼さんは自身のスカートのポケットに右手を突っ込み、何か取り出そうとしている。まさかと思いながら見つめていると、そのまさかが見事に的中してしまった。嬉しくない……。

 

「マリーちゃん、それって……」

「そ、ペット用の首輪だよ。どう? 可愛いっしょ」

 

 ハート型の装飾付きで帯全体が明るいピンク色のそれは、たしかに可愛いと言えないでもないデザインだった。でも、一般的な女子高生は普通、首輪なんて持ち歩いていないんだよなぁ。

 

「大型犬用の首輪だから結構大きいんだよね。ほら、大は小を兼ねるっていうじゃん? あはは」

「あははは……大型犬用、ねぇ……」

 

 それ、もしかしてボクの首に巻き付けるつもりなんじゃ……。先ほどの嫌な予感がますます現実味を増していく。いっそのこと尊厳など投げ捨てて、赤子のように泣き喚きたい気分である。

 

「ねぇ、ウサギっち。あーしが『もういいよ』って言うまで目を瞑っていてくれないかな?」

 

 よく分からないけど嫌すぎる〜〜!!

 

 全力で首を横に振って逃げ出したいところだが、首輪片手に頼んできた犬飼さんの目があまりにも真剣だったもので、ボクはうっかり頷いてしまう。うぅ、我ながらなんてチョロい女なんだ……。

 

「つ、瞑ったよ……?」

 

 子鹿のように震えながらも、仕方なく素直に目を瞑るボク。その直後から、犬飼さんが何やらゴソゴソと動いている音や、鎖のチャリチャリという音が聞こえ始めたが……意外にも彼女がボクに触れる気配は一切ない。その不気味さが逆に恐怖心を煽ってくる。

 

「もう目を開けてもいいよ、ウサギっち」

 

 ……あれ? もういいんだ?

 

 犬飼さんから声を掛けられ、ボクは少し拍子抜けしながら、それでも恐る恐る目を開く。

 

 するとそこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()犬飼さんの姿があった。

 

「あはは、なんだか照れちゃうね。……それじゃウサギっち、あーしの飼い主になって?」

 

 アーシノカイヌシニナッテ????

 

 困惑が一気に頂点へと達し、ボクはクラッシュしたロボットみたいに固まる。

 

「お〜い、ウサギっち〜?」

「………………」

「あっ、もしかして、犬なのに語尾が『ワン』じゃなかったのがダメだった? それとも、ウサギっちじゃなくてご主人様と呼んだ方がいいワン?」

 

 ひとりで勝手に戯言を口走り、ポッと頬まで赤らめる自称「犬」の犬飼さん。とりあえずご主人様呼びだけは勘弁していただきたい。

 

 ……って、違う違う! もはや呼び方なんて些細なことを気にしている場合じゃない。

 

 犬飼さん、あなた原作ではそんなキャラじゃなかったでしょうが! というか、寧ろ真逆のキャラだったよね? 一体全体どうなってんの!?

 

 ボクが内心で頭を抱えているうちに、犬飼さんは四つん這いになり媚びるように擦り寄ってくる。そしてボクの手に無理やり首輪のリードを握らせると、とろんとした表情でちんちんのポーズを取った。

 

「さぁさぁ、好きなだけあーしのことを可愛がって! いっぱい躾して! お願い、ご主人さまぁ」

 

 バグってんじゃないの、この世界(ゲーム)!?

 

 ねぇ、本当に何が起きているの? ある意味、とんでもなくバッドでグロテスクな展開だよ! うぅううう、ヘルプミーお姉ちゃん!

 

 ヒロインたちの魔の手から姉を守り抜くと心に決めていたボクだったが、いよいよ耐え切れず守るべき姉に助けを求めてしまう。

 

「侑咲、体調を崩したって本当? お姉ちゃん心配になって迎えにきちゃ……た……」

 

 地獄と化していた保健室のドアが勢いよく開き、ボクの姉が救世主の如く駆け込んできたのは、まさにその直後のことだった。

 





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