エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
「……ん? んんんん!???」
月野先生から話を聞いて保健室に駆けつけたわたしが目撃したのは、首輪を身に付け四つん這いになっている金髪ギャルと、その首輪のリードを無理やり握らされている我が妹の姿だった。改めて状況を整理してみても、やっぱりワケがわからない。
想像の遥か斜め上をいく眼前の光景に、わたしは思わず言葉を失う。
「……っ! お姉ちゃ〜ん! うぅうううう」
そんなわたしの入室にいち早く気づいた侑咲が、金髪ギャル──犬飼さんを振り払い立ち上がった。そして、子犬のようにわたしの側まで駆け寄ると、目元に涙を浮かべながら両手を広げてしがみつく。
「あふぅんっ」
瞬間、全身にゾクゾクと快感が走り、うっかり口角が釣り上がりそうになる。が、胸元にしがみついている妹の身体が小刻みに震えていることに気づいたわたしは、姉としてすぐさま思考を切り替えた。
「落ち着いて、侑咲。もう大丈夫だから」
「う、うん……! お姉ちゃん!」
わたしにぎゅっと抱きついたまま、上目遣いで頷く侑咲。そのあまりの愛らしさに、またしても口角が釣り上がりそうになる。うふ、うふふふ。
「お、お姉ちゃん……?」
「ふふふ。大丈夫、大丈夫だからね」
大好きな妹に頼られたからには、絶対に情けない姿は見せられない。わたしは侑咲の頭を撫でながら、もうひとりの少女へと視線を向ける。
「そこの貴女……たしか犬飼さんでしたっけ? わたしの妹が随分と怯えているのだけど、この子の目の前で一体何をしていたのかしら?」
「……わぁ、ウサギっちがふたりになった」
犬飼さんはキョトンとした表情を浮かべ、質問にはまったく答えずにわたしと侑咲の顔を何度も見比べている。こちらの声が届いていないのか、はたまた意図的に質問をスルーしようとしているのか。後者だったら悪質ね……。
「あ〜、でもよく見ると、もうひとりのウサギっちはなんだか雰囲気がおっかないかも。ってことは、そっちはウサギっちのお姉さんか」
「……は? 誰がおっかないって?」
おっと、いけないいけない。侑咲が見ているのだから、落ち着いた態度で冷静に振る舞わねば。わたしは顔面に笑みを貼り付ける。
「ちょっ、冗談だからそんな怖い顔しないでよ……」
怖い顔? またまたご冗談を。わたしが怖い顔なんてするわけないじゃない。ね? そんなことより、さっさとさっきの質問に答えて欲しいのだけれど。
「もう一度訊くわ。貴女、今何をしていたの?」
「な、何って、ウサギっち……ご主人様のペットになろうとしていただけなんですけど」
「…………は? ん? は?」
どうやら侑咲の周りには、クセの強い女ばかりが集まってくるらしい。あまりにも酷いその回答に、わたしは激しい頭痛を覚える。
「ええっと、ごめんなさい、わたしの聞き間違いかしら……? 今、貴女が侑咲のペットになりたがっているかのような台詞が聞こえたのだけど」
「聞き間違い? ううん、ちゃんと合ってるよ。あーし、ウサギっちに飼ってもらいたいの!」
う〜ん、ヤバすぎるわね、この子。同学年にこんな危険人物がまだ潜んでいたとは。うちの学校、一体どうなっているのかしら……。
やはり姉であるこのわたしが責任を持って守ってあげなくちゃ。改めて強くそう思った。
「なるほどね、貴女の望みはよ〜く分かったわ」
「マジ? お姉さん公認ってこと!? じゃ、もう一度ウサギっちと二人きりに──」
公認? いやいや、そんなわけがないじゃない。わたしは彼女の戯言に被せて更に言葉を続ける。
「要するに、変態で駄犬な貴女は誰かに躾けてもらいたいと、そういうことね」
「へっ? 違う違う! 誰かにっていうか、あーしはウサギっちに躾けてもらい──」
犬飼さん……いや、駄犬にターンは与えない。二度と侑咲に噛みつかないよう、この場できっちり
「そんなに躾けてほしいのなら、今からわたしが徹底的に躾けてあげるわ。うふふふふ」
「え? え? ええっ!?」
駄犬が困惑している隙に、わたしの胸元で目を丸くしている侑咲へと視線を戻す。
「わたし、あの子と少しだけ話がしたいの。ただ、侑咲が聞いてもつまらない話だと思うのよね。だから、図書室で本でも読んで待っていてくれないかしら? 大丈夫、すぐに済ませて迎えに行くわ」
「えっ、いや、でもお姉ちゃんとヒロイ……マリーちゃんを二人きりにするのはちょっと……」
駄犬を躾ける現場なんて、無垢な侑咲には到底見せられない。故にさりげなく図書室へ避難させようと考えたのだが、優しくて姉思いな妹は心配そうな表情を浮かべて左右に首を振るばかり。一向にわたしの側から離れようとしない。
気持ちは嬉しいけど、正直困ったわね。一体どう説得すれば納得してくれるかしら……。
「じゃ、あたしがオオカミと一緒にいてやるよ。それならウサギも安心だろ? あたしもそこの女と話しておきたいことがあるからさ」
「…………蒼っ!」
これ以上ないほどナイスなタイミングで現れた幼馴染に、わたしは内心でサムズアップを送る。それにしてもタイミングが良すぎじゃないかとは思うけど。
「蒼、貴女いつからそこにいたの……?」
「ん? いつからって、ウサギがおまえに駆け寄って抱きついたあたりからだな。うん」
「だいぶ前からいたのね!?」
なるほどなるほど、それで会話に混ざるタイミングをずっと見計らっていたと。
「……あれ? そういえば陸上部はどうしたのよ? 部活が終わるにはまだ早い時間でしょ」
「あぁ、そんなもんほっぽり出してきたに決まってんだろ? あんなメッセージを見ちまったら、気になって部活に身が入らないからな」
あんなメッセージって……侑咲が体調を崩したらしいから迎えに行く、と一言伝えただけでしょうが。わたしが言うのもなんだけど、さすがに心配性が過ぎるんじゃない?
まあいいや。何にせよ、この助け舟は非常にありがたいわけで。わたしは若干の名残惜しさを感じつつ、侑咲の身体を押し離す。ふふっ、また後でたっぷり甘やかしてあげるからね。
「うぅうう、お姉ちゃ〜ん……」
「ははは、ウサギは心配性だなぁ」
……蒼、貴女も大概だと思うわよ? もしかして、わたしたち三人とも心配性なのかしら。
わたしと蒼に背中を押され、半ば強引に保健室から追い出された侑咲。渋々去っていく彼女の小さなシルエットが完全に視界から消えたのを確かめて、保健室のドアを閉める。
「さて、それじゃあ駄犬の躾を始めましょうか」
「あたしも手伝うぜ。そこの変態も、ご主人様は多い方が嬉しいもんなぁ?」
「いや、だからあーしのご主人様はウサギっちひとりだけで……ひぃいいい!?」
問答無用。無駄口はこれ以上叩かせない。
わたしは満面の笑みを浮かべ、駄犬の首から伸びている首輪のリードを握り締めた。