エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
翌日の放課後、ボクは姉の目を盗んで一足先に学校を飛び出し、近所の河原で時間を潰していた。理由は単純、
ぼんやりと水面を眺めながら、ボクは今日何度目かわからない溜息を吐く。
「……はぁ、参ったなぁ。どうしよう」
「お? 一体何に参ってるんだ? 話してみろよ」
昨晩、ボクは姉からとんでもない告白を受けた。
あぁ、受けたってのは「打ち明けられた」という意味であって、さすがに「受け入れた」わけじゃないよ? 姉は当然、ボクの返事を聞きたがっていたけれど。驚きのあまりすっかり放心し切ってしまったボクの姿を見て、ひとまずそっとしておくことにしたみたい。あれ以降、まだ返事の催促はされていない。
とはいえ、明かされた姉の想いは本物のようで……今日も朝から幾度となくさり気ないアプローチを受けている。その度にボクは激しく動揺してしまうので、姉や周囲の人たちに気づかれないよう誤魔化すのがとにかく大変だった。
「参った、本当に参ったなぁ」
「お〜い、だから何に参ってるんだ?」
この際、はっきりと言ってしまうと……百合ゲーの主人公であり、正真正銘の美少女である姉から真っ直ぐに好意をぶつけられて、ボクみたいな凡人の心が揺れないわけがなかった。正直なところ、昨晩から頭の中は姉のことでいっぱいである。
けれど、彼女は血の繋がった姉、肉親なのだ。ボクの抱いている好意は、必然的に姉妹としての愛情が大半を占めている。それが全てだとは微妙に言い切れなくなってきたのが、乙女心の複雑なところであり、難しいところでもあるわけなんだけど。
……えっ? 乙女心とか一切関係なく、ただ単にボクがチョロいだけ? い、いや、そんなことないって。あの逢華に正面から告白されて、ときめかない生物などこの世には存在しないのだから。
寧ろ、妹であるボクだからギリギリ耐えられていると言っても過言ではないはず。めいびー。
こほん、話を戻そうか。
そして何より忘れちゃいけないのが、ボクこと侑咲は一応エログロ上等な百合ゲーのヒロインでもあるということ。侑咲ルートの先にある救いようのない結末を、ボクはよく知っている。だからこそ、姉妹仲良くバッドエンドへ向かって走り出す展開だけは絶対に避けなくちゃいけないのだ。そう、絶対に。
いやまあ、今のボクはゲーム内の侑咲みたいに病んじゃいないんだし、もしかしたらそこまで気にする必要もないのかもしれないけど。
「う〜、どうしたもんかなぁ」
「あれ? 無視か? まさかの無視なのか!? ……だったらあたしにも考えがあるぞ」
そんな具合にぐるぐる頭を悩ませていると、突然、ボクの視界から光が消え失せた。て、停電かな? いやいや、ここ思いっきり外だけど!?
「へへっ、だ〜れだ?」
「うにゃああああ!! って、この声は……蒼?」
大正解、やっとあたしの声に反応してくれたか。そう言いながら、暗闇の正体──幼馴染はボクの目元から両手を離す。そしてそのまま隣にしゃがみ込んだ。
「も〜、びっくりしすぎて心臓が止まりそうになったよ……。蒼、いつからそこにいたの?」
「えっと、教室を出たときからずっと一緒にいたんだが。マジで気づいてなかったんだな……」
おおっと、そうなると話が変わってくるなぁ。いたずらした幼馴染を責めるように睨んでいたボクは、慌てて目を逸らし小声で謝る。
「……ご、ごめんね?」
うぅ、またいつもの悪癖が出てしまった。一度考え事に耽り始めると、すぐ周りが見えなくなっちゃうんだよなぁ。外でぼーっとするのは本当に危ないから気をつけないと。
「ま、わざと無視していたわけじゃないならべつにいいさ。ハハハ、気にすんなって」
そう返しながらボクの肩をぽんぽんと叩く蒼。ボクの幼馴染、ホントに心が広いね。
「そんなことより、結局ウサギは何に参ってるんだ? あたしで良けりゃ話くらい聞くぞ?」
あ〜、そっかそっか、独り言のつもりで呟いていた内容は、全て蒼に聞かれていたわけか……。考えてみれば当たり前だよね、ずっと側にいたんだから。
「それは、その…………」
気持ちは嬉しいけど、さすがに姉から告白されたなんて話を打ち明けられるはずもなく。ボクが言葉に詰まっていると、何か察したように笑う蒼。
「はは〜ん、さては姉妹喧嘩だな?」
「えっ、いや、違──」
「いいっていいって。あたしから訊いておいてなんだけど、やっぱり無理に話す必要はねぇから。どうせオオカミが何かしでかした所為で、家に帰りづらくなっちまったとかだろ?」
家に帰りづらい、か。
それについては否定できない。実際、家に帰らずこうして河原で時間を潰していたわけだし。
たぶんだけど、本当は姉妹喧嘩じゃないことくらい蒼も分かっているんだと思う。ただ、ボクたち姉妹の間に何かが起きたことは察している、そんな感じの雰囲気。幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染という関係だからこそ、お互いの考えがなんとなく想像できちゃうってわけ。
「だったらさ、あたしと一緒に家出しないか?」
「…………えっ?」
まさかの提案にボクは固まる。さっそく前言撤回。たしかにボクたちは付き合いの長い幼馴染だけど、そのパターンはまったく予想できなかったなぁ。
うん、姉と顔を合わせるのが気まずいことは認めるよ? でも、だからといって家出はちょっと……。
大がつく旅行好きで自由人な両親はともかくとして、いつも優しい姉に心配をかけたくないし。無関係な蒼を巻き込むのだって気が引ける。
「大丈夫だって、オオカミにはあたしからきっちり連絡しておくから。それにほら、明日から休みでタイミングもちょうどいいし。この際、思い切って行き当たりばったりの旅とかしてみないか? あたしたち二人でなら絶対楽しいと思うぞ」
なるほど、家出と言ったのは半分冗談で、実際はちょっとした気分転換の遠出という感じか。蒼と一緒だと伝えれば、姉も多少は安心できるだろうし。
「で、でも、やっぱり蒼を巻き込むのは……」
「おいおい、なんだよ水くさいな。今さら遠慮が必要な間柄でもないだろ、あたしたちは。ってか、つい最近調べていた場所があってさ、なんとなくいつかウサギと行けたらいいなって思ってたんだよ。これはもう運命みたいなもんだろ?」
「そうなんだ……。それはたしかに運命かも?」
「おお、マジか、チョロいな……」
ねぇ、今ものすごく失礼なこと言われた気がするんだけど!? ボクが半目で軽く睨むと、蒼はこほんと咳をして誤魔化すように言葉を続ける。
「ちょっと急な話ってだけで、ぶっちゃけただの旅行だしな。ほらほら、あたしが行きたくてウサギを誘ってんだから遠慮するなって」
「う、う〜ん、そう言ってくれるのは嬉しいけど」
「それにこういうの、なんかいいじゃん。青春っぽくて、あたしはわくわくしてきたぜ」
ボクの色よい答えを待たずして、もう既に出掛ける気満々の幼馴染。そんな彼女につられ、ボクも家出という名の旅行に対しだんだん前向きな気分になってきた。一度姉と物理的に距離を取って気持ちの整理をするのも良いかもしれない。
……よし! ボクは決心し、蒼の温かい手を掴む。
「それじゃ、ボクをどこかへ連れてってよ、蒼」
「お、おう! そうこなくっちゃ、任せとけ!」
少し上擦った声で応じ、勢いよく立ち上がった幼馴染。彼女の頰は夕陽に照らされて、淡い朱色に染まって見えた。