エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい   作:こびとのまち

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時に笑顔は無表情より怖い

 蒼に連れられてやって来たのは、県内の寂れた温泉街。こっそりと荷物を準備しに家へ帰った後、再び彼女と合流し電車で小一時間揺られて辿り着いた場所がここというわけだ。

 

 ちなみに夕飯は駅構内の売店で買ったお弁当で済ませた。成り行き的に当然と言えば当然だけど、出発の時間が遅かったからね。案の定、電車から降りた頃にはすっかり日が暮れていた。

 

 姉には早々に蒼からメッセージを送ってもらっている。それに対し返信こそ届いていないものの、既読はすぐについたらしいので、たぶん大丈夫だろう。何にせよ急なことだったから、帰ったら謝ろうとは思う。

 

 それはそれとして、こんなふうに行き当たりばったりの旅なんてしたことがないもんだから、ボクのテンションは自然といつもより高くなっていた。そんなボクを見て、隣で蒼もずっと微笑みを浮かべている。

 

 ……ちょっと浮かれすぎかな? 子どもっぽい?

 

 

 

「いや〜、運良く空いている部屋があって助かったな。すんなり宿が決まってホッとしたぜ」

 

 宿に着いて無事に部屋を確保した後、蒼は安堵の表情を浮かべながらそう呟いた。

 

「ほんとだよ、どこも空いてなかったら野宿するしかないかもって覚悟してたもん。ちょっぴりハラハラしたけど、温泉付きだし部屋も広いから最高だね」

「野宿はさすがになぁ。ってか、ウサギを外で寝かせるなんて危険なマネできるわけがねぇし」

「え? ボクに野宿のスキルがないと思ってる?」

「ないだろ普通に! ……ないよな? いや、スキルの有無がどうとかって話じゃなくてだな……」

 

 もちろんボクに野宿のスキルなんてない。そもそも温泉街で野宿なんてしたら通報されそうだし。そんな具合に冗談混じりの会話を交わしながら部屋で一息ついた後、ボクと蒼は頷き合って立ち上がる。

 

「さて、さっそく温泉に入りに行こうぜ!」

「わ〜い、待ってました!」

 

 ……やっぱり子どもっぽい? ま、まあいいじゃん。これもひとつの青春ってことで。

 

 

 

 

 ええっと、すっかり失念しておりました……。温泉に入るためには幼馴染の前で裸にならなくちゃいけないってことを。そしてもちろん、その幼馴染もボクの前で裸になるってことを。

 

「い、いや〜、温泉楽しみだなぁ……なんて」

「だ、だね〜、タイミング良く貸切状態だし?」

「だよな。へ、へへへ……」

「うん。あはは、は……」

 

 うん、前世の性別的にボクが羞恥心を抱くのは仕方のないことなんだけど、どうして蒼まで目を泳がせているのさ!? 運動部なんだし、合宿とかでそういうのは慣れている方なんじゃないの? なんならボクより挙動不審じゃないか。そもそも、ついさっき脱衣所に入るまではあんなにウキウキだったくせに。

 

 小中学生時代の修学旅行では目を瞑るか姉の背中に隠れていたから気付かなかっただけで、以前からそんな感じだったのだろうか。

 

 脱衣所へ足を踏み入れた途端に口数が減ったボクたちは、目も合わせられないまま体を洗ってそそくさと湯に浸かった。

 

 恥ずかしいなら離れて浸かればいいだろうに、何故かボクの側から離れない幼馴染。なんならたまに肩が触れて、お互いビクッと反応してしまう。

 

 細目で恐る恐る様子を確かめてみると、浸かり始めてからまだそれほど経ってないのに蒼の顔面は真っ赤に染まっていた。えぇ、大丈夫……?

 

「あ、ああ、大丈夫だ……」

 

 ほんとかなぁ。羞恥より心配の感情が勝り始めたボクの隣で、蒼が大きく息を吐く。それと同時に、蒼の纏う雰囲気が僅かながら変化したように感じた。というか、なんか目が据わっているような……。

 

「……よし、もう大丈夫だ。本当に。そんなことより、少し話を聞いてくれないか? 実はあたしさ、ウサギにどうしても伝えておきたいことがあるんだ」

「ん? なになに、急に改まって。もちろん聞くよ? あ、もしかしてそろそろのぼせそうとか?」

 

 間髪入れずに首を小さく横に振る蒼。どうやらのぼせそうなわけではないらしい。

 

「本当に伝えるべきなのか、さっきまで迷っていたんだけどさ……。やっぱり今のうちに伝えておかなきゃ手遅れになりそうな予感がするから」

 

 ボクに伝えておきたいこと、か。一体なんだろうね? あと、ちょっぴり息荒くない?

 

「一応、本当はまだ胸の内に秘めておくつもりだったんだぞ? あいつとの友情もなんだかんだで大事に思っているからな。できれば壊したくなかった」

「……あいつ? えっと、誰のこと?」

 

 ……あれ? そういえば似たようなやりとりをつい最近誰かとしたばかりなような。いやいや、ボクの考えすぎ、だよね? 大体、相手は蒼だし。

 

「でも、状況が変わっちまった。ウサギもオオカミも隠しているつもりなんだろうけどさ、今朝の様子ですぐに察したっての。分かりやすすぎ」

「あ、蒼……?」

 

 うん、だいぶ雲行きが怪しくなってきたね。鈍い鈍いとは言われるボクだけど、さすがに心当たりがありすぎる。どう考えても、昨晩の姉の告白が関係していると思う。

 

 幼馴染なのに二人揃って何も言わず隠していたことを怒っているのかな?

 

「だからあたしも腹を括って伝えるぞ。あたしはさ、ウサギのことが……」

 

 それとも、姉妹でキスとか恋愛なんて間違っていると言いたいのかな? どちらにせよ、そういう類の話であることは間違いないだろう。うぅ、困ったなぁ。

 

「ウサギのことが、大好きなんだ!」

 

 ……ん? んん? ボクの予想と随分異なる言葉が聞こえたんだけど?

 

「う、うん、ボクも蒼のこと大好きだよ?」

 

 待ってほしい、このやりとりにも覚えがありすぎる。えっ、嘘でしょ、それじゃまさか──

 

「へへ、ありがとな。でもあたしはさ、ウサギのことが恋愛的な意味で大好きなんだ。昔っから」

「へ、へぇ、そっかぁ、そうなんだ。ふ〜ん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って、えぇえええええ!?!?」

 

 

 ふぅむ、これが所謂デジャヴってやつ? あ、それは一度も体験したことがないのに、過去に体験したことのように感じる現象のことだから違うって? あはは、そっかそっか。たしかにこれで二度目だもんね。

 

 ……あははとか笑っている場合じゃないんだが!?

 

 ねぇ、一体何が起きてんの!? 連日の衝撃的すぎる展開に、ボクは内心でそう叫んだ。

 

 

 

 

 蒼は人一倍優しくて親しみやすい、魅力に溢れた少女だ。容姿だって、淫魔顔負けの整いっぷり。もし仮にヒロインたちの中から無理やり姉の相手を選ばなくちゃいけないとしたら、この世界の蒼一択だと密かに妄想したことだってある。唯一にして最大の難点である「バッドエンド」の芽を摘んだ幼馴染系ヒロインなんて、非の打ち所がどこにもないからね。

 

 そんな蒼から告白されたら、やっぱりボクだって心が揺れる。それこそ、姉から告白されたときと大差ない赤面っぷり晒してしまったくらいには。

 

 けれど、ボクにとって蒼はただの幼馴染なわけで。少なくともつい先ほどまでは……。当然その場で答えを出せるはずもなく、脱衣所を出て部屋へ戻ろうとしている今現在も、気まずい空気が流れていた。

 

 おかしい、おかしいなぁ。気まずさから逃れるために家出したはずなのに、結局また気まずくなっているんだけど。蒼もそれは理解しているのか若干申し訳なさそうにしているものの、その表情に後悔の色はひとつも見当たらない。むぅ……。

 

 そんな空気の中、蒼が部屋の鍵を開ける。この後どうしたものかなぁ。なんて頭を抱えながら部屋へと足を踏み入れたその直後、今ここで聞こえるはずのない()()()()()()が耳奥に届く。

 

「あら、おかえりなさい。二人仲良く温泉に浸かってスッキリ……って感じの雰囲気ではないわね。ふふ、何かあったの?」

 

 浴衣に着替え畳の上でくつろいでいる()は、ボクたちを見つめながら静かに微笑んだ。

 





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