エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
旅館のふかふかな布団に包まれながら、ボクは侑咲としての人生──いや、淫魔生史上最も気まずい気分を味わっていた。
その原因はもちろん、ボクの両隣で不機嫌オーラを隠さずに会話している姉と蒼。ねぇ、二人とも、早く寝よう? ぐすん、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
「なぁ、オオカミ。なんであたしたちのこと追いかけてきたんだ……? 何も心配いらないから大人しく待っとけって、わざわざ連絡してやっただろうが」
「だから何度も説明しているでしょ。貴女みたいな獣とわたしの可愛い妹を二人きりになんてしておけないからだって。油断も隙もないわね、まったく」
「いやいや、全然説明になってないんだよ! そもそも獣はおまえだろ、オオカミ」
もともと広い部屋だったからスペース的には三人で寝ても余裕があるはずなのに、何故かものすごく息苦しくて窮屈な気分。
いや、気分というか実際に物理的な意味でも窮屈なんだけど。どうして二人ともそんなにボクにくっついているのさ。布団は三枚あるんだし、とりあえず左右の腕を解放してほしい。
「ってか、なんで行き先まで特定できたんだよ。そこまでは教えてないはずだぞ、あたしは」
「ふふふふ、妹の居場所くらい姉なら分かって当然でしょ。敢えて説明するなら愛よ、愛」
「だから説明になってないんだってば! 怖いし!」
……えっ、怖いかな? 姉は昔からボクがどこにいても見つけてくれるから、それくらい姉妹じゃ普通のことだと思っていたんだけど。
「それを言うなら、しれっと侑咲を宿に連れ込んだ貴女の方がわたしはよっぽど怖いわよ」
「う、うぐぅ!?」
いやいや、べつに蒼も怖くないよ? 純粋な思いやりの気持ちで家出を提案してくれたってこと、ボクは分かっているからね。告白はまあびっくりしたけど、初めからそれが目的だったわけでもないだろうし。
ふわぁああ……。
こんな状況でも、眠気というやつはしっかり襲ってくるらしい。自然とあくびが漏れ出る。
昨日今日と信じれないくらいいろんなことがあったからね。自覚こそしていなかったものの、何気に疲れが溜まっていたんだと思う。いつの間にかボクの意識は、夢の世界へと旅立っていた。
♢
「え、えぇええ……こんな状況で自分ひとりだけ先に熟睡できるか、普通!?」
「ふふっ、さすがわたしの妹ね。そういうマイペースなところも可愛いわ」
「それはまあ、同感だけどさ。あと、いちいち
あたしとオオカミの二人に挟まれながら、すぅすぅと寝息を立て始めたウサギ。くっ、寝息すら可愛いとか反則だろ……。そんなウサギの様子に毒気を抜かれたあたしたちは、揃って小さく溜息を吐いた。
「届いたメッセージを読んだとき、わたし本当に焦ったんだから。幼馴染の貴女が相手じゃなかったら、迷わず葬っていたところよ。命拾いしたわね」
「なぁ、さっきから怖いって! ……ふん、あたしだって、
「…………やっぱり気づいていたのね」
「当たり前だろ。大体、急すぎるんだよ」
あたしが本気でウサギに手を出せば、三人の関係が壊れてしまうことくらい容易に想像がついていた。だからこそ、あたしは今日までこの想いを本人に明かさなかったわけだ。そして、なんだかんだ言いつつオオカミだって
それなのに、今朝のアレだ。朝っぱらから明らかにテンションがおかしいオオカミと、姉と目すら合わせようとしないウサギ。二人を見てあたしはすぐに全てを察した。あの時あたしが受けた衝撃は、とても言葉じゃ言い表せない。
「それは……だって最近、侑咲のことを狙う子が多すぎるんだもの。挙句、補習を受けに行ったと思えば保健室で襲われそうなっているし。危機感のひとつやふたつ覚えるじゃない」
あ〜、うん、それはたしかにな……。
「けどよ、だからっていきなり告白はないだろ。ま、あたしだっておまえと同じことをしちまったから、もう文句は言えないけどさ」
「そうよ、貴女から一方的に文句を言われる筋合いはないわ。侑咲を連れ去るなんて……ちょっと待って、今
「ん? ああ、言ったぞ?」
突然騒ぎ出すオオカミ。なあ、ウサギが起きてしまうから、もう少し声を潜めようぜ?
「いやぁ、本当は今日告白するつもりまではなかったんだけどさ。ウサギと二人で温泉に浸かっていたら、なんか気持ちを抑えられなくなってよ……」
「ちょ、嘘でしょ!? さっきなんとなく様子がおかしいとは感じていたけど……貴女、侑咲のフェロモンにがっつりあてられちゃってるじゃない!?」
なるほどな、その可能性はまったく頭になかった。だからどうってことでもないけど。ウサギに伝えた気持ちに嘘偽りは一切ないのだから。そんなことより、さっきから声がデカいっての。
「しっかし、ウサギって本当に魔性の女だよな」
「人の妹に向かって失礼な……と言いたいところだけど、それはわたしも否定できないかも」
寝返りを打ったウサギをチラリと見てようやく小声に戻ったオオカミは、あたしの呟きに対しそう答えながら苦笑する。おいおい、否定できないのかよ。
「今回の発情期は特にだけど、侑咲のフェロモンはちょっと普通じゃないから。幼少期にこの子の色気を浴びて、いろいろと捻じ曲げられたわたしが言うんだから間違いないわ」
「そ、そうか……」
それはもとからオオカミがシスコン極まっていただけじゃないの? 頭に浮かんだそんな疑念は、口に出さずに飲み込んでおく。言っても無駄だろうし。
それよりひとつ気になることが……。
「ところでさ、その普通じゃない今のウサギの隣で寝て、あたしたちの理性は大丈夫なのか?」
「…………えっ?」
一瞬、オオカミが言葉に詰まる。うん? もしかしてあんまり大丈夫じゃないのか?
「……ま、わたしは大丈夫よ。姉妹揃って発情期の最中とはいえ、それ以前にずっと同じ家で生活してきて耐性がついているもの。ああ、でも蒼が耐えられるかどうかはたしかに分からないわね。貴女、わたしの妹に手を出したらその手を切り落とすわよ?」
「それはあたしの台詞なんだが!? おまえのウサギに対する耐性ほど信用できないもんはないっての」
そもそも幼馴染の寝込みを襲うほど落ちぶれちゃいないつもりだ。あたしはウサギの泣き顔なんてみたくない。……ウサギの泣き顔、か。
「なんか今一瞬、不穏な気配を感じた気がするんだけど……さすがに気の所為よね? まあいいわ、とりあえずお互い自分の布団に戻りましょ」
「き、気の所為に決まっているだろ……!」
「声が裏返っているわよ?」
……こほん。気の所為だ、気の所為。
「よし、これ以上おかしな空気になる前に、さっさと寝ちまった方が良さそうだな」
「そうね……。それじゃ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ、オオカミ」
そう言葉を交わしたきり互いに黙り込んだものの、当然素直に意識を手放せるはずもなく。
ヤバい、意識したら妙にドキドキしてきた……。
侑咲の寝息とエアコンの稼働音だけが静かに響く旅館の一室で、あたしとオオカミは眠れぬ長い夜を過ごしたのだった。