エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい   作:こびとのまち

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似たもの同士なわたしたち

 悪い幼馴染に攫われた最愛の妹を追いかけて、遥々やってきた温泉街。結果的に、わたしたち姉妹と蒼の三人で旅行に来たような形になった。

 

 まったく。姉であるわたしを差し置いて侑咲と二人で家出なんて、許すわけないでしょうが。

 

 それはそれとして──

 

「なぁオオカミ、あたしはおまえら淫魔の発情期ってやつをみくびっていたのかもしれない。まさかこんなにヤバいとは……」

「いやいや、あれはわたしの妹が淫魔の才能に溢れすぎているだけだから。それにしても、第二次成長期って恐ろしいわね。今までの発情期はさすがにここまで強烈じゃなかったもの」

「癪だけど、正直オオカミがいて助かったぜ……」

「わたしも、貴女たちを追いかけてきて正解だったと、今日一日で数えきれないほど思ったわ」

 

 わたしと蒼がこんなふうにぐったりしている理由はただひとつ。今の侑咲の危険人物ホイホイっぷりが、わたしたちの想像を遥かに上回っていたから。

 

 数時間遊び歩いただけで、面倒な輩を何人も引き寄せるだなんて……我が妹ながら末恐ろしいわね。だからこそ、先日慌てて告白したわけなんだけど。わたしの判断はやっぱり正しかった。

 

「いや、淫魔としての才能が溢れているのは、ボクじゃなくてお姉ちゃんだと思うんだけど……」

「それはないな、鏡を見てみろ」

「それはないわね、鏡を見てみなさい」

 

 側で会話を聞いていた侑咲が呟いた独り言に、わたしたちは思わずそう突っ込んだ。

 

「……相変わらず二人は息ぴったりだね」

 

 ええ、貴女のおかげでね。

 

 さてさて、周辺の散策を終えて旅館へと戻ってきたわたしたちは今、館内の温泉に浸かっている。温泉巡りを避けたとはいえ、一日歩き回って汗をかいた身体でそのまま一晩過ごすわけにはいかないもの。

 

「ところで二人とも、どうしてボクを取り囲んでいるのかな……? 正直、目のやり場に困るんだけど」

 

 それはもちろん、周囲の邪な目から可愛い妹を守るためである。本当は蒼にだって見せたくないけど、わたしひとりでは隠しきれないから。とりあえず赤の他人に晒すよりかはずっとマシ。昨日手痛い裏切りにあったとはいえ、一応わたしの幼馴染だし。

 

 まあ、彼女がもし一瞬でも不穏な動きを見せようものなら、躊躇なく手刀で意識を奪うつもりだけど。情けは無用である。

 

「うわ、またなんか物騒なこと考えてそうな顔してるなぁ。……そんなんだから、双子のおっかない方とか魔王だなんて呼ばれたりすんだぞ。心配しなくても告白以上のことはしないって、まだ」

 

 ……ん? ()()? それと、そんなふうに呼ばれているなんて、わたし知らなかったんだけど。

 

 蒼の話に顔を顰めたわたしの目の前で、侑咲が赤面して静かに俯いた。恐らくは告白という言葉に反応したのだろう。そんな妹の反応に、わたしはますます顔を顰める。

 

「そもそも何勝手に告白なんてしてるのよ。わたし、まだ納得してないんだからね」

「それ、先に抜け駆けしたオオカミにだけは言われたくないなぁ。あたしだって納得してないし」

「抜け駆けも何も、侑咲は初めからわたしのよ?」

「おいおい、それは聞き捨てならないぞ」

「あわわ、また始まっちゃった……」

 

 侑咲がわたしたちの顔を交互に見て狼狽えているが、さすがにここで引くわけにはいかない。

 

「だって、侑咲のことを真に理解しているのは、姉であるこのわたしだけなんだもの」

「そうかぁ? 血の繋がりに胡座をかいているオオカミより、ゼロから関係を築いてきたあたしの方が、よっぽどウサギのこと理解していると思うけどな」

「へぇ……言うじゃない。だったら、今ここで侑咲の魅力を語ってみなさいよ」

「……えっ? ちょっ、お姉ちゃん!?」

 

 今度は困惑と焦りの入り混じった表情をわたしに向ける侑咲。一方の蒼は、一瞬ぽかんとした顔を見せた後、ニヤリと口角を釣り上げた。

 

「いいぜ、幼馴染のあたしが教えてやるよ。その耳、かっぽじって聞くといいさ」

「あれ? ホントにそういう流れなの!?」

 

 ええ、そういう流れなのよ、侑咲。

 

「ウサギはな、あたしの光なんだ。目が焼かれるほど眩いけど、それでも手を伸ばさずにはいられない、そんな光。なんてったって、あたしの救世主でヒーローだからな。ウサギに救われたおかげで、今のあたしがあるといっても過言じゃない」

「えっと、あれは原作知識があったからで……」

「あたしは誰よりもよく知ってるんだ。普段はぼんやりしていて警戒心も足りないけど、いざとなれば他人のために勇気を振り絞ることができる凄い奴だってことを。そんなウサギだからこそ、あたしはずっと側にいたいと思ったし、全力で守ってやりたいと思ったわけだ。冗談でも誇張でもなく本当に、ウサギのためならなんだってできる自信があるぜ」

「あわ、あわわわわ……」

 

 ……侑咲に救われた、か。

 

 なるほど、ようやく腑に落ちたわ。貴女が侑咲に惚れたのは()()()()だったのね。

 

「もちろん、いつものゆるふわなウサギだって魅力の塊だけどな。あいつと一緒に過ごしていると、なんだか無性に撫で回したくなるというか、庇護欲を掻き立てまくられるというか、そんな気持ちになるんだ。あれはウサギが淫魔だからとか、そういうことじゃないと思うんだよな」

「わかる、わかるわ。すごくわかる。なんというか無自覚にあざといのよね、この子」

「お姉ちゃん……!?」

「とにかく、あたしがウサギに惚れたのは必然だったってことだ。こんなに可愛くて性格が良くて距離感まで近い幼馴染を好きにならないとか、逆におかしいだろ。ついでにめちゃくちゃいい匂いするしな」

「最後の一言必要だった!? うぅうううう……」

 

 そう突っ込みつつ、いつにも増して真っ赤な顔でわたしの妹が呻いている。まあ、当たり前の反応ね。侑咲からすれば、熱烈に口説かれたも同然だもの。

 

 ふふふ、わたしも負けてはいられない。

 

「大言を吐くだけあって、なかなか理解して(わかって)いるじゃない。悔しいけど、話を聞きながら何度も頷いてしまったわ。さすがわたしたち姉妹の幼馴染ね」

「ふふん、だろ? だったらさ──」

「でもね、侑咲の魅力はそれだけじゃないわ」

「ひぃいい!? もう勘弁してぇ……」

 

 いよいよ侑咲が悲鳴をあげ出したが、わたしは止まらない。止まるわけにはいかない。

 

「わたしの可愛い妹はね、()()()()()()なの」

「おおおお姉ちゃん!? なに言ってるの!?!?」

 

 なにって、一番重要なことに決まっているじゃない。ほら、蒼も貴女の背後で静かに頷いてる。

 

「侑咲は昔から色気がすごかったんだから。何しろ、まだ幼かったわたしの性癖をめちゃくちゃに捻じ曲げたくらいだもの。もちろん今も現在進行形でどんどん捻じ曲げられているんだけど。ふふっ、こんなエッチな子、他にはいないわ」

「ギリギリ誹謗中傷じゃない!?」

 

 違うわよ、貴女の魅力を語っているの。とはいえ、これ以上続けると侑咲の前で作り上げてきた姉像が崩れてしまいそうなので、一旦軌道修正を図る。

 

「な〜んて、冗談よ。ふふ、びっくりした?」

「えっ? ……そ、そうだよね! ボクのお姉ちゃんがそんなこと本気で言うわけないよね、うん」

「あたしはそれで誤魔化せてしまうウサギの将来が心配になってきたぞ、割とマジで……」

 

 よし、話を戻しましょう。

 

「侑咲はね、とっても素直で姉想いな良い子なの。この子の姉として生まれたことが、わたしの人生最大の幸運だったって確信しているわ」

「あぅ、そんな大袈裟な……」

「それに、この子が笑うとわたしも笑顔になっちゃうの。だって、こんなにも純真で愛らしいんだもの。ふふふ、まさに天使ね」

「えっと、ボクは天使じゃなくて淫魔だよ?」

 

 そうね、侑咲は淫魔(エッチ)よね。知ってる知ってる。

 

「蒼に対抗するわけじゃないけど、わたしだって侑咲に何度も救われてきたわ。辛いことがあったとき、悲しいことがあったとき、挫けそうになったとき、どんなときでもこの子が隣にいてくれるだけでわたしは前を向けたの。わたしの妹は、人の気持ちに寄り添って真っ直ぐに受け止めてくれる優しい子。幼さを感じさせる容姿や言動と母親のような包容力のギャップに何度脳を焼かれたことか……。しかも、可愛い。すっごく可愛い。とにかく可愛い。美少女という言葉は侑咲の為に存在すると言っても過言じゃないくらい。その横顔を眺めていると全身が喜びに包まれて、近くにいたらいつだって胸がドキドキする。可愛い、可愛い、可愛い! そんな侑咲と生まれた瞬間から、いえ、生まれる前からずっと一緒に生きてきたのがわたし。ね? 好きになるのは当然でしょ?」

「……ああ、そうだな」

 

 姉の逢華と幼馴染の蒼。同じ少女と長年過ごし、同じ少女に恋をしたわたしたちは、誰よりも少女(侑咲)のことを理解していた。考えてみれば当たり前のこと。わたしたちは、どちらともなく手を握り合った。

 

「オオカミの気持ちはよく伝わってきた。本気でウサギが好きだってことも。だけど、あたしだって本気だからさ、譲るわけにはいかないんだ」

「でしょうね、わたしも同じだから分かるわ」

「ただ、どっちかがウサギと付き合い始めた瞬間、あたしたちの関係は壊れるんだろうな……」

「そうね、優しい侑咲はわたしと蒼が決別することなんて望まないでしょうけど……」

 

 先ほどまでの熱量ある語り合いから一転して、わたしたちの間に重苦しい空気が流れる。

 

 侑咲が姉のわたしを振って蒼を選ぶだなんてことは、万が一にもあり得ない。が、もし仮に蒼と侑咲が付き合い始めたとして、わたしは今まで通り二人と一緒に過ごせるだろうか。

 

 否、絶対に耐えられない確信がある。そのとき、わたしは二人の前から姿を消すか、もしくは蒼を……。それはきっと目の前の幼馴染も同じだろう。

 

「そもそもの話なんだけどさ、あたしたちのどっちかがウサギと付き合い始めたとして、その先ひとりであいつを守り抜けるのかって不安も正直あるんだよな。なぁ、オオカミはどう思う?」

「そんなのできるに決まっているでしょ。わたしは侑咲の姉なんだから。どんな手段を使ってでも守ってみせるわ。一応、貴女にもその覚悟はあると思っていたのだけど……買い被りすぎだったかしら」

 

 わたしが失望混じりの視線を向けると、蒼は慌てて首を横に振る。

 

「いや、あたしだってもちろんそのつもりだ。さっきも言ったけど、あたしはウサギのためならなんだってできる自信があるからな」

「なら不安になる必要なんてないじゃない」

「今のはあくまであたしやオオカミの心持の話だろ? ただ、現実はひとりじゃ限界があるってことも、散々思い知らされているからさ……。実際、千野や犬飼のときは、オオカミがいなかったら取り返しがつかないことになっていた。今日だって、あたしたちふたりが揃っていなかったら結構キツかったと思うんだ」

「それはっ…………」

 

 すぐさま幼馴染に言い返そうとして、けれどわたしは言葉に詰まる。

 

 だって、思い出してしまったから。文化祭での出来事を。演劇部員たちに取り押さえられて、すぐ目の前で危機に陥っている妹のもとに駆けつけることすらできなかったことを。あのとき、もし蒼がいなかったら……。ああ、そんなこと想像すらしたくない。

 

「あたし、思ったんだ。幼馴染想いで姉想いなウサギは、あたしたち三人の関係を変えたがらない。というか、どっちか選んでもうひとりを切り捨てるなんてことできないんじゃないかって」

 

 わたしは無言で蒼の話に耳を傾け続ける。

 

「だから、あたしたちがウサギの腕を両端から引っ張り合っていても、なかなか状況は進展しない。けど、そうしているうちにもウサギの周りには次から次へと面倒な奴が湧いてくる。下手したら、鳶に油揚げを攫われる可能性だってないとは言い切れない」

「……つまり、何が言いたいの?」

 

 そう返しつつ、わたしは既に蒼が言わんとしていることを理解していた。わたしと蒼は幼馴染。そして、同じ少女に想いを寄せる同志でもあるから。

 

「あたしたち、とりあえず手を組まないか?」

 

 ほら、やっぱりね。他の誰でもない、蒼という人間だからできる提案。

 

「ウサギが三人の仲を壊したくないなら、三人揃って先へと進めばいい。二択の選択肢が障壁になるなら、ひとまず一本道にして二人で引き摺り込めばいい」

 

 ふふふ。わたしは思わず口元を緩めてしまう。この幼馴染、結構とんでもないことを言い放っているのだけど、その自覚はあるのかしら。

 

「要するに、まずはわたしたち二人で協力して侑咲を堕としてしまいましょうってことね。そして、他の誰かが付け入る隙なんてなくしてしまえばいい、と」

「お、堕とすって……おまえ、やっぱり(ケモノ)だな。いやまあ、べつに間違っちゃいないけどさ」

「ふふっ、貴女も割と大概よ」

 

 わたしと蒼は今、幼馴染で、同志で、ライバルで、共犯者な関係になろうとしている。

 

「いいわ、そのめちゃくちゃな提案に乗ってあげる。ただし、最終的にあの子がわたしを選んだとしても恨まないでね。ふふふふ」

「ああ、ウサギがもし三人より二人の関係の望む日がやって来たら、そのときはそのときだ。当然、あたしを選ぶ可能性だってあるわけだしな。お互い恨みっこなしでいこう」

 

 こうして、似てないけれど似たもの同士なわたしたちはひとつの協定を結んだ。再び手を握り合い、互いに不敵な笑みを向ける。

 

「……ん? あ、あれ?」

「あら、今度はどうしたの?」

 

 そんな最中、突然キョロキョロと周囲を見渡し始める蒼。まったくもう、なんとも締まらない幼馴染である。わたしが半ば呆れていると、蒼が声を震わせながらこう呟いた。

 

「なあ、ウサギはどこ行った……?」

「…………えっ?」

 

 そういえば、話題の中心である侑咲がこの場にいることを途中からすっかり失念してしまっていた。わたしとしたことが、一生の不覚だわ。

 

 わたしも慌てて立ち上がり周囲を見渡すが、侑咲の姿がどこにも見当たらない。そもそも、わたしたちは侑咲を囲んで話していたはずなのに……。

 

「う、侑咲……?」

 

 わたしと蒼は呆然と立ち尽くしたまま、血の気の引いた顔を見合わせた。

 





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