エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
「まったく……。二人とも、どうして本人の前であんな恥ずかしいこと堂々と言えちゃうんだろ」
今だに顔の熱が冷めないボクは、姉たちを置いてひとりで部屋へ戻ろうとしていた。
つい先日告白してきたばかりの二人から誉め殺しという名の羞恥責めを受けていつまでも耐え続けられるほど、ボクの心は強くないからね。姉が長々と語っている隙に、こっそり抜け出してきたというわけだ。
「それにしても、あの二人があんなにもボクのこと好いてくれていたなんてなぁ」
そりゃまあ、大好きな姉と幼馴染から特大の好意をぶつけられて悪い気はしないよ? ただ、正直かなり驚いてもいる。だって、二人とはず〜っと一緒に過ごしてきたのに、まったく気づかなかったんだもん。
とは言え、その想いの強さを知ったからにはボクも相応の覚悟を持って応えなくちゃいけない。
ほんの小一時間前までは、どちらの告白もやんわりと断って「なかったことにする」という選択肢もボクの頭にあった。もしかしたら二人の一時的な気の迷いとか、勘違いの可能性すらあるんじゃないかと思っていたくらいだもん、ぶっちゃけ。
だけど、さすがにそれはもうあり得ないし、そんな
ところで、二人から告白を受けたということはつまり、最低でも一人は振らなくちゃいけないってことで。その事実と向き合うと、今でもやっぱり逃げ出したくなる。二人とも大切な人だから純粋に心苦しい、というのが理由の大半ではあるけれど……そもそもここはエログロ上等な百合ゲーの世界だからね。
この世界の姉や蒼、そしてボクなら、もし本当に付き合い始めたとしても『スズランにくちづけて』のような悲惨な展開には陥らないかもしれない。ただ、振ることで今の良好な関係が壊れたときにどうなるかまでは想像がつかないというか……。実際、作中では告白を断ったり距離を取ろうとした途端にバッドエンドルートへ突入してしまうヒロインも何人かいたし。
「…………んえ?」
そんなことを考えながら部屋へと続く廊下を歩いていると、突然誰かに右腕を掴まれた。びくりと驚き視線を移すと、横切ろうとしていた一室の入り口から四本の白い腕が伸びている。
「うひゃあ!? なになになに!?!?」
まるでこの世界のジャンルが百合ゲーからホラゲーに変わってしまったみたいだ。堪らず悲鳴を上げたその瞬間、ボクの身体が白い腕たちに引っ張られる。小学生女児並みに非力なボクは、抵抗する間もなく部屋の中へと飲み込まれていった。
♢
「きゃはは、まさか昼間の子がうちらと同じ旅館に泊まっていたなんてね。マジでびっくり」
「これはもう運命でしょ、運命。ほら、据え膳食わぬは女の恥って言葉もあるし、思い切ってキミを部屋に引っ張り込んじゃった。そんなわけだから、あんまり怯えないでほしいな〜なんて。にゃはは」
そんな言葉はどこにも存在しないし、今の説明に怯えずに済む要素はひとつもなかったよね!?
「そうそう、麻里奈の言う通り! ってかさ、そんなエッチな表情ばっかり見せられたら、うちが我慢できなくなっちゃうよ? もしかしてわざと?」
「ユズユズってば、そんなこと言ったらますますこの子が怯えちゃうでしょ〜? 気持ちはわかるけど」
いや、そもそも我慢できなかったからボクのこと引っ張り込んだんだよね? これ以上、一体何があるって言うのさ!? うぅう、知りなくもないよ〜!
先ほどボクの右腕を掴んできた四本の白い腕、その正体は昼間ボクに声を掛けてきた二人組のお姉さんたちだった。そして、引っ張り込まれたのは彼女らが泊まっている部屋の中。まさかの再会に運命を感じ……るわけもなく、ボクはただただ困惑していた。
「ねぇねぇ、まずはお話ししよ? キミの名前、お姉さんたちに教えてほしいな〜」
「ちなみにうちの名前は柚葉、隣のタレ目なお姉さんの名前は麻里奈ね。きゃはは、気軽にユズユズって呼んでほしいな! あ〜、でもでも、柚葉お姉ちゃんって呼ばれるのもありかも」
「ボ、ボクの名前? えっと、侑咲だけど……」
あっ、つい反射的に答えちゃった。そういえば、昔お姉ちゃんから知らない人の質問には答えちゃダメって言われたことがあった。あのときは、実質人生二度目のボクに今さら何を言っているんだと、生意気にも半分聞き流していたけれど。
「や〜ん、やっぱりボクっ娘美少女だぁ! 何度聞いてもギャップでキュンとしちゃう」
「へぇ、そっかそっか、侑咲っていうんだ。……名前も可愛いとか反則でしょ! あのね、うちは麻里奈からユズユズって呼ばれているから、お揃いにしてウサウサって呼んでもいい? いい? いいよね!?」
ひぃい、このお姉さんたち、やっぱり怖いよぉ!
ひとりはとろんとした目のまま半分トリップし始めたし、もうひとりのギャルっぽいお姉さんはずっと圧が凄いし……。悪いお姉さんたちと決まったわけではないものの、切実に逃げ出したい気分。こんな目に遭うくらいなら、温泉に浸かりながら姉と蒼から羞恥責めにされ続けている方がまだマシだった。
「お話しは、やっぱりいいや。ユズユズと同じでマリナもそろそろ我慢の限界だから……始めちゃお?」
「きゃはは、麻里奈ってば珍しく
……うん、これは絶対受け入れちゃダメなやつだ。さすがのボクも直感で理解した。ただの百合ゲーならまだしも、成人向けの過激な百合ゲーの世界だもん、ここ。何が起きてもおかしくない。
「えっと、ボク、用事があるので……」
「だいじょーぶ、全部どうでもよくなっちゃうから」
「それ、全然大丈夫じゃないよね!?」
「心配しないで、最初
「寧ろ心配になる要素しかない……!」
そういえば、最近似たような状況を経験したばかりのような。僕の脳裏に犬飼さんとの出来事が蘇る。あのときは姉と蒼が助けに来てくれたんだよね。
思い返してみると、今日だって何度もあの二人に助けられた。たとえば、昼間このお姉さんたちに声をかけられたときとか。
そして、ふと思い至る。鈍感なボクが気づいていなかっただけで、以前からずっと二人に守られていたのではないか、と。そう、ボクが姉をエログロ展開から守り抜こうとしているのと同じように。だって、姉と蒼もボクのことが大好きだったのだから。
好きな相手を守りたいと思うのは至極当然のこと。ボクの
それに、もしかしたらボクももう……。
「どーしたの? 急に黙り込んじゃって……」
「ウサウサの顔、どんどん赤くなってきたんだけど。そんなに期待してくれているの?」
「あ、いや、違……っ!?」
違うから! と言い返す為に顔を上げたボクは、背後の布団に押し倒される。あぁ、マズい。
「マリナたちのこと、受け入れる覚悟を決めてくれたんだね。にゃはは、嬉しいなぁ」
「よーし、ウサウサの期待に応えなきゃだね!」
だから違うって! そう言い返したいのに、何故かちっとも声が出ない。あ、あれ? もしかしてボク、割と本気でビビってる……?
うぅ、せっかくいろんなことに気づいて、姉たちと向き合ってみようと思えたのに。こんなのまるでバッドエンドじゃないか。嫌だ、そんなの嫌だよ。
「…………ゃ、だ」
「なになに、なんて言ったの?」
「おね、が、い……」
「ん? お願い? いいよ、なんでも言って〜」
違う、お姉さんたちに話しかけているわけじゃない。ボクは涙を滲ませながら、必死に声を振り絞った。そんな都合良く届くわけがないと、頭のどこかで理解しながら。それでも、それでも。
「お願い! お姉ちゃん、蒼、助けて!!」
「……よお、ウサギ、やっと見つけたぞ。そんでおまえら、あたしの幼馴染に何してんだ、おい」
「えっ、あ、蒼……?」
「なんだなんだ、この短時間で幼馴染の声すら忘れちまったのか? ってか、オオカミより先にあたしの名前を呼べよな、まったく」
大好きな幼馴染のダウナーな声が耳に届く。そして、長い付き合いで見慣れていてもドキッとしてしまうほどに美麗なその容姿が瞳に映る。
「ふふっ、オートロックと勘違いしていたのかしら? ダメよ、旅先でも鍵はちゃんと閉めなちゃ。こわ〜い狼が入ってきちゃうかもしれないんだから。それと、こわ〜い幼馴染も。ところで貴女たち、今度こそ覚悟できてるんでしょうね?」
「うぅ、お姉ちゃんも……」
「
大好きな姉の柔らかい声が耳に届く。そして、姉妹揃って身長が低く童顔なのに、ボクよりずっと大人びて見える淫魔な姉の容姿が瞳に映る。ついでに、ボクのとそっくりな艶のある尻尾も。
あは、あはは……。この二人にはやっぱり一生敵わないや。際限なく熱が増していく自身の顔を、ボクは両手で覆い隠した。