エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい   作:こびとのまち

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死神は白馬に乗って現れる

 翌日の昼休み、ボクはといえば弁当片手にひとり廊下を彷徨っていた。そんなボクの頭の中を占めているのは、やはり姉との口付けのことである。

 

「うぅうう……困った、本当に困った!」

 

 具体的にどう困っているかって、とにかく気まずくて仕方がないんだよ……!

 

 正直な話、あれ以降まともに姉の顔を直視できないでいる。元凶である姉はいつも通りな様子だから、ボクが一方的に気まずく感じているだけなんだけどね。

 

 たしかに、所詮は唇と唇の粘膜が軽く触れ合った程度のことだ。当然ながら、恋人同士でするようなディープなキスをしたわけでもない。それでもボクは、昨日のことを思い出す度に心が乱されてしまう。

 

 こんな思考を他人に読まれでもしたら、変な誤解を受けそうな気もするけれど……べつに恋愛的な感情や意識が芽生えてきたわけではないよ? そもそも相手は血の繋がった実の姉だし。

 

 話はもっと単純だ。そう、あのときの柔らかく滑らかな感触がいつまでも消えずに残っている所為で、ただただ羞恥心が制御できないだけ……。

 ふん、まるで童貞みたいだと笑いたければ笑うがいいさ。ある意味では正解と言えなくもないからね。

 

 ま、そんなこんなで訳あって、姉と蒼がふたりで話し込んでいる隙に教室から逃げ出してきたのである。

 

「はぁ……ボクってば、ほんとダメダメだなぁ」

 

 そして、そんなボクの行動が、結果として新たなる悩みの種を呼び寄せることになる。

 

 守るべき相手から逃げ出した己の情けなさに呆れつつ、落ち着ける場所をふらふらと探していたボクの背後に、突如として()()は現れた。

 

「やあやあ、そこのキュートなお嬢さん。もしかして今ひとりなのかな?」

 

 ほう、校内でナンパとは珍しいこともあるもんだ。そう他人事のように思いながら聞き流しかけて、ふと立ち止まる。

 

 ……ねぇ、ボクと声の主以外に人の気配がしないんだけど。それってつまり──

 

「ナンパのターゲット、まさかのボク……?」

 

 いやいや、そんなわけないでしょ。と否定する暇もなく背後から答えが返ってくる。

 

「ああ、キミだよキミ!」

 

 どっひゃ〜、本当にそのパターンなんだ……。

 

 そりゃまあ、あの姉と瓜二つの顔を持って生まれたのだから、ボクだってナンパのひとつやふたつくらいされたところで不思議ではない。ただ、前世の記憶がある身としては、まだちょっと慣れなくてさ。

 

 な〜んてね。声の感じからして相手は同性みたいだし、さすがにナンパの線はないと思う。

 

「いや〜、ワタシも今日はひとりでね。同じような境遇の、ランチに付き合ってくれそうな子がいないかなって探していたんだ」

 

 ……あ、あれ? もしかして本当にナンパ?

 

「だからね、もし良かったらワタシに付き合ってくれないかい? ……そうだ、落ち着いて食事できる穴場スポットを知っているから案内してあげるよ!」

 

 うん、これは間違いなくナンパだね。そういえばここ、百合ゲーの世界だったっけ。

 

 好奇心の塊であるボクとしては、彼女の言う穴場スポットとやらに少し興味を惹かれなくもない。が、如何せんまったく知らない相手だからなぁ……。

 

 よし、やっぱり断ろう。

 

「せっかくだけど、今日はちょっと用事が──」

 

 穏便に断るためにと精一杯の笑顔を貼り付けて振り向いた直後……ボクの笑顔は凍りついた。

 

 だって、そこに立っていたのは原作に登場するヒロインのひとり、大路(おおじ) 瑠華(るか)だったから。いやいや、これは不意打ちがすぎるでしょ!?

 

 衝撃のあまり硬直しているボクの姿を目にして、彼女は自分が警戒されていると感じたのだろう。苦笑いを浮かべながら、ぽりぽりと頭を掻いている。

 

「う〜ん、突然の誘いで困惑させてしまったのかな? だとしたら、なんだかごめんね」

「えっと、あの」

「本当のことを言うと、女の子が暗い顔で歩いているのを目にしたら放っておけなくてさ。思わず声をかけちゃったんだよね」

「は、はあ……」

「まあ、要するにそういう性分なんだよ、ワタシは。とりあえず取って食べたりはしないから、そんなに怯えないでほしいな」

 

 一見冷静そうな台詞に反し、彼女の声音にはかなりの必死さが滲み出ている。どうやらボクは、自分自身で思っているよりも顔に出やすいタイプらしい。

 

 ボクの記憶が正しければ、大路 瑠華は主人公よりもひとつ年上だったはず。つまり彼女はボクの先輩というわけだ。こんな風に先輩を困らせ続けるのは、後輩の立場としてあまり宜しくないよね……。

 

 よし、ここは人生二度目の余裕を活かして乗り切ろう。そんでもって、後腐れない形で別れてしまえば面倒なことにはならない……と思う。たぶん。

 

「あなたはたしか、二年生の大路先輩ですよね? ボクの方こそ、失礼な態度を取っちゃってごめんなさい! その……まさか先輩に声をかけられるだなんて思ってもみなかったので、驚いちゃって」

 

 とりあえず深々と頭を下げて、誤魔化すための言い訳をしてみる。想定外の事態に驚いたのは本当だから嘘はついていない。

 

「頭を上げておくれ。悪いのは思慮が足りなかったワタシの方なんだから。それにしても、キミのような可愛らしい後輩に認知されているなんて光栄だね」

 

 大路先輩に促されて頭を上げたボクは、原作のシナリオを思い出しながら内心で叫ぶ。

 

 認知も何も、あんな強烈なトラウマシーン、簡単に忘れられるはずがないじゃないか!? と。

 

 

 

 ──大路 瑠華という少女は、数多あるルートの中でも特に悲惨な部類に入る()()()()()を迎えることになるヒロインだ。

 

 もっとも、彼女自身が凶暴性や残虐性を秘めているわけではない。そう、秘めてはいるわけではないのだが……手当たり次第に同性を口説き落とし、勘違いさせてしまう罪なサキュバスなのである。

 

 しかも、当の本人には口説いている自覚が一切ないんだよね。そのくせ、ほとんど崇拝に近いレベルで惚れさせてしまうというのだから相当にタチが悪い。

 

 そんな彼女が初めて本気で好きになった相手こそ、主人公……つまりはボクの姉なのであった。

 勘のいい人なら、ここまでの説明で大体のオチが読めたことだろう。その読みはたぶん正しい。

 

 さて、イチャラブな過程はこの際すっ飛ばして、さっそくオチの話をしよう。

 

 主人公と大路先輩が複数のイベントを経て恋愛感情を育み、付き合い始めるまではまだ良かった。そこだけ切り取れば、普通に百合ゲーとして楽しめる展開だったし。ただ、付き合い始めたことを大っぴらに周囲へ見せつけてしまったのが拙かった。

 

 せめて大路先輩に女誑しの自覚がほんの僅かでもあれば、バッドエンドを回避するすべもあったのかもしれないが……残念なことに、彼女は()()まで鈍感だった。故に悲劇は訪れる。

 

 嫉妬に狂った女の手によって主人公もろとも滅多刺しにされ、惨たらしい姿で息絶えるラストシーン。画面が真っ赤に染まりゆく中、BGMの裏側で流れ続けていた女の呪詛は今でも耳に残っている。

 

 

 

 さてさて、そんなわけで大路先輩はボク的に最も関わりたくないヒロインキャラのひとりというわけだ。ボクはもちろん姉に死んでほしくないからね。

 

 今度こそすっぱり誘いを断って、一刻も早く彼女の前から立ち去ろう。そう考えたのも束の間、ボクは再び表情を凍りつかせることになる。

 

「ところでひとつ訊きたいんだけど、先ほど暗い顔で歩いていた理由……悩み事の内容って、()()()()()()()()()()()()()なんじゃないかな?」

「……えっ、なんでそれを知って──」

 

 ああぁ、そろそろ胃に穴が空くかもしれない。誰かボクに胃薬をくださ〜い!

 





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