エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい   作:こびとのまち

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演劇少女は名乗りを上げる

「ところでひとつ訊きたいんだけど、先ほど暗い顔で歩いていた理由……悩み事の内容って、キミのお姉さんに関することなんじゃないかな?」

「えっ、なんでそれを知って──」

 

 再び凍りつくボクを見た大路先輩は、心底不思議そうに首を傾げる。

 

「なんでって……そりゃあ、キミたち双子姉妹はかなり有名だからねぇ。学年問わず、知らない生徒の方が少ないんじゃないかな」

 

 ……へ? 何それ、初耳なんだけど!?

 

 うむむ、大路先輩の言葉をどこまで鵜吞みにしていいものか。もしかすると、適当な嘘をついているだけかもしれないし。実際は、最初から姉との接点を作る狙いで声をかけてきた可能性だってゼロではない。

 疑心暗鬼になり始めたボクの傍らで、大路先輩が更なる爆弾を落とす。

 

「それと、これは正直に話すべきかだいぶ迷ったんだけどね……昨日、()()()()目撃してしまったんだ。キミたち姉妹が空き教室で唇を重ねていたところを

「なっ、ななななな!?!?」

 

 ボクは全身から一気に血の気が引いていくのを感じる。なんかもう、いろいろヤバイ。

 

「あぁ、お願いだからそんな顔しないで! もちろん言い触らしたりしないよ? 信じてほしいな」

「ほ、本当の本当に? 黙っておく代わりに何か要求してきたりするんじゃ……」

「いやいやいや、そんな酷いことするわけないよ!? ……あのさ、ワタシに対する後輩からのイメージがちょいと悪すぎやしないかい?」

 

 いけないいけない、だいぶ取り乱してしまった。

 一度深呼吸して気持ちを落ち着かせなくては。

 

「話を戻そうか。先ほど()()キミを見かけたときに、昨日のことを思い出してね。もしかしたら、何か関係があるんじゃないかなって……そう思ったんだ」

すぅうううう、はぁああああ

「…………あれ? ワタシの話、聞こえてる?」

「あっ、ごめんなさい聞こえてます! どうぞ気にせず続けてください! すぅうううう

「そ、そうかい? あはは、キミって意外とマイペースなんだね……。えっと、何の話をしていたんだっけ」

 

 よし、なんとか少し落ち着いてきた。

 その一方で、大路先輩はなんとなく調子が悪そうにも見えるけど……たぶん気のせいだよね。

 

「コホンッ! それで、()()()()目撃してしまったワタシがこんなことを言うのはどうかとも思うけどさ……ワタシになら相談しやすいんじゃないかなって」

「……えっと、んん?」

 

 先輩は一体何が言いたいのだろうか?

 

「だって、キミが抱えている悩みはきっと、他人には打ち明けづらいものなんだよね?」

「それは、まあ……」

「ほら、やっぱりね。その点、ワタシは既にこの目で現場を見ちゃっているわけだから。そんな相手に今さら隠す必要もないだろう?」

 

 なるほど、分かったような分からないような。

 

「そんなわけで、どうかな? 一緒にお弁当でも食べながら、悩みを吐き出してみないかい?」

 

 う〜む、上級生である大路先輩にここまで気を遣われてしまっては、さすがにもう断れないでしょうよ。だってボクは、空気が読めるサキュバスなのだ。

 

 

 

 

 大路先輩に連れられてボクがやってきたのは、小道具が散乱している籠ノ宮高校演劇部の部室だった。そういえば先輩って、演劇部の部長さんなんだっけか。

 

「ようこそ演劇部へ、な〜んちゃって。あはは、昼休みなら基本的に誰も来ないからね。静かにお昼を過ごしたいときは、よくここを使っているんだ」

「ボク、演劇部員じゃないけどいいのかな……」

「ははっ、大丈夫だって。何せ、部長であるこのワタシが無理を言って連れ込んだんだからね。もし他の部員に見つかっても、部活の勧誘をしていたと説明すれば何も言われないさ」

 

 大路先輩、妙に手馴れている感があるな。まさか、こうやって女子生徒を部室に連れ込んで、何人も堕としてきたのでは……って、ダメダメ、どうにも邪推がすぎるね。

 

 などとあれこれ考えつつもなかなか警戒は解けないでいると、先輩が鼻歌まじりに弁当を広げ始めた。何か嬉しいことでもあったのか、分かりやすく上機嫌でテンションが高い。その無邪気な姿に毒気を抜かれ、ボクも隣へ腰を下ろす。

 

 そうして他愛もない雑談を交わしながら一緒に食事していれば、次第に気も緩むというもの。

 だから、弁当の中身も残すは一品のみというタイミングで本題へ切り込まれ、うっかり本音を溢してしまったのは仕方のない事だったのである。

 

「……だって、初めてだったんだもん」

 

 結局のところ、ボクにとって悩みの根幹はそこだった。前世と今世を通して初めての、唇同士で交わす口付け。そいつを全く意識しないなんて、ボクには到底無理なことだった。

 

 一度溢してしまったが最後、本音の濁流はそう簡単には止められない。大路先輩が聞き上手すぎることもあって、ぽつりぽつりと本音が溢れ出てしまう。

 そんなこんなで、昨日起きた一連の出来事についてはほとんど彼女に話してしまった。

 

「そっかそっか。ただ、キミもお姉さんも恋愛的な意味で意識しているわけではないんだよね?」

「うん、それはないと思う」

「とはいえ、唇同士のキスが初めてだったキミは、その相手であるお姉さんといつも通りに接することができなくなっちゃって悩んでいると」

「うぅ、そんな感じ……」

「ふむふむ」

 

 会話に一区切りついたことで、ボクの頭もようやく冷静さを取り戻し始める。

 今更っちゃ今更だけど、初対面の上級生相手にあまりにも赤裸々に打ち明けすぎた。ましてや彼女はヒロインなのに。そんな後悔がジワジワと湧いてくる。

 

 そういえば、最初からこんな近距離で座っていたっけかな? ボクの記憶が正しければ、人ひとり分くらいは間を空けていた気がするんだけど。いつの間にか二人の距離は、肩と肩が触れ合うほどに狭まっていた。

 

 ……なんだか危険な気配がする。大路先輩に話して多少スッキリしたし、さっさと食べ終えて教室へ戻ろう。そう思い、止まっていた箸をデザートのリンゴへと伸ばしたそのときだった──

 

「ならさ、唇同士のキスに慣れちゃえば、キミの悩みは解決するんじゃないかな」

「えっ……?」

 

 おいおい、この先輩は急に何を言い出すんだ。

 

 頭の中に無数の疑問符を浮かべながら、頓珍漢な意見を口にした大路先輩の顔を覗く。と同時に、ボクの唇はいとも容易く強奪された

 

「んっ、んむぅ!?」

 

 密着する唇と唇。驚きと戸惑いの渦に吞み込まれ、もはや何が起きているのかすらも分からない。脱力して倒れそうになるボクの身体は、大路先輩の細い腕によって支えられていた。

 

 しばらくの沈黙を経て、ボクの唇は解放される。

 

「ふぅ、ごちそうさま……なんてね。さて、ワタシと唇を重ねてみた感想はいかがかな?」

「あわ、あわわわわ!?」

「あはは、初々しくて可愛らしい反応だ」

 

 あ、あれ? ボクは今、目の前にいるこの先輩とキスをしてしまった……んだよね?

 

「せ、先輩はなんでそんな平然として……」

「そう見えるかい? ま、演劇を続けていると、お芝居の中でキスをすることもあるからね」

 

 あんなことをした直後とは思えないような涼しげな顔で、白い歯を見せて喋る大路先輩。ボクの目線は無意識に彼女の唇へと引き寄せられる。

 

「そんなわけだから、ワタシでよければまたいつでも練習相手になってあげるよ」

「っ!?!?」

 

 これは……ダメだ。こんなのは反則だ。ひと目でサキュバスだと確信できるほどの麗人に、こんな距離の詰め方をされて堕ちない乙女などいるものか。

 そりゃあ勘違いして妄想をエスカレートさせてしまう被害者が絶えないわけだよ。

 

 何よりも恐ろしいのが、原作の結末を知っているこのボクですら顔が熱くなっていること。割と酷いことをされたはずなのに、嫌悪感すら抱いていない。

 

 ……うん、早々に逃げないといろいろ取り返しがつかなくなりそうだ。のこのことヒロインについて来たのは失敗だった。あとでしっかり反省しよう。

 

「つ、次の授業の準備があるので……! そろそろ教室に戻りましゅ」

 

 急ぐあまり舌を噛むボク。うぅうう、不幸だ。

 

「あはは。声を掛けてくれれば、またいつでも相談に乗るからね。もちろんキスの練習でも構わないよ」

「んぐっ……!? コホッ、ケホッ」

 

 慌てて口に放り込んだリンゴが喉に詰まりかける。堪らずボクは咽せながら、空になった弁当箱を抱えて部室から逃げ出した。

 

 

 

 

 ボクのセカンドキスという大きいのか小さいのか分からない代償を払って、今回確信したことがある。

 

 『スズランにくちづけて』のヒロイン、大路 瑠華。彼女だけは絶対に姉と関わらせてはいけない。どう考えても碌なことにならないから。

 

 つい先ほどまで姉相手に気まずさを感じていたことなどすっかり頭から吹き飛んで、ボクは姉の待つ教室へと駆けていくのであった。

 





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