エログロ上等な百合ゲー世界に転生したTS淫魔さんは双子の姉を守り抜きたい 作:こびとのまち
「……おかしい。やっぱりおかしいわ」
いつも以上に心ここに在らずな様子の妹を自分の席から眺めながら、わたしは独り言を呟く。
「何がおかしいんだ? オオカミの頭か?」
「……えっ?」
おっと。侑咲を眺めているうちに、いつの間にか四限目の授業が終わりを迎えていたらしい。菓子パン片手にやって来た蒼が、わたしの背中をポンと叩く。
「いえ、そうじゃなくてね……って、今どさくさに紛れてわたしのこと罵倒しなかった!?」
「身に覚えがないな、気のせいだろ」
「そ、そう? ならいいんだけど」
なんとなく誤魔化された気がしないでもない。が、ここは目を瞑ることにしよう。そんなことでいちいち口喧嘩していられるほど今のわたしは暇じゃないし。
「で、何がおかしいんだ?」
「何がって……まさかとは思うけど、蒼ってば幼馴染なのに何も感じていなかったの?」
わたしのそんな返答に蒼は一瞬顔を顰めたものの、結局何も言い返す言葉が浮かばなかったらしい。いじけてフンと鼻を鳴らし、身体ごとそっぽを向いてしまった。大人びた外見の割に、いつまでも子ども染みた性格をしている困った幼馴染である。
「も〜、そうやってすぐ拗ねないの。まったく、仕方がないわね……。ほら、数日前から侑咲の様子がちょっぴりいつもと違うじゃない?」
正確には、先週の金曜日から。普段からぼーっとしがちな妹ではあるが、ここ数日はそれが目に見えて重症化している。今だって、授業が終わったことにすら気づいていない様子だし。
いやまあ、つい先ほどまで似たような状態だったわたしが言えたことじゃないけど。
「あぁ、なんだそのことか。あたしはどうせオオカミがまた何か余計なことをしたんだろうなと思っていたんだが……もしかして違うのか?」
「それは……ち、違わないけど、違うのよっ」
たしかにあの日の前日に少々やらかしてしまった自覚はある。正直あれはやりすぎだった。
一応言い訳をさせてもらうと、わたしだって最初から侑咲の唇を奪うつもりはなかったのよね。
ただ、妹の羞恥に染まった表情を見ていたら思わず魔が刺してしまったというか……。結果として、意識する間もなく勝手に顔が動いていた。
「ぬぅうう……」
侑咲がどれほどチョロくて鈍感な子でも、さすがに限界ラインはある。こんなことばかり繰り返していたら、そう遠くないうちにわたしの秘めた想いがバレてしまうだろう。それはマズい、非常にマズい。
そんなわけで、次回からはもう少し自制できるように努めたいと思う。自制し切れる自信はないけど。
「はぁ? 違わないけど違う? なんだそりゃ」
「あ〜もう、察しが悪いわね! わたしもたしかにやらかしてはいるけど、それと侑咲の現状はたぶん関係ないってこと! わかった?」
「お、おう……」
理不尽な逆ギレ女を見る目で蒼が頷く。うん、たしかに今のはちょっと理不尽だったかも……。
でもでも、本当にわたしのやらかしとは別な何かが絡んでいると思うのよ。
思い返してみると、空き教室でやらかした直後にも侑咲が気まずそうにしていた期間はあったけれど……翌日の昼過ぎにはすっかり元通りだったからね。今わたしが感じている違和感はそれとはまた異なる。
というか、その気まずそうにしていた期間と入れ替わるように、侑咲の意識が散漫になったような気がしないでもない。
それとなく本人に理由を聞いてみても「べつに何もないよ」の一点張りで、逆に何か言いたくないこと、言えないことがあるように思えた。侑咲は顔や態度にすぐ出るから分かりやすいのよね。
そして、そんな彼女を見るたびにわたしは漠然とした
わたしの次くらいには侑咲と親しい蒼もきっと同じ感覚に襲われているのだろうと思っていたら、実際は全然そんなことなかったみたいだけど。やれやれ、所詮は只の幼馴染か。
「ま〜たバカにされている気がするぜ……」
「あら、今度は察しが良いじゃない」
「…………あたし、泣くぞ? 泣いちゃうぞ?」
蒼の肩ががっくりと落ちる。
「……それで、あたしと違って察しが良いオオカミさんは、結局何が原因だと睨んでいるんだ?」
「えっ? そんなの分からないわ」
「おい」
ちょっ、何よその呆れ果てたような目は!?
とりあえず最後まで話を聞きなさいっての。
「原因は分からないけど、それ以外ならある程度まで推測が可能よ。例えばそう……怪しいのは先週の金曜日、昼休みの時間帯ね」
あの時間、教室から消えた侑咲がどこで何をしていたのかわたしはよく知らない。
その理由は至ってシンプル。我が妹はキスの件で照れているだけなのだと思い込み、余裕ぶって
今となっては、軽率な判断だったと反省し後悔もしている。調子に乗っちゃダメね、本当に。
「あ〜、なるほど。もし侑咲の身に何かあったのだとしたら、たしかにあのときなのかもな」
「ふふん、そうでしょ? そう思うでしょ?」
「いや、そんな得意げに鼻を伸ばせるほど鋭い意見ではないぞ? というか、そのくらいならあたしだって少し考えれば分かるって」
……この子、いちいち水を差さないと気が済まないのかしら。たしかにその通りだけど。
「ともかく、こうやって二人でぐだくだと話していても、何も解決しないと思うぞ」
そう言ってあたしに手を伸ばす幼馴染。わたしはポカンとしたまま首を傾げる。
「だからほら、さっさとウサギのところへ行って、飯食いながら直接本人に訊いてみようぜ」
「……訊いたって何も教えてくれないわよ? わたし、何度か話してみたんだから」
「そんなの、オオカミの探り方がヘタクソだけだろ。ヘヘッ、ここは幼馴染であるあたしに任せな」
あぁ、その言葉を聞いて頼もしく感じてしまったことが悔しい。そして同時に、少し嬉しい。
この幼馴染は、偶にこういうところがある。だからわたしは彼女のことを──
「よっ、ウサギ! どうした、いつにも増して上の空じゃないか。ったく、もう昼休みだぞ?」
「……へっ? 昼休み!? あわ、あわわわ」
「ほらほら、早く一緒に飯食おうぜ。あたし、三限目あたりからずっと腹減ってんだよ」
蒼に話しかけられて正気に戻る侑咲。わたしも遅れて合流し、机の上にお弁当を広げる。
ちなみに今日のお弁当は、侑咲による愛
「おっ、今日の弁当担当はウサギか! おまえの作る卵焼き、めちゃくちゃ美味いんだよなぁ」
「えへへ、ありがと」
わたしの弁当箱を覗きながら蒼が舌舐めずりする。まったく、はしたないんだから。
「というわけで、あたしにもひとつ頂戴、姉ちゃん」
「あげるわけないでしょ、侑咲がわたしのために愛を込めて作ってくれたお弁当なんだから。それと、貴女みたいな生意気な妹を持った覚えはないわ」
そんなふざけたやりとりで侑咲の気が緩み切るタイミングを見計らい、蒼が本題へ切り込んだ。
「で、最近おまえの身に何があったんだ? ウサギ」
「…………えっと、なんのことかな?」
ほらね、やっぱり侑咲は誤魔化そうとする。わたしがなんとかして聞き出そうとしたときと似た反応だ。間の空き方から察するに、質問の意図はちゃんと理解しているでしょうに。
「いや〜、ぶっちゃけオオカミがかなり心配しているみたいでさ。あたしとしても、さすがに放ってはおけないなって」
「ちょっ、貴女いきなり何を……!?」
予期せぬ話の展開に慌てたわたしは前のめり、机がガタンと音を立てる。
「お、お姉ちゃん。そんなにボクのこと……」
恐々としながら侑咲に視線を向けると、彼女は両目をまんまるにして驚いている様子だった。そして暫くうんうん唸った末に、ようやく重い口を開く。
「えっとね、実はこの前──「お昼時に失礼、小日向 侑咲さんはいるだろうか?」
まるで侑咲の言葉を遮るかのように響き渡る部外者の声。聞き慣れないその声の主は、すぐに目当ての少女を見つけ出した。
「見〜つけた! あはは、数日ぶりだね。会いたかったよ、ウサギちゃん」
わたしは瞬時に理解する。