蝗GAY見てたら降りてきた

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飛蝗MAN

 ある時青年が目を覚ますと、その体は巨大な飛蝗(ばった)の怪物へと変貌していた。

 

「な、何じゃこりゃああああああああああああ!?」

 

 山林に響く濁った声。

 その声の大本に居たのは、異形の怪物。

 

 飛蝗。それをそのまま人間大にして更に六本の足を四本の人間の腕、並びに逞しい人間と飛蝗のハイブリットのような二本の足へと変えた異形。

 

 そんな異形は今、己の四つの掌を見下ろして叫んでいた。

 

「な、何がどうしてこうなった!?腕が二本増えているのか!?わ、訳が分からん……!周りはよく見えるし、森か、ここ?」

 

 直立する事が出来ない構造上、後ろ二本の腕を足と同じように宛らゴリラのようにつきながら異形は周囲を見渡した。

 視力はさほど良いとは言えない。それでもある程度の距離までは見える。

 どちらかというと、優れているのは動体視力か。頭上を飛ぶ鳥の羽搏きも数を数えて余裕があるほどだ。

 周囲の情報を集めていくうちに、彼はある程度の冷静さを取り戻していった。同時に、自分がこうなる直前に関しても思い出す。

 

「…………そうだ俺、車に撥ねられて……」

 

 体を濡らす雨粒と遠退いていく意識。流れ落ちていく血と、何処が痛いのかも分からない痛み。

 

 それから、泣いていた誰か。

 

「…………」

 

 改めて、異形は己の四つの掌へと視線を落とした。

 化物だ。掌を見下ろすついでに視界に入ってきた醜い胴体から容易に自分の今の姿は想像する事が出来る。

 ゲームや漫画、アニメなどならまず間違いなく敵キャラ。

 

 だが、

 

「知った事じゃねぇ……!」

 

 拳を固く硬く握りしめる。

 異形の前世は、気に入らない事を拳をもって黙らせるような、そんな血の気の多い憤怒の化身のような男だった。

 怪物と成り果てようとも、その性根は早々には変わらない。寧ろ、不甲斐ない前世の自分に対する怒りすら腹の底から滲み出てくる気がした。

 

 これは、蝶の羽搏きならぬ、飛蝗の羽搏き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月31日ハロウィン。

 この日こそが世界の命運を分ける、分岐点。

 

「誰か、助け……!」

 

 仮装をした女性に、最早人の姿をしていない改造人間が襲い掛かる。

 その不揃いな大きな歯が肉を噛もうとしたその瞬間、その体は大きく弾け飛んでいた。

 殴り飛ばしたのは、二本の太い丸太のような右腕。

 

 女性を助けたのは、これまた異形。

 人間大程にもなった飛蝗だ。

 

 しかし、女性はその異形には気付かない。いやそれどころか、()()()()()()()()

 飛蝗にとってそれはどうでも良い事だった。

 彼の目的は、ここ渋谷に張られた大規模な黒い幔幕の様なものの中を一掃する事。

 

 理由は、ムカつくから。彼は日本全国を跳び回りながらこうやって自分と似た異形の怪物を今日まで狩ってきた。

 そして今日もそれは変わらない。

 

「ハァァァ…………」

 

 人と飛蝗の口を足して2で割ったかのような口が開かれ白い蒸気が漏れる。同時に、その両足が傍から分かるほどに膨らみ、溜められた力が爆ぜた。

 それは、宛ら暴風の如し。大抵のものには影を追う事で精一杯であろう速度も、動体視力に優れる昆虫の目を持つ飛蝗には止まって見える。

 

 殴り、咬み千切り、蹴り、突進。人の群れを縫うようにして、化物飛蝗は跳び回っていた。

 

 改造人間程度ならば、物の数ではない。そのまま自分と同じような異形も複数巻き込みながら蹂躙していく。

 

「!」

 

 その道すがら、気付く。近くの駅から濃密なまでの力の圧が発せられている事に。

 飛蝗の動きは早かった。両足に力を込めて、アクリル製の窓を突き破ってその内部へと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 果てしない相手の体力。

 

(この他にも、特級相当がゴロゴロと……)

 

 サングラスの下で目をほめて、七海建人は相対する蛸頭の異形の怪物(特級呪霊)へと斬りかかる。

 彼だけではない。禪院直毘人と禪院真希の二人もまた躍りかかる、が如何せん決定打に欠ける。

 七海の術式、“十劃呪法”は一定の範囲を十等分し7:3の地点にクリティカルポイントを造り出すというもの。そこに一撃を決めれば、格下ならば一撃。格上であっても相応のダメージがある。

 直毘人の術式は、“投射呪法”。自らの視界を画角として、一秒間の動きを二十四分割して予め設定し、これを自身の体で後追いするというもの。過度に物理法則や軌道を無視した動きを作る事は出来ず、失敗すると一秒間強制的にフリーズしてしまうデメリットはあるものの、裏を返せば過度でなければある程度の物理法則は無視して加速を可能として、尚且つ術式の重ね掛けをする事で速度は青天井に増していく。

 真希は術式を持たないが、その身体能力は一般人のソレではない。呪術師として見るなら力不足は否めないが、それでも呪具の扱いは中々のもの。

 

 その三人がかりでも、呪霊陀艮を押しきれない。

 

 しかし、それは陀艮も同じ事。大ダメージこそ受けないが、いまいち攻め切れない。

 この膠着状態を打破するために、扱おうとするのは呪術戦の到達点。

 だが、

 

「――――ハァァァ……!!!」

 

 アクリルガラスを突き破って、何者かがこの場へと飛び込んできた。

 突然の事態に四者の動きが止まり、その間に着地するのはこれまた陀艮とは別系統の異形の姿。

 

(呪霊の増援……!)

 

 七海が顔を顰める。

 現れた人間大程の飛蝗の異形。その逞しい四本の腕と、人間と飛蝗の足を足して2で割ったような足を持つ呪霊は温度の無い目を四者へと向ける。

 呪霊側への戦力増強は、呪術師側にとって不利になる。

 しかし、事はそう思い通りには運ばない。

 

「がァァアアアア!!!」

 

「なっ!?何故私に向かってくる!?」

 

 飛蝗が襲い掛かったのは、陀艮だった。

 その発達した脚力で跳び上がり、猛然とそのぶっとい二本の左腕を平行に並べてのラリアットを敢行。

 防いだ陀艮だったが、腕が二本の彼ではもう一本の腕を防げず諸、腹に叩き込まれてその体は近くのエスカレーターの壁面に叩きつけられていた。

 瓦礫に埋もれる陀艮。そこに、翅を広げドロップキックを叩き込む飛蝗。

 

「舐めるなァアアアア!!」

 

 しかしこの蹴りは、陀艮の操る水の壁によって阻まれていた。

 弾かれた飛蝗は、空中で姿勢を制御し着地。その牙のような顎をがちがちと噛み合わせ威嚇している。

 

 宛ら、怪獣映画。状況についていけないのは、呪術師側だ。

 

「おい、いつ呪霊操術の使い手が味方に付いた?」

 

「そんな話は聞いてません」

 

 直毘人へと答えながら、七海の思考は止まらない。

 

(味方……いや、呪霊である事に変わりが無いのなら油断は禁物)

 

 冷静に場を俯瞰しながら、しかしある意味で決定打を打てる者が参戦した事は確か。

 今も、陀艮と殴り合う飛蝗はその四つの拳に、或いは足へと呪力を纏わせて真正面から特級呪霊と張り合っていた。

 押しているのは、飛蝗だ。その馬力と格闘センス更に淀みの無い呪力コントロールは凄まじいの一言に尽きる。

 だが、陀艮には奥の手がある。

 

「領域――――」

 

「ガウッ!!」

 

 組もうとした両手を、真正面から喰い千切る。

 陀艮の両手は人の頭を掴めそうなほどに大きいが、飛蝗の口はその組まれた手を手首から喰い千切れる程度にはデカい。

 如何に特級呪霊といえども、逆再生のように再生させる事は出来ない。

 陀艮の腹部に蹴りが突き刺さり、その体は再び近くのエスカレーターへと突っ込んでいた。

 

「……兎も角、今の内に先を急ぎましょう。このままあの二体が戦い続けるのなら、五条さんの封印を解く方が先決です」

 

「いやぁ?そう事は上手く運ばん様だぞ」

 

 七海の言葉へと、僅かに苦みを含みながら返すのは直毘人。

 呪術師たちが未だにこの場に残っていたのは、彼らの進行方向で化物たちの闘争が行われていたからに他ならない。

 未だに決めあぐねる。突然乱入してきた飛蝗呪霊は味方なのか敵なのか。

 もし仮に、全てに噛み付くのならば、敵の戦力は二倍となったに等しい。

 ただでさえ、今の呪術師側には特級呪霊を祓える者がいない。いや、実績はあるものの特級の上位層にあたる存在を祓えないのだ。

 

 その遅すぎる判断が、致命的だった。

 

――――領域展開 『蕩蘊平線(たううんへいせん)

 

 一瞬で世界が書き換わる。

 呪術戦の極致。術師の内に在る、生得領域を結界という形で外界に顕現させ、術式効果に必中と術者へのバフを齎す。

 切り抜けるには、自身も対抗して領域を発動する。若しくは、領域を発動した者を打倒する。抵抗するだけならば、シン・陰流の簡易領域や御三家秘伝の術なども存在していた。

 

 そこは、死地と呼ぶには余りにも穏やか。

 燦々と照り付ける太陽と、穏やかな海。僅かな森林と白い砂浜が広がる南国のビーチ。

 

 その砂浜から離れた穏やかな海に、陀艮は腰ほどまで浸かって立っていた。

 

「海の恐ろしさを知れ……!」

 

「ッ!?」

 

 瞬間、飛蝗の左腕の一本。その付け根辺りが大きく抉れる。

 何が起きたのか。見れば、腕の近くを口元を汚した魚のような式神が宙を漂っているではないか。

 これこそが、陀艮の領域の必中効果。

 生命の源でもある海への畏怖を基とする陀艮の、無制限に呼び出し続ける事が出来る式神の群れ。

 

 死累累湧軍(しるるゆうぐん)

 

 恐るべきはこの式神、対象に当たる寸前まで()()()()()

 故に、如何に動体視力に優れ、尚且つそれに連動した反射神経を持った飛蝗であろうともほぼほぼ一方的に食い荒らされる事になった。

 

「がぁぁぁあああああああ!!!」

 

 腕を振り回し、足を振り上げ、翅を広げようとも、式神の猛攻は止まらない。

 その場から跳び上がろうが式神は追いかけてくる。陀艮を潰そうにも、そもそも近付けない。

 

 瞬く間にその異形の体は式神の群れに消えて――――

 

 

 

「――――変、身……!!!」

 

 

 

 小さく聞こえた声。同時に、式神のボールが大きく弾け、血飛沫が舞った。

 

「呪胎、だったのか……!?」

 

 戦慄、という他ない。

 先程まで式神たちに喰い千切られていただったの姿は、()()()()()()

 代わりに居るのは、膝をついた萌黄色の人型。

 立ち上がったソレは、二メートル弱の身長を持ち、飛蝗の装甲が鎧のようにその全身を包んでいる。

 頭部には二本のアンテナと、マスクの様に閉じた牙。それからルビーを削り出したかのような宝玉のような目。

 両手足の指先には鋭い爪があり、脛と前腕には鋭い棘のような部位まである。

 

 飛蝗男は、その鋭い爪を有した左人差し指を陀艮へと向けた。

 

「終わらせようか」

 

「ッ、調子に乗るな……!!」

 

 突っ込んでくる飛蝗男へと陀艮の式神が襲い掛かる。

 どれだけ速かろうと、術式の必中は絶対。その鋭い牙が対象の肉へと食らいつき、

 

「ブッ!?」

 

 陀艮の顔面へと、拳がめり込んでいた。

 吹っ飛ばされる異形の肉体。殴り飛ばしたのは言わずもがな、飛蝗男。

 その肉体には式神が食らいついているが、先程までの化物飛蝗の状態とは肉体の強度が雲泥の差だった。

 具体的には、牙はめり込んでも食いちぎる事は出来ない。仮に穴をあけられても、冗談のように再生している。

 体術も、更に向上。加えて、新たに獲得した腕の棘と、指先の爪は強力な武器となる。

 

「ぐぅ……!!」(私の式神を、薄紙の如く……!)

 

 壁として現れたグソクムシのような式神が、まるで豆腐のように引き裂かれる。

 

 虫の中には翅を高速で擦り合わせる事で、音を発する者がいる。

 

 飛蝗男の爪は、その応用。超振動を起こす事で圧倒的な鋭さを得ていた。

 元々遠距離攻撃など無いに等しいからこその、より近距離における優位性を確立したこの姿。

 最早、陀艮に勝てる要素はない。

 

「何だ……!何なのだ、貴様は!」

 

「はあ?」

 

「呪霊でありながら、何故人間に与する!?我々の目的を――――」

 

「ウルセェ」

 

 喚く陀艮の顔面に再び拳がめり込んだ。

 そこから始まる、両腕のラッシュ。

 

「人間なんざ、どうでも良い。お前ら化物も、どうでも良い。だがよォ、戦争ごっこがしてぇなら堅気に迷惑かけてんじゃねぇよ」

 

 宛ら機関銃の如し、拳のラッシュの中で飛蝗男は持論を展開する。

 

「お前ら全員気に入らねぇ。だから全員、ぶっ壊す。それだけだ」

 

 更に速度を増すラッシュの中で、()()()()()()()()()

 瞬く間に陀艮の原型は無くなり、やがて黒い靄となって消滅していく事になる。

 

 領域が砕かれ、元の場所へと戻ってきた。そこで、飛蝗男は呪術師たちへと向き直った。

 

「次は、お前らだ」

 

 閉じられた牙が開かれ、獰猛な飛蝗は激情のままに暴れ狂う。










飛蝗男

転生者兼憑依者。ただし前世の記憶は有って無い様なもの。
自分の気に入らないものには何でも噛み付く狂犬っぷりであり、前世はそれが原因で大分恨まれてもいた

転生後は自身の赴くままに暴れ回り、呪霊、呪術師双方に小さくない損害を出していたのだが、前者はそもそも組織が存在せず、後者は面子保身のために広く知られる事は無かった。

変身前の時点で、近接特化の2級呪霊(術式が無い為)。呪力操作に優れ、この時点で数度の黒閃を経験済み

変身後は、特級呪霊。体術に特化しており、遠距離攻撃手段がほぼ無いがその一方で体術で勝る者は片手で足りる程度

元ネタは、仮面ライダーシン

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