目が覚めたら古代メソポタミアにいたんですが 作:加藤ブドウ糖液糖
――一粒の砂に世界を見、
一輪の花に天を見るために、
お前の掌に無限をつかみ、
一瞬の間に永遠をつかめ。
ウィリアム・ブレイク『無垢の予兆』より――
世界四大文明であるエジプト文明の最初の輝きは、第一王朝の成し遂げた太陽暦の採用、象形文字の発明、そして上下エジプトの大統一事業である、と言ってもさほど間違ってはいまい。紀元前3000年頃、偉大なるファラオであるネメス、あるいはナルメルが、上下エジプトの境界であった場所に新しき都を築く。その街の名はメンノフェル――つまり、ギリシア語でメンフィスである。分裂していた上下エジプトを繋ぎとめるための楔としてか、あるいはその場所がナイル川河口の要衝だったことも一因であろう。
メネス王の名は現存の遺物には残されていない。よって我々は後世の引用から彼の生涯を想像しうるのみであるが、残念ながらその文献的にも、史的事実を反映したものは少ないと判断せざるを得ないだろう。彼はホルスから玉座を受け、ナイル川の流れを変えたとされている。万軍を率いて国家の敵を討ち果たし、砂漠の民に栄光を齎した王。これらの記述をすべて信じることは難しい。だが、たとえそれらが偽りであったとしても、依然として偉大な王であることに変わりはない。人類史において先例のない場所に、全く新しいものを創造しようとすることの難しさを、私は何度も見てきた。
時が経ち、エジプトはゆっくりと、しかし確実に一つのまとまった形を成すだろう。文明はナイルの豊かな養分を吸い上げて、巨大な花を咲かせる為の茎を、根を、肥沃な川辺に伸ばす。第一王朝、第二王朝とはいわば、王権と習慣の確立期であった。偉大なる花は第三王朝、第四王朝に光を放つ。第五王朝でも、まだその光は消えはしない。
しかし、花はいずれ枯れるものである。エジプト第六王朝のファラオであるペピ二世の長い治世において、地方を統治するノマルコスの権力は日々伸長していくだろう。彼の晩年には数々の地方で反乱が起き、異民族達がこの機を見逃すことはないだろう。高官は王権を弄び、七十日の内に70人のファラオが立つ。
そのような時代にあって、メンフィスの残照に映えた王の後姿を、私はまだ覚えている。
――その名はニトクリス。当時のエジプトの女王、第六王朝最後のファラオであった。
「今日も宴会じゃ! とびきりのものを焼くがよい」
「へえ、お任せください」
「うむ! そうじゃな、パンの中に肉をたっぷり詰め込むというのはどうか。わしの権威を示すのだ、客をあっと驚かせるようなものでなくてはいかん」
「あっと驚く、でごぜえますか」
「さようじゃ。なに、おぬしの一族は昔からそれだけが取り柄と聞く。すぐにでも完成させてみせよ! 出来なければ手首を縛り、魔獣で砂漠を引きずり回してやるぞ――」
――パンの注文が増えるのはよろしいが、それ以外はもう本当にダメダメである。この国も早晩滅ぶだろう。かれこれ何百年焼いているのか、ふかふかの丸パン生地に溶いたダチョウの卵を塗りながら、そう考える。ここまで態度のすごい富裕層というのは流石に少ないのだが、王宮がボロボロなのは想像に難くない。いや、一番最初にウルクにいたのは幸運だったのだなあ。外敵との小競り合いも凌げたうえに、餓死者も今のエジプトに比べれば非常に少ない。メソポタミアの外敵はまだ強いわけではなく、守るべき都市もたった一つであった。第六王朝の惨状を見ると、心底そう思う。
「ギルガメシュ様……」
昔の生活を思い出すと、そりゃ涙がちょちょ切れるわけである。エジプト第四王朝においては、ギザには輝かしい三基ピラミッドと大スフィンクスが建立される。続く第五王朝にあっても栄光は続いた。ピラミッドの規模は小さくなったが、それは国が貧しくなったからではなく他のプロジェクトが増えたからである。代わりにラーの太陽神殿があちこちに建立され、依然として活気のある国であったことは疑いない。その頃は王宮にも活気があり、私も他の区画で働く機織りや彫刻家に、おいしいパンの焼き方を伝授しに顔を出したものだった。
第六王朝でも、安定した治世が続くかのように思われた。華々しさはなくとも、ペピ二世の前半の治世にはそれなりの安心感というようなものがあるからだ。はじめはよかった。地方長官にあるていどの権限を認め、しばらくは均衡が保たれたわけである。だが、彼の在位は90年にも及んだ。その末期には、よぼよぼのファラオに代わって権力を握ろうとする臣下も出てくるのだ。民は力強い王の翼の下に集っている。その羽根が抜け落ち衰えれば、畢竟その下の人びとは死ぬか、または逃げ出すしかないのである。
「おや……」
休憩に入ると、一羽の鳥が飛んできた。何か指輪を咥え、私に差し出そうとしている。アトラス院のところの使い魔であろうか。300年も経ったというのに律儀なことだ。あるいは今の今まですっかり忘れていたのかもしれない。そちらの方があり得そうなことだが、まあ、どちらだっていい。込められた魔術が気配遮断だろうことはすぐに分かった。宝石がはめ込まれた部分が回転式になっていて、そこを捻ると装着者の魔力を吸収し回路が作動する。ほとんど姿が見えなくなるに違いない――これはやはり、逃げろということか。この場所もきな臭くなってきた。しかし――
「――ずいぶん雑だねえ、クルドリスの作にしては」
ここを離れた方がいいのは分かっている。しかし、どうにも決めきれない。使い魔であるトキの目を覗き込み、飼い猫にするように首のあたりを撫でてみる。ひどく嫌がられた。はっはっは。誰もいない部屋で一人ごちる。
「今は、まだ若いファラオなんですよ。同じく幼い兄弟以外は誰も味方してくれない。兄弟の仲すら割れている。暗いものです、あれがどうして太陽の子だと思えるものか」
今年はメルエンラー二世が即位した。彼が名乗るファラオの称号は、第六王朝末期に奇妙な変化を遂げる。"ラーの化身"から、"ラーの御子"という称号に変わったのだ。むろん、王は依然として神そのものである。しかしながら、少なくとも太陽神ラーに対しては、ファラオは化身から子供へとその地位を落とされてしまったのである。
「ですがね、それが、なんともおいしそうに私のパンを食べてくれるんだ。あのような椅子にいて、味がしなくても不思議ではないのに」
もう少しだけここに居るつもりだった。この期に及んで、どうにも優柔不断なたちらしい。私が指輪を受け取ると、トキはアトラス山脈の方へと飛び立っていった。
――メルエンラー二世の在位期間は、わずか一年にも満たない。有力者たちの動きは早い。お飾りだったはずの王が動き出そうとしているのを見るや、彼らはすぐさま背中に刃を突き立てた。まあ、死に体の国に、満足な終わりなどありはしないのだ。
「そうか。それはまあ、そうなるな……」
悲劇は連綿と続いていく。無量の砂漠には、幾多の高貴な血が吸い込まれていく。ミイラの処置を行うための、陽の当たらない小部屋の片隅に、かつてファラオだった人間の遺体はあった。元より傀儡だった人間である。事が終われば、もはや重たい神輿を担ぐ必要はない――次はもっと操りやすい王ならばよいが。体液に濡れた長い鉤が、神聖なファラオの鈍色の脳みそを引きずりだしていく。苦労話をするつもりもないが、私もそれなりに生き、数多くの死体と戦場を見てきた。この仕事にも慣れたものだ。
「……腐敗が遅い。さすがはファラオというか、何というか」
だが、気持ちの折り合いをつけることは然程上達しなかった。それを不思議に思いながら、青銅のメスで彼の腹を裂く。作り物の様に鮮やかな桃色をしていた。指がとぷりと濡れる。温い血が爪の隙間に入り込んだ。血液感染症にならないよう留意しつつ、筋肉の膜の中から内臓を取り出し、カノプスの壺の内に一つ一つ収めていく作業に入る。彼の肝臓はずっしりと重たくて、毒蜘蛛の赤い瞳の色をしていた。私のパンを納めていた胃の腑を、精巧な山犬の壺の中にしまい込む時は手が止まった。とはいえ全体的な手際は悪くない。精製されたヤシ油での腹腔の洗浄、桂皮や砕いた香草、没薬で彼の体内を埋める。歴代のファラオに、せめて身形だけでも劣ることのないように、丁寧に体を縫い合わせた。
ミイラがナトロンの中に沈んでいく段になって、次代のファラオが官吏に連れられ姿を現した。
「…………」
「ご覧下さい、ニトクリス様。これがメルエンラー二世の御姿です」
「……お前が、私の兄弟をミイラに?」
「はっ」
「そうか。……大儀である」
新しいファラオからは、大儀である、との言葉をいただいた。ニトクリスという名前のファラオだ。女性だった。
前2184年ごろ、ニトクリス女王の即位式は恙なく行われた。大臣たちはこの手の儀式に慣れている。言うまでもないことだが、ファラオは彼らの手によって創られるのだから。即位後の祝宴のために、私も気が遠くなるほどの仕事をこなした。何か口にするときも、常に彼女の目は濁っているように見える。本来、それが当たり前なのだ。いつ殺されるかもわからない玉座に就き、常に毒が入っていないか気を配りながら食べる食事に、笑顔が浮かぶはずもない。
「そうか。お前が……あれだな、お前はあれだ。我が国が誇れる男というやつだ」
そう冗談交じりに告げる、メルエンラー二世の声を思い出す。私は恐縮しきりだった。彼はこのような中にあって、可能な限り日々を楽しもうと決意したファラオだった。酒を飲み、パンを食べ、付き合った誰もを豊かな気持ちにさせる朗らかさの持ち主だった。
「うむ。胸を張れ……ときにパン焼き。パンに挟む肉の量だが、あれはもう少し増やすことはできんのか」
「へえ、ファラオの御望みとあれば、いくらでも」
「そうせよ。不満なことがあれば俺に告げるがいい。俺には、民を守る責務があるのだ。異邦人であることなど関係ない」
彼が民衆に近づいたのは、なぜだったのか。宝石細工師、織物工、民の中から選ばれた職人のような者に。言っては悪い気もするが、彼はきっと、国家の主体を民とするような高尚な考えを抱いてはいなかっただろう。エジプトに存在した外国人部隊に近付き、奸臣の打倒を狙っていたのか。または単純に、普段から高官に囲まれた生活に窮屈さを感じていたからだろうか。
ともかく、私は彼に平伏した。大臣は共謀して彼を殺し、私は勘づきながらもそれを止めなかった。その彼はもういない。私はひどい偽善者だ。女王ニトクリスは彼のいた場所に、たった一人で立っている。この先彼女も死ぬだろう、あの兄弟の果てた黄金の上で。私はこの国の歴史に関わるべきではないはずだ。メルエンラー二世の名など聞いたこともない。そのはずだが――
――俺が認めよう。お前たちもまた、エジプトの民である。
いや、考えるのはよそう。私の人生はあの日ウルクで終わったのだから。
「とは言うものの、ねぇ……」
アトラス院から届けられた指輪を眺めながら、私はそう呟いた。気分はまるで多感なフィフティーンである。ウルクに生き、そして死ぬはずであった。私はもう歴史に関わってはいけない、亡霊のような存在だと、そう思っていたはずなのだ。メルエンラー二世、そしてニトクリス。それにしてはファラオに情が移りすぎているような気がした。情が移ったというよりも、人間の輝きを見てしまったと、そう感じていたのである。ギルガメシュ様が見れば何と言うだろう。
――ほう? 我以外の有象無象に、民と呼ばれた程度でこうまで悩むか。であれば、我のウルクに貴様など要らぬわ。
心が痛い。きっとこんな感じのことを言うだろう。そしてエルキドゥは――
――それは、僕が答えることじゃない。ただ、思い出すだけでいいんじゃないかな。あの日、キミが教えてくれたことを。
多分こういう感じのことを言うと思う。ちなみにこれ以降は二人が分割思考を乗っ取って親友漫才を始めたので打ち切ることにした。いや、そうなのか。どうやら私はウルクの民失格で、なおかつ自分の言ったことを思い出せば良いらしい。分割思考を乗っ取られている状態では、何が何だかさっぱり分からないだろう。そう予想していたものの――
「ああ、結局そうなるか」
――意外なことに、何となく行き当たる答えを見つけた。いや、実際は違う。初めから答えは見えていたのだ。
冬の夜、メンフィスに住まう若いファラオの枕元に、真っ白で丸みを帯びたシルエットがぬっと立っている。白い布に目と眉だけが書いてあり、そこからすらっとした二本の足がにゅっと突き出ているのである。そう、今の私はパン屋ではなかった。姿だけならメジェドなのだった。やろうとしている事の方向性は間違ってはいなかったと思う。しかし私の計画というのは、大抵そうなのだが、後から振り返ると信じられないほどにガバガバなのである。なんだ、メジェドって。なぜこれで行けると思ったのか。その方法が不味すぎた。この夜も計画に空いた夥しい数の落とし穴に気付き、私は白いメジェドコスプレの中で冷や汗をだらだら流していたのである。
ニトクリスが起きる。私は300年で造った魔力をここぞとばかりに大放出しながら、できる限り威厳ある感じで彼女に話しかけた。これで駄目だったら知らん、なるようになれ、という精神である。ニトクリスよ。オオ、ニトクリスよ。
「メジェド様……?」
「うむ。メジェド様である」
ニトクリスは最初警戒心を露わにし、次いで半信半疑という様子だったが、何分か経ち、私がこっそりと雰囲気のある魔術を使い続けると、彼女はついに自分を納得させた。私の前に、メジェド様が現れてくださった。こんなことはあり得ないというのは、私ではなく彼女に言うべきことである。私も吃驚したのだ。自分が強運なのか、あちらにポンコツなところがあるのか。これでいけるのか。それはもう心配になってきていた。しかし止まるわけにもいかない。ここで止まっては意味がない。
――ニトクリスよ、汝悩みハすべて分かっているゾヨ。今まで、サゾ辛かったコトでアロウ。ワレは知ってオル。初めカラ、ズット知ってオル。神々ノため、大儀デあったナ、ニトクリスよ。
昼間に聞いたなら、全くもってふざけた言い方だ。私がそう口にして、やはり初めは何の反応もなかった。言葉選びを間違えただろうか。そう思いニトクリスの方を見れば、目じりから褐色の頬に流れるように、涙の筋が一つ描かれていた。落涙が続いた。それはいつしか滂沱の涙となり、嗚咽になった。
――偉大なるファラオ。その地位は涜神の罪を犯す大臣に操られ、兄弟はことごとく殺されている。己もいつ死ぬか分からず、だとしてもか細い糸を辿って復讐を成し遂げよう、と。そう考えていたのだ、たった一人の、兄弟最後の若人にすぎないにも拘わらず。
幾夜にもわたる嗚咽のたびに、私はニトクリスにアトラス院の指輪を嵌めてやった。気配遮断。想定していた使われ方とは違うだろうが、構わない。彼女は少しずつメジェドの出現にも慣れていった。様々なことを話した。メジェド神にはもちろん祈りと捧げものを献じたうえで、ボロが出るとまずいからと、あまり喋りかけはしなかったが。
「汝ハ、エジプトが好きカ」
「――はい、メジェド様」
「ナラバあの民を見よ。あれがこの国ヲ支えてオル」
サッカーラ、アブシュール、メンフィス、ギザ、アビュドス。長い夢の中ということにして、私はニトクリスを様々な場所へ連れまわした。
「じっくりト見るノダ。何ヲ考えておるノカ、怪我ヲしているカ、何か特徴がアリ、ソレはいつ根付イタものであるノカ――」
――この国にも、敵国の弱い女を犯す兵士がいる。悲鳴を聞けば聞くほどよかった。自分の怒りが、敵兵を恐れ戦かせると信じたがっていたからだ。へらへらして、卑屈な態度の鍛冶屋がいる。剣を扱うものよりも、それを作り出すものの方が上だと思っていたからだ。ふんぞり返った書記がいる。彼はパピルスの茎を使って、仕事の腹いせに奴隷の目を潰したがっていた。文字を扱えるということで、腕と足がひ弱だった分を取り返そうとしているからだ。
しかし私は、この光景を兄弟にも見せたかった、という独り言を聞いた。宮殿の中で何も見ることなく死んでいった子供たちに。私も同じことを思った。本当ならメルエンラー二世に、私のパンを食べた沢山の人々に、同じ光景を見せてやりたかった。自己満足に過ぎないことだが、私のパン種を盗んだ彼らにさえも、お前たちの礎がこのピラミッドを形作っているのだと言ってやりたかった。
「ソノ指輪は、くれてやロウ。逃げ出すことヲ許してもヨイ。奴らはマタ、新しい王ヲ立てるダケのコトであろうカラナ」
「……」
「ニトクリスよ、汝それでもエジプトを守るカ。お前ノ兄弟たちガ死んでいった場所デ」
クフ王のピラミッドの頂点に立って、私はニトクリスに問いかけた。砂漠から遠く離れて、今宵は三日月がよく見えた。ギザには風が強く吹いている。エジプトの冬は涼しい。どう答えて欲しかったのか、それは私にも分かりかねる。どちらでも同じように喜び、同じように寂しさを覚えたことだろう。その中でニトクリスは、私の――またはメジェドの――問いに、ゆっくりと頷いた。
「――であれば、アエテ名乗ろう。ワレはメジェド。火を吐くもの、敵を打ち倒すものにして、不可視の神、光を放つものである。汝ニトクリス、太陽の御子よ。ワレはナンジを憐れみ――今ここに、秘密の力を授けヨウ。それは解呪ノ力。生きとし生ける者ノ呪いを解ク、魔法の力デアル」
アトラス院の指輪。その作動回路は雑だった分、別のギミックを仕込む隙間があった。メジェドといっても小さなものだ。簡単な魔術ならば打ち消すだけの力を持った刻印が、指輪に刻まれただけだった――ようするに対魔力である――。本当はこういうことをすべきではないのだ。ここまできたらキャラを貫こうと、相変わらずかたことのままで、私は言った。
「さて、ニトクリスよ、お前はそろそろ夢から覚めなければナラヌ。少なくとも私のようなものが見せるにシテハ、長い、長い夢であっタ。朝目覚めれば、お前は今まで起きたことをすべて忘れているダロウ。誰にも知られていないのだが、これは餞別でアルゾ。私は記憶をもつかさどっておるのだ」
どうせ忘れてしまうなら、布の下を見せてください。ニトクリスは確か、最後にそのようなことを言った気がする。見せる気はなかったのだが、こういうことは夜にばかり起こる。また風が吹いたのだ。何かに似ていると思った。彼女が私の顔を見たか、それは定かではない。いずれにせよ、最後には忘れていたのではないかと思う。よほどのことがない限り、私の魔術が抵抗されることもなかろう。
「夢……」
――エジプト第六王朝最後の女王ニトクリスは、メジェドの指輪をつけたままに目を覚ました。白い布を被った誰かと、麦の匂い。それを、何となく覚えている気がした。
主人公、渾身のミス