Pour La Furina   作:まりも

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元になったキャラクターが二人くらいいます
(クロスオーバータグの理由)


戦火、戦水、鋼の如く。

リフィー地区南東部、海浜。

半ば内陸湖のような地形をしたここは、常であれば波が荒れる事も騒ぎが起きる事も無い長閑な地域なのだが、今日ばかりは違った。

 

白かった砂浜を汚す血と、踏み荒らされた草むら。

地面も所々剥げており、その光景は『巨人が地を踏み鳴らした』とすら言える程に凄惨なもの。

 

ならば戦火は過ぎ去ったのかと言えばそうでは無く、荒れた平野の片隅では、未だ鎬を削る音が響いていた。

水が地面に飛散するような音や、束ねた鎖を引き摺り回すような金属音が響いては、次の瞬間には何事も無かったかのような静寂が戻る。

 

かと思えば爆薬が炸裂したかのような音が轟き、再び金属音が辺りに響き始め、少し遅れて地鳴りが一つ。

 

それが都合十二度目の事。

地鳴りを境にまた始まった十三度目の戦闘音の片割れである一体の濁水幻霊は、 しかし開始から数秒と立たず泡沫へ還る。

辺りに飛び散った水滴の中心にいるのは、フリーナの給仕役を拝命した筈のPLF-27だった。

 

尤も、今身に纏っているのは給仕役としてのメイド服では無く、戦闘用に繕われた機能性重視の丈の短いドレススタイルをした戦闘服だ。

所々にフリーナのものと似た意匠を感じさせる青を基調とした衣装は、度重なる戦闘の後だというのに塵一つの汚れすら被っていない。

 

両腕にはドレスとはまるで見合っていない、だが妙に親和性のある剣の鞘のような武装を装備しており、ちょうど手の甲の真上に来るであろう部分では、プネウムシアの対消滅だと一目でわかる淡い緑光が瞬いていた。

武装のコアとでも言える部分なのだろう。

そこを中心として武装の端から端まで薄緑の線が走っており、脈動するかのように長い感覚で明滅している。

 

その姿を見留めてか、戦闘音に勘付いてか、PLF-27が常に発している対消滅エネルギーを感じ取ったか、或いはそれら全てによってか。

PLF-27の聴覚機能に、新たな闖入者の声が届く。

 

「dada ika ye!」

「lata boya ye!」

 

小さな影が二つ、それぞれ棍棒と弓を持っている。

大きな影が二つ、それぞれ大斧と盾を持っている。

不気味な仮面が四つ、その場にいる全ての個体が顔を仮面で隠している。

 

記憶回路の中から該当する幾つかの候補を出し、合致した情報からその正体を『ヒルチャール』と認めた事で、機械仕掛けの心臓が静かに唸る。

その僅かな硬直を隙と見たか、ヒルチャールの群れが武器を構えた瞬間、青い残像だけを残してPLF-27の姿が掻き消えた。

 

直後、鈍銀が宙を走る。

木の棍棒が砕け、ボロの弓が折れ、同時にヒルチャール達の胸元から血が噴き出し、己が致命の一撃を受けた事にすら気付いていない小さなヒルチャール達は断末魔すら上げず、静かに絶命した。

 

一瞬にして行われた猛攻から逃れられたのは、偶然にも距離が僅かに離れていた斧持ちの暴徒と、突撃を行うために盾を前へ構えていた盾持ちの暴徒のみ。

 

盾持ちに至っては強固であった筈の木盾に深々とした溝が彫られており、ヒルチャール暴徒は一目その傷を見て、激昂するように大きく吠える。

 

「Yaya ika kundala!」

「Gaaaaa!」

 

『下手人はどこへ行ったのか』と辺りを見回すヒルチャール暴徒は、PLF-27の姿を見付ける事が出来ず、そして────

 

「十六」

 

その小さな呟きに反応したヒルチャール暴徒が真後ろへ振り返りながら盾を振るうが、敵の姿を捉えた時には木盾は破片に様変わりしており、一切のタイムラグ無く暴徒の肉体も細切れにされていた。

 

残る一体、斧持ちのヒルチャール暴徒は、仲間を失って尚戦意を全く衰えさせない。

否、最早衰える余地など無いのだろう。

 

「biadam!」

 

PLF-27の記憶回路には無いヒルチャール独自の言語を叫び、暴徒は大斧を大上段に構える。

対するPLF-27は緩く両腕を構え、右足で地面を強く踏み締めて迎撃態勢に入った。

 

「Guuu……Oaa!!」

 

先に仕掛けたのは暴徒。

正面から一直線に走り、高く構えた大斧を振り下ろす、ただそれだけの素直な攻撃。

しかし策を使わないのはPLF-27も同様で、下手に回り込む事などせず、構えた両腕の武装を起動し正面から迎え撃とうとする。

 

それは何も『性能だけで押し切れる』と判断しての事では無い。

無論PLF-27の自律思考は敗北の可能性など一分も無いと判断しているが、だからと言って驕り高ぶって加減をするような情動など持ち合わせていない。

 

簡単な話、『経験不足』なPLF-27には迎撃方法がその一つしか思い付かなかったというだけの事。

敢えて言うのなら、斧ごと両断された暴徒を見ればわかる通り、PLF-27という機体には戦法を積層させるだけの強敵が存在しなかった。

 

「……戦闘終了。排熱完了後、近接武装を解除し待機状態へ移行」

 

武装に灯っていた緑光が緩やかに光量を落とし、やがて完全に消滅する。

次いで鞘の石突が三又に分かれ、スチームを放出したかと思えば、コアから伸びていた線を境に鞘は分割され、瞬く間にPLF-27の前腕を覆う篭手へと早変わりしてしまった。

 

そうして特に感慨も無くヒルチャール達の死骸から目を離したPLF-27は、視界の端に駆け寄って来る人影を見留める。

青い制服が一人と赤い制服が二人、それらはPLF-27がパレ・メルモニアに配属されてからよく見た姿、警察隊と特巡隊の制服だ。

 

彼らの姿を見て、PLF-27は数時間前にパレ・メルモニアで言い渡された『任務』についてを記憶回路から再生していた。

 


 

タイプライターを打つ音と、書類に判を押す音。

それらが交互に鳴る一室に、PLF-27はティーセットを載せたトレイを持って入室した。

 

「紅茶の用意が出来ました」

 

そう告げられた執務室の主、最高審判官ヌヴィレットは一つ頷き、タイプライターを横に退ける。

 

「……すまない、ちょうど終わった所だ」

 

PLF-27は「ここへ」と指定された通り、タイプライターを退かした机の上にソーサーとティーカップを置き、紅茶を注ぎ始める。

ヌヴィレットは注がれた紅茶を少し冷ました後、一口飲んで「この二週間で随分と腕を上げたようだ」と賞賛の言葉を零す。

 

ヌヴィレットの言葉通り、パレ・メルモニアに配属されてから二週間が経ったこの日、PLF-27はヌヴィレット本人から最高審判官としての呼び出しを受け、彼の執務室に赴いていた。

 

「任務指令と伺いました」

「あぁ、この任務は君の実地試験を含んでいる。尤も正式稼働前の試験結果には目を通しているため、確認したいのは自律思考稼働時の能力だけではあるが」

 

『イースト・エスス山麓南東部にて増加傾向が見られるヒルチャールの群れ、並びに濁水幻霊の掃討』

 

「能力を鑑みて問題無いと判断した内容だが、不安要素があれば迷わず撤退を選んでくれ。万が一のために警察隊からマシナリーの扱いに長けた者を一名、特巡隊からも二名派遣しよう。何かあれば頼るように」

 

ヌヴィレットが差し出した書類を受け取り、文面を記憶したPLF-27は「拝命致しました」とだけ返答し、その場に立ち尽くす。

トレイを前に抱えて待ち続けるPLF-27の姿に、ヌヴィレットはもう一口紅茶を飲むと────

 

「……飲み終えたら自分で片付けるので、トレイだけ置いて下がってくれて構わないが」

「いえ、職務ですので」

「私の給仕は君の職務に含まれていない」

「フリーナ様から『彼は休む事の有意義さを知らないんだ。きっと話し相手もいなくて寂しがっているだろうから、お茶を入れるついでにゆっくり世間話にでも興じると良い』と仰せつかっております」

「……そうか」

 


 

結局ヌヴィレットが任命した三名が到着するまで会話が弾む事は無く、PLF-27がヌヴィレットという人物の『為人』を知る猶予は無かった。

フリーナからは『対話の経験はキミの情緒にも良い影響を与えるだろうから、相手がヌヴィレットであっても積極的に』と言われこそしていたものの、それは叶わず。

 

とはいえ、ただある事をあるがままに伝え、感情を読もうとする必要も無く、機械的に情報を受け取るだけで良いというのは、PLF-27という未発達な機体にとっては『楽な作業』で。

現状PLF-27が定めた『対話難度』においてヌヴィレットはフリーナよりも容易な部類とされていた。

 

それは偏に心の発露の一欠片。

他者との対話において『彼女を相手にするのは困難』『彼を相手にするのは容易』と差を付け、基準として順位を付ける行為は『人間の心』という部品が持つ機能に近しいものだ。

 

機械に心を与えるというのは、今まで何人もの科学者、研究者、技師達が追い求めて止まなかった一つの境地。

今のPLF-27もあくまで心を再現する素地を持つだけであり、真に心を抱いて生まれた訳では無い。

 

その中に僅かな片鱗、小さな発芽が見えたというだけでも特大の進歩と言えるだろう。

それが無くともPLF-27という機体は未だ稼働開始から二週間が経過した程度の、言わば『生まれたて』なのだから。

 

「よぉ新型、なかなかやるじゃねぇの」

「いえ、任務目標の種別、頭数を鑑みるのなら前回実地試験記録のパフォーマンスを下回っています。本来自律思考機能は戦闘時の戦術的能力向上を目的として────」

「あー良い良い、そういうのは俺達じゃわからん」

「承知致しました」

「……来る時と違って随分と饒舌だな」

 

今し方の戦闘に対するPLF-27の評価が低い事も、その自意識が生まれたてである事に起因する。

 

PLF型を造り出した技師達は、自律思考の存在意義を人間の『悪辣さ』を学ぶ事としていた。

それは頭脳と情動を高い水準で持ち、社会性の中で他者を貶める事を択とする生態を、機械としての演算能力と掛け合わせる事で『戦闘に於ける作戦立案能力』を向上させる事に繋がると考えたからだ。

 

しかしながら機能の効果が表れるのはその生態、つまりは心を学び終えた後。

恐怖や躊躇などは無いが、演算と同時に思考というプロセスが挟まれる以上、PLF-27という機体はただのマシナリーであった頃より弱体化していた。

 

ならば技師達や主であるフリーナは欠点を利点にするべく育成に焦っているのではと言われれば、決してそんな事は無く。

パレ・メルモニアへの配属が恙無く決まった事こそ、その証左だろう。

 

そも、パレ・メルモニアでPLF-27が他者と関わる機会はそう多くない。

フリーナの給仕役はPLF-27が専任となったため、業務を共有する相手もおらず、手取り足取り業務内容を教えていたメリュジーヌ達にも元の業務が存在する。

スケジュールの擦り合わせのために他所に赴く事はあれど、その場合は大抵当人であるフリーナも同行しているため、自主性の育成には向かない。

 

PLF-27の他者との関係が薄いのはフリーナの目的にもそぐわない筈だが、『稼働開始から二週間という短期間で詰め込み過ぎるのも酷だ』という考えもあったのだろう。

 

「こんな強いのがフリーナ様の護衛としてパレ・メルモニアにねぇ……理屈はわかるけどよ、これが必要になる程の事があそこで起こると思うか?」

「それが『フリーナ様に危害を加えようとする馬鹿などいないだろう』と考えての発言なら一つ教えておいてやるが、先日フリーナ様の居室に侵入するために屋上まで登り、テラスへ飛び降りた奴がいたばかりだ」

「……苦労してそうだな」

「キャッチしたPLF-27に言ってやってくれ」

 

待機状態に入った機体の状態記録をしつつの雑談には耳を立てすらせず、PLF-27は記憶回路を漁り始める。

 

『知識に貪欲な姿勢は感心だけど、たまには聞き流す事もしてみると良い。聞いたもの全てを知識にするなんて、機械に情報を読み込ませるのと何ら変わらないからね。キミが持つべきは人の心なんだから、少し欠けてるくらいがちょうど良いのさ』

 

それは数日前の早朝の記憶。

PLF-27が代読した一日の予定をすっかり聞き逃していたフリーナの言葉を、聞き逃す事無くしっかりと記憶し、実践している様子は、果たして教えに従っていると言えば良いのか、背いていると言えば良いのか。

 

何方であっても、PLF-27の成長にはフリーナの存在が欠かせなくなっていた。




【戦闘機能:近接武装】
戦闘時両前腕に装着される篭手のような武装。
展開時には直剣の鞘のような形状となり、中央部の小型継力器から全体にプネウムシア対消滅エネルギーを通す事で、材質以上の剛性を得る。
機能の一つとして鞘内部に格納された鉄粉を瞬時に刃状に成型し、篭手による打撃と刃による斬撃を使い分けるというものがあるが、鉄粉によって形作られた刃は非常に脆く、PLF-27の膂力で振るわれた場合一撃の後に砕けてしまう。
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