人の心を持ってしまった魔族   作:キサラギSQ

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うおぉ、今回滅茶苦茶閲覧、お気に入り、評価、感想いただきました!
とっても嬉しいです!
なんだか確認したら日間ランキングにも乗っていて……とっても驚きました!
皆様、このようなニッチな作品に、本当に沢山の反応ありがとうございます!

ただ、今回で最終話です。
どうぞお楽しみください。


エピローグ・人の心を持ってしまった魔族

 勇者ヒンメルが、魔王を倒して43年――

 

 フリーレンは聖都にて、ハイターと再会を果たしていた。

 数十年振りの再会にハイターは笑顔でフリーレンを迎えた。

 それと対照的に、フリーレンは浮かない表情を浮かべていた。

 

 すとん、と椅子に座ったフリーレンは、ちら、とハイターを見上げると何処か所在なさげに身を縮こませた。

 

「……どうしたのですか?」

 

 暖かく甘い飲み物を差し出し、ハイターは問い掛けた。

 何処か様子のおかしいフリーレンに、眉をひそめて。

 久方ぶりに会ったにも関わらず、彼女は変わっていないと思った矢先だった為に、ハイターは面食らっていた。

 

ズズ……。

 

 フリーレンは差し出された飲み物を口にして、ほう、と小さく息を吐いた。

 そして、意を決したように口を開いた。

 

「孤児院を経営していた魔族を殺したんだ」

 

ガシャン!

 

 ハイターの手からカップが落ち、床に飲み物が広がる。

 目を目一杯に開いて瞳を揺らすハイターを見て、フリーレンはふっ、と視線を切った。

 

「やっぱり、知ってたんだ。

 彼女、最後にヒンメルとハイターの名前を口にしてたよ」

 

「……そう、ですか」

 

 ハイターは絞り出すようにそう言うと、しゃがみこんで、割れたカップの破片を手に取った。

 

「魔族同士で仲間割れでもしたみたいで、死にかけてたから殺したんだ。

 ……私は、魔族の事だから、孤児院経営してるのも、どうせ人を喰ったり殺したりする為だと思ってた。

 だから殺した。殺したけど……」

 

 フリーレンは一度言葉を止めて、椅子の上で膝を抱えた。

 

カチャ……カチャ……

 

 ハイターがカップの破片を集める音だけが響く部屋の空気は、酷く冷えきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生……」

 

 魔族が完全に塵となったのを見届けた後、赤子をあやすフリーレンの耳を、幼い子供らしき声がうった。

 フリーレンが声がした方を振り向けば、人間の少女が目を見開いて、塵となった魔族のいた場所を見つめていた。

 

「子供……か。孤児の子かな。

 まだ近くに魔族がいるらしいから危ないよ。町に避難して」

 

「っ……!」

 

 少女は駆け出す。

 そのままフリーレンに近付くと、腕の中にいたリリィ、と呼ばれていた赤子を、その腕から奪い取った。

 

「……何するの。赤ちゃんが危ないよ」

 

「うるさいっ!リリィに触るな!」

 

 キッと睨み付けてくるその少女に、フリーレンはその目を細める。

 何故彼女がそういう態度を取るのかが分からず、フリーレンは杖を消して手を広げた。

 

「……なにもしないよ。なんでそんな」

 

「先生を殺した癖にっ……!この子のお母さんを殺した癖に!

 リリィにその汚い手で触るな!この……!」

 

 

 

「人殺し!!!」

 

 

 

 その言葉に、フリーレンは目を見開く。

 彼女の言葉が想定外だったから。

 自分が先程殺したのは魔族の筈だ。

 無意識に視線は、先程塵に還った魔族のいた場所に向いていた。

 

 魔族だった証拠として、死体は、残っていない。

 フリーレンは小さく頷いて、少女に向き直る。

 

「……いや、私が殺したのは魔族だよ。きっとアンタ達を」

 

「黙れ!絶対、絶対に許さない……!

 あれだけ先生は幸せそうだったのに!

 リリィが産まれて、本当に嬉しそうだったのに!

 私達を、あれだけ愛してくれた先生を殺したお前を……!」

 

 少し離れた所からでも聞こえる程にギリリ、と歯を噛み締めた少女は、睨み付けながらも目から涙を溢れさせていた。

 

「絶対に、絶対に許さない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そしてその子は赤子を連れて南のほうに逃げてったんだ」

 

 語り終えたフリーレンは、自分の膝を抱える手に力を込める。

 

「私は何も言えなくて、後を追う事も出来なかった。

 多分、私が何もしなくても、あの魔族は死んだとも思う。

 だから彼女の言い分は滅茶苦茶だと思ったし、念の為に魔族にトドメをさした事を間違ったとも思ってない。

 ……でも、なんだかモヤモヤするんだ。上手く、言葉に出来ないんだけどさ」

 

 膝に顔を埋めて、フリーレンは言葉を続けた。

 

「ねえハイター、なんでアンタ達二人はあの魔族を見逃してたの?

 魔族は人の言葉を話すだけの獣、あの旅で皆それを嫌と言う程味わった筈でしょ?」

 

 ハイターはフリーレンの対面に腰掛けると、困ったように笑った。

 

「……そうですね。魔族はそうだと思います」

 

「なら」

 

「ですが、私は人を見る目は確かなつもりですよ。

 彼女は……人でしたフリーレン。人の心を持った魔族でした」

 

「ハッ……何それ?冗談のつもり?

 魔族に人の心なんてある訳ないでしょ?

 人を殺す為に平気で嘘をついて、人を欺いて、心にもない言葉を吐く獣。

 それが魔族……そうでしょ?」

 

「ええ、ええ、フリーレン。その通りです。

 でもね、彼女は違った。違ったんですよフリーレン……。

 彼女の過去は言葉で簡単に伝えられないくらいに悲惨でした。

 それでも彼女は、悲しみの中でも前を向いていた。

 苦しみながら、辛さを堪えて他人に手を差し伸べていた。

 やや自虐的な所はありましたが、彼女の献身で何人もの子供達が救われたのです。

 ……私は、それを無視して彼女を魔族だと思う事が出来ませんでした」

 

「それは……」

 

「それに、彼女と少しでも会話したなら気付いた筈です。

 敏い貴女が、気付かない筈がない。

 彼女の言葉には、想いが乗っていた筈です」

 

 フリーレンが思い出すのは赤子に言葉を告げる彼女の姿。

 涙ながらに愛を囁く姿に、フリーレンは一瞬目の前にいるのが魔族である事を忘れてしまっていた。

 その理由が、彼女の今際の際の言葉に乗った想い、それを感じ取ってしまっていたから。

 

 胸に手を当て、ハイターは言葉を続ける。

 

「それを見ない振りをした……。魔族だからと理解を拒んだ。

 それが恐らく、貴女のモヤモヤの理由ですよ」

 

 それでも、フリーレンが魔族の愛を、魔族が人の心を持っていた事を信じるには、あまりにも魔族、というものを見すぎていた。

 ただ、ヒンメルとハイターの事は信用している。

 二人が言うのなら、もしかして、という思いもある。

 その板挟みに苦しみつつ、フリーレンはハイターを見つめた。

 

「……私は間違ってたって事?」

 

 うっすらと、自嘲の笑みを浮かべて問い掛けるフリーレンに、ハイターは悲しげな笑みを浮かべて首を振った。

 

「いいえ、貴女は自分が正しいと思った事をやり通した。

 彼女も、アリウムさんもそう。子供を守る為に命を賭けた。

 それでいいのです。ただ、その結末に悲しむ、愚かな老人がいるだけ。

 その結末を、予想出来ていたのに、何もしていなかった。

 そんな愚かな老人がいるだけ。……それだけの話です」

 

 ハイターは俯き、一度言葉を切った。

 眼鏡をズラして目の端を拭うと、息を吐いた。

 そして、フリーレンに向き直り、小さな笑みを浮かべた。

 

「彼女の、アリウムさんの最期は……どうでしたか?」

 

「……満面の笑みだったよ。

 心底安心したような、花が咲いたような……そんな笑顔」

 

「そうですか……そう、ですか……。

 彼女は……笑って逝けたのですね……」

 

 ニコリと笑ったハイターは、その場で手を組んだ。

 祈りを捧げる様子をフリーレンは黙って見つめる。

 その閉じた瞳から涙が頬を伝っていくのが見えて、フリーレンはその視線を無意識に逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルが、魔王を倒して45年――

 

「老いぼれてる……」

 

「……言い方酷くない?」

 

 ハイターとの再会、そして会話を終えたフリーレンは逃げるように立ち去り、勇者ヒンメルと再会を果たしていた。

 皺が増え、髪色が変わった程度の変化だったハイターに比べ、勇者ヒンメルの変化は顕著だった。

 見上げていた筈のその顔はフリーレンと同じ高さにあり、目線が合ってしまっていた。

 髪はなく、もっさりとした髭を設けたその姿は、何処から見ても立派なお爺さんだった。

 

「年をとった僕も、中々イケメンだろう?」

 

 それでもフリーレンは、瞳を見た瞬間にそれがヒンメルだと直ぐにわかった。

 45年の月日が流れようと、あの時からその瞳の輝きは変わっていなかったから。

 

「45年振りだね。君は昔の姿のままだ。

 ……もう一生会えないのかと思っていたよ」

 

 目を細めて、嬉しそうに笑う。

 

 ヒンメルは、折角会えたのだから話でもしようと、家への案内を始めた。

 笑顔を浮かべたヒンメルのその後を、フリーレンは頷いて後を追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……彼女は先に逝ったのか。

 僕もハイターも……彼女には見送られると思っていたんだがね」

 

 ハイターと同じ話を聞いたヒンメルは、天井を見上げた。

 彼女の、魔族の死を悼むヒンメルに、フリーレンは不思議と胸がモヤモヤするのを感じていた。

 

 きっと、魔族が死んで惜しいと思ってるヒンメルの態度が面白くないのだろう。

 フリーレンはそう結論付ける事にした。

 

「あの魔族はヒンメルとハイターに礼を言っていたよ。

 まったく。二人して魔族に絆されて……。

 一応聞くけど、他に魔族を見逃したりしてないだろうね?

 もしあったら教えておいてよ。私が始末しに行くから」

 

「ないよ。彼女だけさ。きっと、後にも先にもね」

 

「何それ?また勘?」

 

「よくわかってるねフリーレン。

 伝説の勇者ヒンメルの勘さ。間違いないよ」

 

 暫し二人は穏やかに言葉を交わす。

 自然と笑みを浮かべた二人は、楽しそうに時間を過ごしていた。

 

 45年……人にとっては決して短くない時間だ。

 その時間を、ヒンメルは一人の女性を想って過ごし続けた。

 魔王を討伐した勇者だ、何処もかしこもヒンメルという存在を欲しがり、繋がりを求めた。

 それらを全て断り、ヒンメルは平和の維持に尽力した。

 疎ましく思うものも、それでもと諦めないものもいたが、それでもヒンメルは揺るがなかった。

 

 全ては、ただ一人、好きになった女の子が未来で笑えるように――

 

「……うん、それじゃ、そろそろ行こうかな」

 

 ゆったりとした動作で、フリーレンは椅子から立ち上がる。

 ヒンメルは、それを笑顔で見送るつもりだった。

 彼女はこれからも生き続ける。

 その重荷になる気はなかったから。

 

 けれど。

 寿命を、死を感じ始めたヒンメルは、少しだけ心が弱っていた。

 きっと、あと少し経てば覚悟は決まるだろう。

 けれど、今この瞬間、もうフリーレンと二度と会えないかもしれないと思ってしまったヒンメルは、勇者ではなかった。

 ただのヒンメルだった。

 

「フリーレン!」

 

 気付けば、ヒンメルはフリーレンを呼び止め、その手を掴んでいた。

 驚いたよう目を向けてくるフリーレンに対して、ヒンメルは眉を下げて、困ったように笑う。

 

「……あの、星を見る、約束の時まで、一緒にいてくれないか?」

 

 少しヒンメルらしくない、心細さから出てしまった言葉だった。

 その言葉にフリーレンは不思議そうに首を傾げる。

 

「……どうして?」

 

 ヒンメルは困ったように視線を逸らし、頬をかいた。

 

「あー……えっと、最近少し体が衰えて、さ。

 僕もそう長くはないと思うから、少しだけ手助けして欲しくてね。

 君の時間を奪うようで悪いのだけど……どうかな」

 

 気まずそうなヒンメル。

 それと対照的に、フリーレンはにんまりとした笑みを浮かべる。

 

「ふふん、仕方ないねヒンメルは。後たったの5年くらいか。

 そのくらい、構わないよ。お姉さんに任せてくれていいよ」

 

「ぷっ」

 

 何処か嬉しそうな、自慢気なフリーレンに、ヒンメルはその様子が可笑しくて吹き出した。

 

「なんで笑うのさ?」

 

「ははは、いや、なんでもないよ」

 

 そうして二人は、暫くの間共に暮らす事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだフリーレン。昔僕があげた指輪、まだ持ってるかい?」

 

「うん?うん、勿論だよ……確か、この辺……ほら、あった」

 

「少し、貸して貰っていいかな……?」

 

「うん?うん」

 

「フリーレン、左手を出してくれないかい?」

 

「うん」

 

「……うん、似合ってる。君によく、似合っているよ」

 

「そう?ヒンメルがそこまで言うなら……暫くしていようかな」

 

 フリーレンの薬指に、その指輪は光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルが、魔王を倒して50年――

 

 仲間と共に半世紀流星を見に行く。

 その最後の冒険を終えたヒンメルは、静かに眠りについた。

 花に囲まれて眠るヒンメルの姿を、フリーレンは静かに見つめる。

 他の人達が涙を流し、悲しげに顔を歪めるなか、それは人によっては異常に映ったようで、ひそひそとフリーレンに陰口を言う参列者もいた。

 

 でも仕方ない、何故ならヒンメルと共にいた時間なんて10年と45年飛んで5年。

 合わせてたったの15年、今まで1000年を生きたエルフとして、それは刹那に等しい時間。

 そしてこの先時間を重ねれば更にそれは擦りきれていく、ただそれだけの時間。

 

ぽろ、ぽろ

 

 その筈だった。

 瞳から溢れる涙が止まらない。

 隣にはハイターとアイゼンがいる。

 なのにあと一人がいない。

 一番大事なヒンメルがいない。

 たった10年間の短い時間。

 

 つい先日まで、同じ家でゆったりと時間を過ごしていた。

 寝坊を咎められるけれど、自分を見守るよう見つめるヒンメルと過ごす日々は不思議と心が安らいだ。

 なのに、その慈しみの視線が向けられる事はもうない。

 5年間のほんの短い時間。

 

「……なんで」

 

 ぼそりとフリーレンが口にした言葉に、ハイターとアイゼンの視線がフリーレンに向く。

 

「なんで、ちゃんと知ろうと思わなかったんだろう……」

 

『人は、直ぐに死んじゃうんですよ?』

 

 薄紫髪の魔族が、人の心を持っていた魔族が、フリーレンに語りかける。

 

「人の寿命は、短いってわかっていたのに……」

 

『掌の上からこぼれ落ちてから後悔したんじゃ、遅いんです』

 

 眠るヒンメルの横に立ち、慈しみの表情を浮かべたアリウムは、フリーレンを見つめながら語る。

 

「あの魔族が……あの子が、私が殺したのに、あれだけ言ってくれたのに……」

 

『フリーレン様の未来に、祝福を』

 

「何が魔族は人の心がわからない獣、だ……」

 

 涙を流すフリーレンは、自責の念に押し潰されそうだった。

 胸を押さえ、立ち尽くすフリーレンの姿に、ハイターとアイゼンは何も言わず背中に手を回した。

 

「あの子のほうがよっぽど人だった……私は、私はっ……!」

 

 ポタポタと足元に涙が滴となって滴り落ちる。

 

「あの子が、私なんかの為に、死に際に言ってくれた事を、ただ無駄にして……。

 ヒンメルと更に5年も過ごしたのに、それ以上何も知ろうとしないで……。

 私は、バカだ……。全部、全部わかってた筈なのに……!」

 

 その場に膝を折るフリーレン。

 アイゼンはただそこにいた。

 慰めるように肩に手を乗せて、けれど視線は向けずに。

 

「……それでも、ヒンメルはこの5年間……幸せだったと思いますよ。

 彼にとって、かけがえのない時間となったと、私はそう思います」

 

 ハイターはそう静かに告げて、フリーレンの肩を優しく叩いた。

 嗚咽を漏らすフリーレンは、両肩の温もりを感じて、更に涙を溢れさせた。

 

 その後、フリーレンは一つ、決意する。

 人を知る事、その為の旅に出る事を。

 ハイターとアイゼンに別れを告げ、フリーレンは旅立つ。

 人を知るという、正しい答えのない旅なのに、その気持ちは不思議と晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェルンのその魔法……」

 

「ああ、この見えない手を操る魔法、ですね。

 原理はわかっていないのですけど、お母さんが使っていたんです。

 お母さんも、よく覚えていないけど気付けば使えてたって言ってました」

 

「……お母さんの名前って、覚えてる?」

 

「はい、勿論です。リリィ、という名前でした」

 

「……そう、なんだ……」

 

「それがどうしたんですか、フリーレン様?」

 

「……ねえ、フェルン、一つ昔話をしよっか」

 

「?お伽噺ですか?」

 

「ううん、昔話だよ。私も、ヒンメルからの又聞きになるけどね」

 

「ヒンメル様の?どんなお話なのでしょうか?」

 

「うん……そうだね題名は……人の心を持った……違うな、そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『人の心を持ってしまった魔族』」

 

 

 

       ―終―




ご愛読ありがとうございました!

誤字修正しました、ご報告ありがとうございます。

魔族の子供の次はどれが読みたいですか?

  • 〈戦士と魔族〉
  • 「平和だった町」
  • [一級魔法使い第二試験]

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