自分のフリーレン世界では、する。
いきなりの高評価、感想、ここすき、ありがとうございます。
異変に気付いたのは、お爺さんが死んでから数ヶ月経った頃だった。
どうにも体調が悪い。
吐き出す、という今までした事のない経験をしてしまった。
しかも村に獣の革を売りに行った時に道端で……。
村の人は私がお爺さんに拾われた孤児だと思っていて、割りと世話を焼いてくれる。
お爺さんが死んだ後は村で住む事を勧めてくれるくらいに。
けど私はお爺さんと暮らした家を捨てる事が出来なかった。
そんな私に、村の人達は心配そうに集まってきてくれる。
「大丈夫かい?」
「……わからない、口から食べたものを吐き出すなんて、初めて……どうなってるのかわからない……」
そんな話をしてる時にもまた込み上げるものがあって、私はまた吐き出してしまう。
ビチャビチャと道端に吐き出される、消化途中の食べ物が、勿体無いと思ってしまう。
村の人達は顔を見合わせると、何か心当たりがあるのか、ひそひそと互いで言葉を交わしていた。
やがて意見が纏まったのか、一人の、女性の村の人が私に近づき、声を潜めて問い掛けてきた。
「もしかして、妊娠……してるんじゃないかい?お腹、膨れてるような気がするんだよ」
「……妊娠……?」
妊娠とは……?
そう聞くと、物陰に連れていかれ、ある程度の話を聞くことが出来た。
生物は男と女に別れていいて、とある行為をすると、女は妊娠し、同族を増やす事が出来るのだと。
そのとある行為とは、男の股間についている棒を女の股間に刺す事だという。
「……それなら心当たりがある。
お爺さんを殺した奴らが、私にそのような行為をしていた記憶がある」
暫く激痛が走り、ひどく歩き辛かった。
そう言うと、村の人は酷く痛ましい物を見るような表情になった。
「そう……かい、辛い事を思い出させてすまないね……」
そう言って私を抱き締めたその人は、きっと優しい人なのだろう。
私はその男達にされた事を特に何も思ってはいない。
ただ、お爺さんを害した事だけか腹立たしかっただけ。
そいつらは今はもういないし、もうどうでも良いことだ。
ただ、あまり近付かれると、どうしても食欲が湧いてしまうからやめてほしい。
私はその抱擁をやんわりとほどくと、詳しく話を聞く事にする。
結局私はどうすればいいのか、妊娠はどうやったら治るのか?と。
それに対して少し困ったような顔をしていたけれど、ゆっくりと詳しく教えてくれた。
結論として、私のお腹の中には、今新しい命があるのだという。
撫でて見ると少し膨らんでいるようには感じるけれど…よくわからない。
そしてそれは、産んだほうが良いと、そういう話だった。
お腹の中で殺す、堕胎という行為はあるらしいのだけれど、町、村よりも沢山人と家があるような所じゃないと安全に行えないらしい。
それにはお金も掛かるし……何より私はあまり沢山の人の目には触れたくはなかった。
となると、産むしか選択肢はなかった。
「そんな男達の子供なんて産みたかないだろうけれど……」
「……大丈夫。気にしてない。子供、命、育める……それは良いこと」
命を育む……知っている、知っていた魔族の生態からは考えられない事だ。
それでも……折角私なんかの所に出来た命なのだから、と思う。
「……そうかい、それなら、産むまでの間は村にいたらどうだい?
村まで遠いだろう?何かあっても直ぐに手助け出来るし」
「ありがとう……でも、大丈夫。私はあの家にいる」
「そう……よし、わかった。ならたまに人をやるよ。
これから多分もっと辛くなるからね、お腹は重くなっていくし」
「……!?もっと……!?」
も、もっと……!?今でもかなり辛いのに。
私は狼狽えて視線をさ迷わせた。
……でも、あの家を出る気はない。
「……本当に大丈夫かい……?」
「だ、大丈夫……」
心配そうな村の人に返した言葉は震えていたように思う。
その後その村の人には食べやすい果物を貰い、大きめのゆったりとした服をいくつか貰った。
今着てる服はかなり体にピッタリなので、それではあまりお腹の子供に良くないとの事。
他にも色々とあるけれど、後日、出産を経験した人を家に寄越してくれるらしい。
妊娠の事なんて今日得た情報しかない私にとって、それは非常に有り難かった。
家への帰り道、確かに少しぽこりとしてるような気がするお腹を撫でる。
この中に、私の子供が、赤ちゃんがいる。
好物を前にしたような高揚が私を包み、私の頬は知らず知らずのうちに吊り上がっていた。
不思議な気分。
私の中にもう一つ命があり、私はそれの糧になってそれを育てていく。
動物の体に生える植物みたい。
でもそれに対して胸が温かくなる気持ちを感じている。
本当に……不思議。
その時私の表情は、お爺さんと同じ表情をしていたのだと思う。
その日から大変だった。
一日中ひどい体調不良に襲われていた。
……つわり、というらしい。
人間の母親は皆これを経験して、子供を産み、育て、増やしていく、との事。
けどこんな状態では、普通はろくにご飯も手に入れられない。
その為につがい、となる父親がいるのだという。
生憎私を妊娠させた男達は土の中にいるので頼りにはならないけれど。
ただ、私には不可視の右腕がある。
右腕こそないけれど、かなり利便性の高いこれにはかなり助けられた。
村の人達は本当に定期的に来てくれて、食べ物をよく貰った。
更には色んなことを教えて貰い、色々と話をした。
出産の事についても、人間として生きる為の事も。
時折頭を撫でたり抱き締めたり、連れてきた人間の子供にお腹を触られたり。
穏やかな気持ちでそれを受け入れてる一方で、それでも顔を出す本能を押さえ続けた。
数ヶ月が経った。
お腹は順調に膨れていき、身動きを取るのが大変になってきた。
時折中で動くのを感じる……痛いけれど、順調に育っている証拠でもある。
「さすがにそろそろじゃない?産む時一人だと、大変よ……?」
ベッドで横になっている私の、膨らんだお腹を撫でる女性は心配そうに告げてくる。
実際、出産についてかなり脅された私の心は揺れ動いていた。
産む時に負担に耐えられず死んでしまう女性や、赤ちゃん……それではここまで私が何の為に頑張っていたのかわかったものじゃない。
けど、この家で、お爺さんと共に過ごしたこの家だから穏やかに過ごせたのも確かで……。
「……わかった。明日、村に行く」
「……そう!良かった。それじゃあ村で準備しておくわ。
明日、誰かを迎えに寄越すからね!」
私はそれらを天秤にかけ、安全を取ることにした。
今も私のお腹を蹴った赤ちゃんを、ちゃんと、無事に産む、
それが先決だと思ったから。
私の返答を聞いた女性は手をポンと叩くと顔を綻ばせて、立ち上がった。
「じゃあまた明日ね!」
笑顔を浮かべた女性は、そう言って去っていった。
その様子に、私は苦笑いを浮かべていた。
「……忙しないね」
小さく呟いて、お腹を撫でた。
お爺さんに拾われた頃に比べて、背も伸びたし胸も大きくなったのだけれど、妊娠してからは更に胸が大きくなった気がする。
赤ちゃんは私の胸から出る液体を飲んで育つ為、胸の中にそれを溜るので大きくなるとか。
……しかし本当にこんな液体で育つのだろうか。
胸の先端から滲む白濁色の液体……舐めて別に不味いものではないけれど、そう美味しいものでもない。
これなら香草焼きでも食べたほうが……と思うのだが、そうではないらしい。
人とは、赤ちゃんとは、妊娠とは、難しいのだと改めて思った。
「……ん、お腹空いた……」
色々考えたからか、空腹を覚えたので、手頃な果物でも食べようとベッドから降りようとした時だった。
ズクン
お腹の奥から強い痛みを感じて、起こそうとした体を止めた。
「あっぐぅううう……!」
まるであの少女にお腹を貫かれた時のような痛みに、私はベッドの上に逆戻りした。
お腹を蹴られた時の痛みなんて、比べようもない程の痛み。
その痛みに頭も体も気を取られ、まともな動きが出来そうもない。
ただベッドの上で痛みを堪えるだけしか出来なくて、私はただ顔をしかめて、声をあげるしか出来なかった。
「がぁあぁああああっ!」
オナカスイタ
限界だと思った痛みは更に増していき、お腹が膨れているからのたうち回る事もできず、ただただ耐える時間が過ぎていく。
こんな痛みに耐えてるあの女性達は、実はとんでもない猛者達なんじゃないかと、どうでも良い事を考えて、痛みに引き戻される。
辛い、痛い、苦しい。
もう、やめたい。
不意に頭に過るのは甘い誘い。
こんなの、いらないんじゃない……?
思わず左手が、お腹に触れて……微かに中から鼓動を感じて、その思いは霧散する。
何考えてる!私は産むって決めた!
なら、途中で投げ出さない、やりきる!
この子を、産んで、それで……。
それで?
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……うま、れた……の?」
私の股の間から、漸く、か、赤ちゃんが本当に出てきた。
お腹の膨れ具合と、自分の股間にある穴から見て、本当は腹が裂けて産まれるんじゃないかと思っていた。
でも本当に産まれた……信じられない。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
産まれた赤ちゃんは泣き続けると聞いていたから、まずは泣き声が聞こえる事に安堵する。
この子が入っていたお腹は既に凹んでいて、お腹が張る、重しを抱えている感覚はなくなって。
やっと楽になったという解放感と、いなくなってしまったという喪失感。
なんとも不思議な気分だった。
「よし、よし……」
ベッドの上で血と液体にまみれた、私の赤ちゃんに手を伸ばす。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
元気に顔をしわくちゃにして泣く私の赤ちゃんは……。
「可愛い……」
とても、とても可愛かった。
髪はなくて、とても小さくて、お腹から……へその緒とやらが伸びてて。
そんな小さな体で懸命に生きてる姿に、それを私が産んだという事に、胸の奥から暖かいものが溢れ、自然と涙が溢れてきた。
出産時は死ぬかと思ったけど、こんなに暖かい気持ちになれるなんて思わなかった。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「ふふ……よし、よし」
布でその体を拭いてあげて、目も開いていないその顔を撫でる。
はぁ……良かった、無事に産まれて……。
ああ、それにしても、少し疲れた。
お腹空いたな……。
お腹空いた。
オナカスイタ。
「おぎゃあ!おぎゃ」
がぶ、がりがり、ぐちゃ
「…………」
血塗れのベッドで、私は、体を震わせていた。
私の赤ちゃんだったものをその手に抱えて。
もう右手しか残ってない、赤ちゃん。
私の赤ちゃん。
オイシカッタ
「あぁ……」
結局私は魔族だった。
お爺さんを食べた時にあれだけ後悔して、苦悩して、もう食べないって約束したのに。
なのに容易く本能の誘惑に負けた。
しかも愛しいと思った、私の赤ちゃんを食べた。
あんなに可愛いと、見てるだけで胸が温かくなったあの子を。
これから、色んな事を見るはずだったあの子を……。
「うぷっ……おぇええええ……」
そう思った瞬間、私は自分のした事のおぞましさに吐いてしまった。
ベッドの上に、私の赤ちゃんだったものが散らばる。
「うぐ……あ、あああぁ……」
けどそれは、私の赤ちゃんが本当の意味で無駄死にしたという事になる。
散らばる肉片に、私は慌てて口をつけた。
「ごめっ……ごめんなさい、ごめんなさい」
じゅるじゅると音をたてて肉片を啜る。
私の胃液も混じって酸っぱくて、血生臭くて、おぞましくて。
それでもえずきながら私は吐いた赤ちゃんをもう一度食べた。
「はぁ……はぁ……あぐぅううううう……!」
痛い、痛い、あれだけ温かかった胸に風穴が空いてしまったかのように、胸が痛くて痛くて仕方なかった。
理由の違う涙が溢れて、私の頬を濡らす。
「ひっ……うぅううう……!あぁああああああああああああ!!!」
人間のように振る舞っても、所詮私は魔族だった。
また私は本能に負けて、しかも赤ちゃんの命を奪ってしまった。
人を食らう魔族、自分の赤ちゃんすら食べるような、最悪で最低な存在だ。
私は、泣き叫んだ。
そして、大きく開けた自分の口に、不可視の右腕を突っ込ませて、私の歯を全てへし折った。
もう、こんな歯はいらない……。
「ふぐ……いふぁい……えへ、へはははひ……」
口から歯をもぎ取った右手が抜けた後は、おびただしい出血があって、物凄く痛かったけど……。
産まれて直ぐに私に食べられた赤ちゃん程じゃない。
その痛みに罪を灌いだ気にでもなってたのか、私は血を流す口を押さえながらも、少し笑っていたように思う。
浅ましい。
本当に、もう二度と、人間を食べない。
食べたくなっても、歯がなければ食べれない。
私は腕だけ残った赤ちゃんをお爺さんの隣に埋めて、小さな墓石を置いた。
ごめん……ごめんね……私が、こんな私がお母さんでごめんね……産んで、ごめんなさい……。
その子に、祈りを捧げた終えた私は、お爺さんと共に暮らした家に火を放った。
赤ちゃんを食い殺した事、誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化せたかもしれない。
けれど、結局あれだけ親身になってくれたのに、それらを全て裏切った私が、浅ましくて……逃げる事にした。
全て私の責任だけど、それでもこれ以上は限界だった。
私は、身をすっぽりと覆い隠せるフードつきの外套を身に纏い、その場を後にした。
何処に行くのか、結局行く宛もないけれど……ここにはいられない、そう思ったから。
『いってらっしゃい』
「……え?」
お爺さんの声がしたような気がして振り向くも、そこには何もなかった。
けれど、何故かお爺さんのあの静かな視線を思い出して、少しだけ、心が軽くなったような気がした。
そんな気持ちの中、私は夜の森の中をゆっくりと歩き出した。
『おぎゃあ!おぎゃあ!』
赤ちゃんの泣き声が、私を責めるような泣き声が、いつまでも頭から離れなかった。
誤字修正しました、ご報告ありがとうございます。
魔族の子供の次はどれが読みたいですか?
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〈戦士と魔族〉
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「平和だった町」
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[一級魔法使い第二試験]