はてさて、後日談ももうすぐ終わり……あと2話くらいの予定です。
それまでどうか、お付き合いください。
「……これは、ヴァイゼが……」
マハトが呆然とした様子で呟いた。
自分が黄金と変えた城塞都市ヴァイゼ、もう元の姿に戻る事はないと思っていた。
けれど、今その考えは撃ち破られた。
フリーレンをもし逃せば、遠からずそうなった可能性もあるものの、追い詰めていた今、その道は閉ざされていた筈だった。
マハトは、フリーレンへと視線を向けた。
「フリーレン、お前の仕業か?」
魔族の子の手を取り立ち上がったフリーレンは、首を振る。
「違うよ。やろうとはしていたけど、やりきれなかった」
フリーレンに与えた傷は深い。
腹を貫き、捻り、致命傷を与えた筈だ。
にも関わらず、平然と立ち上がり、腹部の出血も既に止まっているように見えた。
ヴァイゼが解放された事といい、フリーレンが無事な事といい、想定外の事象が起き過ぎている。
既に戦いは終わったと、肩にかけていたマントを再度その手に持つ。
それは、フリーレンの手を掴んでいる魔族の子の……。
自分にもソリテールにも、大魔族二人が反応出来ないスピードで剣を振るっていた事への警戒の表れだった。
魔族の子はフリーレンに向けていた穏やかな笑みを消すと、目を瞑りながらマハトへと顔を向けた。
開いたその瞳の色は、先程とは違う……茶色だった。
「ヴァイゼを解放したのは私です。
フリーレンが頑張って貴方の呪いを解析したのです。
本職の私が出来なくてどうしますか?」
「その口振り……ハイター……?ど、どうなってるの……?」
狼狽するフリーレンに、魔族の子は苦笑を浮かべた。
「詳しくは後で。貴女の体の応急治療と、鎮痛も終わっています。
後で痛みはぶり返しますが……暫くは問題なく動ける筈です」
「……そっか、わかった。信じてるよ」
マハトは困惑していた。
まるで、老獪な手練れのような雰囲気を醸し出している魔族の子に、気力を取り戻したフリーレン。
あと少しで、掴めると思っていた
「……いや、やる事は変わらない。『
想定外の事態に呆けてしまったものの、マハトはそう思い直す。
『
真正面から叩き潰し、無力化すれば良い。
魔族の子に起きた変化は興味深いが、それも後で良い。
「殺し合いを再開し――」
そこで不意に、魔力の高まりを感じた。
反射的に黄金と化したマントを背後に掲げれば、無数の光線が殺到していた。
視線を向ければそこには、先刻戦い、下し、黄金の像と化していた筈のデンケンが……自分の弟子が杖を向けていた。
戦意を滾らせ、デンケンは言葉を紡ぐ。
「お前の相手は儂だ。師よ、第2ラウンドと行こう」
同時に殺到する魔法の数々に、マハトは身を翻す。
ソリテールと分断するように放たれる魔法に、その狙いを察するも……そもそも魔族には連携するような殊勝な者はほとんどいない。
ソリテールが器用に立ち回り形となっていただけで、マハト自身は共に戦う意味を見出だせていなかった。
「……いいでしょう。お相手致します」
故にマハトは、その誘いに乗る。
デンケンを下し、フリーレンと魔族の子を無力化し、またこの地を黄金で包む。
やる事は、変わらない。
「殺し合いを再開しましょう。デンケン様」
「……ヒンメルやハイターと聞こえたけれど……何が起きてる?その子は、一体……」
右腕から血を滴らせるソリテールの呟きに、茶色の瞳を輝かせていた魔族の子は、目を閉じる。
そして再度目を開いた時、その瞳は青へと変化していた。
「君にこれ以上語る事はないよ。君のような魔族をこれ以上この世にのさばらせる訳にはいかない。ここで討つ」
魔族の子の言葉に、フリーレンは賛同する。
この大魔族は、生かしておくには危険過ぎる。
「そうだね。……ソリテール、お前はここで叩き潰す」
フリーレンは、少し離れた場所に残されていた自身の杖を手元に引き寄せながら、改めて決意を口にする。
自身はボロボロ、目前には無名の大魔族、手練れの魔法使い、手加減していた形跡すらある。
けれど……隣に彼がいるなら負ける気はしなかった。
「……素敵。まだ現状を把握しきれていないけれど、お話したい事が増えた。
瞳が変化する度に魔力の質が変わってる。まるで、違う人に切り替わってるみたい。
何かの魔法?こんな魔法見たことない」
じゅううう
ソリテールの右腕から煙があがる。
肉の焼ける嫌な匂いに、フリーレンは顔をしかめた。
止血の為なのだろうが、表情一つ変えず、躊躇いもなく行ったその行動に嫌悪を感じる。
それが出来る人間もいるにはいるだろうけれど……やはりこいつらは人じゃないと、改めて確信していた。
「けど、ヴァイゼを、黄金と化したもの達を全て戻したのは早計だったんじゃない?」
その言葉と共に、無数の大剣が……周囲の集落の避難民達をぐるりと囲んだ。
「ひぃっ」
けれど、流石はこんな辺鄙な場所を住み処にしていた人達だ。
小さな悲鳴や息を飲む音がするだけで、取り乱す人はいなかった。
これならば、と内心でフリーレンが呟く。
「フリーレン」
思考するフリーレンに、魔族の子が言葉少なに告げた。
「任せた」
視線も向けず、剣を構える。
そんな姿に、まるで80年前に戻ったかのような感覚に、不意にフリーレンの瞳に涙が浮かんだ。
今は感傷に浸る時間じゃない、そう自分に言い聞かせ、フリーレンは目の端を即座に拭った。
杖を強く握り締め、躊躇いなくソリテールへと背中を向けた。
「任された」
狙いを定めるはソリテールの操る無数の大剣。
狙う場所はわからない。
動きは早く、中空で突然発生し、人体を容易く貫通する。
そんな特徴を持つソリテールの魔法は、そう簡単に対処出来るものではない。
ましてや戦闘力を持たないただの一般人を守りながらなんて、正気の沙汰ではない。
けれど。
「……今の私なら出来る」
魔法はイメージの世界だ。
出来ないと思ってしまった事を可能にするのは難しい。
けれど、10年の旅路の中で、不可能を何度も覆してきた男が、自分に任せたのだ。
そんな男が選んだ魔法使いである私に。
なら、絶対に出来る。
「いや……」
目を瞑ったフリーレンの構えた杖の先に、魔法陣が煌めいた。
「出来ない筈がない」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
その瞬間、無数の光線が、人を襲うべく動き出した大剣を撃ち抜いた。
一つ残らず、誰一人怪我なく。
ソリテールが僅かに驚愕に目を見開いた所に……魔族の子は即座に近接していた。
フリーレンが魔法を放つ事を確認する事なく、その魔法の成果を確認する事なく。
ソリテールの目と鼻の先で、大剣を右から袈裟がけに振り下ろす所だった。
既に避けられるようなタイミングではなかったその振り下ろしを見て。
「……バカね」
ソリテールは笑みを深めた。
ぼろっ……
肩に触れるか否かというタイミングで、その大剣は形を失いボロリと崩れてしまったのだった。
ソリテールが作り出した大剣だ、彼女の意思一つで消えて当然ではあった。
「(捉えきれない鋭い動きには驚かされたけれど、これは致命的な隙。このまま貫く)」
魔族の子は突然剣が消えた事で、前のめりに体勢を崩していた。
そんな魔族の子に対して、ソリテールはその先に大剣を作り出し、そのまま貫くつもりでいた。
にんまり、そんな効果音が相応しいような笑みを浮かべて……。
「残念で――」
「っらぁっ!」
ゴッ!
その顔面に、拳がめり込んだ。
なんて事はない。
魔族の子は崩れた姿勢のままもう一歩踏み込み、剣を失った事で空いた手を握りしめ、そのにやけ面へと叩き込んだのだ。
「っ!?」
ドガンッ!
崩れた姿勢から繰り出されたとは思えない、重い音を響かせた拳。
それを受けたソリテールの体が吹き飛んだ。
木をへし折り、倒れたソリテールのほうを見て、魔族の子は右腕を下ろした。
あちこちから出血し、肘から白い骨すら飛び出たズタズタの腕をだらりと垂らし、けれど晴れ晴れとした顔で、笑みを浮かべていた。
「ふぅーっ!ずっと、その済ました顔をぶん殴ってやりたかった。数十年越しにやっとスッキリしたよ」
態度と表情は晴れ晴れとしているものの、額にはじわじわと脂汗が浮かび始めていた。
そして、少し遅れて激痛を認識した魔族の子の、晴れやかな笑顔は崩れていった。
「あっ、これマジで痛い。マジで。あいたたたたたた」
ソリテールの操る大剣の対処を終えた私は、殴り飛ばされた奴の姿を探した。
あの一撃で死んだ訳でもあるまいし、何のアクションもない事が不気味だった。
なかなか良いのが入ったから気絶でもしてる可能性もあるけれど、まずは避難を優先させようと、集落の人々に避難を続けるように告げる。
頷き、移動を再開させた人達の動きと、ソリテールの動きに注意しつつ……馬車の中にいる怪我人の事を任せた。
ちらりと見えた馬車の中に倒れたままの女性は、信じられないものを見るような目で、私を見返していた。
……何か言いたげではあったけれど、今はその感傷に付き合う時間じゃない。
直ぐに視線を反らし、ソリテールの動きに注視する。
その瞬間、へし折れた木の周辺に充満していた土煙を切り裂き、ソリテールが飛び出した。
鼻血を垂らし、頭からも血を流してはいるが、平然としている。
その速さは凄まじく、瞬く間に痛みに呻く魔族の子の横腹についた。
そして……その左手に、凄まじい魔力が渦巻いている事に一拍遅れて気付いた。
「ヒンメル!」
魔族の子も気付いていたけれど、想像以上の速さに一手反応が遅れていた。
私は咄嗟に防御魔法を、二人の間を阻むように遠隔で展開したけれど……。
バキィン!
ドゴォオンッ!
一瞬で打ち砕かれ、魔族の子の体は勢いよく吹き飛ばされていた。
本人も寸前にはどうにか受け身を取っていたから、大丈夫だと思うけれど……。
今のは……ただ魔力の塊を打ち出したのか……なんて威力だ。
そのまま追撃しようとするソリテールにそうはさせじと『
……けれど先程とは違い、防御魔法を展開すらしていないにも関わらず、その身に触れる事も叶わない。
「……皮肉よね、私は長年色んな魔法を学び、探求を、研鑽を繰り返した。
けれど、最終的に辿り着いた私が使える最強の魔法は、これ。
魔力をぶつける、単純な魔法……」
更にはただの魔力による防御……『
ズザッ!
私が戦慄していると、隣に魔族の子が体勢を整えて着地した。
その姿はボロボロで、荒々しく地面に血を吐き、血だらけの右腕がブラリと揺れた。
痛ましい姿だったけれど、その青い瞳だけは力強く輝いていた。
「……大丈夫?」
「あんまり。でもこれで僕と彼女は互いに右腕が使えない。
なら、フリーレンがいてくれる分こっちが有利さ」
「魔法使いにはそこまで当てはまらない気もするけどね」
まぁ……あながち間違いでもないか。
魔法を使う時は基本的に杖を使うし、どうしても手から放つ事が多い。
そうしたほうがイメージしやすいから。
故に希望的観測ではあるけど、ソリテールの戦力は半減している……と言えなくもないだろう。
「素手で人間に殴られるなんて初めての経験だったわ。
こんなに痛い思いをして戦うのも初めて……。
……そうね、お話や実験は数え切れない程してきたけれど、殺し合いは初めてかもしれない。
今日は初めての事が多くて、とても良い日だわ。
きっと、生涯忘れる事はない……或いは今日が私の最期になるのかしら?」
笑みを崩さず、ソリテールは言葉を紡ぐ。
自分の生死すら、どうでも良さげに。
こちらが怪訝な顔をしていると、ソリテールは言葉を続けた。
「私は人類の賢さも勇敢さも、魔法技術を共有し進化させる、群れとしての強さも知ってる。
貴女の『
そんな人類に、私はいずれ狩られる日がくると思ってる。
ここまでボロボロにされてしまったのだし、それが今日でないとは言い切れないわね」
「なら大人しく死んでくれると嬉しいんだけど」
何処までも他人事なソリテールの態度に、思わずそう言い返す。
隣に立つ魔族の子は苦笑を浮かべていた。
「私を狩るのが貴女達なら……今日が私の最期の時となるなら……。やってみたい事があるの」
薄ら笑いを浮かべたまま、まるで胸の前で手を組んで懇願しているような姿勢で、左手だけ胸の前で握り締めて、ソリテールは口を開いた。
「ごめんなさい。死にたくない。改心します。
私はただ、貴方達と仲良くなりたかっただけなんです。
ただ、やり方がわからなくて――」
ズドンッ!
そのあまりの不愉快さに、私は思わず『
……残念ながら魔力に阻まれて届かなかったみたいだけど。
「……私の命乞いはお気に召さなかったようね。やはりこんな言い方じゃ駄目だった?
素直な感想が聞きたいわ。どう思ったかしら?」
……ああ、本当にこいつは……。
本当にどうしようもない奴だ。
アリウム程潔くする魔族なんて有り得ないけれど、それにしても悪辣さが群を抜いている。
やはりこいつは、ここで必ず殺さないと駄目だ。
「そんな言葉、今まで数え切れない程……」
「うーん、そうだね、もう少し情けなく泣き喚くとかすればいいんじゃないかな。笑顔のままだと流石に騙されないよ」
「そう、そうよね、失敗しちゃった。ちょっと待ってね、涙を流すのは少し苦手で……」
「ヒンメル、語る事はないんじゃないの?」
「おっと、いや、感想を聞かれたもんだからつい、ね」
ジトリとした目で見てやれば、あまり悪く思ってなさそうな軽い態度で返してくる。
話すのは前から好きだったけれど、今はそういう場面じゃないだろうに。
「ふふ……」
そんな私と魔族の子のやり取りを見て、ソリテールは笑い声を溢した。
「仲が良いのね。確信した、やはりその子の中には今勇者ヒンメルがいるのね。
過去からきたのか、死人が蘇ったのか、そこまではわからないけれど……本当に、なんて貴重な経験……。
それにしてもフリーレン、さっきまでと随分様子が違うわね?
お弟子さんの肉親を殺した事は、もう気にしない事にしたの?」
「……!」
ズバアッ!
こいつは……本当に嫌な所をついてくる。
次の瞬間に私に肉薄したソリテールが放つ魔力を避けながら、思う。
こいつの言動は、非常に手慣れてる、的確に人の心を揺さぶってくる。
お返しに炎を放つも、やはり魔力に阻まれて届かない。
今は隣に魔族の子がいるから幾分か冷静になれてるけれど、一対一だったなら、今ので恐らく私は呆けてしまい、手酷い一撃を受けていただろう。
魔族の子がそこらで拾った木の枝を、ソリテールへと振りかぶった。
「ふふふ、そんなので戦うつもり?勇者ヒンメル」
「僕の手にかかればそこらの木の枝も、勇者の剣に早変わりさ」
ズドッ!
バキッ!
木の枝とは思えない音を響かせるも、やはりそこは所詮ただの木。
中ほどで折れて宙を舞う。
こんな魔族と戦う時に……こんなに私の気持ちが弱ってる時に、隣にいてくれるだけで本当に心強い。
「随分脆い勇者の剣ね」
「なあに、僕が折れなければ問題ないさ」
即座に反撃に出ようとするソリテール……その動き始めを『
ただやはり決定打にはならないか……。
魔族の子も直ぐに別の枝を拾って踊りかかるけれど、簡単にあしらわれてしまう。
剣の一つでもあればまた違うんだろうけど……持ち合わせはないし、ソリテールは利用されるのを避けるためにか作り出す気はなさそうだ。
ただただシンプルに、魔力を張り、魔力をぶつけてくる……。
単純故に対応が難しい。
「これを続けてもお互いに消耗戦になるだけよ。
そうなった時に、どちらが有利かしらね?」
ソリテールの魔力操作技術は私以上だ。
こちらの魔法も攻撃も通らないのに、ソリテールの魔法は私の防御魔法を紙のように貫通するだろう。
前衛がいてくれるからまだまともに使わせていないだけ。
このやり取りを続けているだけで、私達が不利になっていく……。
何か打開策を……。
「どうなっても僕達が勝つさ。勝つまで諦めないからね」
そんな少し弱気になった私を勇気づけるのは、いつもそう。
勇者の言葉だ。
「……ふふ、そうだね。その通りだ。まだ何も試してない」
改めて杖を構え直す。
気合いを入れ直そう、ソリテールは間違いなく強い。
魔族の子も私も、満身創痍だ。
感じられる魔力が僅かなのを見るに、ハイターがいても傷を癒す事は出来ないのだろう。
「素敵な信頼関係ね。私が殺しちゃった弟子ともそんな信頼関係を築いていたのかしら?」
おまけに私の神経を逆撫でするような事まで口にしてくる。
怒りを覚えているのもあるけど、そもそも血を流し過ぎて正直頭がふらつく。
そして私達はこれ以上傷を癒す事は出来ない。
対してソリテールは右腕こそないけれど、頭から血を流していても平然としていて、魔力もまだまだありそうだ。
それでも、ヒンメルがいるなら、不思議と負ける気はしない。
ソリテールへと踊りかかる魔族の子を見て、私は小さく呟いた。
「まずは真似事から試してみようか」
ふわりと飛行魔法に身を任せて、一飛びに肉薄する。
魔族の子の振るう枝に気を取られていたソリテールは、虚を突かれたような顔をして。
ズドンッ!
私の放った魔力の塊に吹き飛ばされた。
「うん、やっぱり単純な魔法だ、猿真似くらいなら出来るね」
「ふ、ふふふ……素晴らしかったわ、フリーレン、ヒンメル」
フリーレンと魔族の子、ソリテールとの戦い。
「それでも、私の勝ちみたいね」
形勢はソリテールに傾いていた。
一度、魔族の子へとソリテールの魔法が直撃してしまった。
勢いよく吹き飛ばされるそれに、フリーレンも一瞬気を取られた。
そしてその隙を突かれたフリーレンもまた、その魔法をその身に受けてしまっていた。
同時にソリテールにも打ち込んではいたものの、受けたダメージの差は歴然だった。
ソリテールは立って二人を見下ろし、二人は倒れ、痛みに呻いていた。
「楽しい時間は、あっという間ね……」
ソリテールはしみじみとそう呟く。
吹き飛ばされた二人はなんの偶然かソリテールが何か調整した訳でもなく、程近い場所で倒れこんでいた。
「くっ……フリーレン……平気かい?」
「……大丈夫、まだ戦えるよ」
二人は明らかな強がりを口にしながらも、どうにか立ち上がる。
だが傷は酷いもので、ボタボタと流れる血が地面を濡らしている。
足はガクガクと震え、けれど戦意だけは衰える事なく、ソリテールを見返していた。
「……本当に素敵。殺してしまうのが惜しいくらい。
でも死にかけてる人間が怖い事も、私は知ってる。
だからあとは二人まとめて、吹き飛ばしてあげるわ」
そんな死にかけの二人に……いや、だからこそソリテールは最大限の警戒と共に左手に魔力を練り上げる。
あの二人がいる一帯を吹き飛ばすつもりで、全力で魔力を練り上げて。
それに気付き、フリーレンは杖を構えようとするも、体を倒れないように支えるので精一杯で。
魔族の子は意識すら朦朧とし出したのか、頭をおさえて目を瞑っていた。
「本当に、素晴らしい時間だったわ。
フリーレン、ヒンメル。二人には、心から感謝をあげる」
ソリテールの左手に集う魔力が、空間を軋ませ始める。
食らえばひとたまりもないだろうなと、フリーレンは朧気にそれを見つめて……。
「魔族の敗因はいつも変わらないね……」
そう、小さく呟いた。
「さような―――!」
ソリテールが魔法を放とうとしたその寸前、何かに気付いたように後ろを振り返ろうとした。
けれど、その体は何かに捕らわれ、首を多少捻れただけで、それ以上動く事はなかった。
魔力の膜の上から、何かに押さえ付けられている事に、ソリテールは遅れて気付く。
目を見開くソリテールの視線の先には、魔族の子……。
その瞳を、薄紫に光らせた
「ああ……素敵」
魔法に気付くのが一手遅れた事、それが致命的な隙、油断となった。
ギュンッ!
避ける間もなく、ソリテールの胸の中心を、空から落ちてきた光線が貫いた。
瞬間、数十年前の記憶が、ソリテールの脳裏を過る。
奇しくも、ソリテールの胸を占める感情は、その時と同じだった。
「人間って……本当に、面白い……」
40年前のあの時と同じ言葉を紡ぎ、ソリテールは力なく倒れた。
胸の中心に空いた風穴、魔族といえど致命傷だ。
バチ、バチと傷口が音をたて、既に手遅れである事を指し示しているようだった。
そしてそれとほぼ同時に、遠く、森の上空で煌めいていた何かが、力尽きたように落下していった。
仰向けに倒れたソリテールは、満足げに、笑みを浮かべて、その落ちていく光を眺めていた。
魔族の子供の次はどれが読みたいですか?
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〈戦士と魔族〉
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「平和だった町」
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[一級魔法使い第二試験]