お気に入りも沢山して貰ってとても嬉しいです。
こんなに反応貰えるとは思いませんでした、ありがとうございます。
今回はほのぼのです。
誤字報告ありがとうございます、修正しました。
旅に出てみて、まず知ったのは私がとても恵まれた環境にいたという事だった。
人間はかなり助け合う生物だけど、反面見慣れない相手に警戒心を抱きやすい。
それが例えボロボロだろうと、余裕がなければ人は人を助けられないのだ。
確かに思い返して見れば、私が森で人を食べていた頃、私に手を差し伸べてたのは幼い子供か、身なりの良い人ばかりだった気がする。
ズクン
……今更ながらに胸が痛む。
人間の好意を貪っていた私に強く嫌悪してしまう。
話を戻すと、私がよく行っていた村の人達は、かなり私に配慮していた事がわかった。
私が狩った獣の革や肉を売りに行っても他の村ではほとんど買われないし、買って貰えたとしても、村の半分以下の価値だった。
なめしが甘い、切り方が雑、そう言われてしまえば私に何も言える事はなかった。
見様見真似でやっていた事は確かなのだから。
兎に角、今までとはかなり違う生活になるだろう事がわかった。
果物があまり見つからず、獣を見つけたので近くの村に寄ってみたのだけれど、こうなるとあまり近付かないほうがいいのかもしれない。
けれど、野宿をするにも装備が必要で、それを得る資金すらない。
幸いにも獣の処理の仕方を教えてくれるという、余裕のある人がいたので、その人に教えて貰える事となった。
「金はいらねえ、代わりに一晩……どうだ?」
「……?
一晩?よくわからないけれど、金を取られないのは有難い。
私はその人の教えを受ける事となる。
教え方は丁寧でわかりやすかったのだけれど、夜が問題だった。
一晩、とは私と行為をするという意味だったらしく、股間の棒を私に突き刺したくて堪らないらしい。
行為も妊娠も出産も嫌な思いしかない。
……けれど、教えを受けてる身だから、と私はその男のベッドに仰向けで倒れこんだ。
その男との行為はやはり痛くて、気持ち悪かった。
必死な顔で腰を振る男に、私は冷たい視線を向けてただその行為が終わるのを待っていた。
朝まで私の体を好き勝手した男は、自分が使っていたものだけど、と野宿、夜営出来る装備を差し出してきた。
……正直ありがたい。
行為はやはり嫌いだ、痛いし気持ち悪いし、特に終わった後にどろどろと垂れてくるのが最悪だ。
……何処かで水浴びでもしよう。
私はそれらを受け取り、それならもう用はないとその男のもとを後にする。
「
そう告げて手を振る私に男は何か言いたげだったが、私は気にする事なくその場を去っていった。
また男が私に行為をしてきたら、弾みで殺してしまいそうで怖かったから、追ってこなくて良かった。
私はお腹を撫でる。
行為をすれば必ず妊娠するという訳ではないらしいけれど……今のでもし妊娠していたら……。
「
数ヶ月経っても私の体調はそのままで、お腹が膨らむ事もなかった。
胸を撫で下ろし安心すると共に……少しだけ残念だった。
次に知ったのは、同族の事だ。
何度か出会う事があった。
皆意外な程に私には優しかった。
右腕がなく、歯がなくて、ちゃんと話せない私を労るような素振りを見せていた。
子供の魔族は、殺した人間の肉を差し出してきたし、食べれないと伝えれば気まずそうな雰囲気が伝わってきた。
……何故その心遣いを人間には出来ないのだろうか?
同じような姿をしてるのに、何故そう平然と食べれるのだろうか?
血の匂いでえずく私の背中を撫でる、子供の魔族の手の温かさに、頭がおかしくなりそうだった。
「あなたは変な事を考えるのね」
額に小さな角のある、かなり長生きしてるらしい魔族が語る。
「
「魔族でそんな事考える奴はいないわ。
私も知り合いも人間を理解しようとはしてるけど、人間を殺す事に特に思う事はないもの」
「
朗らかに、優しげに細められた瞳で放たれた言葉に、私は小さく頷いた。
魔族は、そうなのだろう。
人を殺すのに理由はない。
私は覚えはないけれど、魔族によっては食べないのに殺す事すらあるという。
私がもっと強かったり、弱い人が沢山いたりすれば、私もそうしていた可能性は否定出来ない。
「食べたものに対する感謝、ねぇ。人間は面白い事を考えるのね。
でも、私は少しだけわかるわ。死ぬ前の人間の言葉を良く聞くから。
その言葉を聞かせてくれてありがとう、って思うわ」
それが感謝の言葉であってるわよね?
そう言う魔族に対して、私の脳裏にはかつて死にかけた時の、白い髪の少女の言葉が甦っていた。
『魔族って奴は人の心がない獣だ』
その通り、なんだろう。
結局魔族は獣なんだ。
同族に対する諦めが、私の心を染めた。
「あら、もう行くのね。気を付けてね?
また会えたら、色々お話しましょう」
ひらひらと傍目には愛想良く手を振る魔族に、私は手を振り返し、踵を返した。
その細められた瞳から怪しい光を感じて、私はその場を早く立ち去りたくて仕方なかったから。
きっと彼女はこれからも人間を殺し続けるのだろう。
それに何を思う事もなく、彼女のいう人間を知る、という行為の為に。
なんておぞましいのだろう。
いや、魔族としては彼女も異端だ。
本能で人をただ殺す魔族に比べれば……。
魔族が獣というなら、私はなんなのだろう?
いや、決まってる。
自分で産んで自分で食うような存在が、人間な訳がない……。
「ふぅう……」
彼女の気配を感じなくなってから、漸く私は一息ついた。
大きく息を吐き出して、額に滲んでいた汗を拭う。
それでも私は……。
私は……?
……どう、したいんだろう……。
旅の途中、何度か人間を助けた事があった。
馬車が道を踏み外して横転していたり、人が魔物に襲われていたり。
馬車を不可視の右腕で掴んで直した時は、お礼に山程の干し肉を貰ってしまった。
仕方ないのでしゃぶっていたけれど、これがなかなか悪くなかった。
きっと美味しい塩や香草を使っているのだろう。
もむもむと歯茎で噛んで味を出し、その味を楽しむ。
不意に懐かしい香草の匂いがして、少しだけ瞳が潤んだ。
人を助けた時、どうやらこめかみの角を見られてたみたいで、魔物を殺して振り返った時には恐怖の表情を張り付けていた。
一歩近付けば悲鳴をあげて逃げ去ってしまって、私はそれを見送るしか出来なかった。
普通の人にとっての魔族の印象なんてのは、そんなものだ。
そして、それで良いと思う。
魔族になんて心を許すものじゃない。
そう、思っていたのに。
「ありがとう、ありがとう!美しくて強いなんて君はすごいな!」
私は一人の男に付きまとわれていた。
魔物から助けた時にかなり動いていたから、角が見えたとは思うのだけれど……。
私がそう思ってこめかみの角を露にしても、男の態度は変わらなかった。
「角、あれか、魔族という奴か?初めて見たけど、君が恩人なのは変わらないよ!」
そう言って私の手を握る男は満面の笑みを浮かべていて、私は戸惑ってしまう。
「……
……お爺さんも村の人も、私の事は人間として扱っていた。
だから、魔族として扱われて、それでも私の近くにいる男に、私はどうしたらいいかわからなかった。
「旅をしてるんだ?僕もなんだ!宛は特になくてね、良ければついていってもいいかな?」
「……
「ありがとう!」
私の一人旅に、共に旅する変わり者が増えた。
男は表情のコロコロと変わる人間だった。
私と会話していればいつもニコニコと笑い、周囲を見る時は穏やかな顔で、何か異変があればすぐに真剣な顔になって。
色んな話をした、この世には想像した事もないような、色んな物があるんだと。
ダンジョンを攻略した話や、依頼で大変な目にあった話、女に騙されて酷い目にあった話。
面白おかしく話すそれらの話は、私にとってとても新鮮だった。
そんな男との旅路は、悪くないものだった。
お祖父さんと共に暮らしていた時に近い、けれど違う温かさを感じる。
男も、初対面こそ私が助けたものの、弱い訳ではなく、魔物や獣と戦う時も私を守るように立ち回っていた。
その様子を、私は不思議な思いで見ていた。
確かに彼は弱くはないけれど、私のほうが確実に強い。
強い者が自分より弱い者を助けるものなんじゃないの?
そう問い掛けると、男は苦笑した。
「男にはそういう所があるんだよ」
「
男は「カッコつけてるだけだよ」と続けた。
やはりよくわからず、私は首を傾げた。
ただ……その背中を眺めてるのは悪くないと思った。
彼との関係が変わったのは、彼が私を庇って怪我をした時だろうか。
狼型の魔物との戦いで、すばやい身のこなしに翻弄された時、完全に不意を突かれた一撃を、彼は私を抱き締め、その背中で受けた。
血が飛び散る中で、揺れる視界と感情の中、咄嗟に不可視の右腕で魔物は即座に処理をした。
「だいじょうぶ!?」
私は直ぐ様地面に倒れる彼の元にしゃがみこんだ。
その背中からは血が流れ、服を赤色に染めていた。
「うっ……君は……怪我は、ない?」
なのに彼は私を心配して、そんな事を言う。
もっと自分を大切にするべきだと言っても、彼は私を優先した。
それがむず痒くて……でも、何処か嬉しかった。
トクンと、高鳴る胸がじんわりと温かかった。
怪我は割りと深く、少し腰を落ち着ける必要があった。
旅の中で少しずつ貯めた資金を使い、海の見える場所にポツンと建つ一軒家を借りた。
何処かの小金持ちの別荘だったらしく、二人で悠々と暮らせる広さがあった。
私はそこで彼を看病し、彼はそれを少し嬉しそうに受け入れていた。
そこでの生活は穏やかだった。
ゆっくりと時が過ぎる日々。
何処か懐かしく、新鮮で平和な毎日。
彼と共にご飯を食べ、怪我の手当てをして、排泄の……それは彼に慌てて止められた。
「げんきになったらどうする?」
少し前からだけれど、私は漸く歯がない状態に慣れて、発音がわかりやすくなってきた。
少し舌ったらずになるのは仕方ない。
「そうだね……今回僕の療養の為にかなりお金使ってしまったから、まずはまた稼ぎ直しかな」
「わたしがしょりしたけものはあまりうれないから、おねがいね」
「はははっ、君は解体の仕方が荒いからね」
笑う彼に、私は頬を膨らませる。
私だって頑張ってるのに、どうしても上手くいかないだけなのに。
苛立ち交じりに干し肉を口にいれて、もむもむと噛む。
じわじわと味が染み出てきた所で、彼が私をじっと見てるのに気付いた。
干し肉、彼も欲しかったのかな?
漸く味が出てきたところだったけれど、仕方ない。
「はい」
「んがっ!?」
私の唾液でふやけ始めた干し肉を、彼の口に捩じ込んだ。
噛めば直ぐに味が出てくるよ、私に感謝するといい。
「おいしい?」
そのまま暫く口を開けたままの彼だったけれど、私がそう問い掛けるとゆっくりとそれを噛み始める。
「お、おいひいです……」
彼は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにそう言った。
その彼の様子に、私までなんとなく恥ずかしくなってきた。
今更だけれど、口同士をくっつける事なんて番でなければほとんど起きないのだから、この行為は実はとても恥ずかしい事なのでは……?
そう思い至って頬が熱くなってきたのを感じた私は、彼から顔を背けて、照れ隠しに彼の太ももをペシンと叩いた。
「あいたっ」
私の唾液が彼の口に入った。
それだけなのに、何故かとても恥ずかしかった。
彼の傷の具合も大分良くなり、そろそろ旅を再開出来る目処が経った頃、二人で海に沈む夕日を眺めていた。
「……ふしぎだよね。なんでまうえにあるときといろがちがうんだろう」
「そうだねぇ……頭の良い人達は色々と仮説を立ててるらしいけれど、僕達は綺麗だなーって思っておけばいいと思うよ?
なんか色々と小難しい理由があるらしいからね」
「……うん、そうだね。とっても、きれい」
海に沈み始めるオレンジ色の夕日は、青い空と海をそれぞれ染めていた。
曇や波の影が複雑な模様のようになって、それがまた綺麗だった。
そうやって暫く夕日を眺めていると、彼の手が私の手に重なった。
私はその手から伝わってくる温もりに心地好さを覚え、その手を握り返した。
そのまま夕日を眺めたまま時間が過ぎていく中、ふと彼が私のほうをじっと見つめている事に気付いた。
夕日に照らされてオレンジ色に染まる中、彼は真剣な表情で私を見ていた。
「……どう、したの?」
その表情に、何処か緊張した様子の彼に、私は少し戸惑う。
私に向ける表情はいつも朗らかな彼にしては珍しい。
「ずっと、言おうと思ってたんだ」
私の手を両手で包み、彼は私に真っ直ぐ向き直った。
その言葉に、彼の表情に、何故か私の胸は高鳴った。
ドクン、ドクンと激しく体が脈打ち、少し息苦しさすら覚える。
「なに……を?」
何かが変わる、そんな予感がして、恐る恐る私は彼の顔を見上げた。
「僕は、君の事が好きだ。君に助けられた時からずっと。
君と旅をして、その気持ちは強くなる一方だった。
どうか僕とずっと一緒に居てくれないか?」
「すき……?」
彼の言葉の意味がよくわからず、聞き返した。
好き……?
人間が番を作る時、好きになった相手と作る。
それは知っているけれど、好きという感情の意味はよくわからなかった。
「そう、好き。その人を思うと胸が高鳴って、苦しくて、それでも一緒にいたい、そう思える人に向けた感情を、好きって言うんだ」
「すき……」
もう一度繰り返す。
その感情には、その感覚には覚えがあって、私は少しだけ俯いた。
「難しく考えなくていい、君は……アリーは僕と一緒にいるのは嫌かい?」
そう優しく問い掛けてくる彼に、私は顔をあげて、彼の顔を見つめる。
「いやじゃない!ユーリとたびしてて、たのしかった」
「なら良かった。
すぐに君にも僕を好きになって貰いたい訳じゃないんだ。
でも、いずれアリーには僕を好きになって貰う、っていう意思表示なだけで……」
ユーリがそう言いながら微笑む。
私は、その言葉を途中で止めて、私の手を包むユーリの手を握る。
「ううん、ううん、わたし、いま、どきどきしてる」
首を横に振って、私は今の私の思いを告げる。
ユーリの手を私の胸に押し当てて、今もドキドキしてる事を伝えたくて。
……きっと、これが好きって事なんだ。
「ほら、どきどきしてる。いまもむねがきゅーってなって、くるしくて。
でもユーリといたい、ふれあっていたい。
……わたしも、ユーリがすき。ずっと、いっしょにいたい」
私の言葉に、ユーリは満面の笑みを浮かべた。
そうしてそのまま、その腕を広げ、私を抱き締めた。
「そう、そうか、そうか!ありがとうアリー!嬉しいよ!
ああ、嬉しいな、君が僕なんかを好きになってくれて……。
情けない所ばかり見せてたと思ったのに、ああ、今日は良い日だ!」
ユーリの腕の中は温かくて、身体中に熱が広がるようだった。
胸の鼓動は早くなっていって、体が震える。
苦しくて、でもその苦しさが心地好くて、私は腕の中でその身を任せた。
「すき、どうし……わたしたち、つがい?」
「番、そうだね、恋人。僕達は今日から恋人だよ、アリー」
「こいびと……ふうふのしんかまえ……?」
「はははっ、そう、そんな感じだよ。
改めて、これから宜しくアリー……」
「うん、ユーリ……」
私を抱き締めていたユーリは、私の肩に手を置いて少しだけ体を離してきた。
温かくて良かったのになんで、と見上げると、ユーリの顔が私の顔に近付いていた。
あ、これ、これ知ってる。
好きな人間同士が唇を合わせる、行為。
人間の好意の表し方のひとつ。
「きす……」
ユーリの唇が私に触れる寸前に、呟く。
そっと私の唇に触れたユーリの唇。
ユーリに包まれたような感覚が、不思議と心地好かった。
私はそれを受け入れて、静かに目を瞑る。
目を瞑る直前、視界の端で夕日が沈みきるのが映っていた。
私とユーリの関係は、こうして旅の仲間から、恋人になった。
そっと唇を離したユーリに、私は自然と浮かんだ微笑みを向けた。
主人公
アリウム、愛称アリー
人間の男
ユリオプス、愛称ユーリ
誤字報告ありがとうございます。修正しました。
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