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漸くユーリの怪我が癒えた。
背中には少し傷痕は残っているけど、痛みはないようだ。
「よかった……もうむりしないでね」
「保証しかねるかな」
「むー」
そんな風に言うユーリにもたれ掛かり、頬を膨らませた。
ユーリは苦笑して、私の膨らんだ頬を撫でた。
私達は、恋人となって、旅を再開した。
ユーリと恋人になって、変化した事はない。
「アリー?あまりくっついていると歩きにくいよ」
「わたしはだいじょうぶ」
「……まぁ役得だからいいけども。……前はそうじゃなかったろう?」
……変化した事はそう多くない。
目的なく進み続けて、色んな景色を見て、様々な体験をする旅。
ユーリが隣にいる旅路は、全てが新鮮に思えた。
そんな日々を続けたある日、宿屋で日課のおやすみのキスをした時。
ユーリは優しく私をベッドに押し倒した。
少しずつ人間を学んでいた私は、これがユーリが性行為を望んでいる行動だと理解出来た。
勿論私は性行為が好きではないし、いい思い出もない。
けれど恋人、ひいては夫婦とは性行為をするものなのだと言う。
子供の為とはいえ、あんな行為をするとは、世の中の女性の方々は本当に立派だ……。
「……いいかいアリー……?」
私が乗り気ではないというのは、ユーリにも伝わってしまったようで、恐る恐る問い掛けてくる。
それでも、そう、女性との性行為は男性にとってとても気持ちが良いらしい。
私を抱いた男達は皆気持ち良さげで、必死に腰を振っていた。
「……うん……いいよ」
ユーリの為なら、ユーリが気持ちよくなるなら、多少の痛みと気持ち悪さは我慢する。
私は頷いて、ベッドの上で力を抜いた。
「え……あっ……なに……?」
「しらない、しらない、こんなかんかくしらない……!」
「おなかのおくがへん……!あつい……!」
「あっ、だめ、だめ、だめ……!」
「―――――ッ!!!」
ユーリとの性行為は、とても……気持ち良かった……。
変に高い声が出て、お腹の奥がじんじんして、身体中がびりびりした。
頭がふわふわして、チカチカして、身体が蕩けたような感じがした。
「すごかった……」
ユーリの腕の中で、私は心地好い疲労感に包まれていた。
性行為……セックスがこんなに気持ち良いとは思わなかった。
多分……相手がユーリだから、好きな人だから、なんだろう。
あの嫌悪感しか抱かなかった行為が、こうまで変わるなんて。
私はユーリを見上げる。
慈しみの表情を浮かべるユーリに、私の胸は高鳴る。
「可愛かったよ、アリー。
あんなに嫌がってたから不安だったけど、気持ちよくなって貰えて良かった」
熱くなる頬を誤魔化すように、私はユーリの首筋に頭を擦り付けた。
でも、本当に気持ち良かった。
今までの行為はなんだったのか、って感じ。
お腹に残る感触すら愛おしい。
「だって、いままでいたくてきもちわるかったから……。
でも、ユーリとのせっくすはすっごくきもちよかった」
「そう言って貰えるなんて、男冥利につきるね」
「うん……ほんとうにきもちよかった。
おやすみのきすとおなじく、にっかにしよ?」
「そ……それはちょっと……僕干からびちゃうよ……」
日課にするのは駄目らしい。
残念……。
苦笑いを浮かべるユーリの胸に頬擦りし、その鼓動を感じる。
トクン、トクンと鳴る心臓の音に安心する。
疲労感に身を任せ、私はユーリの腕の中で、ゆっくりと目を瞑った。
こんな気持ちの良い事を隠れてしてるなんて、世の恋人を持つ女性の方々は本当にズルい……。
ユーリと定期的にセックスするようになって数ヶ月、私達はダンジョンに挑戦していた。
魔王を討伐したとされる勇者パーティ、彼らが攻略したと言われている迷宮の一つだ。
まぁ、なので危険度はそう高くない。
挑戦もどき、観光みたいなもの。
ただ、人の手が入ってる訳ではないので、獣や魔物に襲われる事はあるらしい。
今のところはただ歩いてるだけだけど、警戒は解かずに進んでいた。
「勇者パーティは徹底的に探索したらしいから、もし宝箱があっても空か、ミミックだろうね」
「みみっく?」
「宝箱に擬態する魔物さ。
宝箱にはロマンが詰まってるからね、騙される人は多いと思うよ」
「へぇー」
擬態、かぁ。
「まぁ、あの高名な勇者パーティならそんな罠も未然に防いで、引っ掛かる事なんてなかったんだろうなぁ……。
あ、噂をすれば宝箱」
ふと目の前にはドン、と如何にも宝箱、という形の箱が置いてあった。
微かに変な魔力も感じるし、こんな分かりやすい所にある宝箱が手付かずなんてのは有り得ないよね。
まぁ間違いなく罠でしょ。
「ん……たしかにへんなまりょく。
あれがみみっくなんだね……え、なにしてるの」
「いや、開けてみようと思って……」
「なにしてるの……ぜったいわなだよ……」
呆れて目を細めて見つめると、ユーリは慌てて弁明を始めた。
「い、いやぁ、ほら、もしかしたら、ってのがあるだろう?
あまりにもあからさま過ぎるから皆スルーして、みたいな……」
「…………すきにすれば」
「ああ!アリーが出会った頃みたいな塩対応に!
そんな冷たい態度も良いけどね!
まぁまぁ見てなよ、きっとすごいお宝が入ってるから!」
かぱり
ばくっ
「ぐわぁあああ!」
「きゃぁあああ!ユーリぃいい!」
四苦八苦しつつ、上半身を噛み付かれたユーリから、ミミックをどうにか引き剥がす事が出来た。
「もう!もう!いったじゃん!いったじゃん!」
「ご、ごめんよ……でも宝箱ってのはロマンだからさ……!」
私の不可視の右腕に捕らわれて、空中で浮いてる宝箱の姿をしたミミック。
それを見て何処か清々しい表情を浮かべてるユーリに、私は頬を膨らませた。
あんなに牙がずらりと生えてるとは思わなくて、物凄い心配したのに!
「もう、ばか!」
苛立ち交じりに、私はミミックを壁に思い切りぶん投げた。
全部こいつのせいだ!と八つ当たりもかねて。
そうしたらなんと、丁度当たった部分の壁がぐしゃりと崩れてしまった。
「「あ」」
呆気に取られた私達の声が重なる。
ガラガラと壁の破片が散らばる中、私達の視線は、その中から新たに現れた小ぶりな宝箱に釘付けだった。
「こ、これは……」
ユーリがいそいそとその宝箱に駆け寄る。
今度は私も止めなかった。
魔力はあまり感じないし、明らかに隠されていた物……これが本物じゃなければ私は怒るぞ。
ユーリは期待に満ちた表情で、その宝箱に手をかけた。
かぱり
「おお……!すごいよアリー!お宝だ!」
感嘆の表情になったユーリを見て、一応警戒を続けていた私は、安堵の息を吐いた。
そして、私も近付いて確かめてみると、金銀財宝ざくざく……とまではいかないものの、綺麗な宝石や黄金が少し入っていた。
「おお……おたから……」
……でもお宝なのはいいけど、見る限り本当にただの宝石と黄金って感じだね。
隠してたにしてはこう……少し肩透かしというか。
魔道具すらないし、小ぶりな宝箱なのにスカスカだし。
「ははは、アリー!」
それでもユーリは見つけられたのが嬉しいらしい。
満面の笑みを浮かべると、私を抱き締めてきた。
「ひゃひっ」
突然の行動に驚いて変な声が出た私を気にせず、ユーリはそのまま私を抱き上げてくるくると回りだした。
「流石僕のアリーだ!勇者パーティすら発見出来なかった宝箱を見つけるなんて、なんて凄いんだ!」
すごいすごい!と手放しで褒めてくるユーリに、私は照れてしまって、考え事は吹き飛んでしまった。
お宝なのは確かなのだし、いっか!となってしまって。
私の口元は、自然と吊り上がっていた。
「え、えへへ……そうかな……」
「ああ、君は最高だ!すごいよ!」
そう言ってぎゅーっと抱き締めてくるユーリを、私は笑って受け入れていた。
見つけたお宝を持ち帰り、一部を換金する事となった。
実際総額としては私達の資産の数倍はあると思う!
……根無し草の私達の資産なんてたかが知れてるのに、それの数倍がどれ程の物かって話ではあるけどね。
まぁそれでも私達にとって大金には違いない。
ユーリには美味しいものを食べて貰って、私も高い果物でも買ってみようかな……。
そんな事を考えながら、いつも通りユーリの腕に体を擦り付けようとした。
その時、不意に目眩がしてバランスを崩してしまった。
「おっと、アリーが倒れそうになるなんて珍しいね。……アリー?」
倒れそうになった私はユーリが受け止めてくれたのだけれど、突如として体に広がっていく不調、気持ちの悪さ。
この不調に覚えがあった私は、血の気が引いていくのを感じていた。
俯いた私を、ユーリが心配そうに覗き込んでくる。
左手でお腹を擦り、私はユーリを見上げた。
「……にんしん……したかも……」
パァッと表情を明るくするユーリに対して、私の心は深く深く沈んでいく。
思い出すのは私の赤ちゃん。
頭に鳴り響く泣き声。
途端に口の中に血の匂いが広がって、私は堪らずに吐いた。
「うっ……おぇえええぇ……」
何も食べていないから胃液だけが吐き出され、黄色がかった液体が地面を濡らした。
「だ、大丈夫かいアリー……?顔が真っ青だ……」
ユーリの顔は喜色から一転、ひどく心配そうに歪められた。
荒い息を吐く私の背中を座するその手が、とても有り難かった。
でも、それでも気分は晴れない。
思い出してしまった血の味に、そのおぞましさに体が震えた。
「はぁ……はぁ……ユーリ……。
どうしよう、にんしん、しちゃった……。
また、たべちゃったら、どうしよう……どうしよう……!」
「……どういう事だい?」
私は、ユーリに伝えた。
以前子供を産んだ事がある事、そしてその子供を産んだ直後に食べた事を。
そして言い切ってから、しまったと思った。
基本的に私とユーリの旅において、私が自分の事をユーリに言った事は殆どない。
私がユーリの話を聞くばかりで、何も……。
私が人食いだった事も、恩人を食べた事も、赤ちゃんを食べた事も、ユーリは知らない。
そしてそれが、人間にとって忌むべき事だという事を、私は、知ってる……。
それなのに、勝手にはしゃいで、浮かれちゃって……!
ユーリがそれをどう考えるかなんて……!
「ご、ごめんなさい、だまってて……だまして……!」
ユーリからくる言葉が怖くて、顔を見るのが怖くて、私は目を瞑って俯いた。
目から出た雫が頬を伝うのがわかった。
「わたしはまぞくだから……!
みみっくとおなじ、ぎたいしてるばけものだから……!
ひっく……あのこだって、いきたかったのに……!
わたし……ひっく……わたし……にげちゃってぇ……!
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ―――」
「……アリー」
気付けばユーリの腕の中だった。
ボタボタと涙も、鼻水すら垂らして、私はしゃくりあげる。
「アリーがそんな事を思ってたなんて知らなかった……。
気付かなかった僕を許してくれ」
ユーリは私の頭を抱き寄せて、頭を撫でてくれる。
それが暖かくて、なのに涙が溢れた。
「なんでユーリがあやまるのぉ……わたしが、ぜんぶわるいのに……!」
「恋人は、夫婦は分け合うものなんだよ。喜びも、悲しみも。
アリーの痛みも悲しみも、僕に分けていいんだよ。
……アリーの過去に何があったかは詳しくはわからない。
けど、少なくとも僕が出会ってからのアリーは、角の生えただけの可愛い女の子だったよ」
「でも、ひっく……でも……わたし、ひとたべたぁ……!」
「僕と出会ってから一度もそんな素振りなかったじゃないか?」
「ひっく……ひところしたし、あかちゃんたべたぁ……!」
「今の君なら大丈夫だよ。そんなに後悔してるじゃないか。
それにもし食べそうになっても、僕が必ず止めるよ」
「ユーリよわいから、ひっく……むりだよぉ……!」
「いいや、絶対止めて見せる。約束するよ、アリー。
この子は必ず守ってみせる。そして君自身も。
……夫婦になろう。そして、僕の子供を産んでくれ」
ユーリのその言葉に、私の涙は三度溢れた。
小さく頷いて、ユーリの胸に顔を埋めた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな私のひどい顔を、これ以上見られたくなかった。
「うん……うん……!
なんで……そんなにうれしいことばばっかりいうのぉ……。
わたし、わたし……ひっく、もう、だめだって思ってたのに……」
「大丈夫、僕はアリーを愛し続けるよ。これも約束だ。
ずっと、ずっと一緒にいるよアリー。だから、君の苦しみを、僕にも分けてくれ。
二人なら、乗り越えられる筈だよ」
「うぅ……あぁああああぁ……ひっく……えぇええん……!」
私は、ユーリに抱き着いて、泣いた。
泣き続けた。
背中に手を回して、必死にしがみついた。
そんな私をユーリは、泣き止むまで、ずっと優しく撫で続けてくれた……。
この人が私を好きになってくれて、この人を好きになって、良かった……。
温もりの中、そう感じていた。
私の赤ちゃん。
愛しい赤ちゃん。
愛しい人との愛の結晶。
……なのに、なのになんで。
なんで角が生えてるの?
魔族の子供の次はどれが読みたいですか?
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〈戦士と魔族〉
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「平和だった町」
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[一級魔法使い第二試験]