人の心を持ってしまった魔族   作:如月SQ

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今回は、きっとエグいです。


魔族と家族

 私達は迷宮で手に入れたお宝を全て換金し、以前ユーリの療養の為に借りた家を購入する事にした。

 そして、そこで定住して、子供を育てて行く事になった。

 私が魔族とバレる可能性を考えると人里からは離れたほうが良いので、私もそれに賛成した。

 そこそこの期間住んで色々と慣れているし、景色も綺麗。

 ……何よりユーリに告白して貰った海辺は、私のかけ替えのない思い出。

 そこで住んで生きていけるのは悪くない。

 

「おとうさんが、おかあさんにこくはくしてくれたばしょだよ」

 

 膨れたお腹を優しく撫でながら、私は海を眺めていた。

 今回、ユーリがどうしてもと言うから、助産婦を雇っていた。

 独り暮らしの老婆らしく、そろそろ産まれるだろうから、と泊まり込みで世話をしてくれている。

 魔族である事をそこまで気にしていないようで、有り難かった。

 

 お婆さんからは出産について更に詳しく教えて貰ったし、食事も歯がない私でも美味しく食べれるものを作ってくれた。

 おまけに赤ちゃんの食事にも流用出来るから、と普通の食事も含めて、作り方なんかを教わっていた。

 料理……手間はかかるけれど、私の作ったそれを、ユーリは笑顔で食べてくれた。

 その笑顔の為なら、これからも作っていけると思う。

 

 ご飯もしっかり食べて、ユーリに愛され、心も体も充実している。

 不安が完全に晴れる事はない。

 けど、ユーリと一緒なら…きっと大丈夫。

 

「……わたしもがんばるから、げんきにうまれてきてね」

 

 そして、ある日の真夜中に私は産気付く事になる。

 そんな状態で臨んだ出産……。

 出産は、問題なかった。

 いや、苦しかったし痛かったけれど、ユーリが手を握ってくれてたから耐えられた。

 一人の時とは比べ物にならないくらい、順調だったし、負担は少なかった。

 ……問題、だったのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、頭が見……ひっ」

 

 お婆さんの小さな悲鳴が響いた。

 赤ちゃんの頭が出て来た、そのタイミングだった。

 

「どうしました!?」

 

 ユーリは焦ってお婆さんに問い掛ける。

 お婆さんの顔は、少し血の気が引いているようだったけれど、首を小さく振って、私を見つめた。

 

「いや……もうひと踏ん張りだよ」

 

 私はその言葉に深く考える事は出来ず、頷いた。

 

「はい……!んんーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は荒い息を吐きながら、疑問符を浮かべていた。

 漸く出産を終えた筈、私の中から赤ちゃんは出た筈なのに、産声が聞こえないのだ。

 けれど、お婆さんに焦った様子はなく、粛々と赤ちゃんを布で拭いて、包んでいるようだった。

 

「あかちゃん……は……?」

 

 堪らず体を起こして、処理を終えたお婆さんに問い掛ける。

 お婆さんは眉を下げ、口を引き結び、布に包まれた赤ちゃんをそっと手渡してきた。

 もぞりと動いたのが見えて、死にそうな程に顔を青くしていたユーリの表情が明るくなった。

 ちゃんと無事に産まれた……良かった。

 もぞもぞと動く様子に、二人て目を合わせて安堵の息を吐いた。

 

 ……だからこそ、何故お婆さんがそんな顔をしているのかがわからなかった。

 

「……男の子だよ」

 

 そう言って手渡された赤ちゃんを左手で受け取り、その頭を見たその瞬間、お婆さんの表情の理由がわかった。

 一目見てすぐにわかった、わかってしまった。

 

「これは……角……?」

 

 その子には耳の後ろくらいから、上に向かって伸びる角が生えていた。

 そこまで大きくはないが、それはこの子が魔族として産まれたという事に他ならず……。

 既に開いている瞳には、魔族特有の空虚さを既に持っていたように、私には見えた。

 じろ、とユーリを見つめる赤ちゃんに、私の背筋に悪寒が走った。

 

「…………!」

 

「アリー!何をするんだ!」

 

 私は咄嗟に膝の上に赤ちゃんを置いて、その赤ちゃんの首に手を伸ばした。

 けれど、それは直ぐにユーリに阻まれてしまう。

 手を捕まれた私は、ユーリのほうを見た

 

「はなして……!このこ、まぞく、だよ!まぞくは、だめ、ひとじゃないんだよ……!」

 

「それでも僕達の子供だ!それに、魔族と言っても君のような人がいるだろう?」

 

 真剣な顔で言うユーリに、私は言葉に詰まってしまう。

 

「っ……それ、は、いないとはいいきれないけど……!」

 

 でも、でも……!

 私の中にある同族への不信感を上手く言葉に出来ず、私の目にはじわりと涙が滲む。

 そんな私をユーリは抱き締めて、私を落ち着かせようと頭を撫でてくる。

 ……そうわかってても、安心感を覚えてしまって、私の高ぶった心は落ち着いてしまう。

 

「大丈夫、大丈夫。この子を信じてみよう?僕達の子供を。

 それに、ちゃんと人として育てれば、きっと君のような優しい子に育ってくれるよ。……ね?」

 

「…………うん……」

 

 私はそれに頷いた。

 この子を生かす事に不安はあるけど……殺さないで良い事に安心してしまう私もいて……。

 複雑だったけれど、それでも私はユーリの言葉を信じる事にした。

 膝の上で、空虚な瞳で私達を見つめる魔族の赤ちゃん。

 私達の子供、この子を魔族にするか人にするか、それは私達にかかっている……のかもしれない。

 私と同じ薄紫の薄い髪を撫でて、私達は微笑みかける。

 

「元気に育つんだぞ。……ニコライ」

 

 男の子だったらニコライ、そう名付けると決めていた。

 ニコライと名付けられた魔族の赤ちゃんは、パチパチとユーリと同じ黄色い目を瞬かせ、此方をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時の選択を後悔しなかった日は、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニコライはすくすくと……うん、恐らく魔族の特徴なんだと思うけど、すぐに、本当にすぐに大きくなった。

 確かに私も気付けば森の中で人間を食べていたくらいだし、赤ん坊という時期は魔族にはないのかもしれない。

 だから抱いて乳を吸わせていられたのは精々一ヶ月くらいで、既に離乳食を食べている。

 出産時に私達の様子に心配して、暫く様子を見に来てくれていたお婆さんも苦笑していた。

 

「手がかからないけど、少し寂しいわね」

 

「……うん」

 

 お婆さんからは赤ちゃんの頃は死ぬ程大変で、と色々と脅されていたから肩透かしを食らった気分だ。

 確かに少し寂しく思った。

 

 お婆さんは今日で様子を見るのをやめるそうで、最後にニコライに手を振って私達の家を後にした。

 ユーリに抱き上げられながら、ニコライは表情をあまり変えずにひらひらと手を振ってその姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに大きくなったのは寂しいけれど、それは同時に人に危害を加えれる姿に、人を殺せる力を得たという事でもある。

 私達はよくよくニコライに言い聞かせた。

 人間は食べてはいけない、人間を殺してはいけない。

 一度、ユーリに噛みつこうとしている事があった。

 それをユーリはしっかりと避けて、苦笑しながらゆっくりじっくりとそういう事をしてはいけない、と説いていた。

 ニコライの瞳は変わらず空虚で、表情に乏しく、ちゃんとわかっているかは判断が出来ない。

 ただこれは魔族の特徴のようなものでもあるので、心には響いていると思いたい。

 実際ニコライはその後ユーリに噛みつこうとはしなかった。

 その様子に私は胸を撫で下ろしていた。

 

「ほら、大丈夫そうだろう?」

 

 出産から一年が過ぎた頃くらいには、ニコライは既に少年と呼べるような見た目になっていた。

 ご飯は既にユーリと同じものを食べ、よく二人で遊んでいる。

 その光景に暖かい物を感じながらも、心の隅に張り付いた不安は取り除かれる事はなかった。

 

「そうだね、よかった」

 

 けれど、それを表に出す事はない。

 傍目には上手く行っていると思う。

 ニコライは私の言う事もユーリの言う事も良く聞いてくれる。

 我が儘も精々ご飯をもう少し食べたい、と要求するくらいだろう。

 それもユーリが少し分け与えればニコリと笑って、お礼も言う。

 私がそれに少しだけ苦言を呈して、皆で笑う。

 暖かな家族、と見たものは言うだろう、そんな光景だった。

 

「ニコライ、今日は何をして遊ぼうか!」

 

 ユーリは毎日ニコライに構って楽しそうにしている。

 一日の午前か午後はニコライと目一杯遊んでいて、とても楽しそうだ。

 それでいて夜はニコライが寝静まってから私を可愛がってくれる。

 行為を終えてユーリの腕の中、私は問い掛けた。

 

「だいてくれて、うれしいけど……ユーリはだいじょうぶ?むりしてない?」

 

「無理?そんなのしてないよ。

 愛する息子を愛して、最愛の人を愛する、夫として当然の事をしてるだけさ。

 それに毎日毎日幸せ過ぎて元気が有り余っててね!

 むしろ今日は、乱暴だったかと思ってるくらいだよ」

 

「……うん……たしかに、きょうは、すごかった……。

 でも、わたしもすっごく、きもちよかった……よ?」

 

「………………」

 

「……ユーリ……?」

 

 突如表情の抜け落ちた顔で私に覆い被さるユーリ。

 セックスを再開したユーリに、私は朝まで鳴かされる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私のユーリとの第二子の妊娠が発覚した。

 その時のユーリの喜び方は凄かった。

 抱き上げられ、グルグルと回され、ぎゅっと抱き締められて熱烈なキスをされた。

 ……ニコライの目の前で。

 

「ニコライ!君の弟か妹が出来るぞ!」

 

「おとうと……いもうと……?」

 

「そう、お母さんのお腹の中にいるんだよ!」

 

「お母さん……お腹、いる?」

 

「もう、ユーリったら……そうだよ、ニコライ」

 

 ニコライは不思議そうな表情で、私のまだ膨らんでいないお腹をペタペタと触る。

 既に人間でいう8歳くらいの大きさになったニコライは、首を傾げて私を見上げた。

 その頭を優しく撫でて、私は告げる。

 

「はんとしくらいしたら、うまれてくるよ。そうしたらニコライはおにいさんだね」

 

「お兄さん……」

 

「そう、このこのこと、おにいさんとしてまもってあげねて」

 

「……わかった」

 

「うん、おねがいね」

 

 頷いたニコライを私は抱き締める。

 私はよくニコライを抱き締める事にしていた。

 私の胸の暖かさを、ニコライにも伝えたかったから。

 それにニコライも心地好さを感じてくれているようで、時折そのまま私に身を任せて寝入る事もあった。

 今も目を細めてくれている。

 きっと思いは伝わっている筈。

 私は、笑みを浮かべてニコライの頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妊娠した私を手助けする為に、ユーリはニコライとの遊びの時間を削る事にしたらしい。

 

「仕方ないけどね……」

 

「お父さん、僕は大丈夫だよ。お母さんをお願いね」

 

「ふふ、ニコライのほうがききわけがいいね」

 

 必然的にニコライは一人で遊ぶ事が増えた。

 あまり遠くに行かないように、と、人や獣に見つかると危ないから物音がしたら、すぐ逃げるようにと言い付けておいた。

 出来れば家の中で過ごして欲しいけれど、あまり縛り付けるのはどうか、というのはユーリの教育方針。

 色々と心配はあるけれど、大体は家から見える砂浜での砂遊びをしていたので、安心していた。

 

 けれど、そろそろ出産の時期が近付いてきた頃、ニコライが砂浜にいない時があった。

 ユーリは、少し冒険したくなる事もあるだろう、と傾き始めた日をちらちらと見ながら足を踏み鳴らしていた。

 その様子を微笑ましく思いながらも、私は変な胸騒ぎを感じていた。

 けれど実際、日暮れ前にはニコライは帰ってきた。

 膝に擦りむいたような跡はあったけど、それ以外に怪我はなく、私は胸を撫で下ろした。

 

「あまり遠くに行くなって行っただろう?心配したぞ」

 

「……ごめんなさい、お父さん」

 

 素直に謝るニコライを、ユーリがぎゅう、と抱き締めた。

 

「謝れて偉いぞ!流石お兄さんだな!」

 

「……苦しい、お父さん……」

 

 そんな暖かい光景を眺めながらも、何故か私の胸騒ぎは収まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当はもう一度助産婦のお婆さんにお願いする予定だったのだが、遠出しているのか他の患者さんでもいるのか、何度か足を運んでも留守だったらしい。

 今更魔族の私の助産婦を請け負ってくれる人を探すのも大変なので、今回は助産婦なしで出産する事となった。

 少し不安だけれど、そもそも私の初めての出産は一人だった。

 

「それにくらべれば、ユーリがとなりにいるだけでぜんぜんちがうよ」

 

「そうかい?うん、僕も出来る限りの事はするからね」

 

 ユーリの手を握りながら、私は微笑む。

 ユーリといれるだけで、私はいくらでも頑張れるよ。

 握る手の暖かさを感じながら、私はふと、外を見回した。

 

「あれ……またニコライみえないね……」

 

「そうだね……最近森の中によく行ってるみたいだよ。

 まぁでも、呼べば来るくらいの近さにはいるんじゃないかな?」

 

 少し心配だけど、ニコライは良い子だし、大丈夫だよね?

 それにしても、森か……。

 

「もり……か」

 

 ぞわり

 

「……?」

 

 理由のわからない寒気が走って、私は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニコライはちゃんと日暮れ前には帰ってきていた。

 そしてその日の夕食。

 私は基本的に木の実や果物を磨り潰して食べる、というか飲んでいたのだけど、妊娠してからニコライがそれをしてくれるようになった。

 私の子の優しさに感謝しながら、今日も頂こうと口をつけようとした時、突如として私は産気付いた。

 

ガシャン!

 

 ニコライが磨り潰してくれた木の実の入ったコップを思わず取り落とし、お腹を押さえた私に、ユーリが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「アリー!……生まれそうなんだね、ベッドに行くよ」

 

「……ふぅっ……ニコライ……ふぅっ……がんばる、ね」

 

 じっと私を見つめるニコライの視線に気付き、私はどうにか笑みを浮かべ、そう伝えた。

 

 

 

 小さく頷いたニコライの視線は、魔族らしく、変わらず空虚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

 

 

 

 

 出産を終えた時、今回の子はかなり大きく、今までにない程の痛みに耐え続けた私は、そのまま気を失ってしまった。

 意識を失う直前に、そう、ユーリの人間の女の子だよ、という言葉で安心してしまったのもある。

 産声も聞こてきた事で、ちゃんとした人間の赤ちゃんだ、とわかった。

 人を産んであげる事が出来て良かった、と私は胸を撫で下ろした。

 ところで今は深夜……かな?

 目を覚ました時、私はしっかりとベッドに寝かされていて、ユーリがちゃんと後処理してくれたのだろう事が察する事が出来た。

 しかも今寝ていた部屋には誰もおらず、私を気遣ってくれた事もわかる。

 ……でも、赤ちゃんの姿を直ぐに見たい、という私の思いも察して欲しかったな。

 

 私はベッドから立ち上がった。

 足がフラつくけれど、目を覚ましたからには赤ちゃんの姿が見たい。

 そう思って、私は部屋を出た。

 廊下に出たら真っ暗だったけれど、一部屋だけ明かりが漏れていた。

 この部屋に赤ちゃん……女の子ならマリーと名付けるつもりだったから、マリーがいるのかもしれない。

 私は、ふらつく足を叱咤し、その部屋へと早足で向かう。

 そしてその扉を勢い良く開き―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 噎せ返るような血の匂いに、目を見開いた。

 

 背中の無数の刺し傷、血だまりに倒れるお爺さん(ユーリ)

 

 そして、赤ちゃん(マリー)を貪る、(ニコライ)

 

 既視感のある光景に固まる私をよそに、ニコライはマリーを咀嚼していた。

 

くちゃ、ごり、ごり、ばり、がり

 

 私に気付いたニコライは口の中のものを飲み込むと、笑みを浮かべて、その、既に息絶えた赤子を、マリーを、私に、差し出してきた。

 

「お母さん……疲れた?お母さんも……食べる?」

 

 口の周りを血で真っ赤に染めた我が子の姿に、いつかの子供の魔族の姿が重なった。

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  • 〈戦士と魔族〉
  • 「平和だった町」
  • [一級魔法使い第二試験]
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