人の心を持ってしまった魔族   作:如月SQ

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魔族の孤児院

 私が焼き菓子を持っていくと、勇者ヒンメルの話は丁度佳境だったみたい。

 いつもなら甘い匂いがした瞬間此方に駆け寄る子供達も、真剣な表情で勇者ヒンメルを見つめていた。

 

「と、そうして僕達は魔王を打ち倒した訳だ。

 誰が欠けても無理だった。最高の仲間達だよ」

 

「わー!すごい!すごい!」

 

「すごかったね、ハラハラしたー!」

 

「ねーねー勇者さま!もっとお話聞かせて!」

 

 わらわらと勇者ヒンメルの周りに集まる子供達。

 それを微笑ましく思いながらも、私は声をかける。

 

「あまり勇者様に迷惑かけたらダメ。お菓子が焼き上がったよ。

おやつの時間にしよう?手を洗っておいで」

 

「「「はーい!」」」

 

 勇者ヒンメルに群がっていた子供達は、私が持つお菓子に気付いたのだろう、今度は我先にと手洗い場へと走っていく。

 勇者ヒンメルの膝を独占していた子も、仲の良い子に手を引かれ、部屋を後にした。

 静かになった部屋の中で、私は勇者ヒンメルに深く頭を下げた。

 

「ありがとう、あの子達の相手をしてくれて……手間かもしれないけれど、これからもあの子達の事をお願いする」

 

 この様子なら私がいなくなっても大丈夫、だろう。

 別に勇者ヒンメルを信用していなかった訳ではない、話に聞く勇者の善性なら大丈夫だろうと思っていた。

 けど、子供達を穏やかな目で見つめる勇者ヒンメルを見て、私は心から安心する事が出来た。

 

「……君はそれでいいのかい?」

 

 勇者ヒンメルは私を真っ直ぐ見つめて問い掛けてくる。

 

「構わない。自殺する程の勇気は持てないけれど、私のような魔族は死んで当然だとも思っている。

 それに……勇者ヒンメルに殺されるなら、最期としては悪くない」

 

 そこまで言った所で、元気な足音が聞こえてきた。

 もう手を洗い終えて帰ってきたみたい。

 

「……続きは後、子供達が寝静まったら。夕食も食べる?」

 

「……そうだね、折角だから頂こうか」

 

勇者ヒンメルはそう言って笑みを浮かべた。

 それと同時に子供達は部屋に駆け込んできて、思い思いに言葉を紡ぐ。

 

「せんせー!洗ってきたよー!」

 

「早くたべたーい!」

 

「いいにおーい!」

 

 元気いっぱいな子供達が私に群がり始める。

 そんな子供達に癒されながら、私は席にそれぞれ焼き菓子を置いていく。

 子供達もそれを手伝ってくれる。

 その表情は笑顔で、お菓子が楽しみという感情を隠しきれてなかった。

 私は、微笑みを浮かべてその様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきまーす!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お菓子を食べ、外で勇者ヒンメルと遊び、夕食も共にした。

 遊び相手に勇者ヒンメルがなってくれたから、掃除洗濯等の家事がとても捗った。

 ありがたい。

 勇者ヒンメルと時間を共にした子供達は本当に楽しそうで、嬉しそうだった。

 この子達も殆どが路上生活を経験し、目が絶望に染まっていた子もいた。

 そんな子供達が笑顔で駆け回る姿は、私の胸を温かくして、空虚な心を埋めてくれるような気がした。

 本当に……幸せな眺め。

 甘えん坊な子を膝に乗せて、その子を抱き締めながらその光景を眺めていた。

 

 やがて夜がきた。

 暗くなり、就寝時間となる。

 

「皆、おやすみの時間だよ」

 

 眠そうに目を擦る子に、爛々と目を光らせる子、勇者ヒンメルの膝から離れようとしない子等々、分け隔てなくベッドに放り込む。

 

「せんせーのいじわる!まもの!まぞく!まおー!」

 

「何とでも言いなさい。ちゃんと寝ないとダメ」

 

 ブーブー文句を言う子もいるけれど、おでこにおやすみのキスをしてあげると落ち着くのか、素直に寝てくれる事が多い。

 

「おやすみなさい」

 

 愛しさを込めてキスを落とし、それでも寝ない子は頭を撫でてあげる。

 段々と静かになっていく部屋の中で、私は一番幼い子に添い寝をしていた。

 

 やがてその子も寝息をたて始めたのを見て、私はゆっくりとその身を起こした。

 皆を起こさないように、安らかに寝息を立てる子供達の姿を眺めていた私は、自然と笑みを浮かべていた。

 

「みんな……元気でね」

 

 子供達の姿は、これが見納めになるだろう。

 この子達の未来は、私と共にいるよりも明るくなる筈だ。

 勇者ヒンメルが来てくれて、感謝したいくらい。

 

「んんー……」

 

 もぞりと寝返りをうった子の毛布をかけ直して、私は音を立てないようにゆっくりと歩く。

 

「幸せに」

 

 最後にそう呟いて、私は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この孤児院は元々教会でもあったそうで、礼拝堂がある。

 女神様の像が奉られて、椅子が並んでるだけの質素なものだけど。

 私に女神様を信仰する気持ちはないけれど、とりあえず常に綺麗にはしているし、朝には子供達と共に祈りを捧げている。

 私は別に良いのだけど、子供達は幸せになって欲しいから。

 

 そんな礼拝堂で、勇者ヒンメルは黙って女神様の像を見つめていた。

 女神様の前で月明かりに照らされる勇者……まるで一枚の絵のようだった。

 

「勇者ヒンメル。子供達の寝かしつけは終わった」

 

 私は勇者ヒンメルの方に足を進めながら、声をかけた。

 勇者ヒンメルはとっくに気付いていただろうに、今気付いたとばかりにゆっくりと此方を振り向いた。

 

「あんなに沢山子供達がいると大変だね」

 

「今日は貴方が相手してくれたから楽を出来た。改めて感謝する。

 それに、子供達は皆良い子。苦痛だと思った事はない」

 

 勇者ヒンメルは私の言葉にニコリと笑った。

 

「そうか、立派だね」

 

「……違う。私にはもうあの子達しかいないだけ。

 他に力を入れたい事もないから、それしかする事がないから。

 子供達の為に私を使い続けてた、それだけ」

 

 子供達の為に私を使い潰す、それだけが今の私が生きてる理由。

 生きれなかった、私のせいで死んだ皆の代わりに、健やかに生きて欲しい。

 それが、私の今の願い。

 

「……ところで、体を売っているという話、だったね。子供達にそういう事させてないだろうね?」

 

 唐突に言われた、とても勇者の口から出たとは思えない問い掛けに、私の眉間に皺が寄った。

 

「……はぁ?何処からそんな発想が出るの?

 右も左もわからないような孤児に身売りさせるなんて、そんなのどうして思い付くの……。

 悪魔の所業。有り得ない。本当に勇者ヒンメル?」

 

 私が半目で睨み付けるように見ると、勇者ヒンメルは焦って弁明しだした。

 

「悪かった、悪かったよ。ただそういう人間もいたから、ただの確認さ」

 

 そんな悪辣な人間もいる、のか。

 私を抱いてる輩の同類だろうか。

 ……私のように安価で抱ける女がいなくなった奴等が、孤児達にそんな事をさせないのを願うばかり。

 

「……そう。でも、そう、だね。私が言える立場じゃなかった。

 私なんて産まれたての赤ちゃんを食べた。大差ない」

 

 勇者ヒンメルから思わず身を引いていたけれど、そう思い直して、真っ直ぐに向き直った。

 

「勇者ヒンメル、話は終わり。私は人食いの魔族。

 覚悟は出来てる……子供達には私は逃げたとでも伝えておいて欲しい。

 抵抗はしない……一思いにお願いする」

 

 私は顔を少し上げて、目を瞑った。

 

 正直……死ぬのは怖い。

 でも……生きてるのも辛い。

 生き続けても、私の愛した人達には二度と会えないから。

 また私の本能が顔を出して、子供達を殺してしまうかもしれないから。

 それならいっそ……。

 

「……わかった」

 

 勇者ヒンメルが此方に近付くのを感じて、私は体の力を抜いた。

 

 ……これで、漸く終わり。

 子供達の事は勇者ヒンメルに任せられる………。

 思い残す事はない。

 

 辛くて、苦しい生だった。

 それでも……。

 

『アリー!』

 

 今思い出せるのは、ユーリとの幸せな日々だけ。

 欠け替えのない日々が昨日の事のように甦り、懐かしい暖かさが、胸を埋める。

 ユーリの笑顔を思い出して、幸せな気持ちで逝こう……。

 

 私の瞑った目から滴が頬に伝った。

 

「ユーリ……」

 

ヒュンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……?

 

「あれ……?」

 

 風切り音がして、首に風を感じて……。

 死んだと、思ったんだけど……。

 まだ思考出来る、もしかしてもう死後……?

 

 私は不思議に思いながらも、恐る恐る目を開いた。

 目と鼻の先にいる勇者ヒンメル。

 手にしている剣は、私の首に触れる寸前で止められていた。

 

「ひっ……」

 

 煌めく刃が、私の命を奪える物がすぐそこにある事に、無意識に悲鳴が漏れ、恐怖に膝が折れた。

 へなへなと力なくその場に座り込む私に対して、勇者ヒンメルは微笑を浮かべて、その剣を美麗な動作で仕舞った。

 バクバクと胸の鼓動が高鳴っていて、思わず胸の前で手を握った。

 そんな私を見下ろしながら、勇者ヒンメルは口を開いた。

 

「……君みたいな魔族は初めてだ。長い旅の間も、旅を終えても、出会った魔族は必ず人に仇なす者だった。

 フリーレンの言う事を聞かずに、魔族を見逃した時もあったけれど……悲劇しか生まなかった。

 魔族は言葉を話すだけの獣……フリーレンが良く言っていたよ。僕もそう思ってる」

 

「……はーっ……なら、さっさと……殺して、欲しい。

 弄ぶのは……はぁ……趣味が悪い……」

 

 恐怖から荒くなる息を整えながら、私は勇者ヒンメルに訴えた。

 この恐怖を与えるのが私への罰なのだとしても、受け入れがたい……。

 

「いや、君は殺さない。僕は君を他の魔族と同じに見れない。

 孤児院の子供達は、心から君を慕っていたし、君も子供達を慈しんでいた。

 僕は人間の勇者だ。人の心を持つ君を、殺す事は出来ない」

 

「……ダメ!」

 

 その言葉に安堵してしまう自分もいたけれど、私は勇者ヒンメルにすがりついた。

 

「勇者が魔族を見逃してどうする!?

 魔族は貴方達の言う通り、救いようのない獣!

 私のように人間に交じり一見友好的にしていても、情なんて感じていない!

 私はそれを見てきたし、体験してきた!貴方もその筈!」

 

「そうだね」

 

「ならば何故私を見逃す!?

 私がそれらの魔族と違う保証なんてない!

 孤児院の子供達が死んでからでは遅い!そうでしょう!?」

 

 勇者ヒンメルの服を掴み、膝立ちのまま、顔を見上げる。

 微笑を浮かべたままの彼は、少し屈んで、私の肩に手を置く。

 

「……答えを強いて言うなら……今の君が答えだよ」

 

 その言葉に、勇者ヒンメルの服を掴む手が止まった。

 

「それだけ必死に子供達の為に訴える君を、僕は殺す事が出来そうもない」

 

 私と目を合わせて真っ直ぐに言い切る勇者ヒンメル。

 自然と服を掴む手は離れ、ぺたりと床に座り込んでしまう。

 

「そんなの……答えになってない」

 

「そうかな?あぁ、後もう一つ答えがあるよ」

 

「……何……?」

 

「ふふふ、ちゃんと実績があるんだよ?

 なにせ僕は、これで世界最高の魔法使いをパーティに引き入れる事に成功したんだ」

 

 勿体ぶる勇者ヒンメルは、自慢気な笑みを浮かべる。

 そして、自分のこめかみに指をあてた。

 

「伝説の勇者ヒンメルの……勘だよ」

 

 不思議とその答えは、胸にすとんと落ちた。

 勇者ヒンメルが言ったからだろうか?

 不思議な説得力があり、納得してしまった。

 

「過去の罪に怯え苦しむ君は、立派な人だと思う。

 人を殺し、食べた罪は決して消えない。

 でも君はそれを抱えて生き続け、自分なりに償って来た。

 ……なら、僕くらいは君を許すよ。よく、頑張ったね」

 

 ポン、と頭に手を置かれ、優しく微笑まれる。

 それに私は、溢れてくる涙を止める事が出来なかった。

 

ぽた、ぽた

 

 顎を伝い、垂れた涙が膝に染みを作る。

 

 勇者に許された……人だと認められた。

 それがひどく心を揺さぶった。

 

 私は、何処かでずっと、罰を求めていた。

 だから子供達の為に自分を使い潰すつもりだった。

 でも、そう、何処かで許しも求めていたんだ……。

 勇者ヒンメルに許されて、それがわかった。

 私はまだ、生きてて……いいんだ。

 

 勇者ヒンメルに頭を撫でられながら、私は涙を流し続けた。

 

「あーっ!ゆうしゃさま、せんせー泣かせてる!」

 

 そこで、突然子供の声がした。

 私は突然の事に涙を止められず、袖で涙を拭い続ける。

 

「ゆうしゃさまでも、せんせーいじめるならゆるさないよ!」

 

 その子は、勇者ヒンメルに良く懐いていた少女だった。

 私の前に両手を広げて立ち、勇者ヒンメルを見上げている。

 それに勇者ヒンメルは苦笑を浮かべながらも、私を見て片目パチンと一瞬閉じた。

 

 私を庇う少女の姿が、その言葉が嬉しくて、愛おしくて、私はたまらずその子を抱き締めた。

 

「ありがとう……ぐすっ……でも大丈夫……。

 先生は、勇者ヒンメルに助けて貰ってたんだよ……」

 

 その子の体から伝わってくる温もりに、心が埋まっていくようだった。

 ずっと空虚だった胸が、じんわりと暖かくなっていく。

 気付けば涙は止まっていた。

 

 私に振り返り、心配そうな表情を浮かべた少女の頭を優しく撫でて、ありがとうと改めて伝えた。

 そして、部屋に戻ってもう一度眠る事を勧めた。

 渋々と、最後まで私を心配そうに見つめていたけれど、言われた通りに彼女は部屋へと戻って行った。

 

 私はぺたりと座り込みながら、勇者ヒンメルをゆるりと見上げた。

 

「……資金の事だけど、後で僕からハイターを通して教会に補助金を出すように掛け合ってみるよ。

 そういう事、していなかっただろう?

 ハイターもかなりお偉いさんになっていた筈だから、きっと力になってくれると思う」

 

 私はそれに目を見開く。

 補助金、そんな制度は聞いた事はなかった。

 けれど、そうか、孤児院を経営していて、お金なんて入ってこない、減るばかりだ。

 他ではそういうお金を貰ってやりくりしていたのか……!

 

「ありがとう、勇者ヒンメル……沢山の恩を受けた……いくらお礼を言っても足りない」

 

 けれど、勇者ヒンメルに私が差し出せるものはない……。

 私は、服のボタンをぷちぷちと外し、上着を脱ぎ去った。

 

「気にしないでくれ。僕がやりたくてやってる……何してるんだい?」

 

 勇者ヒンメルならば女なんて選り取り見取りだろう。

 でも私にはこれ以外渡せるものはなかった。

 肌着にも手をかけながら、勇者ヒンメルに迫った。

 

「私が貴方にあげれる物はこれくらいしかない。好きな時に好きなだけ、遠慮なく抱いていい」

 

 肌着を脱ぎ去り、勇者ヒンメルに抱き着き、そのまま押し倒しにかかった。

 

「ちょっ!軽々しくそんな事しちゃいけない!やめるんだ、やめ……やめろぉ!」

 

どたーんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルは、勇者パーティの魔法使い、フリーレンに操を立てていたらしい……。

 悪い事をした。

 あと数秒言うのが遅れていたら彼のそれは崩れていただろう。

 けれど、私が止めた時に少しだけ残念そうだったのは……女としてちょっと嬉しかった。

 ちょっとだけ。

 赤い顔で衣服の乱れを直す勇者ヒンメルを見て、私は笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメル率いる勇者パーティが魔王を討伐して40年―――

 

「こんにちは、久し振りね」

 

「名前は……なんだったかしら?まぁいいわ」

 

「面白い事してるのね。相変わらず変わった子ね」

 

「ああ、そうそう、用事を済ませないといけないわね」

 

「ねぇ」

 

()()

 

「しましょう?」

 

 私の運命が決まる。

 腕の中で紫髪の赤子がもぞりと動いた。

魔族の子供の次はどれが読みたいですか?

  • 〈戦士と魔族〉
  • 「平和だった町」
  • [一級魔法使い第二試験]
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