人の心を持ってしまった魔族   作:如月SQ

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魔族と魔法使い

 子供達は日頃からいざという時の避難訓練をさせていた。

 魔族相手ならば、近場の町へと、人が多い所へと全力で逃げるように教えていた。

 かなりしっかりしている子もいるし、ソリテールも追う様子はない……。

 子供達はきっと大丈夫……。

 そう自分に言い聞かせ……。

 

「いぎっ……!」

 

 ソリテールに最後の指を折られた。

 

 私の左手の指を丁寧に一本ずつ折りきったソリテールは、痛みに呻く私をじっと見つめた。

 

「はい、悪い事した罰はおしまい。ごめんね、痛かったでしょう?」

 

 ふわりと微笑むと、そのまま私の頭を抱えこんだ。

 至近距離から香る、彼女の纏っている死臭と、染み付いた血の臭いに、息が詰まる。

 抱き締められているのに、毛程も温もりを感じなかった。

 被っていた頭巾を乱雑に引き剥がされ、こめかみをまさぐられる。

 魔族の証である私の角に、ソリテールの手が触れた。

 

「うん、ちゃんと魔族ね。角が無くなった訳じゃない……。

 てっきり角もなくなったのかと思ったわ、体は魔族なのね」

 

 カリカリと爪で角を引っ掛かれている。

 むず痒さを感じて、身を捩った。

 

「やめて……ください……」

 

「あら、ごめんなさい。

 でも、本当に何故貴女はこんなに人間みたいなのかしら?

 反応も人間みたいだし、貴女みたいなのが増えれば……」

 

 ソリテールはそこで言葉を切った。

 体に突き刺さったままの剣の痛みで、意識が朦朧としてきた私は、半目で彼女を見上げる。

 

「……ん、なんでもないわ。というか、随分と辛そうね。

 んー、死なないように加工しちゃいましょうか。

 珍しい個体だもの、簡単に死んだら勿体ないわ」

 

 私の腹に突き刺さった剣、その柄に手をかけると、それを躊躇いなく抜き放った。

 

「あっぐっ……!」

 

 私は痛みに呻く。

 その傷口からドロリと血が溢れて。

 

「はい、止血」

 

ドスッ

 

じゅううううううう

 

「いっぎぃぁあああああああああああああああああ!」

 

 それをソリテールは、炎で炙った剣を再度突き刺す事で、内から焼いて止血だと宣った。

 堪えきれず、私は悲鳴をあげた。

 体の内側から焼かれる未体験の感覚に、凄まじい痛みに。

 肉の焼ける臭いがする、私の、肉の……。

 先程までとは比べ物にならない苦痛に、視界が明滅する。

 体が無意識に震えた。

 

「ついでに腕と足も焼いてあげ……」

 

「えぇえええん!びぇえええええええ!!」

 

 赤ちゃんの泣き声に、朧気になりかけてた意識が、一気に覚醒した。

 ソリテールの意識は、今、私にだけ向いていたのに。

 

「……ふふふ」

 

 床でおくるみに包まれたままの赤ちゃんに、ソリテールは手を向けた。

 

「や、やめてください!あの子はダメ……!」

 

「貴女がちゃんとお話してくれないから、私、拗ねちゃったわ」

 

 にこり。

 目を細める彼女は、残酷に笑った。

 

「はあっ、わ、わかりました、お話、します……!だから、はぁっ、あの子には、手を出さないで……!」

 

「びぇええええええ!」

 

「そう?なんだか悪いわぁ。それにしても、必死なのね?

 なんでそんなにあの小さな人間の為に必死なの?」

 

 その質問に、酷く嫌な予感がした。

 いや、答えればどうなるか、ある程度予想がついてしまったから。

 私が産んだ等と言えば、あの子も彼女は、好奇心のままに……!

 

「それ、は……」

 

 答えあぐねる私を見て、ソリテールは剣を宙に浮かばせた。

 チャキ、と赤ちゃんの方に切っ先が向いた。

 

「わ、私が!私が産んだ子供だからです!私が産んだ、はっ、人間の子供なんです!」

 

 私は慌ててソリテールに告げる。

 目先の、赤ちゃんの危機に思わず。

 そして……それを聞いたソリテールは笑みを深めた。

 

「うふ、うふふふふふ!なんて今日は良い日なのかしら?

 人のような魔族に、魔族から産まれた人。

 そんな、今まで聞いたこともない存在に会えるなんて!」

 

「びゃぁああああああああ!びぇええええええん!」

 

「でもちょっといい加減五月蝿いわね」

 

 まるで踊り出しそうな程に高らかに言葉を紡いでいたのに。

 その次の瞬間にはソリテールは剣を赤ちゃんに放った。

 

「待っ」

 

ヒュンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……かはっ……ごぽ……」

 

 ソリテールが剣を放った瞬間、私は、自分自身を不可視の右腕で赤ちゃんのほうへと弾き飛ばしていた。

 そして、赤ちゃんと剣の間に体を入れる事に成功して……背中から突き刺さった剣が、胸から飛び出していた。

 口からは血が溢れ、赤ちゃんの頬に血が付着してしまった。

 

「あら……残念ね、まだ殺すつもりはなかったのに……」

 

「びぇええええええ!」

 

 ソリテールが何か言っているけれど、よく聞こえない。

 そんな事より……私の赤ちゃんが泣いているから……。

 不可視の右腕で赤ちゃんを抱き上げ、ゆらゆらと揺らす。

 

「よし、よし、大丈夫ですよ……どうしたんですか……?」

 

 すると、赤ちゃんは揺らされて、割りと直ぐに大人しくなっていった。

 

「ええぇん……ぶー……」

 

 泣いてるというより、愚図っているだけの様子を見せる赤ちゃんに、ホッと安堵の息を吐いた。

 

「寂しく、なっちゃったんですね……ごめんなさい、放って、おいて」

 

 直ぐに泣き止んで口をもごもごさせる赤ちゃんを、私は笑顔であやし続ける。

 私の姿が見えないから、と叫んだのだろう……寂しがりね。

 

 そんな中、ソリテールはその人好きのするような表情のまま、私の背後に立った。

 

「もう助からないのがわかったからそうしているの?

 ねぇねぇ、教えて頂戴?今どういう気持ちなの?」

 

 ちら、と後ろを振り向けば、無数の剣がソリテールの背後に浮かび、その切っ先を私に向けていた。

 どういう気持ち……そんなの、決まってる。

 

「私の、私と赤ちゃんの最後の時間の……邪魔、するなぁ!!!」

 

 不可視の右腕で、ソリテールを彼女が展開している防御ごと掴んだ。

 咄嗟に私は不可視の右腕の複数操作と、巨大化に成功していたのだ。

 

「あら?」

 

 不思議そうな顔で防御ごと右腕に捕まれた彼女だったが、その防御自体は固すぎて、壊せる気はまったくしなかった。

 ……けれど、それももう良い。

 胸の中心を貫かれてしまった私はもう、終わりだ。

 それなら、死ぬまでの時間を……赤ちゃんの為に使うだけ!

 

「ぶっ……飛べぇええええええええ!!!」

 

 そのまま、山の方向に向いている窓に向けて、ソリテールを思い切り投げた。

 

「ああ、素敵だわ。人間って、本当に面白い……」

 

ドスドスドスドストス

 

ガシャァアアアアン

 

 窓を突き破り、ソリテールがぶっ飛び、木々を薙ぎ倒していくのを視認した後、私は赤ちゃんに向き直る。

 どうせ無傷だろう、この時間でどうにか、赤ちゃんを助ける方法を……。

 

「ごほっ、ごほっ……ごぶっ……おぶぇえ」

 

 咳き込んで、せりあがってきた血を吐き出す。

 最後の置き土産とばかりに、ソリテールの剣が私の背中にいくつも突き刺さっていた。

 ……どうせもう、死ぬのに。

 胸の鼓動が弱まっていくのを感じる。

 時間が、ない。

 少し焦燥感を感じて前を向いた時……。

 

「魔族同士で仲間割れ?呆れた。まぁ、私には都合が良いけど」

 

 目の前には、白い少女が私に杖を向けて立っていた。

 懐かしい……あの頃、私を撃ち抜いた頃と容姿は何一つ変わっていない。

 

「どうせ助からないだろうけど、念の為トドメを刺してあげる。

 ……何か、言い残す事でもある?」

 

「ああ……」

 

 勇者パーティの魔法使い、フリーレンが、何の感情も感じられない表情でそこに佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やられたわね」

 

「うーん、たまに人間は感情の高まりで限界以上の力を発揮するけど、まさか彼女もそこまで出来るなんてね」

 

「追い詰め過ぎちゃったかしら……?勿体なかったわね」

 

「戻ってもいいけど……。

 嫌な予感と嫌な魔力を感じるから、やめておきましょう」

 

「それより、マハトに良いお土産話が出来たわね」

 

「久し振りに、会いに行ってみようかしら」

 

「彼女の魔法も面白かったし、良い経験になったわ」

 

「あの子の最期の言葉を聞けなかった事だけが残念だわ」

 

「さよなら……人間みたいな魔族さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の前で杖を構える少女、フリーレンは花のような魔法陣を浮かべ、私を油断なく見据えていた。

 勇者ヒンメルと、ハイター様の言っていた通り……魔族は必ず殺すという意思を感じる。

 普段なら正しいと手放しで称賛するのだけど……今は、今だけは少しだけ、許して、ほしい……。

 

「言い、遺す、事……許されるなら、少し、だけ……げぽっ……」

 

 途中で吐血してしまう。

 霞んだ視界で、震えが止まらない中で、私は赤ちゃんを不可視の右腕で目の前に浮かばせた。

 それにフリーレンが、警戒するように見つめているのを感じながらも、私は口を開いた。

 

「私の……可愛い、赤ちゃん。

 どうか、健やかに成長して……。幸せに、生きて……ごぷっ」

 

 また、喉の奥から血が込み上げてきて、たまらず吐き出してしまう。

 けれど私は、口から血を溢れさせながらも、言葉を続けた。

 

「っ……いずれっ、好きな人を見つけて、人との子を成して。

 幸せな家庭を作って……ね。そう、願っています……」

 

 赤ちゃんに額を軽くつけて、私はどうにか言い切った。

 涙が溢れて、視界が滲む。

 きょとりと紫の瞳で見返してくる赤ちゃんに、私は微笑みを浮かべた。

 

「さよなら……」

 

 そして、不可視の右腕で、ゆっくりとフリーレンのほうへと運んでいく。

 フリーレンは不思議そうな顔で、目の前に浮かぶ赤ちゃんを見つめていた。

 

「……?」

 

「フリーレン、様……近くにまだ、大魔族がいます。

 どうか、この子、リリィの事を……お願い、します……」

 

「……そう……わかった。変な魔族だね」

 

「あは……は、よく、言われます……」

 

 苦笑を溢した私を、やはり不思議そうに見ながら、フリーレンは私の赤ちゃんを受け取り、抱き抱えてくれた……。

 ああ……彼女に渡せたなら、安心、だ……。

 私は、急速に体から力が抜けていくのを感じていた。

 目前に死が迫っている……。

 

「……まあ、素直に死ぬのは良い魔族だ。じゃあね。『魔族を殺――(ゾルト――)』」

 

 花のような魔法陣が光った、そう思った時、何故か突然その光が消えた。

 フリーレンは一度目を瞑り、暫し思巡して目を開く。

 そして、かわりに五芒星が杖の先に浮かび上がった。

 

「『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

 そこから放たれた光線は、私に向けて真っ直ぐに突き進み。

 私の体の殆どを消し飛ばした。

 

「ああ……」

 

 不思議と痛みはなかった。

 怖くもない。

 もうすぐ死ぬのに、不思議と穏やかで。

 

とさり

 

 消し飛ばされた箇所から私の体が塵と化していく事を感じながら、私はフリーレンを見上げた。

 最期の最後に、伝えたい事があるから。

 

「ヒンメル様と……ハイター様に……今まで、ありがとうと、お伝え……ください……」

 

「!アンタ、二人を知ってるの?いや、二人はアンタの事を知ってたって事?」

 

 会ってから初めて彼女の表情に変化があった。

 瞳が驚愕に見開かれるものの、私は構わず言葉を続ける。

 

 ……最期に、勇者ヒンメルに、少しだけ恩を返そう。

 彼が言えない事を。

 

「フリーレン、様……人は、直ぐに死んじゃうんですよ……?」

 

「……?……そんな事、知っているよ」

 

「掌の上から……こぼれ落ちてから……後悔したんじゃ……遅いんです……」

 

「……?」

 

 私の言う事を理解出来てないのか、フリーレンは首を傾げている。

 既に私の下半身は、塵になった。

 もう、体の感覚はなく、これが、私の最後の言葉になるだろう。

 

「フリーレン様……リリィ……二人の未来に……祝福を」

 

 そこまで言い切った所で、口元が塵になった。

 首を傾げたままのフリーレンが、リリィを抱いて此方を見てる光景、これが私の見る最期の光景。

 悪くない、私はやれる事はやった。

 心配な事、思い残す事、そんなのいくらでもあるけれど……。

 子供達の為に死ぬのに、一切の後悔はない。

 

 ああ、幸せだった。

 辛い事もいっぱいあったけれど、幸せだったと思えた。

 いい人生だった。

 まるで人間のように過ごせた日々は、充実していた。

 

 やがて目も塵と化して、何も見えなくなる。

 闇に包まれる、暖かな闇に。

 まるで、眠りにつく前みたいな、優しい闇。

 それに、私は、身を任せて。

 ゆっくりと、闇に沈んでいった。

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、変な魔族」

 

「うぅううう……」

 

「うわ、唸り出した。えっと、どうするんだったかな……」

 

「あぅうううう……!」

 

「あ、えと、そら、『花を出す魔法』」

 

「あぅ……?」

 

「ついでに、ほら、『蝶々を呼び出す魔法』」

 

「あー……あー!あぅー!」

 

「ほっ……やれやれ、これは私の手に余るよ」

 

『人は……直ぐに死んじゃうんですよ?』

 

「……わかってるよ。よし、ハイターにでも預けに行こうか」

 

「あうあー」

 

「あと、それならついでに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒンメルの顔も見に行こうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルが魔王を討伐してから、40年――。

 

 

 

「……なんでさっき、魔族を殺す為に、人を殺す魔法を使ったんだろう」




人を理解していないフリーレンが、人の心を持った魔族を、『人を殺す魔法』で殺すシーン、ずっと書きたかった。

魔族の子供の次はどれが読みたいですか?

  • 〈戦士と魔族〉
  • 「平和だった町」
  • [一級魔法使い第二試験]
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