俺はこれから死にに行く。
おそらくアリーナのランク1なんぞよりも、そいつよりもやばそうなランク9や意外な何かがありそうなランク19辺りよりも、旦那はさらにやばい。
そんな旦那に銃を向ける意味は、俺の中じゃ企業に喧嘩を売るよりも重い。
俺にとって旦那は、超えてはいけないルビコン川そのものだ。
それを超えない限りは、俺は今まで通りに生きていける。
逆に越えたら、引き返すことができない茨の道になる。
「よぉ旦那。……ついに、この時が来たんだな」
だが、俺はルビコン川を越えた。
例の警句とは矛盾するようだが、賽を投げちまったってわけだ。
さっき飲んだ暖かいコーヒーが、ワンダラーとしての最後の贅沢だ。
「ケイト・マークソンとやらは来ない。……俺が殺した」
コーラル輸送阻止。
オールマインドが依頼主の、サムが阻止しようとしていたコーラルリリース計画とやらに繋がる話。
それが今回旦那が受けていた仕事だ。
アーキバスによるコーラル輸送を阻止し、輸送ヘリをコーラルごと破壊するっていう乱暴な奴だな。
それが奴にとって旦那を図る一定のラインって奴だ。
旦那がその仕事を受けないなら、サムからの感謝と謝罪の伝言メッセージを旦那に送って話はおしまい。
だがそうならないなら、俺の出番だ。
「そして……今度はあんたを殺すぜ、旦那」
さしずめ、今回の俺の仕事は「独立傭兵レイヴン排除」ってなるわけだ。
それが、あいつからの最期の頼みだった。
『システム。戦闘モード、再起動』
◆
フィールドは、ヨルゲン燃料基地。
そこの何やら大きな橋がかかっているところの、その下の広い川だ。
遮蔽物のない、非常に動きやすい場所ってわけだ。
近づいてくる旦那の機体に対し、俺は右肩のミサイルをばらまきながら横へ飛び上がり、二丁のバーストライフルでトップアタックを仕掛ける。
すると旦那は当然のようにミサイルを避けて、逆にこっちへミサイルを放ってくる。
だから俺はあえて早めに地上に着地するように避けて、エネルギー容量を補充しながら旦那のブーストキックをいなす。
「旦那。俺はあんたのことが嫌いじゃない。コーラルリリース計画とやらも、どうだっていい」
だが、代わりにいいのをもらっちまった。
思わずスタッガーしちまって追撃を食らい、リペアキットを一個使わされた。
「所詮は腐れ爺の妄言だ。本当は弔い合戦なんざ、する気もなかった」
だが問題ない。
こっちもすぐバーストライフルの弾幕で旦那の機体の姿勢を崩し、パルスブレードで痛打を与えてやった。
これであちらのリペアも一個切らせた。
「だけど……俺にも、しがらみがあるんでな」
ここまで来たんだ。
俺だって、なまなかな覚悟で来ちゃいない。
やるならとことん。
道理をひっくり返して、無理やり旦那を殺しきるまでだ!
「やはり、強いな……俺の見込んだ通りだ……!」
リペアの二個目を使わされる。
これでこちらのリペアは後一個。
だが向こうのリペアも切らせて後一個。
いや、保険の意味もあるのか今もう一個使いやがったから、あちらはもう後がない。
これは俺が優勢か、とも思った途端こちらもすぐリペアを使わされる。
これでお互いもう後がない。
「あんたには、礼を言うべきかもしれん。切っても切れないサムとの腐れ縁と。誰よりも強い、旦那との縁が。なんとなく思い出させてくれた」
このギリギリなダメージレースは、サムとの模擬戦を思い出させる。
旅を始めた後に新しく組んだACじゃなく、昔のルビコンの中で使っていたACのデータを使った本気の模擬戦。
内容は昼飯を懸けてのくだらない喧嘩だったが、だからこそ今思い出せる。
「所詮は俺も腐ったルビコニアンでしかなかったってことを!」
俺は、口で言うほどこの星を嫌っていなかったことを。
何かをあきらめるまで、どんな強敵が相手だろうとサムと共に抗い続けていたことを。
「あんたが火をつけたのさ。俺の中の、燃え残った全てに!!!」
それこそが、絶対に敵対したくなかった旦那と敵対した理由で。
旦那のその無類の強さこそが、サムとの友情に命をかける覚悟になった。
俺はもう、ワンダラーのマイナーじゃない。
◆
「っ……」
致命傷を食らった。
この衝撃は、機体が持たない奴だ。
「まだだ……!」
とでも言うと思ったか。
この程度、想定の範囲内だ。
「まだ俺は戦えるぜ……!」
ターミナルアーマー。
旦那との戦いに備え、いつものアサルトアーマーから換装した拡張機能。
相手への姿勢崩しや追撃のために装備していたものを、長期戦と最後のチャンスを重視するバリア発生型に換えた。
これは、旦那にもオールマインドのシステムにもまだ晒してない手札だ。
「旦那ぁぁぁあああああ!!!」
バリアが効いている数秒の内にミサイルをばらまきながら、左手のライフルをパルスブレードに持ち替える。
そしてそのまま、ミサイルの対応に追われる旦那へ向けてパルスブレードを振りかぶる。
旦那も後がない。
ターミナルアーマーで突然勝ちをお釈迦にされたところへのこの奇襲は、それなりに効きやすいことだろう。
当たれば俺の勝ち。
これが、俺の最後の札だ……!
…………。
ま、そうだよな。
やはり、俺如きが敵うわけがない。
最後のパルスブレードは、しかしクレバーに横へQBを吹かされることで外された。
大抵は反射的に後ろに下がっちまうのを、BAWS製ブースターで追いかけてぶち殺すのがいつものだが。
旦那にはそれが通じなかった。
そうなりゃ、ターミナルアーマーのバリアも切れた俺に勝ちの目はない。
あっさり、俺は旦那に負けちまったわけだ。
あーあ。
まったくもって、清々しいもんだ。
最期ぐらいは、ここを魂の場所とできたのが。
俺に許された救いだったのかね。
「……今まで、楽しかった、ぜ……旦那……」
じゃあな。
せいぜい、あんたは友人を大切にしろよ。
旦那。
◆
こうして、ワンダラーのマイナーの旅は終わりを迎えた。
ルビコンを出ていくためではなく。
一人の友との縁に報いるため。
失った友人との情とルビコニアンとしての魂を取り戻すため。
彼はワンダラーであることを捨てた。
結果を出せずに死んだその在り様を、知らぬ者はただの無意味と嘲るだろう。
だが、知る者は知っている。
その人生と末路には、何らかの価値と救いがあったことを。
それが、最後に輝いた『ルビコニアンのミドル』の魂であった。
筆者の上代わちきです。
この度は本作「一般ルビコニアンデス傭兵の話」をご高覧頂き、誠にありがとうございます。
今回でマイナーさんのお話はほぼすべて出し切りましたことを、ここにご報告申し上げます。
以下、あとがきのようなものをつづっていきます。
かなりの長文ですが、もしお時間に余裕のあるお方がおられましたら、どうかお付き合いください。
本作の原点は、マイナーさんのAC「オデッセイ」の機体構成にあります。
機体構成の詳細は五話あとがきにて記載しておりますので、この場では割愛いたします。
この構成のキモは、芭蕉腕・キカクブースター・ランセツRF・近接武器の組み合わせにあります。
これは筆者が近接機体を組む場合の『呪いの装備』であり、オフライン周回ではいつも世話になっている組み合わせです。
この構成群の面白いところは、近接武器以外のすべてがBAWS製である点です。
どれだけ他のパーツを独立傭兵らしく混成にしても、この組み合わせを使う限りは実質BAWSマンなのではないかと思ってしまうほどの運命を筆者は感じています。
またBAWSのパーツは近距離戦闘を前提にしている節があることから、他企業の武器であっても近接武器を併用する限りはBAWSの掌の上である印象を覚えます。
BAWSは中立のふりをしているだけの、ルビコニアンにかなり寄った立場の企業です。だからこそ、このBAWSマンめいたこの機体のパイロットはルビコンと縁深い人物にこそふさわしいと考えました。
それが、マイナーさんのルーツがルビコニアンである由来です。
また、上述の『呪いの装備』は原作のNPCドルマヤンもそのまま採用しております。というか、筆者が近接機体を組もうとしたら必然的にドルマヤンの機体に近いものになってしまいます。
その精神性の近さ故にマイナーさんにドルマヤンと因縁浅からぬ仲という設定も付与され、本作世界観の土台が出来上がりました。
本作やたら精神年齢高めな雰囲気なのここが理由。勿論実際の精神年齢は、今回の話が物語っていますが。
後は、低いEN防御を補うために企業製パーツを使用しているため、その理由付けとして独立傭兵要素をプラス。
最終的に「ルビコン出身の独立傭兵」「独立傭兵に扮するルビコニアン」という形に至りました。
通常ルートの世界観はこの独立傭兵側の世界観が強めで、ALTルートはルビコニアン側の世界観が前面に出ているということになります。
筆者は、こういう「パイロットの世界観を機体に組み込む」あるいは「機体構成をもとにパイロットの世界観を構築する」という遊びが大好きです。
もともと「オデッセイ」は「ルビコン寄りの621」用の機体として、頭だけレイヴン頭にして遊んでいました。その時の機体名は自由を意味する「リベルタス」。
が、頭部フレームだけ汎用品にすればルビコニアン寄りの木っ端傭兵っぽくなるなと思って、上述の世界観構築に至ります。
だからマイナーさんがずっと装備し続けているという設定のエルカノ製フィルメーザ頭部フレームは、筆者視点から見てもマイナーさんの魂が詰まっています。これがマイナーさんのアイデンティティー。
おかげで楽しい創作活動ができました。まだほかにもそういうネタ機体はあるので、それぞれのパイロットの世界観が思いついたらまた話を追加してみたいとも考えております。
最後にもう一点。
本作の原点は上述の通りですが、それを実際に創作として形にできたのは別のきっかけがございます。
それはこのハーメルンで展開されている様々な作品であり、その作品を執筆為されているお歴々との交流でもあります。
AC6の二次創作がここまで活発でなければ、あるいはお歴々と出会うことがなければ、きっと筆者は上述の世界観を形にできなかったかもしれません。
だからこそ、改めてこの場で御礼を申し上げたいと思います。
本作にお付き合いくださった皆様方、AC6を世に届けてくださったフロム・ソフトウェア様、AC6を原点に様々な創作を為されたお歴々様方。
貴方方のご助力あってこその、本作の世界です。
本当に、本当にありがとうございました。
つーわけで以上です。
上代わちきでした。