一般ルビコニアンデス傭兵の話   作:上代わちき

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 お久しぶりです。
 なんとなく淡々とした雰囲気の独立傭兵エピソードを書きたくなっちゃいまして、衝動的に書き上げました。
 今回はベイラム系の、比較的上澄みの独立傭兵のお話です。



番外編「独立傭兵ヒューロン」

 

 

 

 サルバドールは自由を謳歌しているようだった。

 飯をうまそうに食っている時の匂いから、そう察した。

 

 世話を焼いてよかったと思える匂いだった。

 

 

 

 そのままの流れで何回か一緒に仕事をしたりしたもんだ。

 仕事の後に飯屋に行くのも恒例になった。

 

 

 

「そういえば、だ。ワンダラーのマイナー」

「なんだサルバドール」

「……奴のこと、聞いていいか?」

「ヒューロンのことかい?」

 

 そんな飯屋の時に、懐かしい話題が出てきた。

 

 

 

「ああ。あの時の手応えで死んだとは思えない。だが、最終的には死んだのだろう?」

「……そうだな。お前さんには話しておくべきか」

 

 その懐かしい話題とは、サルバドールとも縁深い独立傭兵の話だ。

 

 

 

 

 

 

 独立傭兵ヒューロン。

 ベイラム方の傭兵だ。

 

 サルバドールがまだ「ヴェスパー部隊のダリ」だった頃、精力的に活動していた奴だ。

 旦那が"密航"する前の時期で、つまり俺もまだベイラム寄りだった時期だ。

 

 

 

 当時のヒューロンは、独立傭兵の中でも貴重な上澄みの一人。

 なんなら下手なレッドガン隊員よりもよほど優れた傭兵だ。

 そのうえで明確にベイラム寄りの立場を示しているということで、おそらくベイラムからの信頼が厚いほぼ唯一の傭兵だった。

 レッドガン総長に由来するパーツすら与えられていたことから、その関係の強さは匂うまでもなく察することができる。

 

 そういうわけで、同じくベイラム寄りだった俺もそいつとは交流があった。

 きっかけは、ベイラムの依頼で解放戦線を攻撃する仕事だな。

 

 

 

 

 当時は解放戦線も「壁」の存在で力が強かった。

 だからその「壁」のための大きな補給基地があって、それを襲撃する作戦だった。

 

「な……グレネード?!」

「ジャガーノート……! 奴は前面の攻撃が効かない! 横に回り込むんだ!」

「ふざけるな、そんな機動をしてたら体が……ぁ?!」

 

 

 その基地には、重装機動砲台ジャガーノートの一機が配備されていた。

 それが、ベイラムがヒューロンを出した理由で、俺のような木っ端傭兵にも依頼を出した理由でもあった。

 木っ端傭兵はヒューロンの露払いの意味があったようだが、その殆どは役に立たなかったがな。

 

 

 

「生き残ったのは、私とお前だけか」

「みたいだな。事前にも自己紹介したが、ワンダラーのマイナーだ」

「……ヒューロンだ。お前は他とは違う"感じ"だな」

 

 ヒューロンはその場の流れを"感じる"ことができる傭兵だ。

 俺にとっての"匂い"のようなもんで、だから数多の戦場を生き残り、ベイラムから厚い信頼を受けるに至る強者だった。

 

 

 

 

「さて。クソどもの腐った戦車が厄介だが、所詮は正面突撃しか能のない屑だ。ちと堅いが、裏を叩けばのうなる」

「なら囮は私がやろう。ワンダラーのマイナー、お前がやれ」

「あいよ」

 

 だからジャガーノートの攻撃役は俺を指定した。

 ヒューロンのACは実弾ばかりだったのに対し、俺はジャガーノートの嫌いなEN武器を持っていたからな。

 強者として在るだけの嗅覚を披露してくれた。

 

 

 

 まぁおかげでジャガーノートは撃破できたよ。

 高い「壁」の上から狙撃されたならともかく、地上を暴走するだけの猪だったからな。

 安い仕事だった。

 

 

 

 

 

 

 それ以後、ヒューロンは俺のことを気にいったようでな。

 定期的に顔を合わせて、互いの情報を交換するようになった。

 

 当時の俺としては、ベイラムの内にある"とある情報"を知りたくて傭兵活動をしていたからな。

 得られる情報が増えるのは大歓迎だった。

 

 

 

 勿論、情報交換だから俺の方も色々情報を渡したよ。

 中には、サルバドール……当時でいうところのダリの情報も渡した。

 

 その時期に一回ダリと交戦していて、まだ記憶に新しい時期だったから比較的正確にアセンブリ情報を渡せた。

 

 

 

 そうだ。

 当時のベイラム方で有力だったのはヒューロンだったのに対し、当時のアーキバス方で有力だったのはヴェスパー部隊のダリだった。

 

 ヒューロンとダリ。

 その二人は、いずれコーラル争奪戦の中で激突することは予想できていて、当時の傭兵仲間同士じゃどっちが勝つのかが話題だった。

 

 

 

 

 

 その勝負は現実となった。

 

 又聞きなんだが、当時ヒューロンは、解放戦線のもう一つの戦力「ストライダー」の補給路を潰す作戦に参加していたらしい。

 その作戦の途中で、アーキバスから奇襲を受けたようだ。

 それほどまでに、アーキバスから危険視されてたってことだな。

 

 

 で、その奇襲を実際に実行したのが、まさしくそのヴェスパー部隊のダリだったわけだな。

 

 こうしてヒューロンとダリは激突し、そしてダリが勝った。

 その時、ヒューロンは負けたのさ。

 

 

 

 

 

 

 ヒューロンは負けたが、生きていた。

 ただ無事というわけにはいかず、当面の間は病院暮らしとなった。

 つまりコーラル争奪戦の前線から離脱したってわけだ。

 

 

 その件で当時のベイラムの勢いは一気に削がれ、逆にアーキバスの勢いは増すこととなる。

 後から思えば、さっきのヒューロンとダリの戦いってのは歴史的な戦いでもあったわけだ。

 

 ヒューロンとの戦いの後、ダリは"暗殺"されたが、アーキバスはV.ⅠフロイトとV.Ⅱスネイルを筆頭とした新しいヴェスパー部隊を再編してすぐ持ち直した。

 その間ベイラムは有力な独立傭兵を失ったことで動揺し、いっそ不自然なぐらいに動きが鈍かった。

 何らかの陰謀すら感じるが、まぁ今回の主題じゃねぇからそこは置いておこうか。

 ともあれ、ヒューロンとダリの時代は終わり、その際のゴタゴタでアーキバスが優勢となったわけだ。

 

 

 

 以降は旦那が台頭し、アーキバス優勢のまま解放戦線のストライダーと壁は攻略されていき、俺も"仕事"を済ませてアーキバス寄りに転身した。

 いつの間にかヒューロンの名前は聞かなくなった。

 

 が、さっき言った通りヒューロンはまだ死んでいなかった。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、ワンダラーのマイナー。よもやアーキバスに擦り寄るとはな」

 

 ヒューロンと出会ったのは、アーキバス寄りに転身して中央氷原に渡った直後。

 まだ惑星封鎖機構がちょっかいをかけてくる前のことで、まだベイラムとアーキバスで小競り合いをしていた時期だ。

 

 その時期にアーキバスの依頼で、ベイラムの中央氷原基地の一つを襲撃することになってな。

 気は進まないが、色々根回ししてくれたリヒターの顔を立てるためにもベイラムのMTどもを殺して回ってたんだ。

 その途中で、ACに乗るヒューロンとかち合った。

 

 

 

「そういうアンタは相も変わらずだな、ヒューロン」

「傭兵とはそういう生き物だ。殺すだけ殺したんだ。それ以外の生き方などできる筈もない」

 

 その時の俺はアーキバス側で、ヒューロンは勿論ベイラム側。

 お互い殺し合うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「近況を聞いていいか」

「ここでも情報交換か。……別に、語ることはないぞ。不本意な仕事でベイラムに喧嘩売っちまって、だからツテを使ってアーキバス寄りに転身しただけ。話せるのはそんだけだ」

「なるほど"感じる"な。存外義理堅い」

 

 独立傭兵ヒューロン。

 AC「ドリームキャッチャー」は、典型的な重量二脚ACだ。

 

 武装は極端で、両手にガトリング、両肩に"重ショットガン"と呼ばれる武器を吊るしている。

 俺の知る限り、まずガトリングで相手の姿勢を崩して、重ショットガンで追撃するスタイルだ。

 下手に正面衝突すればそのままダメージレースで負かされる。

 

 フレームも大豊の天槍と、例の蜘蛛頭を組み合わせている。

 その堅さと姿勢安定性能は普通じゃない。

 

 やれることは単調だが、だからこそシンプルに強い機体だ。

 倒すには工夫がいる。

 

 

 

「……そういうアンタは? わざわざ詮索したんだ、そっちの近況も聞かせろよ」

「お察しの通りだ。死んだと思わせての引退を考えなくもなかったが、病院もきな臭くてな。五体満足の生存をリークされたのは痛かった」

「そのままルビコンを去れば、余計な勘繰りで企業に殺されるわな。……お互いままならねぇ」

 

 向こうがアサルトブーストを吹かしてガトリングを回してくる。

 それだけで見事な弾幕だ。

 食らうわけにはいかないな。

 

 少し無理をしてクイックブーストを吹かして、うまくすれ違うようにしてガトリングの死角に入る。

 その間にミサイルを発射して、確実にヒューロンのACのAPを削る。

 

 

 

 

「ダリのことを聞いた。暗殺されたということだが、"感じる"ものがある。お前の所感を聞きたい」

「そっちと似たようなもんだ。……確信はないが、生きているかもしれん。そういう匂いだ」

「やはりか。……場合によっては、ここで生き残った方がまたダリと戦うことになるかもしれん。嫌なことだ」

「どうだがね。この匂い方は、そういう流れじゃねぇようにも思うが」

「……そういえば今のお前はアーキバスだったな。だが、この感じはアーキバスだけの陰謀でもなさそうだ。せいぜい気をつけろ」

 

 二丁のバーストライフルでさらに奴の姿勢を崩しにかかる。

 が、ヒューロンは重ショットガンに持ち替えて、一気にこちらの姿勢を崩しやがった。

 

 ガトリングの弾幕を放ちながら突進してきて、そのまま蹴り飛ばそうとしてくる。

 それに合わせて俺はアサルトアーマーでカウンターして、パルスブレードでぶった切る。

 

 

 向こうもアサルトアーマーを発動して、痛み分けに終わったがな。

 

 

 

 

「そろそろだな」

「ああ。ケリをつけよう」

 

 

 今の攻防でお互いに命を削られた。

 リペアキットは消耗している。

 

 次で終わりだ。

 

 

 

 

 

 

「お前が勝つか。順当だな」

 

 

 最後に勝ったのは、俺だった。

 

 奴の動き方はなんとなく読めた。

 ヒューロンは自分の限界を知っている奴で、だからそれ以上の動きをしない。

 重装備で固め、武装もガトリングと重ショットガンの暴力を押し付けるだけなのも、それ以上の技量を有していないからこその選択肢だ。

 

 普通の奴ならそれで何とかなるから、まぁ優れた傭兵であるという評価は変えないがね。

 だが付け入る隙はあった。

 

 

 

 BAWSの安物ブースタは、近接攻撃の時にとんでもない機動力を発揮する。

 その特性を利用し、不意に肉薄することでヒューロンの動揺を誘ってやった。

 

 そうして築いた貴重なチャンスを、俺は運よくものにできた。

 だから、俺は生きた。

 

 

 

「……悪くはなかった。あばよ、ヒューロン」

 

 それが、ヒューロンの最期だったのさ。

 

 

 

 

 

 

「……そうか。奴はそうやって死んだのだな」

「感傷か、サルバドール」

「ああ。……アーキバスの首輪をつけていた当時の私にとって、あの独立傭兵は自由気ままなようにも見えていた。うらやましかった」

「お前さんの事情を知った今となっちゃ、その気持ちを抱く理屈はわかる。それが独立傭兵の強みの一つでもあるからな」

 

 

 独立傭兵ヒューロンの死。

 この情報は恐ろしいほどまでに出回らなかった。

 

 なんせヒューロンの死後すぐに惑星封鎖機構が乗り出してきたからな。

 誰もかもそれどころじゃなかった。

 

 

 

 情勢が落ち着いた時、その名前を思い出せる奴なんか一人もいなかった。

 独立傭兵とはそういうもので、だから気ままであれる。

 その命は、自分一人のものだからな。

 

 

 

「だが、AC乗り特有の業からは逃れられない。人を殺し、そして誰かから恨みを買う。その刃はどこにでも潜む。それは首輪付きであろうと独立傭兵であろうと変わりはしないのだな」

「幻滅したか。独立傭兵に」

「いや、覚悟していたことだ。不本意であろうと、私は故郷を見殺しにした大悪党だ。アーキバスの尖兵として、多く殺してきた。いずれはその報いを受けることにはなるだろう」

「……」

 

 けれども、その業が消えることはない。

 一度手を血に染めた以上、その匂いは消えない。

 

 なんせ恨みを買うのが仕事のようなもんだからな。

 うまいこと足を洗おうとしても、道理を弁えない復讐のリスクはどうしても付きまとう。

 中途半端に逃げるぐらいなら、むしろ独立傭兵を続けていた方が安全だ。

 けれど、そこで仕損じても死ぬのが独立傭兵の在り方。

 

 それがAC乗りの、人殺しの悪人としての業なのだからな。

 ヒューロンとの出会いと別れは、それを再確認させられるものだった。

 

 

 

「だがな、ワンダラーのマイナー」

「ん?」

「……お前達の、その業を背負う在り方。私は"格好いい"と思ったぞ。業を粛々と背負うのではなく。選んで背負い戦う、羽ばたく鳥の如きその在り方が」

「……。ククク、クカカカ……そうか、そうか。"格好いい"かぁ。お前も言うようになったなぁ、サルバドール」

「だろう? ヴェスパー時代の私では言えなかった言葉だ、マイナー」

 

 

 ただまぁ、そういう業を持つ者だからこそ得られるものもある。

 

 ヒューロンとダリ。

 その二人との縁は、そういう貴重なものの一つでもあったのさ。

 

 

 




 筆者にとって、いかに前回のサルバドール/ダリが特別であるかを再確認する回となりました。
 やっぱり彼の「元ヴェスパー番号付き」という経歴は大きくて、筆者の中のルビコン情勢に大きな爪跡を残してくれました。

 本来のエピソードコンセプトは「淡々とした、乾いた雰囲気の独立傭兵同士の会話と戦い」が書きたいだけだったのにね。
 でも「ダリ暗殺」という事件・情勢に対して、情報交換したり考察したりする二人の会話は描いてて楽しかったです。

 というわけで、以下にまたパイロットと機体のデータをまとめました。
 あわせてお楽しみください。





 独立傭兵ヒューロン

 ヴェスパー部隊のダリと同時期に活動していた独立傭兵。

 ヒューロンはベイラム方の傭兵として知られており、同企業からの信頼が厚いほぼ唯一の傭兵であった。
 それ故同時期に活動していたヴェスパー部隊のダリとはライバルとして目されており、ヒューロンとダリの勝負の行く末は当時の話題だった。

 ヒューロンはダリに敗れ、しかしダリも間もなく暗殺され、コーラル争奪戦は混迷を極めることとなる。




 AC ドリームキャッチャー

 独立傭兵ヒューロンが用いる、ベイラム系の重量二脚AC。機体名は「悪夢を捕らえる蜘蛛の巣」を模した、とある魔除けが由来。

 両手にガトリングを構え、両肩に重ショットガンを吊るす、実弾特化のウェポンハンガー機体。
 フレームは大豊製「天槍」で揃えつつ、頭部パーツのみベイラム製「VERRILL」に換装。レッドガン総長ミシガンに由来する「威圧する蜘蛛」の頭部。
 内装は、ファーロン製バランス型ブースタ「BST-G2/P04」、近・中距離戦闘に向くベイラム製FCS「FCS-008 TALBOT」、大豊製重量AC向けジェネレータ「DF-GN-08 SAN-TAI」(三台)を採用。
 拡張機能はアサルトアーマー。

 基本的には突進しながらガドリングの雨を浴びせ、相手の体勢を崩したところを重ショットガンで追撃する。
 またある程度の攻撃は重量フレームにより耐えることができる。また前述通り頭部パーツも高負荷高性能なものに換装しているため、並の機体より堅い。
 武装による雑に高い攻撃力と、重量AC特有の雑に高い防御力がウリのベイラム系機体。





 メタ解説

 機体コンセプトはAC6発売直後の強武器である「重ショットガン」、および筆者の好みである「ガトリング」を使うための世界観を演出する機体。
 つまり筆者の、最初期のメイン機体。換装しているのは知識不足で採用していたブースタ「BST-G2/P06SPO」を「P04」にしたぐらい。

 当時の強武器であった「重ショ」と、好みであると同時に雑には強かった「ガトリング」を使いたいのが全ての始まり。
 一方で両武器はそれぞれ「ベイラム」「大豊」と、「ベイラム系列の武器である」という共通点を持つ。
 そのことから両武器を使用する世界観上の言い訳として、フレーム・FCS・ジェネも「ベイラム」「大豊」系で統一することで、ベイラム系機体が完成した。
 (ブースタのみベイラム系列のパーツがなかったため、中立企業のファーロン製で妥協)

 一方でパイロットであるヒューロンのコンセプトは「ダリのライバル」。
 というか、ダリと共にルビコン情勢のパワーバランスの一角を担う……がヒューロンのコンセプト。
 その都合により、実力としてはダリと同格……つまりランク6スネイルと同レベル。
 ただしダリは"サルバドール"と"ACリ・エデュケーション"という引き出しを残しているのに対し、ヒューロンはそこが限界。
 あるいはそこが、両者の運命を分ける分岐点になったのかもしれない。
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