一般ルビコニアンデス傭兵の話   作:上代わちき

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 ブラッドボーンパロディ回です。
 大したネタバレはない筈……ですが、気になる方がお見えになられましたら、念のためご注意ください。

 それから、注意事項が今一つ。
 本作は喫煙を推奨するものではありません。
 併せてご了承ください。


番外編「刃のマーシー」

 

 

 

 炭酸を思わせる匂いがする。

 電子タバコだな。

 

 ここ最近、どっかの企業から電子タバコの新作フレーバーが出たと聞いた。

 生憎、俺は大豊製やエルカノ製の紙タバコが好みなんで自分で吸うことはないが。

 

 

 

「……なんだい、あんた傭兵かい」

「ああ。あんたと同じでな」

 

 匂いの出処は、中立地帯基地のアンダーグラウンドの一角。

 秘密のタバコ店近くの喫煙所だ。

 

 そこで一人の女が電子タバコを吸っていた。

 オールマインド製の補助スーツ……即ちパワードスーツの類……を身に着けているが、どこかハイカラな婆さんだ。

 結構な老人だが、そこそこできる匂いのする傭兵だった。

 

 

 

「ワンダラーのマイナーだ。……お互い外から来た者同士、仲良くしておこうぜ」

「マーシーだ」

「……"刃のマーシー"か? あんたほどの"狩人"がルビコンを訪れるとは。ずいぶん因果なことに巻き込まれた」

「それがあたしの仕事さね。……傭兵には、血に酔い獣に堕ちる奴が少なくない。せいぜいあんたも気を付けることだね」

 

 

 

 

 

 刃のマーシー。

 またの名を"慈悲の刃"。

 

 近接武器……とりわけここ最近では企業製の青いレーザーダガーを使いこなす、"狩り"の独立傭兵だ。

 一部の界隈で刃と言えばマーシーの名がすぐ出る程度には、優れている。

 

 

 彼女の獲物は、基本的にAC乗りだ。

 特に"血に酔い獣に堕ちた"傭兵を弔う殺し屋となる。

 

 実に物騒な女だよ。

 

 

 

 

 この女が活動していたのは、ヒューロンとダリが活動していた時期がメインだ。

 つまり旦那がストライダー破壊や壁越えを果たすより以前の時期で、マーシーは戦果を挙げていた。

 

 それだけ"血に酔う獣"が多かったということでもあり、それだけマーシーも強者だったということでもある。

 だがマーシーには弱点があった。

 

 

 

 年齢だ。

 

 

 

「はあ……はあ……。あんた、余計な助太刀だね。でもまあ、感謝するよ」

「……あんた」

 

 俺も大概他人のことを言える年齢じゃねぇが、それでも明らかにこの女は俺より年上だ。

 それと、この匂い方から察するにマーシーは第1世代の強化手術を受けている。

 おそらく、手術そのものは比較的失敗に近い仕上がりだ。

 

 実際には個人差があるだろうが、いつガタが来てもおかしくない状態だったろうよ。

 それが、たまたま作戦地点が近くて通りがかった時のこのタイミングだった。

 

 

 

「……あたしももう、潮時かもしれないねえ。最近、よく昔を思い出すんだ……」

「……」

 

 

 マーシーは、もうだめだ。

 

 機体そのものはまだ生きているが、その"中身"がもう壊れている。

 これはそういう匂いだ。

 

 

 

「マイナー、気をつけな。……"奴ら"は、あんたを獣と見做している。次は、あんただ」

「奴ら?」

「そこまでさね。"それ"は契約違反だ」

「悪い、愚問だった」

「構わんさ。……すまないけど、少し眠らせてもらうよ。少しだけね……」

 

 

 こうして、マーシーは終わったのさ。

 せめてもの贅沢なのか、また電子タバコを燻らせているのが機体越しに嗅げた。

 

 ヒューロンとダリが激戦を繰り広げるより、だいたい二週間ぐらい前のことだったな。

 

 

 

 

 本題はここから。

 旦那が俺と共にストライダーを破壊し、俺も"個人的な仕事"を済ませ、企業共も海を越えた後の話だ。

 

 封鎖機構を叩けば金になる時期。

 リヒターの船で、ちと噂が流れたんだ。

 

 

 傭兵を屠る"狩人"が、また出たと。

 

 

 

「傭兵は皆、殺しに酔う」

「……マーシー」

「言っただろ。"奴ら"はあんたを獣と見做している。次は、あんただ」

 

 

 噂は本当だった。

 

 アーキバスの依頼で戦場に出て、仕事を済ませた後。

 また、マーシーが現れた。

 

 

 

「こんな悪夢じみたやり方だとは思わなかったぜ」

「あたしもさ。これも夢を見た報いなのかねぇ。……さ、やろうか」

「だな」

 

 

 

 

 

 

 

 マーシーのAC「グッドハンター」は、近接型の二脚ACだ。

 右手に短ハンドガンを構え、左手に象徴となる青いレーザーダガーを携える。

 

 だが個人的に印象的なのは、背部武装やフレームの一部が非企業製である点だな。

 どうやら旧世代型と相性がいいとされる"オールマインド"製のパーツを多用しているようだ。

 補助スーツの件しかり、それが彼奴の処世術であるらしい。

 

 

 

「一つ聞いていいか? あんたどこまで人間だ?」

「前回あんたの前で寝るまでは真っ当だったよ。強化手術分は差し引くがね。……だが今はダメだ。上位者も気取れない」

「上位者?」

 

 お互い距離が離れている。

 マーシーの腕部武装は近接特化型で、この距離では効果を発揮しない。

 

 だからか、マーシーは背部武装のレーザーオービットと特殊ミサイルで仕掛けて来た。

 いずれもオールマインド製で、どこか人形的だ。

 気持ち悪い。

 

 

 

「"この体"になれば、上位者になれる。すべての精神と繋がることで、欲しいものを得られる……そういう謳い文句に吊られて狩りをしていたんだが、デマだったようだねぇ」

「お前さん……まさか」

「死者蘇生。時の権力者どもが欲しがる、よくあるあれさ。あたしも一時は夢を見た」

「……馬鹿野郎が」

「クククククッ……新しいフレーバーが出たと教えてやりたい奴が一人いてね。結果は御覧の有り様さ」

 

 

 そして事実、今のマーシーは人形のようだ。

 すでに死んだマーシーが何らかの手段で蘇り、機械の体を動かしている。

 

 そういう手品のようだ。

 

 

 

 だからか、背部武装のキレが普通じゃない。

 中距離から飛んでくるレーザーとミサイルの軌道に翻弄されて、接近を許されてしまった。

 

 

 

 

「この世界はよくできている。人はいつか獣になる運命だ。獣は狩るしかない。狩りとは、葬送の刃なのさ」

「……」

 

 

 奴の短ハンドガンが、俺のAC「オデッセイ」の姿勢を崩す。

 近距離でやられると一気に衝撃を与えるのが、ベイラム製ハンドガンの強みだ。

 

 こちらも六連ミサイルとバーストライフルで応戦したが、流石にこの距離ではマーシーのハンドガンの方が強い。

 

 

 

「だがそれでも、諦めきれない者もいる。それこそが人間だと気づくには、昔のあたしは少し若すぎた」

 

 レーザーダガーで切り刻まられる。

 奴お得意の刃が、オデッセイを傷つけていく。

 

 抜け出すには連撃が激しく、気が付けばアサルトアーマーの光が見えていた。

 それで潰すつもりなんだろうよ。

 

 

 

 

「……ああ、その通りだ。このクソみたいな世界で長生きするコツは"いつか訪れる終わり"と向き合うことだ。逃げ続けることじゃねぇ」

 

 だが、アサルトアーマーを持っているのはマーシーだけじゃねぇ。

 奴がアサルトアーマーを発動するタイミングを見計らって、こちらもアサルトアーマーを起動する。

 

 この手の勝負は、後出しした方が有利だ。

 

 

 

「うらやましいねぇ。あんたは、間違えなかったんだ」

「……たまたま、だ。喧嘩別れした奴へ、改めて別れを告げる機会を得られた。俺とあんたの差は、多分そこだ」

 

 

 後はこちらの仕事だ。

 

 アサルトアーマーのカウンターを喰らったマーシーの「グッドハンター」は姿勢を崩し、そこへ容赦なくパルスブレードを叩きつけた。

 その一撃で、勝負を決めた。

 

 

 

 

 

「狩人も皆、狩りに酔う……あたしも、その一人だったよ」

「……あばよ、マーシー。今度は迷わずいけ」

 

 

 こうして今度こそ、マーシーは終わった。

 

 この時は、電子タバコの匂いは欠片もなかったよ。

 

 

 

 

 ヒューロンが倒れた直後の、ベイラムの不自然な動きの鈍さ。

 前回のストーカーを襲った、ウイルス付きシースパイダー。

 そして今回の、蘇ったマーシー。

 

 これらの件には、黒幕がいる。

 

 

 

 だが、その黒幕に直接引導を渡すことはできなかった。

 渡すまでもなかった、というべきかもしれんな。

 

 

 黒幕には、おそらく壮大な計画がある。

 だがその計画は、もうとっくの昔に破綻していた。

 

 そうだな……"旦那がストライダーを破壊した辺り"で、黒幕は危険性を失っていた感じだな。

 

 

 

 勿論実際の黒幕自身はまだ健在で、だからまだ色々と暗躍しているようだが、いずれ誰かが対処するだろう。

 

 だがその役目は俺じゃない誰かが背負っている。

 そういう匂いだ。

 

 

 だから、この件からは手を引くことにしたのさ。

 知らなくていいことは、知らなくていい。

 

 

 

 

 

「また来たのか、よくもまあ飽きないことだ……また大豊製の紙タバコか?」

「いや、今回は電子タバコを買いに来た。例の新作フレーバーが、なんとなく気になってな」

 

 

 代わりに。

 マーシーが吸っていた電子タバコを燻らせて、せめてもの線香として焚いた。

 

 

 炭酸を思わせる新作の味。

 それが手向けだ。

 

 

 




 ブラボパロのついでにオールマインド系傭兵やろうと思ったら、なんか電子タバコに引っ張られていました。
 オールマインド系の話をやる上で、どうしてもフィーカ以外のこういった小道具が欲しくてつい……。
 ある意味では、アルノさんでやる方が相応しい内容だったかもしれません。


 というわけで例によってパイロットとACの情報を以下にまとめてあります。
 長文ですが、よろしければ合わせてお楽しみください。




 刃のマーシー

 傭兵狩りとして知られる独立傭兵。

 第1世代強化手術の生き残りであるマーシーは、「狩り」だけを請け負う殺し屋の一人として暗躍する。
 とりわけ青い刃は彼女の象徴であり、いつしか"慈悲の刃"としての名を轟かせるようになる。

 マーシーの刃は、血に酔い獣へと落ちた傭兵への警告であり、最後の救いなのである。




 AC // グッドハンター

 刃のマーシーが駆る二脚AC。機体名は文字通り「素晴らしい狩人」程度の意味。

 ベイラム製"短ハンドガン"と、アーキバス製の"レーザーダガー"を特徴とする近距離機。
 背部武装として、オールマインド製の"特殊ミサイル"と"レーザーオービット"を搭載する。

 フレームは、ベイラム製メランダー頭部・アーキバス製量産腕部パーツを使用。
 一方コア・脚部はオールマインド製フレームを組み合わせている。
 ブースタは通常推力特化「BST-G2/P06SPD」、FCSはベイラム製「FC-008 TALBOT」、ジェネはアーキバス製バランス型「VP-20C」。
 拡張機能はアサルトアーマー。


 基本的には近距離でハンドガンを当てて相手の姿勢を一気に崩し、レーザーダガーで仕留めるスタイル。
 ダガーからアサルトアーマーまで決まれば、かなりの高火力を誇る。
 ハンドガンは近距離戦における衝撃力に優れる一方、中距離戦などでは難のある性能。
 それを補うため特殊ミサイルとレーザーオービットで敵を翻弄する。

 実は第1世代強化手術は部分的に失敗しており、旧世代型と相性が良いオールマインド製パーツでないとまともにACを動かせられない。
 当人は企業製の最新パーツが好みであるため、長い年月をかけて「リハビリ」して一部企業製パーツに無理やり適応した結果が同機体。
 オールマインドはサービスが優れる一方、頭が固くて痒いところに手が届かないのが玉の傷……とはマーシーの言。




 メタ解説
 元ネタはブラッドボーンの鴉羽の狩人「アイリーン」。ババアと自称する、かっこいいおばあちゃん。
 彼女は"獣狩りの短銃"と"慈悲の刃"を用いる狩人であるため、ACでは短ハンドガンとレーザーダガーで再現。

 ただし、今回は「オールマインド系独立傭兵」もコンセプトの一つだったためオールマインド製パーツを組み合わせることに。
 特殊ミサイルとレーザーオービット採用の最大の目的はここ。これにてようやく念願のオールマインド系ACを組むことができた。
 オールマインドパーツ=旧世代型と相性がいい=老齢設定と相性がいいのも個人的にグッド。

 他作品だが、ハンドガン&レーザーダガーの組み合わせは「ブレイン傭兵事務所へようこそ」のオリ主"ブレイン"と一緒。(一応あれも筆者が描いてる奴です)
 ブレイン機体との違いは「オールマインド製パーツ」の存在感。
 多分単体だとマーシーの方が上。でも彼奴はスカルちゃんやスネイルの支援を得られる強みがあるのでマーシーよりも"勝ちをとれる"イメージ。
 何気にマーシーは"何かを失った昔に囚われている"のに対し、ブレインは"何も失うまいと抗って結果を出した奴"と対称的。
 それっぽく捕捉すると、今回のマイナーさんは"いずれ訪れる亡失と向き合っている"こととなる。古い友人はまだ生きているが、今生の別れはもう済ませた。
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