今俺は、何をしているのだろうか。公園のブランコに座りながら頭を抱える。誰もが通勤や通学で忙しい平日の朝から、俺は公園で暇をしているのだ。冬の入口に立った、11月。肌を突き刺すような、冷たい風が俺の体を襲う。
必死で勉強して有名大学に入ったところまでは良かった。いや、もしかしたらそこから駄目だったのかもしれない。特にやりたいことや夢もなかったので、大手企業に就職した。そこは常に出世のための壮絶な戦いが繰り広げられていた。残業休日出勤は当たり前。成果や結果、数字が全て。信じていた人間にあっさり裏切られ、正しいことを訴えても、利益にならなければ、度外視されたりした。正直辛かった。気づいたら心を病んでいた。それで会社を辞めた。今は貯金を切り崩しながら生活する日々。
もう、俺は生きている必要は無い気がする。前を見ても後ろを見ても真っ暗。
もう駄目だ。
「あのっ、大丈夫ですか」
不意に声を掛けられた。俯いていた顔を上げる。どうやらウマ娘に声を掛けらたらしい。見た所、小学生のようだ。ランドセルを背負っているが、身長が高い。小学校高学年だろうか?
風が吹き止む。近くの木々の、木の葉が揺れる音は止まり、刹那、静寂に包まれる。
「うん?そうだね……大丈夫じゃ、ないかな。お兄さんは今ちょっと元気がないんだ」
小学生相手に何を言っているのだろうか。改めて口に出すと、自分がとても小さく、惨めな存在であると感じて、目頭が熱くなる。
「それなら、あたしに任せてください!なんたってあたしはお助けキタちゃんですから!」
意外なことを言われた。少し困惑する。
「?」
「あたしと一緒に歌いましょう!」
「??」
「じゃあ行きますよ……おぉ〜〜」
そう言って北島三郎の「まつり」を歌い始める。正直、とても上手いとは言えないが、同じ小学生に比べたら上手い気がする。歌うのが好きなのだろうか。
「ほらほら、一緒に!」
「え、えっと」
歌詞はうろ覚えだが、彼女につられるまま、歌う。
「───……ふう」
ひととおり歌い終えた。まさかあのままメドレーに突入するとは思わなかった。
「……ほら!もう元気そうですね!」
「え?……ああ、たしかに」
先程までの暗く重い気持ちはどこかへ行ってしまった。
「『どんなにつらくても、歌えば元気になる』って、お父さんから教えられたんです!」
無邪気に笑って見せる。この子は凄いな。
「そうなのか……ありがとう。お陰で元気が出たよ」
「それは良かったです!……ってもうこんな時間!?学校に遅れちゃう!お兄さん、困った時はいつでも言ってくださいね、あたし、キタサンブラックが助けるので!」
そそくさと、その小学生は走って行ってしまった。
「キタサンブラック、か」
その、8文字の名前を忘れないように、しっかりと頭に刻みつけた。
この日から、新しい風が吹き始めた気がした。
「ねえねえ、キタちゃん。新人トレーナーさんの噂、知ってる?」
「噂?」
あたし、キタサンブラックは憧れのトレセン学園に入学した。親友のサトノダイヤモンド────ダイヤちゃんも一緒だ。
「そう。実は、今度入ってくるトレーナーさんの中に、『トレセン史上最高の天才』っていう人がいるらしいよ。なんでも、トレーナー学校に通わずに、トレーナー試験に首席で合格したとか」
「へえ〜。すごい人なんだね」
「以上が、トレセン学園の説明は終わりますが、質問はありますか?」
「特には無いです。ありがとうございます」
トレセン学園の理事長秘書である、たづなさんと廊下を歩く。窓から入る日差しが心地良い。
「……噂になっていますよ。貴方のこと」
「そうなんですか?」
「ええ、トレセン学園史上最高の天才だって」
「そうですか……なんだか照れますね」
そんな名前で呼ばれているとは知らなかった。昔のように努力したから、首席で合格できたのかもしれない。あの日から、俺は死にもの狂いでトレーナーの勉強した。なぜトレーナーなのか、正直よく分からないまま勉強していたが、いつも「あの子」のことを考えていた。
結局「あの子」のおかげだ。
「そういえば、担当ウマ娘はもう決めているんですか?」
「ええ、目星はつけています。たくさんの人に元気を与えてくれそうな、明朗快活「お祭り娘」がいましたのでね、その娘にしようかな、と」
想像で書いた、キタサンとキタトレの話です。気が向いたら続編を書きます。
次回は別のウマ娘のショートショートの予定です。