「これで、目当てのものは買えたの?」
「はい。お陰様で。私の買い物に付き合ってくださりありがとうございます」
今日はオフの日だが、俺は今日も今日とて、メジロアルダンと一緒にいる。たとえオフでも気づいたら、レースや彼女のことを考えてしまう。これでは休みにならないので、いっそのことアルダンと遊びに行こうと考えた次第だ。同僚からはアルダン馬鹿と言われたが、そんなの関係ない、。おれはあの日から彼女の走りに惚れたんだ。
「いやいや。俺も君と時間を共にできて楽しいから」
「フフッ、嬉しい事言ってくれますね。…………ってあら?」
アルダンがとある建物の前で立ち止まる。年季を感じる硝子扉の前に、白い紙が貼ってある。
「閉店のお知らせ、ですって、トレーナーさん」
「ああ、この建物か。たしかデパートだったよな。……どうせなら少し寄っていく?」
「良いんですか?」
「まあ、俺もこの建物には少しだけお世話になっていたからね」
幼少期に連れて行ってもらったことを思い出す。あの頃から既に、ここに来る人が少なかったよな。やっぱり時代なのかな?
「わあ……」
アルダンが店内に入って、感嘆の声を漏らす。もしかしてこういう所に来たことが無いのだろうか?
「トレーナーさん、早速言ってみましょう!」
「ああ」
目を輝かせながら、俺の手を引くアルダン。なんとも微笑ましい光景だ。
「どうですかトレーナーさん、似合ってますか?」
赤色の細渕のメガネをつけたアルダンがこちらに振り向く。
「似合っているよ。……ところでいつもメガネつけていたっけ?」
「基本的にはつけていないですね。でも読書の時とか、勉強の時につけています」
「へえー」
メガネ姿のアルダンが新鮮であったため、質問したが、偶に付けているとは知らなかった。もう少しで彼女の誕生日だし、メガネをプレゼントするのもありだな。
「ここは……」
色々な店を回りながら上の階へと向かってたのだが、気づいたら屋上にいた。
かつて遊園地があった場所は、屋上庭園として残っているようだ。街の喧騒から離れて、ここではただひたすら木々の木の葉のすれる音に耳を傾けることができる。
「ここも良い所だね」
「そうですね」
昔を思い出す。確か、母親の用事でここを訪れた気がする。その時も屋上へ連れて行ってもらったのだが、少し淋しい光景が広がっていたのを覚えている。所々塗装が剥がれて、誰も乗っていない観覧車。次のイベント予定がほとんど空白になっているステージ会場。そこには遊園地のような賑やかさはなく、まるで子供が遊び終わって床に転がされたおもちゃたちのようだった。
「時代、なのでしょうか」
「うん?」
「このデパートに人が訪れなくなったことです。私達はどんなに楽しい思い出があっても、いつかは忘れてしまうかもしれない。皆さんから忘れ去られてしまうかもしれない。そう思うと少し怖くなってしまいます」
「……大丈夫だよ。少なくとも君のことは、絶対俺が覚えているから。君は俺の『永遠』なんだから、絶対に忘れるようなことはしない。誓うよ」
少々くさいセリフかもしれないが赦してほしい。俺だってカッコつけたいときぐらいある。
「……ありがとうございます、トレーナーさん。私も貴方と『永遠』を共にしたいです。一緒に居てもいいですか?」
「もちろんだy――」
ぐうー、と雰囲気をぶち壊す音がした。その音の所在は俺の腹からだ。くそう、空気の読めないこの腹を殴りたい。痛みは俺に帰って来るけど。
「あら、そう言えばお昼ご飯を食べていませんでしたね。どこかでランチとしますか」
「…………ソウデスネ」
穴があったらはいりたい。
トレーナーさんから、ちゃんと言葉を聞くことはできませんでしたが、いつかはちゃんと聞きたいですね。
……私は、その、いつでも準備はできているんですよ?