「おはようございます。トレーナーさん」
トレーナー室に、ウチの担当であるサイレンススズカが来る。
「おう、おはよう……」
少し元気のない挨拶になってしまった。……正直に言うしか無いか。
「スズカ、ちょっと今言いか?」
「はい?」
「実はな来週から二週間、出張に行くことになった」
「……それは本当ですか」
「ああ、東北のレース場でな……大丈夫だ。トレーニングは、スペシャルウィークのトレーナーさんにお願いしている。なに、君が心配することは無いよ」
「……トレーナーさんと離れてしまうのは、少し淋しいですが……分かりました」
許可をもらうことができた。前回伝え忘れたら、結構怒られたから、ちゃんと言うことにした。
どうやら俺がいきなりいなくなったと思って、すごく心配してくれたらしい。あの時は申し訳なかった。
「今の時期に東北に出張は、死を意味するなコレ。あのロリ理事長……なんてことしてくれたんだ」
無事駅についたのだが、吹雪とかいうレベルじゃない。
理事長がニッコニコで「辞令!」と言っていたが、あれ俺を殺すためにやったんじゃないのか?
ポロン、とスマホに通知が入る。
『トレーナーさん、無事につきましたか?』
どうやらスズカが心配して送ってきたようだ。
「大丈夫、でも東北は寒いね」
『良かったです。暖かくしてくださいね?』
「わかった、ありがとう」
なんだろう、少しだけスズカが過保護になっている気がする?ま、ええか。
「疲れたー」
ホテルのベッドにダイブする。今日だけで、レース場の方への挨拶、地方トレセンの視察、なんか偉い人との会食をした。疲れた。でもここのご飯美味しい。眠い
「あ、また通知が来てる」
『トレーナーさんに会いたいな……』
その1秒後、
[メッセージが削除されました]と表示される。
スズカが即座にメッセージを消したのか。なんだろう、多分今頃凄い悶々としているんじゃないだろうか。まあ、見てるこっちも少し気恥ずかしくなってくる。
……ちょっと待て、そもそも今日の早朝にトレセン学園を出たばかりだぞ!?ま、まあ多分今のは気のせいだろう。
「あれ、もう明日の朝に帰るのか」
気づいたら二週間経っていた。早いな時の流れは。しかし、結構ここも住みやすいな。ご飯は美味しいし、多少外が寒くても、その分お酒がおいしく感じるちょっとだけ、ここを離れるのが躊躇われる。しかし、スズカのことを考えると一刻も早く帰らなければならない。
『トレーナーさん、明日返ってくるんですよね?』
「ああ、そうだよ」
『わかりました。もしよければ私に夕食を振る舞わさせて頂けませんか?トレーナーさんの移動の疲れを癒やしたいので』
なるほど、彼女なりの優しさといったところか、俺は別にそこまで疲れていなのだが、でもスズカの厚意はありがたく受け取っておこう。
「ありがとう。楽しみにして帰るね」
[恥ずかしながらも親指を立てるウサギのスタンプ]
「あ、どうせならお土産買っていくか」
「ご乗車ありがとうございました。東京、東京です。お忘れ物のないよう、お気をつけください」
車掌のアナウンスを聞きながら車両を降りる。見慣れた光景に、帰ってきた実感が湧く。
「感謝!実にご苦労であった!今週はゆっくり休むといい!」
理事長から労いの言葉をかけられる。
「明日もですか?」
「もちろんだ!2週間の出張の労いだ!出張後は会社が休日を与える事になっている!」
「ありがとうございます」
ちょっとだけゆっくりできそうだ。
荷物を置きにトレーナー室に行く。スズカが待っていてくれたようで、ドアを開けた瞬間、スズカが急いで俺の元によってきた。
「トレーナーさん、お疲れ様です。そして、お久しぶりです」
「お久しぶり……かな?まあ、いいや、ただいま、スズカ」
「おかえりなさい、トレーナーさん」
しばらく談笑してから、約束通りスズカの手料理を頂くことになった。
「じゃあ、行きましょうか」
「そうだね、ちなみにどこで作ってくれるの?」
「私の寮です。今日はスペちゃんが外泊許可をもらってるので問題は無いですよ」
「そっか」
「おじゃましまーす」
なんだろう、アラサー男性が女子学生の寮に入るって結構危ないな。
「じゃあ、ここでゆっくりしていてください。すぐに準備しますね」
「ありがとう」
部屋を見回す。お年頃の少女らしく、可愛らしい小物やぬいぐるみがおいてある。
ようやく、トレーナーさんが帰ってきました。本当に嬉しい限りです。トレーナーさんがいない日々は少しだけ私には苦痛でした。早くトレーナーさんに会いたい、そういう思いが日に日に強くなっていきました。帰ってきたらこの思いは消えるだろうと思ってたのですがどうやらそうはいかなかったようです。出張先での出来事を楽しそうに話してくれました。その中に現地で出会ったウマ娘もいるだとか。そこから私はちょっぴり暗い気持ちになりました。私は貴方のことをずっと思っていたのに。こんな気持にしたトレーナーさんには責任を取ってもらわないといけませんね。
せめて今夜、この瞬間だけはトレーナーさんは私のモノです。